月夜の晩は
「月夜の晩は」
私を開いて外に出ると、ブルリと肌寒い丘に立っていた。
月は半欠けで痛々しい光を地上にぶつけて不満を募らせている。
刺々しいその針を避けるために傘を開くけれど、光の針はプスリプスリと藍色と藤色の揺らめく空に穴をあけた。
散歩は嫌いではないけれど、不可解な道を通ることになるので、私はいつも腹が立って、あの家を勧めた不動産屋に朝一番に電話をかけてやろうと決心する。
と思いつつ、もうすぐ一年たってしまうのだけど……
扉の外はいつも夜だ。だれもいない。
たまに遠くの枯れ木のこずえにつかまる猫が、か細く泣くだけだ。私が振り向くと、つばさを広げて、地面の穴の中へ逃げ込む小さなネズミを追い立て始める。だから、いつもその姿を見たことがない。
眠れない夜に散歩に出ても、外はいつも夜なので、いつも眠れないということになる。
丸い、それとも楕円形の地面がローリングして、道の顔はしょっちゅう変わっていく。
帰り道は迷ったりしない。私を開けば、そこが我が家だからだ。
「わたしをひらいて」
図書館の前にヒトが立っていて、ぜひと手を広げてきたが、おもしろそうなタイトルではなかったのでやめた。
本に口をつけるというデザインを考えたのはだれだろう。本専用の口チャックを取り付けるべきだ。それも鍵つきの。
「わたしをひらいて」
しつこくプリーズと言われて、人目が気になり、私は本を開いてみて、「うわぁ」と叫んで閉じてしまった。本は腕を組んで私に言った。
「自分よりひどいのか、ましなのか、感想を聞かせてよ」
この本を書いたのは一体だれなのか、胸の縁をめくると、三流作家のヘボだった。ンー、読まなくてよかった。
そのことを言うと、本はぷんぷんと腹を立てて、図書館の閲覧席の中央に立ち、叫んだ。
「天才の作品って、いつの時代でも認めてもらえないものなのね!」
それも三流作家が本の中に書いたのか。それとも、三流だと思っているのは私だけなのか。あの本を書いたヘボ作家の顔は見たくないけれど、ヘボ作品を取り寄せる読者と図書館の司書の間抜け面が見てみたい。
図書館の外に出てみると、月はいびきをかいて居眠りをしていた。太陽は世界一周旅行に出ていて、かれこれ二十年近く帰って来ない。もしかすると脱獄したのかもしれないな。
月だって、町が月末に開催するハッピーくじに当たれば、温泉にでもいけるんじゃないのか?
月がよだれを、私の目の前に垂らした。
腹が立ったので、小石を月に投げ付けた。
月はアウチと言って、小石の当たった鼻づらをなでた。
月と会話できるほど、私は高度な人間ではないので、知らんぷりして、私を開いて家に帰った。




