あたしの言葉で
「大丈夫なのか、お前?」
「何、お前って。彼氏みたいに呼ぶな、気持ちわるい! あたしのことは敬意を込めて愛華様と呼べ!」
何とかいつもどおりに振舞う。気づかれていないだろうな、と心配になる。
「あーはいはい。そうそうですか、分かりましたよ愛華様」
二人での登校。
スケベは風邪でくたばったとかで休みだそうだ。軟弱者め。
それから沈黙が続いた。
今がチャンスだ。
言いにくいけど、言うしかない。
今のうちに言っておかないと、絶対後悔する。
「あのさ」
もう叶わない夢。いくらあがこうとも、達成できない夢。
それでも、その夢はコイツがいなきゃ持つこともなかった。
今が、あの一言のお礼を言うときだ。
自分の気持ちに、正直になって。
「……あり、がとう」
言えた。
やっと言えた。
小さいけど、やっと。
それなのに、コイツときたら。
「え? なんつった?」
恥ずかしさなのか怒りなのか分からないけど、自分の顔が赤くなるのが分かった。
もういい。
聞こえないなかったんら、今度はいっそ大声で叫んでやる。
「あ・り・が・と・う!」
ぽかーんと間抜けな顔をする司。ってかハゲ。
「あのさ、『ありがとう』って、何に対して?」
訳が分かってないハゲに、まあ十年程も前の話だから無理もないのだが、わざわざ説明してやる義務はない。この感謝の「言葉」を伝えられれば、それでいい。
「なあ、何に対してだよ?」
「あーもう、うるさい!」
「うるさいってなんだよ。お前が言っといて」
「あーほらあれ、あれよ。いつも起こしてもらってるでしょ。多分それ」
「言った本人が多分とか言ってたら馬鹿だろ」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら学校へ歩いていく。
清々しい気分だった。
自分の気持ちに正直になって、「言葉」を伝えられてすっきりした。
思えば十年もこの思いを閉じ込め、嘘をつき続けていた。
あの女神が言っていたのはこのことなのかもしれない。
自分の気持ちに正直になれ、と言っていたのだ。そうだ、そうに決まっている。
だけど、この正直な気持ちのままいるのは難しそうだ。なんだか恥ずかしい。
次に正直になるのは、歌手になってからだ。
そして有名になってバンバン稼いで、女優の道を進んで、いつかはハリウッドでスクリーンデビュー。
と、その前に。
あのカラオケで歌ったあの曲。あの曲をあいつの前で歌って。
見たかプロの実力! とかいつものようなやりとりをして。
あの公園で、ちゃんと向き合って、あたしの「言葉」を伝えよう。
「ありがとう」って。




