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どうせなくなるのなら

 勢いよく顔をあげると、隣に司がいた。

「大丈夫、か……?」

 心配そうにこちらを見つめている。

 ふと、頬に液体が流れていることに気づいた。あたしはそれを隠すためにまた顔を机に伏せた。

「もう予鈴なったからな、行くぞ」

「……先行ってて」

 あたしにしてはか細い声で、何とか搾り出す。

「お。お前声出るように」

「先行ってて!」

 持てる限りの声で叫んだ。振動で、司が震えたのが分かる。

「……分かったよ」

 特に理由を追求せず、行ってくれて助かった。もう少し話しかけられていたら泣き叫ぶか殴りかかっていたかもしれない。

 自分の声が出たことに関しては全く驚かなかった。これがチャンスということだ。それはつまりあの夢が本当ということを意味している。このチャンスを逃せば、あたしの『言葉』は二度と戻ってこないということだ。

 そんな事情を知らない司が、あたしの声が戻って喜んだのは当然の反応。それなのにあたしは八つ当たりして、迷惑をかけた。そんなあたしが、こんなみじめなあたしが、みっともなくて嫌になる。

 ここはお礼を言うべきところ。「ありがとう」と五文字の言葉を言う場面。そんな言葉を言えないなんて。あたしはこのまま「言葉」を失ったままのほうがいいかもしれない。

 その日は授業を受けずに帰り、すぐにベッドに潜り込んだ。だけど眠ったのは二日後の朝だった。

 その翌日、あたしは学校へ行かずに一人でカラオケ店へ向かった。

今の内に歌えるだけ歌を歌っておこう。それも声が枯れるまで。

 どうせ、あと数日でなくなる声。ここで出し切っておくべきだ。

カラオケは有名曲や自分の好きな曲を思う存分歌った。

 そして、自分の作詞した曲を歌った。曲はまだ作れていないのでアカペラだ。

 それをケータイで録音した。自分の思いを残す為に。

 最後泣いて何を言っているか分からなかったので、撮りなおした。最終的には六回録音するはめになった。

 そして、とうとう、期限の日になった。


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