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プラシーボ


「……だからさ、お前は思い込みが激しすぎんだよ。医者もただの風邪です、って言ってたじゃねぇのかよ? あんま深刻になると悪化するぞ」

「そうですよ。病は気からって言うじゃないですか」

 隣でごちゃごちゃと馬鹿二人が話していたが殆ど聞き流して、頭に浮かんだある考えを浮遊させていた。

 あの女神らしき人物のせいかもしれない。

 春休みも終わり、四月も第三週目、いつものように登校しているときに、突然それが浮かんだ。

 声が枯れてきたのは、思い返せばあの時からなのだ。

 そうと分かれば、とあたしは駆け足で学校へ向かう。

「おい、いきなりどうしたんだよ!」

「ま、待ってくださいよ!」

 司とスケベが追いかけて併走してくる。

「どうしたんだよ」

「どうしたんですか」

 ゆっくり説明している時間がないわけではないけど、一刻でも早く「言葉」を取り戻したかった。悲観的になっていたあたしを励ましてくれた二人には感謝している。けど、今わざわざ説明している気にはなれなかった。

 走りながら、あり余っている脳の部分を使って必死に考える。

 所詮は夢の中の出来事。だけどこれが単なる風邪じゃないことは治らないことからも言えるし、あたしの直感はそう叫んでいる。

 夢の中であの女は言っていた。「今後一切の嘘をつくことを禁じます」と。その方法が、あたしの「言葉」を封じるというのなら辻褄が合う。そう周りに嘘をついた覚えはないけど、その原因が高いんじゃないか、とそう思えた。

 馬鹿な妄想に走っている変な女子中学生。はたからはそう思えるかもしれない。あたしだって当事者じゃなかったらそう思っているかもしれない。

でも、構わない。

あたしは、どんなことをしてでも、絶対「言葉」を取り戻す。

 学校に到着し、すぐさま生徒会室へと向かう。

 夢の中の出来事なのだから、寝てしまえばあの場所に行けるのかもしれない。でもこの三週間、そんなことは一度もなかった。ならばあのときと同じ条件でやってみれば行けるかもしれない。

「おい、どうしたんだよ、急に走り出して」

 息を荒げながら司が訊ねてくる。

 スケベがいないのは一年の下駄箱へ向かっているからだろう。

 司に返答しようとしたが、やめた。わざわざスケッチブックに書くのは面倒だ。ここで「言葉」を取り戻せば、もうそんなことはしなくてすむ。

 いつもより早く登校し、さらに走ってきたので時間的には余裕がある。

 あの時と同じ席に座り、机に両腕を放り投げて目を瞑る。

 すぐに眠気が襲ってきて、走って息が上がっている割には早く眠れそうだった。

 誰にも、自分にさえも、聞こえない言葉をつぶやいた。

 おやすみなさい。

 そしてあたしの意識は落ちていった。


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