声
「――んだとオラァ!」
お前に指図される筋合いはないんだよ、ボケが。
「……何言ってんの、お前」
声のほうに視線を向けると司がいやらしい目でこちらを見ていた。そのおかげで醜い司がいなかったさっきまでの世界は夢か、とすぐに納得できた。
「別にー。あんたに関係ないじゃん」
「そりゃそうだ」
あたしたちは今二人きりで生徒会室にいる。だからといって変な想像した奴は今すぐ脳外科医か精神科医へ直行してこい。そして二度と帰ってくんな。
窓の向こうは滝行が出来そうな程の激しい雨。天気予報のお姉さんが嘘をついたせいであたしは傘を持ってきてなかった。出来が悪い司は折りたたみ傘さえ持ってきていない。そして偶然校内見学という名目で校内にいたスケベに傘を取りにいかせたのだった。生徒会室で待っているのは、単に下駄箱から近いからという理由だけだ。
「スケベが取りに帰ってどのくらい?」
「三十分、くらいじゃないか? そろそろ来るだろ」
「あー早く家に帰って寝たーい」
「……さっきまで眠ってたくせによく言うよ」
その後数分もしない内にスケベが来た。
「はい! お二人、傘持って着ました!」
「おう、ご苦労さん」
あっさりとお礼を言う司。でもあたしはそんなに軽い女じゃない。お礼とねぎらいは司があたしの代わりにも言ってくれただろうから、違う言葉をかける。
「遅いんじゃおまえはあああああ!」
「えええええ! ちょ、えええええええええ!」
そのままあたしの華麗なる口撃をくらわせようとしたけど、むせて言葉が続かなかった。
するとハゲが馬鹿にしたように言った。
「寝起きに叫びすぎたんだよ。声カッスカスじゃねぇか」
笑う司に、徐々に安堵の表情へ戻っていくスケベ。
だが、その表情も一瞬で真逆のものへと変化することだろう。あたしの言葉は全てを支配するのだから。
「……かぁ……」
だが、いくら叫ぼうにもかすれた声しか出てこなかった。
そんなか弱いあたしを見て笑う男共。
今はせいぜい笑っているといい。声が戻ったらお前らはあたしにひれ伏させてやる。
だけど、そんな日は永遠にこなかった。
声はしだいに枯れていき、その日から三日目の朝。
あたしの喉は一切の音を発せなくなった。




