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第六話・峠を越えて

世界観的には浅羽市って日本にありそうな地名ですが

この世界は現実世界とは全然違い日本等はありません。

カミカゼと西名インペリアルズとの交流戦の後日…。

オレは学校でドリキンと呼ばれ、人気者になった。

おまけに、ギャラリーが交流戦を録画した動画が出回って

カミカゼのファンも増え、宝野公園に来るギャラリーの数もかなり増えた。


そして、交流戦から数日後の金曜日。


●宝野公園●


孝『だいぶ速くなってきたな!

  脚力も付いてきて、最初より5秒もタイムが縮まってる!』

剛『この一週間、一日3時間は走り込んだからなぁ。』

孝『後3秒タイムを縮めれば、正式にカミカゼのメンバーになれるぜ!』

剛『3秒かー。』


ガシャン!


最後のヘアピンでカミカゼメンバーが転倒した。


孝『ヘアピンで転倒者有り!走ってる奴は気を付けろー!』

剛『誰がコケたんだろ?』

孝『急いで行くぞ!』


剛と孝はヘアピンに駆け付けた。


孝『副リーダー!大丈夫っすか!?』


カミカゼの副リーダー、野原市雄(のはらいちお)

チームのナンバー2で、正確なコーナリングを得意としている。


市雄『あぁ、孝…ありがとな。』

孝『野原先輩がコケるなんて、珍しいっすね…。』

市雄『マジ、コケたの何年ぶりだろな。やっべ、クランクが…』


市雄のマシンは健吾も乗っている車種、TITANを改良し、

乗りやすくしたモデルのクロスバイク、DYNA・(ダイナ・)Lhea(レア)

様々な所に手を付けられているが、中でも特にクランク周りに力が入れられている。


孝『曲がっちゃってますね…。』

市雄『健吾のペダルターンを真似してみたら、見事にミスっちゃってさ…

   あーあ…このクランクセット、一号店じゃないと取り扱ってないんだよなー…。』

孝『一号店って、IGA(イガ)サイクルの!?』


IGAサイクルは、浅羽市最大級のスポーツサイクル専門店だ。

剛も、IGAサイクルでABISEEDを購入した。


剛『IGAサイクルって、オレのこの自転車買ったとこだよな。』

孝『お前がそのマシンを買った店は二号店だ。二号店は、初心者から上級者までの

  一般的なマシン本体やパーツを扱う店。一号店は、工業地帯で

  ひっそりと営業してる、超上級者向けの商品しか売ってない店だ。』

市雄『まぁ、お金は何とか足りるんだけど…

   工業地帯は治安が悪いし、あそこに行くには浅羽峠を越えないと行けない。』

孝『片道20キロ位って所っすね。』

剛『結構遠いんだなー。

  やっぱりそのパーツって、二号店では取り扱ってないんですか?』

市雄『残念だが、このクランクセットは一号店で買ったパーツなんだ。

   二号店では、一号店で扱ってるマシンやパーツを修理して貰う事はできない。』

孝『このクランク、変わってるっすねー…なんて金属なんっすか?』

市雄『マグネシウム合金だ。DYNA社の試作品で

   世界に5つしか無いレアアイテム。マグネシウム合金は

   加工が危険で難しいから、普通の自転車屋じゃどうにもならないよ。』

孝『じゃあ、オレ達がそのクランクを

  一号店に持ってって修理して貰ってきますよ!』

剛『オレ達?』

市雄『悪いな、二人とも。オレ、この一台だけに

   金を掛け過ぎて、他に乗る自転車が無いんだ。』

孝『剛!明日、IGAサイクル一号店に行くぜ。待ち合わせは二号店だ!』

剛『お、おう!』


そして後日、土曜日の正午。


●IGAサイクル・二号店●


孝『来たか、剛!』

剛『流石に土曜日だと、お客さんもそこそこ多いな。』

孝『今は自転車ブームだからな。』

?『いらっしゃい、孝。そっちの彼はお前の友達?』

孝『あ、輪太郎さん!チャリ仲間っす!

  そんで、カミカゼのチームメンバーの候補なんっすよ!』

輪太郎『ほぉー、カミカゼに

    新たなメンバーが加わるのかー!こりゃ楽しみだな。』


IGAサイクル・二号店の若き店長、五十嵐(いがらし)輪太郎(りんたろう)

見た目はロングヘアーで金髪、おまけにピアスまで付けた典型的なチャラ男だが

自転車の知識、整備技術は一流で、客の信頼は厚い。


輪太郎『お、何時か見た事あると思ったら…

    この前、ABISEEDを買ってくれた兄ちゃんじゃねーか!』

剛『どうも!あの自転車いいですね!』

輪太郎『そりゃそうだぜ!

    操作性重視のクロスバイクだし、さらにオレが整備したんだからな!』

剛『あ、オレ、このペダル買います!』

輪太郎『毎度、ありがとな!ここで装備していくかい?』

剛『はい!』

孝『…おっと、そうだった。

  輪太郎さん、今日は聞きたい事があって来たんっすけど…』

輪太郎『ちょっと待ってな。今、ペダル交換してっからさ。』

   (ん…?このタイヤの減り方、

    ただのチャリドリじゃないな。……まぁ、いいか。)

   『付け終わったぜ!』

剛『かっちょいー!ありがとうございます!』

輪太郎『代金は2150円ねー。』

剛『ありがとうございますー!』

輪太郎『オッケー、待たせたな孝。何でも話してみな。』

孝『このパーツなんすけど…』


孝は例のクランクセットを輪太郎に見せた。


輪太郎『ほう。マグネシウムか。派手にやっちまったなー…

    確か、これを使ってるのって市雄だっけか。』

孝『そーっす。』

輪太郎『世界に5個しかねーパーツを、

    こんな思いっきり使うなんて、大した度胸だぜ!

    だが、これを直すのはウチじゃちょっと無理だな…。

    こういう特別なパーツは、親父の仕事なんだよな。』

孝『やっぱり、一号店っすかー。』


一号店を経営しているのは、輪太郎の父、五十嵐(いがらし)輪蔵(りんぞう)

自転車知識や整備技術は輪太郎よりも遥かに上回り、

その整備技術は、オーバーホールだけでもマシンが全くの別物に

変わったと思える程の性能の上昇をもたらすと言われている。


孝『これ、修理して貰うとしたら、どれ位お金が掛かると思うっすか?』

輪太郎『んー…これだと、5万前後ってとこかなぁ。』

孝『よかったー。それなら予算内だ。野原先輩からは10万円渡されてるんで。』

輪太郎『一号店行くんなら、くれぐれも

    工業地帯では気をつけろよ。大金持ってんだからな。』

孝『了解っすー!行くぞー剛!』


孝達はIGAサイクル・二号店を後にした。


孝『さて、一号店までの距離は約20キロ。

  途中に浅羽峠もあるから、ちょっとした旅になるぜ。』

剛『おう!がんばるぜ。』


数分後…


●浅羽峠・上り●


剛『しかし、キツい坂だなー!』

孝『お前もまだまだだな。

  この程度の坂で立ち漕ぎしてるんじゃ、パワーが足りないぜ。』

剛『んな事言ったって…っ!』


●浅羽峠・頂上●


剛『やっと下りだー!』


?(あいつが最近話題になってるチャリドリ使いか…

  それに、カミカゼのMTB乗りも一緒にいるな。)


孝『下りはぶっ飛ばすぞ、剛!行くぜー!』

剛『うおー!はえー!』


?(絶好の獲物だぜ!)


峠を高速で下る剛と孝の後ろに、さらに高速で二人に接近するMTB乗りが現れた。


剛『孝!誰かが追い上げてきてるぞ!』


?(オレのダウンヒルの前じゃ、カミカゼも赤ん坊みたいなモンだ。)


孝(何て速さだ!)


50キロ以上で走っている二人の真横を、

真っ黒なMTBに乗った男が一瞬で追い抜いて行った。


孝(殺し屋…!?)


男はどんどん遠ざかっていく。


孝『孝、悪いけど本気で飛ばすわ!』


下りで速度が乗っている中、孝はペダルを踏み込んで更に速度を上げた。


剛(こ、怖くないのか!?駄目だ…!これ以上スピード出せねぇよ!)


剛はあっと言う間に置いて行かれた。


●浅羽峠・中腹●


孝(見えてきたぞ!)

?(まだ諦めていなかったか。)


二人とも高速コーナリングを熟す。


?(今はこいつのペースに合わせて、実力を見てみるか。)

孝(よし、順調に差が縮んでるな!)

?(流石はカミカゼ、浅羽市3位は伊達じゃあ無いな。)

孝(あの禍々しいデザインのマシンは…

  インペリアルズの卓夫と同じマシン、TAKAMATSU・D-METALだ!

  D-METALを使ってるって事は…バトルの駆け引きが上手(うわて)…!)

?(こいつ、本気を出してこの程度か…。

  並み以上の実力だが、オレの期待には及ばなかったな。)


男は更に速度を上げていく…!


孝(今まで本気じゃなかったのか!?)

?(さて、次の獲物を探すとするか…。)

孝(駄目だ、全然追い付けない!あいつ、80キロは出てるぞ…!)


男の姿は、もう見えなくなった。


孝(殺し屋、ブラッキー…!)


●浅羽峠・(ふもと)


孝『クッソー!』


剛『たーかしー!』

孝『あぁ、やっと来たか。』

剛『お前、速いよー!』

孝『今の奴、見たろ?』

剛『あいつに勝ったのか?』

孝『負けたよ。あいつは殺し屋だ。』

剛『殺し屋!?』


剛は目玉が飛び出る程、驚いた様な表情をしていた。


孝『何だよその表情止めろよ気持ち悪いぞちょっとマジで止めろキモいから。

  いや、殺し屋ってのは、異常な速度で追い抜いて惨敗させる光景が

  まるでスパッと斬り殺す様に見えるから、そう呼ばれる様になったんだ。』

剛『確かに、追い抜かれる時ゾッとしたよ。自転車も漆黒だったしさ。』

孝『あいつは二人組のチーム、殺し屋ことブラッキーのダウンヒラーだ。

  ブラッキーって名前も、二人とも黒い自転車に乗ってるから付いた名前だ。』

剛『しかし、よく知ってるなぁ。』

孝『当然だよ、ブラッキーは浅羽市で二番目に強い走り屋チームなんだからさ。』

剛『カミカゼよりも強いのか…!二人なのに!?』

孝『その二人とも、天才的なサイクリストなんだよ。

  ブラッキーは工業地帯のどっかの一角をホームコースにしてるから、

  この辺を走ってると、もう一人にも会う事があるかも知れない。』

剛『そのもう一人も、あんな感じに速いんだよな…』

孝『さっきの奴よりも速い奴だよ。

  もう一人は、平地担当のロードバイクだから

  オレ達マウンテンやクロスじゃ、更に勝負にならないだろうな。』

剛『そいつに見つかる前に速く一号店に行こうぜ!』

孝『分かってるって!』


●宝野公園●


翔太『あの二人は今日は休みか…?』

市雄『おう、翔太。孝と剛は、オレの自転車のパーツを修理して貰う為に

   IGAサイクルの一号店にお使いに行ってくれてるんだ。』

翔太『副リーダー!それで今日はデチューンなんですね。』

市雄『ペダルターンを練習してみたら派手にやっちゃってさ。

   クランクが曲がっちまったんだ。にしてもノーマルのクランクは使い難いな。

   …いや、あのクランクの性能がよすぎただけかな。』

翔太『あんな遠くに、大変だな。』

市雄『あいつ等に、何かお礼をしなくちゃなぁ。』


●IGAサイクル・一号店●


孝『輪蔵さん!』

輪蔵『へいらっしゃい、輪太郎から聞いてるよ。

   市雄のマグネシウム合金クランクセットの件だな?』

孝『はい、これっす!』

輪蔵『…んー。久し振りにこいつを見たな。

   どれどれ、そこそこ曲がっちまってるけど、大したこと無いな。

   …マグネシウムってのは神経質な金属でな、結構修理するのダルいんだ。

   これの修理代に、4万円貰うぞ。』

孝『はーい、えーっと…4万4万…。』

輪蔵『お前の友達か?そこの子。

   まぁ、そんな所ん立ってないで、そこの椅子に座りなよ。』

剛『あ、はい。』


輪蔵は黙々と作業を始めた。

マグネシウム合金のクランクから、眩しい火花が飛び散っている。

外からパラパラと音が聞こえ始めた。


剛『雨降ってきたぞ!』

孝『マ、マジかよー…帰りびしょ濡れじゃんか!』

剛『やだなー。』


孝の携帯が鳴った。


孝『もしもし?』

翔太『孝、雨降ってきたぞ?帰れるのかよ。』

孝『合羽持って来てくれると助かるけどなー。』

翔太『ふざけるな!合羽を届ける為に20キロも遠くへ行けるか!

   …って言いたい所だけど、ボクも丁度一号店に用事があるから

   その(ついで)に合羽持って行ってあげるよ。ありがたく思ってね。』


ガチャ…


孝『相変わらず上から目線だぜ…!』

剛『どうしたんだ?』

孝『翔太が合羽持って来てくれるってさ。

  一号店に用事があるから序に持って行ってやるって。』

剛『そりゃ助かったぜ!』


輪蔵『孝、修理完了だ。』

孝『あ、ありがとっす!うわー新品みたいになってる!』

輪蔵『なんせ、世界に5つしか無いんだからな。』

剛『綺麗なパーツだなー。』

輪蔵『お前、その手の豆…チャリドリやってるな?』

剛『え、手の豆だけで分かるんですか?』

輪蔵『もう40年自転車弄ってるからな。手の豆や、そいつの姿勢や癖で、

   どんなマシンに乗ってるかとか、脚質とか大体分かるよ。』

孝『すげぇ!流石は輪蔵さんだぜ!』

輪蔵『さて、天気予報によれば、今日は雨は止まないらしい。

   雨は嫌いだ…せっかくのマシンがびしょ濡れになっちまう。』

孝『まぁ、オレ達は大丈夫っす!

  翔太が合羽持って来てくれるし、雨の後はマシンの水気を取りますから!』


孝と輪蔵が何でも無い会話をしている中

剛は強まる一方の雨を心配そうに眺めていた。


●浅羽峠・麓●


翔太(浅羽峠…やっと越えたぜー、ふー。

   しかし、雨だと思い切ってコーナリングできないな。)


?(見つけた。)


翔太(後ろから誰か来てるな…。この雰囲気は、間違い無くロードバイクだ。

   峠越えてちょっとダルいし、追い抜いて貰うか……!?)


?(こいつは、カミカゼの翔太とかいう奴だったかな。

  同じロード乗りとして、こいつの腕を試さないと気が済まないよ。)


翔太(こ…こいつは…!間違い無い!)


降り頻る雨の中、翔太と謎のロード乗りのバトルが始まった。

☆マシン図鑑☆

TAKAMATSU・(タカマツ・)BIGHAMMER(ビッグハンマー)

 その名の通り巨大で屈強なMTB。ハードテイル。

 強化クロモリフレームに上級コンポーネントを装備する高級マシン。

 大型バイクに衝突されても、逆に大型バイクが故障する程の耐久性を持つ。

 それなりの重量はあるが、見た目の割には軽い方。

 重量による安定性で、ラリーの様なコースではめっぽう強い。

 新車価格は135000円。

搭乗者・田原雅人(たはらまさと)

カラー・ブラックパール

雅人仕様…全体的にパーツは2か3ランク上の物へグレードアップ。

     ギヤ比は西名通りに合わせ、完璧に計算し尽されている。

※自転車、およびメーカーは全て架空の物です。

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