第四話・交流戦終盤!リーダーの誇り
ウソ科学、ウソ物理学をふんだんに使用しますがご了承ください。
孝と卓夫のバトルから約三十分が経過。
カミカゼとインペリアルズの交流戦も終盤に差し掛かっていた。
孝『残るバトルは、森田先輩とインペリアルズの雅人だけだな。』
互いのチームメンバーが一対一同士でバトルし合い
勝敗はカミカゼが四勝、西名インペリアルズが三勝。
健吾が勝てばカミカゼの勝利、雅人が勝てば引き分けとなる。
雅人『インペリアルズの勝利は敵わんとしても
このオレは…健吾!お前を絶対ぶっ倒す!』
健吾『オレもチームのメンツを賭けて、全力で相手をさせてもらう。』
雅人『オレのマシンはTAKAMATSU・BIGHAMMER。
ギヤ比はクロスレシオ、そして強化クロモリ超剛性フレームだ。』
健吾『大型バイクに衝突されても
逆にバイクが大破する程の耐久性を持つマシンか。
コンポーネントもオレが使っている物とは比にならない程のクオリティだ。
そして、このコースに合わせ、完璧に計算し尽くされているクロスレシオ…。』
雅人『健吾…オレが半年前、宝野公園でお前に負けて
どんな気持ちで修行を重ねてきたか…!鍛えたのはマシンだけじゃない。
寧ろメインで鍛えたのは肉体だ。
今のオレが、お前に負ける要素は無い!』
健吾『それを聞いて、ますますバトルが楽しみになってきたぜ!
あの時のオレの様に、お前も地元の本気を見せてみろ!』
雅人『言わずもがな!』
二人はスタートラインに着いた。
孝『先輩が負ける筈無いぜ。重量差が圧倒的じゃないか!』
剛『大型バイクに衝突されても逆にバイクが大破するって…どんな耐久性だよ!?』
翔太『TAKAMATSU製の強化クロモリ超剛性フレーム。
正式名称はMクロムモリブデンSSフレームだ。
詳しい事は企業秘密だから分からないけど、
クロムモリブデンを何らかの方法で強化した素材を使ってる。
途方も無く頑丈で、伝説の金属ミスリルに例えてその名が付いたんだ。』
孝『翔太!大丈夫なのか!?』
翔太『ちょっとグレてただけだよ…。
先輩の大事な試合を見ない訳にはいかないでしょ?』
孝『全く…相変わらず、お前の薀蓄は本当にクドいな!』
翔太『孝こそ、何時も一言多いんだよ。』
翔太は視線をスタートラインの方へ移した。
翔太『森田先輩のTITAN…耐久重視から
コーナリング重視になってるな。軽量化もされてる。』
孝『重い雅人のマシンに対して、軽さと機敏さで挑むって事か。』
翔太『それもあるけど、重要なのはそこじゃない。
先輩の軽量化の方法、かなり大胆だと思わない?』
孝『…?……!!な、ディレイラーが…変速機が無い!』
翔太『先輩がマシンをシングルスピード化した事には
幾つか理由があるんだろうけど、その内の三つは分かる。
まず一つ目はリアを軽くし、フロントに荷重が掛かる様にする為。
フロントタイヤが滑ると制御不能に陥るからね。』
孝『オレが走った時もフロントが滑って曲がれなくなったしな…
そういや、今だけ先輩がフロントタイヤをブロックタイヤにしてるのも
悪路に強く、重たいブロックタイヤがフロントのグリップに貢献するからか!』
翔太『鋭いな孝。お前にしては流石と言っとくよ。
二つ目はフロントを重く、リアを軽くした場合
当然、リアタイヤのトラクションが悪くなる。
だから、低速ギヤがあまり必要じゃなくなるからだ。』
剛『ち、ちんぷんかんぷんだ…。』
孝『要するに、低速ギヤだと滑りやすい砂利の上では
タイヤが空転して、ロスが発生しちまうって事だよ。』
翔太『シングルスピードって、大きなギヤ比でも意外と軽いんだ。
重量自体が軽いし、変速機による抵抗が無いからね。』
孝『坂道と加速が少々不安だけど、メリットは大きいな。』
翔太『そして三つ目は、多分…カミカゼ走法をする時に
変速装置が邪魔になるからだと思う。』
孝『に、西名通りでカミカゼ走法!?』
翔太『ボクはよく走ってるから、このコースの事はよく覚えているんだけど…
西名通りには、先輩がカミカゼ走法を繰り出せそうな場所が二か所だけある。』
孝『ど、どこなんだよ?そこは。』
翔太『いや、まだ確証を持って無いから言えないよ。』
剛(こんなシンプルなコースのどこでカミカゼ走法を…?)
雅人(なるほどな。妙に思い切ったチューニングをしていると思ったが…
恐らく健吾は序盤の直角コーナーでカミカゼ走法を繰り出す。
このコーナーのアウト側の砂利を避ける為にな!)
健吾『剛ー!カウント頼むー!』
剛『はーい!』
雅人『健吾!お前の必殺技、見せてみやがれ!』
剛『5・4…』
健吾『必殺技…ね。』
剛『3・2・1…』
健吾『その望みに応えてやるぜ!』
剛『ゴー!』
カミカゼ対西名インペリアルズの交流戦、第六回戦が始まった。
孝『雅人が少しリードしてるぞ!』
卓夫『シングルスピードが、変速有りに加速で勝てる訳ねーだろ!』
康史『健吾、かなり速いケイデンスだね。最高速度に到達しているみたいだ。
シングルスピードはダウンヒルでは加速はいいんだけど、シフトアップが
できないから、ダウンヒルではどうしても速度が伸びないんだよ。』
翔太『ヒルクライムでも軽いギヤ比を選択できない分、不利だしね。
総合的にシングルスピードはアップダウンに大分弱いよ。』
孝『コーナーに突っ込むぞ!』
健吾がイン側に入った。
雅人(やっぱりそう来たか!さぁ、ここでお前は何をする?
ブレーキングタックインか!?ペダルターンか!?全く減速しねぇ!)
健吾(よし…ディレイラーが無いから、遠慮無くやれるぞ!)
健吾はさらにスピードを上げた!
雅人(ガードレールに突っ込む気か!)』
健吾『いぃよっ!!!』
健吾は、ハンドルを切っている最中にジャンプした。
雅人(な、何のつもりだ!?)
ガシャン!
ガードレール上面に飛び乗り、その反動で再びジャンプし、コースに復帰した!
雅人『な、何だ今のは!?』
翔太『い、今のはボクも初めて見た…!』
卓夫『何なんだ、今のは?何が起こった!?』
翔太『コーナリングの途中でガードレールを使って
跳ね返り、コーナーを高速で曲がり切ったんだ!』
孝『なるほど…あれをやる時、ガードレールに
ディレイラーが当たるかも知れないよな。』
剛『忍者みたいだ…!丁度、アクションゲームの壁キックに似てる!』
健吾『上手くいったぜ!』
雅人(あんな無駄な走りで、オレの前に出るだと!?)
急坂が近づいてきた。
健吾(この坂はちょっと不味いぜ…
ギヤ比は2.88…やや高速志向だ。)
雅人(シングルスピードで10度弱の急坂を上るのは骨が折れるぜ!
オレの変速テクニックで、すぐに追い返してやる!)
坂に入ると健吾は大幅に減速した。
健吾(くそ…!今のギヤ比じゃこの坂はキツい…!)
雅人(見誤ったな、健吾!
クランクスプロケットが46T、
後輪スプロケットが16Tでギヤ比は2.88。
そのギヤ比では精々8度程度が限界だ!お前はここで負ける!)
雅人が健吾を追い抜いた。
健吾(ここさえ…!ここさえ超えれば…!
まだ助走のエネルギーは残っている…!)
雅人『これ程までにあっけ無く抜く事になるとはな…拍子抜けだ。』
(だが、ここで気を抜いたら負けフラグが立つ。
バトルは最後まで油断しない奴が勝つんだ!)
健吾(やっと抜けた!こっからは最高速度をキープするだけだ!)
雅人『さぁ来い健吾!もっとバトルをするんだ!』
健吾がペースアップしていく。
雅人(変速技術では、この街でオレの右に出る者はいない。
そして、直線こそが…本当の変速技術が要求されるセクションだ!)
健吾(雅人の変速はコンマ一秒ずれていない、
完璧なまでに正確なタイミングだ。加速はオレとは比にならない!)
差が縮まらない中、雅人がヘアピンに突入した。
雅人(ヘアピンはお前の得意分野だろう!
オレとの距離は10メートルと無い。さぁ追い付いてみろ!)
健吾(余裕があるからなのか、少しオレをナメた様な走りをしている。
挑発しているみたいだな。雅人の奴…見てろよ!
このヘアピンを、目ん玉が飛び出る位の速さで抜けてやる!)
康史『来たぞ!雅人が先だ!』
剛『行けー!森田先輩ー!』
健吾(フロント荷重を最大限に使ったコーナリング…!)
孝『ヘアピンを抜ける時に、凄い前屈みになってる…!
ブレーキングタックインだ!』
康史『ハンドルを切りながら、
フロントブレーキをロック寸前まで掛けて、
その時に起こるハンドルの切れ込みを利用し、急旋回する技術か!』
翔太『少しでもブレーキングが強いと
フロントタイヤがロックしてすっ転ぶ、かなり高度な技だよ!』
健吾(砂利道では少しフロントタイヤが滑るな…!
だけど、このコーナリングなら雅人に追い付けるぞ!)
雅人(滑りやすいこの西名で、曲がりながら
フロントブレーキを掛けるとは…度胸のある奴だぜ!)
剛『先輩、ジェットコースターみたいに曲がってるぞ!』
孝『一気に差が詰まった!』
雅人(面白くなってきた!ラストスパート…逃げ切って見せるぜ!)
健吾(できる限り、コースを最短距離で走るんだ!)
孝『す、凄い…!歩道の段差とぶつかるか
ぶつからないかのスレスレを走ってるぞ!』
剛『先輩はやっぱり、三連ヘアピンでカミカゼ走法を仕掛けるつもりだったのか!』
翔太『あのラインは、シングルスピードだからこそできるラインだ…!
もしリアディレイラーがあったら、内輪差で段差に接触してしまうからね。』
卓夫『ヤバいぞ、雅人と健吾の差が縮まってきている!』
康史『ゴールまで、もう距離は無い。きっと、このまま逃げ切れるよ!』
二人は最後のヘアピンまで迫っていた。
健吾(順調だ!)
雅人(このコーナーで抜く気だな…!)
翔太『先輩がインに入った!』
健吾(今だ!)
健吾は曲がりながら、フロントブレーキだけを思いっきりレイトブレーキングした。
雅人『っく…!』
(抜かされる…!)
健吾(このまま…行けえぇ!)
ギャラリー『突っ込んだぁ!』
健吾がブレーキングを終え、加速しようとした時だった。
健吾『…な!』
(挙動が…思っていたのと違う…!)
雅人(健吾がミスった!?)
翔太『駄目だ!』
孝『先輩が減速してる!』
健吾(くそ!リアタイヤのグリップが足りない…!)
TITANのリアがアウト側に滑った。
康史『オーバーステアだ!』
健吾は何とか体勢を立て直したが、雅人との差は開いていた。
健吾(ここまで減速すると、加速に時間が掛かる…!)
雅人(最後は下りだ…この勝負、貰ったぜ!)
孝『くそ!追い付けないか…!』
ゴールイン!
雅人がジャスト一秒差で勝利した。
翔太『先輩が負けるなんて…!』
剛『最後のスリップが痛かったかぁ…。』
康史『流石は雅人だ!』
卓夫『これで、オレ達の二連敗は防げたな!』
雅人『交流戦は引き分けだが、お前とのバトルではオレの勝ちだ。』
健吾『負けたぜ…とんでもなく速くなったな!』
雅人『お前の敗因はオレを見縊った事と、チューンミスだ。
カミカゼ走法をする為だけにシングルスピードにしたのは迂闊だったな。』
健吾『確かに、極端にフロント重になったマシンで
レイトブレーキングなんかしたら、後ろの荷重が抜け過ぎる。
滑りやすいあの路面だと簡単に滑っちまうってのも理解できるが…
あれは操縦技術で何とでもなった。オレの技術不足だ。』
雅人『だが、地元でシングルスピード化したマシンに追い詰められるとは…
それだけでも勝った気がしない。納得行かねぇよ。』
健吾『オレと雅人とのバトルではお前が勝った。
これは紛れも無い事実だ。チューンミスも実力の内だしな。』
雅人『交流戦はドローだ。けどな…
次にバトルする時は、お前を完膚無きまでに叩きのめしてやる。』
健吾『それはこっちの台詞だぜ!』
交流戦は四対四で引き分けと言う結果で終わった。
森田先輩が負けるなんて、オレはもちろん、カミカゼの誰もが信じられなかった。
☆マシン図鑑☆
DYNA・TITAN
ストリートレース用の上級者向けクロスバイク。
キャスター角が小さめで、ハンドリングが鋭い。
なので、クロスバイクとしては非常にピーキーな性格。
生半可なテクニックではオフロードを攻める事はできない。
どちらかと言えばオンロードで強いセッティングだが
上級者ならオフロードでも文句の無い走りが可能。
新車価格は189500円。
搭乗者・森田健吾
カラー・ミリタリーグリーンソリッド
健吾仕様…全体的にミドルチューンがなされている。
特筆すべきは駆動系のチューニング。
変速機がグレードアップされ30段変速となっている。
※自転車、およびメーカーは全て架空の物です。