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7話 新しい生活

約二ヶ月ぶりの投稿で御座います。

今回から、適当に後書きに本編における設定の解説などをアリスとリコの会話形式でお送りします。


 元アルクトゥルス王国、王都スペルシア。

 現ヴェンジェルディン王国、暫定王都スペルシア。

 時代により二つの顔を持ちながらも、スペルシアという都の名称だけは、一度も変わったことが無かった。幾許かの時代を経、支配者は変わったが、その容貌も昔と然程、変わりは無かった。

 

 夜も更け、スペルシアは完全に夜の闇に沈んでいた。

 平地に建造されたスペルシアは、一方を大河に、三方を城壁で囲んだ城塞都市だ。大河の恩恵で、土地の水はけもよく、交易なども盛んであったため、太古からの繁栄を衰えることなく、維持していた。それは支配者が変わっても同じことで、旧王国が瓦解した後でも影響を受けることなく、安定した生活を人々は送っていた。

 スペルシアの中心部にある小高い丘に聳え立つ、竜王宮。

 建国時からこの国の王が居住していた王城である。

 昼夜を問わず、衛兵が巡回し、魔術的な防衛装置も以前と変わらず生きている。それは今夜も例外ではなく、ほとんどの灯が消えた竜王宮を囲むのは小さな松明の火のみだ。

 

 何時もと変わらぬ夜。


 しかし、今夜は一部の人間しか知らされていない来客の予定がある。

 人々からは忌み嫌われる、ある存在の来客が。



「陛下、”轟天”が参上致しました」

 静かな声が広間を染める様に響く。

 その声の主は新王国の宰相に着任したヴィル・クランだ。

 彼は、今の王国を統治している他の臣下達と同じく、農民の出である。新王国が興った要因が元々、農民反乱であるという事から、自然と現国王であるカリストロの部下は下層民が多いのだ。

 その事もあってか、建国当初から貴族の反乱が相次いでいる。

 自分たちより身分も能力も低い人間から指図されるとなれば、それも当然のことだろう。

 だが、地位の高い者と低い者、どちらの数が多いかは明確だ。数で立ち向かえば、前者の敗北は必須だ。そして、農民たちには今の暮らしから家族を救いたい、という強い願望が行動理念になっている。既得権益を守りたいだけの貴族に味方立てする者など限られている。

 こうして、数と勢いに勝る反乱軍は王都占領後も、次々と相次いだ貴族反乱を鎮圧し、王都周辺の土地を併合した。

「連れて来い」

 国王カリストロの返答があった。

 大分、疲労が窺える声色に、ヴィルも溜息を吐いた。

 無理も無い。貴族反乱を鎮めたその次は、各地の諸侯が群雄割拠の戦国時代に突入してしまっては、纏まるものも纏まらない。

 一向に変わらない戦況に、配下の兵の士気も落ちている。

 そのせいで、”あんな物”に頼らざるを得ない状況に陥ったのだ。

 そのせいで、あんな余興が必要になったのだ。

 ヴィルはカリストロの言うとおり、自身の背後の人物に謁見を促した。

「入って宜しいそうだ。い、行け」

 声が震えた。

 目の前の存在が存在だけに、恐怖せざるを得ない。

「ん? ああ、じゃ、遠慮なく」

 ヴィルの心情など察する訳も無く、一人の男が広間に足を踏み入れた。

 普通の成人男性と比べれば大分、画体のいい男だ。短く刈り込んだ頭と頬に大きな傷のある面構え。目元は猛禽類のように鋭い。簡易な鋼鉄の鎧を身に纏い、その背には背丈の一・五倍ほどの大剣。

 その男、”轟天”は悠然と足を進める。その先にいるカリストロの元へと。

「貴様が”轟天”か。噂は聞いている。もちろん悪いほうのな」

「人を悪者扱いしないで欲しいもんだな。俺の行動理念は組織の意思に基づいたものなんだ」

「組織か……、人々から恐れられる存在でも、結局はあの”終焉騎士団(リ=アポカリュプス)”の一人でしかないということか」

 カリストロの言葉には、一般人が聞いたら恐れおののく単語がずらずらと出てくる。

 確実に、畏れるではなく恐れる、だ。

「宰相、もう寝ていいぞ。お前も疲れただろう」

「畏まりました」

 ヴィルはそそくさと逃げるように立ち去る。

 これで、広間にはカリストロと”轟天”、二人だけになった。

「さて、本題に入ろうか」

「ああ、依頼ってヤツか」

 小さく頷き、カリストロは一枚の羊皮紙を手渡した。

「これは?」

「任命状だ。お前には一〇〇の騎馬と七〇〇の歩兵、二〇〇の弓兵の兵卒となってもらう」

 ”轟天”は実に可笑しそうに顔を歪めた。

「これはこれは。一国の主が俺みたいな”破壊の執行者”の手なんか、借りたことがバレたら首が飛ぶぞ?」

「下らん。使えるものは使う主義だ」

「ご大層なことで。で、本命は何だ?」

 ”轟天”は任命状はおまけでしかないという事に気づいていた。

「一体、兵卒なんざやらせて、俺に何をして欲しいんだ?」

 兵卒だけなら、彼のような者の力を借りずとも、どうにでもなる。

 彼のような力ある者にしか、確実にこなせない何かがあるから、わざわざ”轟天”を呼び寄せたのだろう。

「ある標的の捕縛だ。確実にここに連れて来い。一切、傷は負わすな。無傷でここまで引っ張って来い」

「嫌味か? 全部、薙ぎ倒すのが俺の流儀なんだが」

「必要なのは、標的だけだ。他への被害は極力抑えて欲しいものだ」

 ”轟天”の意見には一切触れず、カリストロは話を進める。

「それと、報酬についてだが――」

「待てよ。ソイツは後で決めよう。今は、まず標的の居場所を教えてくれ。さっさと終わらせて、金勘定はそれからだ」

 カリストロは目を閉じ、静かに事実を告げる。

「標的の居場所はまだ、特定できていない。だから、その間にお前に兵卒を務めて貰い、兵をお前の好きなように鍛え抜いて貰いたかったのだが」

 うんうん、と”轟天”は頷いた。

「了解。それじゃ、場所が判るまでは俺は自由って事か。それじゃあ、部屋くらい用意してくれよ」

 ”轟天”は会話を強引に打ち切り、カリストロに背を向けた。

「待て、”轟天”。話はまだ――」

 言いかけたカリストロに対し、”轟天”は手で言葉を遮った。

「俺の名前は、ディアンだ。”轟天”のディアン。覚えときな」



 俺こと、アリスはなんだか分からないが、気分が良かった。

 きっとこれは夢なんだろうが、とにかく気持ちいい。

 俺は今、柔らかくてふわふわしたクッションに顔を埋めて、鼻歌を歌っている。心地よい熱を放つ、そのクッションはもはや至高の一品。

「やべー、マジで最高」

 自然と蕩けた声が漏れる。

 きっと夢だけど、今はこの快感に身を明け渡しても罰は当たらないだろう。

「なんで、こんなに柔らかいんだよ……」

 俺は両手でクッションを掴み、あまりの柔らかさにトリップしそうになった。

「最高……だッッッ!!」

 俺はもう、勢いに任せて、クッションを抱きしめた。

 夢でもいい。夢でも。

「……ぁう……っん」

 ……変な嬌声が聞こえた気がしたが無視だ。

 今はこの快楽に……今だけは……。


 というところで、夢が覚めるのは定石だ。

 今回も例外ではなく、俺は目を覚ましてしまった。

 ただ、クッションは確かに現実に存在していた。二つの柔らかい鞠状の……、

「……っう、あぁ……」

 そして嬌声も。

 そう、俺は今、ベッドで二人で寝ている状況だ。

 記憶を辿れば、昨日はリコと二人で一つしかないベッドで寝た。なら、この感触はもう……。

 俺は目を開け、目の前の状況をしかと見据える。

「はは、は」

 やはり俺は予想通り、リコの胸を揉みしだいていた。嬌声は当然、リコのもの。目の前では、顔を紅潮させ、息を上気させているリコがなんとも悩ましい声を出している。

 その光景に俺は……もう…………ッ!

「ああぁああ!!」

 俺は邪念を振り払う様に、俺は叫んだ。

「ひゃうっ!?」

 突然の大音量に驚き、リコがベッドから飛び起きる。

 そして息を荒らげる俺を見て、

「ど、どうかしましたか!?」

「いやいや、なんでもないんですはい!!」

「どうして前屈みなんですか? お腹でも痛いんですか? ならいい薬が……」

「お願いです。これにはそれ以上言及しないで下さい!」

 俺は前屈みのまま、ベッドから降り、深呼吸する。

 その間にリコもベッドから降り、革でできている靴を履いて、服の乱れを直す。

「大丈夫ですか?」

「あ、うん。大分落ち着いたよ」

 俺は改めてリコに向き直って、

「おはよう、リコ」

「はい。おはよう御座います」

 にこやかな挨拶は、家庭円満の証です。

 仮にも俺とリコは家族になった訳だし、これからは二人で協力して生活していくわけだ。

「じゃ、ご飯にしようか?」

「はい。じゃあ、アリス、庭から昨日教えた野苺を取ってきてくださいますか?」

「ああ、任せてよ」

 俺はそう広くは無い家の中の中央にある木のテーブルから籠を取った。

「じゃあ、行って来るよ」

「はーい」

 リコはなにやら、木の衣類が入っているチェストから、服を探しているらしい。こちらを見ずに、返事をした。

 俺は扉に手を掛け、開いた。

 眩しくも、暖かい朝の日差しを全身に浴びて、一歩踏み出す。

 これから始まる新しい生活へと向けて。


リコ「ということで、第一回目です。よろしくお願いしますね」


アリス「ねえ、リコ。早く教えてよ。この世界のことを少しでも学ばないと」


リコ「分かってますよ、アリス。では第一回目は、『アルクトゥルス王国はどうして乗っ取られてしまったのか』についてです」


アリス「そうそう。カリストロって奴が乗っ取ったんだよね。でも、どうして王権があるのにそんなことに?」


リコ「発端となったのは、先代国王陛下の帝国への親善訪問です」


アリス「帝国?」


リコ「ああ、アリスは知りませんでしたね。帝国というのは、レイヴィニア帝国のことで、このディスニア大陸で王国と並ぶトップ2の国家なんです」


アリス「なるほど。それで、親善訪問か。敵は増やしたくないもんな」


リコ「はい。しかし、先代陛下は親善訪問先で毒を盛られてしまいました……」


アリス「えっ!? それってすごい卑怯だよね?」


リコ「同感です。先代陛下は何とか帰りつくまで、その命をつなげたんですが……」


アリス「死んじゃったんだ」


リコ「はい。でも、重要なのはこれからです。先代陛下は次の国王は誰にするのか、明確に言い遺してはいませんでした」


アリス「普通は、長男が後を継ぐものだよね」


リコ「まあ、そうなんですが、周りがそれを認めないときもあるんです。今回が言い例で、後継者を巡って、内乱が起きてしまったんです。これはまさに帝国の思う壺だったわけですね」


アリス「それでそれで?」


リコ「各地で戦争が起こる中、貧しい農民たちはさらに苦しい生活を強いられ、不満が募っていきました。そこで頭角を現したのは……」


アリス「カリストロって奴か!」


リコ「はい。彼は竜が多く生息していることで有名なブレンドル地方の領主でした。日に日に不満を募らせていく農民を見た彼は、継承問題で腐敗した王室を見限って、反乱を起こしたのです。自らを救世主として」


アリス「当然、規模は大きくなるよね?」


リコ「どうしてそう思うんですか?」


アリス「だって他のところの農民だって不満に思っているんだろ? そんな中でリーダーが現れたら、皆が一斉に決起するんじゃない?」


リコ「よくできました。そのとおりです。反乱軍は急速に勢いを増し、王都へと侵攻。王室内からも反乱軍につくものが出て、王都はわずか一週間で陥落しました。その後は私にも分かりません」


アリス「なるほど。勉強になったよ。つまり、今の王国を支配しているのは反乱軍で農民なんだね!」


リコ「まあ、その理解で間違ってはいないと思います」


アリス「じゃあ次はリコのスリーサイズを――」


リコ「あ、時間です。それでは~」


アリス「あ、ああ…………orz」


~おしまい~

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