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3話 リコの家

今回の話はもともと一話だったのを二話に分けさせていただきました。続きは出来れば明日にでも投稿できればなあ、と思います。


 最初はペガサスなんてどんなに危険なんだろう、とか思っていた俺だが、いざ飛行してみれば大したことは無い。飛行機のような耳障りなエンジン音もなく、気になるのは飛行とペガサスの羽ばたきによる空気抵抗のみだ。

「うわー……、大自然ってすげーな」

 俺はペガサスの背から見える絶景を目に、感想を漏らす。

 俺の目の前に広がる光景とは、鬱蒼とした森林とその先にある大山脈だ。その光景は、俺の世界でいうアルプス山脈や北欧の針葉樹林をイメージさせる。対比を為すように、標高の低い土地には広葉樹林が広がっている。どうやら、この世界はかなり自然が豊からしい。

「もしかして、アリスさんの故郷は砂漠地方ですか?」

 リコが俺の感想を聞いた推測だが、見事に外れている。俺は異世界から来たんだもん。

「そういう訳ではないですけど……、ってどうしました?」

 気づけば、リコは俺の唇に人差し指を当てていた。

 少女の柔らかい指先の感触に、俺の胸が熱くなる。

「わたしに敬語は要りません。落ち着かないじゃないですか」

 こっちはその仕草が一々可愛すぎて落ち着きませんっ!!

 俺は心中を、心中で吐露する。

 だがまあ、俺も敬語使われたら落ち着かないってのは一理あると思うので、ここは受領するのが好感度アップに繋がるんじゃね?

「じゃあ……、リコ……?」

「はいっ!」

 ヤバイ。これは本当に一つ屋根の下なんて状況はヤバイかもしれない。押し倒したいと言うよりは、抱き締めたいという欲望の方が強い。

 つまりは、俺は色香たっぷりのお姉さん系よりも、可愛らしくて素直で健気で保護欲をそそられる相手が好みということなのか?

 異世界に来て、初めての発見がこれだとは……、なんとも絶妙な気分だ。

「じゃ、俺のこともアリスって呼んでくれる?」

 結局、俺はリコと対等な立場がいいと思ったので、彼女と同じ提案をしてみることにした。

 リコも嬉しそうに頷いて、

「アリス。でいいですか?」

「あれ? 敬語は変わんないんだ」

「はい。デフォルトです」

 ……なんだか異世界の人間と話してる気がしない。

 これはあくまで俺の予想だが、この世界の人間と言葉が通じるのは、頭の中で自動翻訳されているからではないのだろうか。だから、俺が日本語で話しても意味が通じるのだろう。異世界語は脳内で日本語に翻訳され、日本語は異世界語に変換され――といった具合だ。

 つーか、仲良く話してる俺たちをペガサスのユニーが神妙な面持ちで見つめているのは何故だろう。なにか、機嫌を損ねるようなことをした記憶はないが……。

 俺がユニーと睨めっこを続けていると、不意にリコの声が響いた。

「あっ、到着ですよ、アリス。しっかりと掴まってください」

「了解!」

 リコがユニーの耳元で何かを呟き、ユニーは了承したかのようにコクンと頷いた。

 ユニーはヘリのホバリングのように空中で羽ばたきながら、垂直に降下していく。俺はペガサスという生物の機動性の高さを今一度認識した。

 ユニーが着陸したのは、林の中に建っているこじんまりとした平屋建ての民家の正面。

 どうやらここがリコの家らしい。

 家の周りは白い石で作られた花壇に囲まれていた。花壇には色とりどりの花が咲き乱れていて、蝶が数匹飛んでいる。リコ曰く、この花も収入になっているらしい。更に、家の裏庭には畑もあるらしい。

「リコはどんな仕事をしてる訳?」

 俺は綺麗に整えられた庭を眺めながら、尋ねた。

 リコはユニーの毛づくろいをしている最中だが、快く質問に答えてくれた。

「普段は、薬草を裏の畑で採ったり、今日みたいに森に出かけて採取したりしてます。滋養薬や湿布を作って、村で売るのが主な収入源になってますね。後は花を摘んで、花束を作ったりもしてますよ。これは季節限定ですけど、一応商売としては成り立つので」

 それって凄くない?

 この年齢で(実際、年齢は聞いていないが恐らく俺と同年代だと思う)生計を立てて生活しているなんて凄いことだと思う。最近の働く意欲がない若者にも是非、見習ってもらいたい女の子だな。

 俺が感心している内に、リコはユニーの毛づくろいを終えてしまったらしい。最後にガウンの左ポケットに手を入れ、黒い丸薬? のようなものを取り出し、ユニーに与えた。ユニーもそれを美味しそうに飲み込み、一声いななく。

「よしよし。じゃあ、またお世話になるね」

 リコはユニーの頭を撫でると、軽く身体を叩いた。それを合図にして、ユニーは林の中へと駆けていった。

「あれ? 飼ってたんじゃなかったの?」

「あ、はい。出かける時だけ呼んでます。あの子も野生動物ですから、縄で繋がれるのは嫌だと思うんです」

 なるほど。だから蹄鉄や手綱も付けてなかった訳か。

 それよりも本当にリコは心優しいんだな。

 ユニーを見送った後、リコは玄関へと向かい、ポストのような木の箱の中を確認した。特に何も入ってなかったらしく、そのまま閉じて玄関のドアノブへと手を掛けた。

 玄関の扉を開けると、チリンチリンという鈴の音に近いものが響き渡った。

 リコは着ていたガウンを脱ぎ、それを玄関の内側へと掛けた。部屋の中ではワンピースだけになるのか……、ゴクリ。

 おっといけない。精神統一だ。

 気分が落ち着いたところで、俺は屋内へと足を踏み入れた。

 この家には一部屋しかないらしく、十二畳程の部屋に台所と長テーブル。そして奥にはベッドがひとつある。部屋の左に扉がひとつあるが、それは物置のようだ。

「トイレとかって何処にあるんだ?」

「トイレは外です。屋内はスペースがなくて……」

 ちょっと恥ずかしそうにリコが俯いた。

 トイレが外にある。露出プr……げふん、ごほん!

 俺は緊張のあまり、思考が異常と評してもいいほどにアッチ方面にずれていた。初めて女の子の家に行ったんだから、しょうがないだろ?

「それじゃあ、座ってくださいな。今、お茶を出しますから、それから話しましょう」

 最後の一文には力が込められていた。

 一体、『王剣アルファセウス』とは何のことなのだろうか? 漸く、それが明らかになる。


ヤンデレな妹が出てこないっ! 

出てくるのはしばらく後になります。暫くはリコちゃんとアリス視点で物語が続きます。

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