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2話 異世界

お気に入り登録、ありがとう御座います!

これからも読者の方を満足させられるよう、精進していきますのでよろしくお願いいたします。


 俺は今、程よい温度の水で顔を洗浄中だ。

 不覚にも興奮して鼻血を出してしまった俺は、超絶美少女に案内されるがままにこの湖に案内されて、顔を洗うことを勧められたのだ。

 まあ、幸か不幸か、水で顔を洗っているうちに意識もかなり覚醒して、今では身体も目立って不自由な部分はない。

「ハンカチ、使いますか?」

 後ろから例の少女が俺を気遣って、声を掛けた。俺も受け取らない理由はない。

「あ、お願いします」

 水から顔を上げた俺は、少女の顔を見ながらハンカチを受け取った。決して、視線を下に移してはいけない。いいか、絶対だぞ。

 受け取って、顔の水滴を拭ってみて分かったことだが、どうやら上質な絹で出来ているようだ。肌触りがサラサラで全く不快感を感じない。

 顔も拭き終わり、俺は少女にハンカチを手渡した。

 少女はハンカチをガウンの内ポケットにしまい、代わりに一本の剣を俺に差し出してきた。

「これ。あなたのですよ。お返ししますね」

 俺は一瞬だが、戸惑う。

 俺は剣なんて持っていた記憶はない。

 確か、部活の帰りに、校門の前で通り魔に刺されて意識を失って…………。

 ――絶対に死にたくないと思った。

 もちろん、今の俺の服装は刺された時と同じ、ワイシャツと黒のズボンという一般的な県立高校の夏服だ。特に勇者のような特別な格好をしているわけでもなく、当然、この森の中に倒れていた経緯も不明である。

 しかし、少女は何の屈託もない笑顔で剣を差し出してくる。俺も受け取らないわけにはいかないじゃないか。

 その剣は白い鞘に納まっていて、見えている柄の部分だけ見ても変わったデザインだと分かる。

「これ……俺の?」

「はい。倒れているときもしっかりと握っていましたよ。余程、大切な剣なんですね」

「…………」

 俺は黙って、剣に手を伸ばした。心なしか、手が震えてる気がした。両手で鞘の部分を掴み、自分へと引き寄せる。

 白い鞘の部分の感触は昔に行ったことのある高級レストランで床の建材に使用されていた大理石に似ている。しかし、それにしてはあまりにも軽すぎる。

 もちろん剣の重みもあまり感じない。

 俺は恐る恐る柄に手を掛けた。


 瞬間――――、バチン! と火花が散ったかのような音と衝撃が俺の手に伝わった。


 しかし、俺は剣から手を離すというアクションを起こすことは出来なかった。

 何故なら伝わってきた衝撃は、剣が俺を拒むような反発の衝撃ではなかったからだ。むしろ、俺の感覚器官に強制的にこの剣のプラグを挿入されたような、外から内への衝撃だった。

「――――――――ッ!?」

 だが、それは俺を混乱させるには十分だった。

 頭が俺とは違う別の意識に乗っ取られた、というよりは流れ込んできたという表現の方が正しいだろう。

 だが、それもほんの数秒の事。

 数秒後の俺は、俺であり俺でなかった。

「その剣は?」

 少女の鈴の音のような澄んだ声が俺の鼓膜を刺激し、脳へと情報を伝える。

 俺の返答に戸惑いなどは無い。

「これは、『王剣アルファセウス』だ」

「ッ!?」

 少女が息を呑む。

 俺はなんとも不思議な気持ちに陥っていた。

 この剣について俺は何も知らない。なのに、俺はこの剣の名前を知っていた。知識としてではなく、感覚として知覚していた。

「……で、王剣アルファセウスって何?」

 だがしかし!

 俺が知っているのは名前だけであって、概要や役割、意味などはさっぱり不明だ。

 例えるなら、この最新機器の名前は知っているが構造、使用方法が分からないと云ったところだ。

 少女は剣の名前を聞いて、酷く驚いていたことから何か重要な意味を持つこと位は理解できるのだが……。

「あなた……今、『王剣アルファセウス』と言いましたか……?」

「ああ、はい。確かに言いましたけど……、俺にも何で名前が分かったのかよく分からなくて」

「何で……? その剣は……だって…………――いいえ、今はいいです。とにかく、あなたはどうやってその剣を?」

 そんなこと聞かれても、正直困る。

 俺だって、剣以外のことも、どうして自分がここに居るのかすら分からないのだから。

「分からないんです。なんで、ここに居るのかも」

 正直に答えるしかなかった。

「それって、記憶喪失というヤツですか……?」

「そうわけじゃなくてですね。覚えてはいるんですよ、俺が誰かということも昨日の夕飯も……。気づいたらここで寝ていたという感じなんです」

 自分が殺されたということも、はっきりと覚えている。あの痛みも、あの気持ちも。これだけは忘れたいのだが……。

「とりあえず、説明してくれると有り難いです」

 俺が笑顔で言うと、少女はまじまじと剣を見つめ、

「それはいいんですけど……、」

 歯切れの悪そうな顔をして考え込んでいる。

 なんだか、とても真剣だ。もしかして、この剣ってなんか拙いものだったのか?

「と、とにかくですね。私の家に来ませんか? 行く当てもないのでしょ?」

「うっ」

 図星だよっ!

 なんだか自分が惨めになってくる。俺の脳内では、『宿無し』『ホームレス』『駄目人間』という言葉が渦巻き始めた。

 それに……それに女の子の家に行くなんて緊張するではないかっ!

 俺だって純粋無垢ピュアなチェリーボーイなんだぞ!

「よろしく、お願いしますっ!!」

 でも、ここで少女と別れてしまったら、きっととても不安な気分になって恐怖に押しつぶされてしまうだろう。

 悪いが今日はお世話になろうではないか。

 それよりも問題は、俺の理性という脆いモノが、超が付く美少女と一つ屋根の下というこの状況に耐え切れるかどうかということだ。

 不安な一夜になりそうだ。




 少女が言うには、乗り物を待たせてあるからそこまで歩いていくらしい。急ぎ足なのは、待たされると乗り物は機嫌を損ねてしまうらしい。

 馬か何かだとは思うが……。

「ところで。まだ、君の名前を聞いてないんですけど、差し支えなかったら教えてほしいです」

 無言で森の中を歩くのも寂しいものなので、俺から会話を切り出すことにしたのだ。

「わたしですか? えー、リコです」

「リコ……何?」

「リコはリコですよ」

「じゃなくって、苗字はないんですか?」

 俺の言葉を聞いて、少女改めリコは驚いたような表情を見せた。

「苗字なんてものを貰えるのは、上流階級の方だけですよ。私のような平民になんてとても……」

 なぜか少女の顔には悲しみのようなものが浮かんでいた。その理由は分からない。

 それよりも今の会話で気になったのは、上流階級や平民という言葉だ。平民が苗字を持っていないなんて、何時の時代だ?

「ここは何処なんですか? 国名とか地名がありますよね?」

「もしかして、この大陸の出身じゃないんですか? 人間ですし、ディスニアの生まれだと思っていたんですが」

「ディスニア? それがこの国の名前ですか?」

「いえ。ディスニアは私たちの王国が……まあ、今はもう無いんですけど、とにかくこの大陸の名前です」

「王国なんてあったんですか!?」

「ええ」

 淡白な答えに、俺の嫌な予想が当たったことを確信する。

 間違いなく、俺は異世界に来てしまったのだ。

 自分の世界で殺された俺は、この世界でやり直せって事?

 異世界転生なんて、ホントにあったんだぁー。

「そういえば、あなたの名前も聞いていません。教えてくださいませんか?」

 打ちひしがれて、呆然と歩いていた俺に少女が声を掛けてきた。

「えっと。俺は亜理栖、頼です」

「アリス……、ライですか? 男性なのにアリスなんですか?」

 亜理栖は苗字なんだが、まあアリスの方が親しみやすいってんなら、アリスでもいい気がする。なんか、可愛いしな。

「じゃ、アリスって呼んでください」

 俺はアリス。少女はリコ。これで定着しそうだな。

 俺とリコは少し広めの空き地にたどり着いた。リコは辺りをキョロキョロと見回し、乗り物を探しているらしい。

「おーい! ユニー! 出てきてよー!」

 ユニー。それが乗り物の名前なのか。

 その呼び声に応えるように、茂みがガサガサと音を発した。気配がこちらに近づいてくる。

「ええーっ!?」

 俺は茂みの中から飛び出してきた生物を見て、その声を発さずには居られなかった。

 茂みから姿を現した、純白の馬のような生物。しかし大きさは馬の二倍ほどで、背中には童謡の天使の如き、白銀の翼を生やしている。

 

 その生き物は紛れも無い天馬ペガサスである。


「ちょっと!? ペガサスだよ!? 俺、初めて見た!!」

「もしかして見るのは初めて? 生息しているところには居るものなんですけどね」

「はあ…………」

 俺に解説をしながらも、リコは手馴れた動作でペガサスへと跨った。そして、俺に手を伸ばす。

「さ、乗ってください。村までひとっ飛びです」

 俺はリコの小さな腕を掴み、ペガサスへとよじ登った。背中は牧場で乗ったことがある、ポニーの感触に似ていた。

 初めて乗る大型獣がペガサスってレアじゃない?

 だが、これでここが異世界であるということが証明されてしまった。何が起こるかわからないこの先のことを考えると、俺は多少だが不安を覚えた。


異世界に来てしまったアリス!

これから少年は選択を迫られるのです。

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