序話
お初にお目にかかります、黒奏雷夜です。
小説初心者ゆえ、未熟な点などもあるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
友人曰く、
「アイツは普通のいい奴だった」
と口を揃える。
『アイツ』とは、ここのところのニュースを独占している事件の被害者だ。
名は、亜理栖頼。公立高校に通う、成績は普通で特に際立った特徴もない、普通の高校一年生の男子生徒。
『事件』とは、連続通り魔事件だ。
現代社会に有り触れた猟奇的な犯行手口で、お茶の間を一昨日程まで賑やかせていた。被害者は合計六人。男女の内訳は男性一人、女性が五人だ。
しかし、この一連の騒動での死者は一人。
それが、亜理栖頼という少年だった。
犯人はといえば、既に殺人・殺人未遂・強盗・傷害の容疑で検挙されている。よって、云わばこれは解決済みの事件であった。
何れ、この唯一死亡した被害者の少年の名も忘れられるだろう。
それ程に、人の死に関しての関心は薄いと言える。何故なら、「また今日も何処かで誰かが死んだ」という認識しかないからだ。
結局は自分のことではないから興味は無い、という事実しかない。
現実問題、それは紛れも無い真実であり事実。この少年も、事件に巻き込まれた不幸な少年として名前が多少残るだけだ。
たったそれだけの、小さな出来事。
ただし、巻き込まれたこの不幸な少年の物語は終わってなどいなかった。
寧ろ、『始まり』であったと断言出来よう。
これは終わりから始まる物語。
亜理栖頼が最初に感じた感覚は激痛と熱だった。
所属していたサッカー部の部活を終え、校門を潜った時刻は既に七時を回っていた。頼の自宅は学校から徒歩で三十分程の住宅地にある。別段、遠い訳ではないのだが、流石に部活を終えた後の身体にはキツいというものだ。
最近、通り魔事件も多発している訳だし嫌だな、と短絡的な思考を巡らしていた頼。
その時、背中に衝撃が走ったのだ。
「――――ッぁ!?」
声にもならない悲鳴を漏らす頼が見たものは、自分の背中から突き刺さり、腹部を突き破って、その先端を見せている大型の刃物だった。
「な……んだよ」
答える声はない。
ズブリ、と生々しい感触と音が内臓から直に伝わり、傷口からは血液が溢れ出す。
「あ……ぅぅ…………――」
陽が完全に落ちた冷たい路面に、頼は倒れる。地溜りは止め処なく広がっていくばかりだ。
「ち、くしょう……! なんで、なんで俺が……」
頼は直感で自分が通り魔に襲われたのだと理解していた。
でも、今までの被害者は全員、女性だった筈だ。なのに――――。
「なんで俺が……、こんな目に…………」
少年は最期の力を振り絞り、手を伸ばした。
掴めるものなど何もないのに、確実に彼の腕は、手は何かを掴もうとしていた。
死にたくない。
こんな所で、こんな事で、終わりたくない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッッッ!!!
(嫌だァァァああああああああああああああアッ!!!)
少年は闇へと落ちる感覚だけを覚えた。
この先、どんなに辛いことがあってもいいから生きていたい、と云うささやかな願いのみを心に残した少年。
それは、生と死を少年が初めて実感した瞬間だった。
序話ではまだ、異世界って感じがしませんね。これから、異世界での話に切り替わっていきますので、ご意見ご感想など何でもどうぞ!