第十四章 アズの子供たち《後編》
「ここがロウス?」
「あぁ」
「・・・あぁって・・・何もないじゃない!」
確かにメグが言う様に辺りにはでこぼこの岩やちょっとした丘はあるが、それらしい建物などは見当たらない。ライメイは胸倉を掴まれグラグラとメグに振り回されながら答える。
「ち・・・地下だよ!!・・使えない新政府だと言っても、見えるとこでばっちり悪さなどは許してくれないでしょ?」
「入り口は!?」
ニヤッと笑うライメイが指を鳴らすと、メグはライメイの部下達に捕まった。
「やっぱり敵の懐に入るなら、正面からが一番疑われにくいだろ?」
「・・・それはよくある作戦だな・・っで・・・なんでこんな格好!?」
メグに着せられた服は、フリフリのレースとリボンのドレスに羽が飾られた帽子。
「さっきのカッコじゃ入れてくれないだろ?」
そう言うライメイも、似合わないスーツに髪を上げている。
「リラとジュン!後任すわ・・それじゃ行くぞ」
「なんだお前達は!!」
人目につきにくい大きな岩が転がる場所の奥に兵士たちの姿が見える。ライメイは政府の兵士達にも動じず、ポケットからIDカードを出すと兵士達は慌ててゲートを開く。ゲートをくぐり道なりに歩いて行くと、確かに地下に建物があり何層にも分かれる階があった。VIP用のエレベーターが自動的に止まり扉が開くと、眩しい光と大きな歓声が聞こえる。その中央には闘技場があり、回りには多くの人と壊れた機械人形が無残に散らばっていた。
「ライメイ・・噂には聞いたけど実際来るのは初めてだよ・・しかしまさか政府の人間が関係してるとわね・・」
「へぇ・・結構な人物が揃ったもんだ」
VIP席にいる人物の多くは昔なじみのある顔ばかり・・。あの戦争で得をした者たちって言うわけなんだろうけど・・・。
「戦争の無意味さを痛感させられるわね・・」
「メグまっそんなに恐い顔すんな・・・それよりレキの姿が無くないか?」
「・・確かに・・私達より早く出たし、レキの事ならもうとっくに着いててもいいハズなのに・・」
ライメイとメグは少しの嫌な予感にかられたが、今は一先ずココの目的と、レキの探し人を見つけるのが先決。
あのキョウと呼ばれた女を時々部屋を抜け出しては様子を見に来ていた。どうしても気になる・・・それにここの秘密を知ってる俺に何も言ってこないあの女の方も気になる・・。
「え?・・・・あれ?・・・今、何かに呼ばれたような気がしたけど・・・もしかして君か??」
キョウへ言葉を投げかけるがもちろん反応は無い。時間も遅くなってきたので部屋を出ようとしたとき激しい警告音が後ろで響き始める。
振り向くとこの間みた半身機械の少女の入ったガラスはメキメキと軋む音を鳴らし、少女の体に付けられた機械の部分が暴走しかけていた。
「おっおい!!」
意識の無いと思っていた少女の表情は、苦痛に表情を変える。
「・・・またなの?」
あの女が特に慌てる様子でもなく、研究員達を連れて入って来る。
「それが・・またの拒否反応を起こしたみたいでして・・」
「やはり強度した体と言えども、これは並大抵に扱えないって事かしら・・・」
警告音は変わらず鳴り響くが、何かをするわけでも無くキョウを見て喋ってるだけ・・。
「・・・そいつ苦しがってるだろ!?何故何もしない!!」
シンは思わず研究員達の前に姿を見せると、兵士は銃を向けるが女が軽く制止して冷静に喋る。
「じゃあ、あなたがどうにかしては?」
「・・・お前!!」
シンが助けようと近寄ろうとするより先にガラスが割れ、体を包んでいた液体が流れ出る。機械の半身を引きずりながらゆっくりとケースから出てくる姿に研究員達は悲鳴を上げて後ろに下がろうとするが・・・。伸びてきたコードにつかまり数人の人間が体中に巻きつき息絶える。
開かれた少女の瞳は真っ赤で・・・髪は白髪に変わり・・機械の体がキシキシと軋む音がする・・。
警報音で次々に兵士達が集まってくるがキョウの姿を見て襲いかかるもの逃げまどうもの立ち止まるものさまざまで・・。キョウは女に向かってコードを伸ばすが何故か女に傷を付けることができない。
「無駄よ、私はあなたのマザーなのだから」
その言葉を聞いてキョウは体を引きずり部屋から出ていく。
「おい!待て!!」
シンがキョウにやっとの事で追いつくといつの間にか外に出ていた。
そうか・・建物自体が地下に潜ってあんな闘技場をしていたってことか・・。
後ろの扉が開く音がしてそこにはロンの姿があった。よく見てみるとロンの服にはべったりと血が付き、ロンに続いて入ってきた子供達数人も血で汚れている。ロン達は無機質な瞳で少女と同じ方を見つめているので同じ方を見ると・・・。
「・・・レキ!?」
そこにいるのは紛れも無くレキだった・・けれどいつもの雰囲気が違う。
俺がレキにどうしてここにいるのか聞こうとした瞬間、ロンの後ろにいた子供達が一斉にレキの方へ向かって攻撃を始める。けれどレキも躊躇無く、子供達を倒していく。
「!?・・・レキ?・・なんで・・」
残ったのは、キョウとロン、レキとシンの4人・・。ロンが獣の様な声をあげ、レキに向かっていく・・。
「レキ!ロン!2人もやめろ!!」
叫びも虚しく・・・ロンはドサリと音をして倒れてしまう。
シンはロンに駆け寄り少し呼吸はあるものの・・急所を貫かれこれではどうしようもない・・そして見上げたレキの表情は・・寒気がするような機械人形の顔・・・。
「ライメイ、辺り騒がしくなってきたぞ・・何かあったのか?」
ライメイとメグは書類などを調べていると、辺りでは警告音が鳴り部屋の前は兵士達の足音が聞こえる。
「そうみたいだな・・・あっと・・これこれ」
ライメイが数枚の封筒から取り出したのは旧政府の軍事情報。今は新政府に変わり、新政府は戦争を嫌いと言うこともあり、今では旧軍事施設はほとんどが機能停止しているとは言え、今でも金持ち達はここの様にして娯楽に使っている。
「まぁそう言うな・・」
「何も言ってない・・・」
「顔に書いてある・・まぁ世の中蛇の道は蛇だ」
メグは苦笑を浮かべライメイに言うと、ライメイも溜息を付きならも同じく苦笑する。
「さて、そろそろ行きますか」
ライメイとメグが向かったのは一番地下にある部屋、そこでは一番豪華な部屋で金持ちや政府の者達がパーティーをしている場所。
「誰だ!!?」
「酷いですね・・私達の顔、お忘れになりました?」
多くの者がライメイ達を見て傲慢だった態度だった者たちも表情を変える。
「どうしてお前達が!!」
「処分でもされたとお思いですか?」
ライメイやメグの体から光が放たれる。巨大な爆発音と共に、地下に隠れていた建物の本体が現れる・・。それはシンの耳にも聞こえていた・・。
「何だ!?」
レキとキョウはその爆発音が死合の合図のように戦い始めた。さすがにレキの力は圧倒的で、半身が機械なだけのキョウに勝ち目は無い。
「・・・どうして・・・・何で・・もう・・やめてくれ!!」
シンの体から以前現れた白い光が現れ、レキたちの動きを止める。
その光の後、キョウの半身はどんどんと溶けたように崩れ落ち・・瞳が本来の色に変わり、キョウは本来の姿に戻る。
『・・・ロン・・・みんな・・・』
正気に戻ったのもつかの間、キョウは優しく悲しい表情でロンに向かって手を伸ばしたまま動かなくなってしまった。
「・・・シ・・ン?・・・」
レキもまたいつもの表情に戻りその場に崩れる様に倒れた。シンが駆け寄り触れた瞬間、何かが聞こえた・・・これはさっき自分を呼んだ声・・?
どうしてロン達が戦い・・どうしてこんなことに・・・ぐるぐると分らないことばかりで動けずにいると聞き覚えのある声がする。
「おーい!シン、レキ!」
シンがどうしようか迷っていると、そこへライメイが仲間達と来た。
「どうしたんだ!?」
「わからない・・レキ何か急に・・・」
「・・・取り合えずここを離れて、休める場所を探すぞ」
ライメイの一言で車は走り出した、レキは相変わらず眠ったまま・・・。車の後ろには、もくもくと立ち上る煙に大きな音をさせながら、ヘリが数台集まってきていた・・それらはすべて・・政府のものだった。
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