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ドール  作者: りょく
第一部
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第十四章 オアシス《中編》

ロウスに向かう途中、レキの頭が痛み始めた。痛みには慣れているはずだが、痛みにはどんどんと増加していき・・レキは頭を抱えその場に膝をついてしまう。

覚えのある頭痛にあの映像と声が響く・・。

『お前は決して何かを得ることはない・・・苦しむがいい・・そして悔やむがいい、お前が犯した罪を・・』

何度繰り返してもその意味を思いだそうとしても靄がかかったように思考を塞ぐ・・。

レキは激しくなる頭痛にとうとう気を失い倒れた・・・。


「あ゛~退屈だなぁ・・」

連れてこられて一週間になるが、客の中には政府の制服を着た奴らもいたので政府との関わりがある所に下手に手をだせないし・・。分ったことと言えばそのことと兵の数や建物の構造くらいで・・・。

「お兄ちゃん!遊ぼー」

そんな考えをよそにロンや子供達には懐かれ、毎日遊ぶ相手をしていた。他にやることも無いからだけど・・。

「よーし、今日は何する?」

「お兄ちゃんが鬼だよ」

「よーし、捕まえるぞー・・・うわ!?」

しばらく子供達を探して一つの部屋に入り壁にもたれると・・壁が忍者屋敷のように回転してシンはこける。

「イテテ・・・」

水音みたいな不思議な音に俯いていた顔を上げると・・怪しげな光と水が混合された様なモノが多数飾られている。近寄ってみて驚いた・・円柱のガラスの容器に入れられた・・人の心臓・・臓器がホルマリン漬けになっている。

「何だこれ・・医療関係じゃなさそうだけど・・」

奥にもう一つ大きなモノがあったので、近寄ってみると・・。

「!?コレ!!」

人間の女の半身は機械の管やチューブで繋がっている。

「気に入ってくれたかな?」

白衣を着て眼鏡をかけ、長い髪を後ろで一つに結び神経質そうな顔をした女が現れた。

「シン・スゥー君だったかしら?どう?ここはね・・・新たな機械人形を作る研究室なの・・もちろんあなたの戦闘データも取らしてもらったわ」

女は辺りの試験管を眺めながら楽しそうに喋る。

「子供達も頑張ってくれてるけど、やはりあなたは違うわね・・どう私の研究を手伝ってくれない?」

「・・・研究?」

「そう、神を作るのよ・・世界最強のね・・」

「・・は?神??」

「世界を作るのよ・・これからの未来は力のあるものが治めるの・・今のくだらない世界などおもしろくないでしょ?」

「・・・そうやってまた戦争でもしようっていうのか?」

「新しい未来のためなら・・・神もそうお望みのはずよ・・ククク」

女を掴みかかろうとすると・・・いつの間に現れたのか虚ろな瞳の子供達が女の前に立ちふさがる。

「何で・・お前達・・」

「いい子ね、お母さんを守ってくれるなんて・・でも大丈夫よ」

女には最初から、シンは子供には手を出せないということがわかっていたようで余裕に笑みを浮かべて姿を消した。女が消えると、子供達は正気を戻したように何があったの?と口々に喋るがこの部屋のことに驚く者はいなくて・・。

「なぁ・・・この子は?」

ガラス容器に入れられた半身の女を指さすと子供たちはわらわらと近寄っていく。

「キョウだよ」

「前は一緒に遊んでくれたんだけど・・でもお母さんが病気治してくれると、また遊んでくれるんだって」

病気を治すとはこの機械との結合の事なんだろうけど・・・子供たちがお母さんと呼ぶさっきの女の気になるが、まだ幼さの残る体に無数の傷跡と機械の配線・・首までの青い髪に色白の少女・・キョウの存在が気になりながらも俺たちは部屋を出た。


「あっ気が付きましたか?」

レキが目を覚ますと、傍らには少年と老婆が自分を覗き込んでいた。

「体の具合はどうだい?砂漠で倒れていたのをこの子が見つけて来たんだよ」

小さなオアシスのある村で、外には休憩を取っている商人達が見える。

「俺はトタって言うんだ、それでここは商人達の休息地でもあるバールニサの村だよ」

レキは少し頭が重くは感じていたが、それも少しの事でたいした事ではなさそうだった。

「兄ちゃん何処から来たんだ?」

「うん?・・・さあ何処から来たんだろうな・・」

「・・兄ちゃんも俺達と同じなのかもなぁ」

「同じ?」

「うん・・戦争の時に住んでいた村が戦場になってさ、もうあそこで住むことできないから・・俺達は転々とオアシスを回って暮らしてるんだ」

村と言っても確かに、テントや簡易性の家で暮らしている人達ばかり・・戦争が終わっても生きる場所が見つからない人は大勢いる・・。ガーディアルなど政府が管理する住処に入れるのも一部の上流階級のみだ。

「すまないね・・トタは、戦争で両親と兄を亡くしてね・・」

シンの事が気になるので村を出ようと思ったがトタに構っているといつの間にか夜も更けていた。老婆ははしゃいで眠ってしまったトタの頭をなでながらレキを見て微笑む。

「恨むと言う事はないのですか?」

「なあに今はこの子がいる、それだけで私は十分だよ、ただトタには安心できる住まいを見つけてあげたいんだけど・・なかなか難しいね・・・」

「兄ちゃん行っちゃうの?」

「あぁ、世話になった」

支度を整えたレキを見て、寂しそうに言うトタの頭を撫でた時爆発音が響き、急な攻撃で襲い掛かってきたのは武装した盗賊達だった。貧しい人のグループが旅人や政府の支援が無い村を襲う情報はあっちこっちで言われている。

穏やかなオアシスの中がパニックにおちいって、逃げ惑う人々と悲鳴。

「ばぁちゃん!!」

爆風で砂埃が舞い、小さな体のトタが見えなくなる。

「トタ!どこだ!?」

やっと見つけたトタは血を流し地に倒れて・・トタを座り込んで抱きしめている老婆の姿があった。レキに気づき老婆は口を開く。

「・・・私を庇ったんだよ・・こんな老いぼれ庇う必要なんか無いのにねぇ」

レキはだらりとしているトタの腕に触ると、脈は無く胸に銃弾を受けていた。

「・・・この子を渡したりしない!」

レキが握っていたトタの腕を奪い取る。しばらくブツブツ言っていた老婆が、ばっと顔を上げると昨夜話した時と同じ優しい表情で・・。

「あんたは早くお逃げ・・私はこの子と逝くよ・・・」

正気に戻ったのかは分からないが、老婆がレキに言う。

「恨む・・か・・」

そう呟くと、どこから持ってきたのか老婆は爆弾を数個ポケットから出した。

「さぁ行きなさい・・・あなたの未来にこの子の分までの幸があらんことを・・」

「なんだ?こんな所にもいたのか・・はは、さぁ死ね!!」

盗賊に見つかり、老婆はトタを抱きしめ爆弾に火を付けた。大きな爆発音が響き、あたりの砂を巻き上げた・・視界が良くなると盗賊達は、辺りを物色していた。

「クッソ!!あの老いぼれ・・自爆しやがった!」

「ん?なんだお前?」

「コイツ俺達にびびって逃げられなかったんじゃないか?」

盗賊達がレキの周りに集まって笑い始める。

「何とか言えばどうだ?」

肩に置かれた手をレキが見ると、盗賊の一人は悲鳴をあげ燃え出した。

「・・・・・」

盗賊達が仲間をやられ次々にレキに襲い掛かってきたが、同じように悲鳴を上げ燃えその場に倒れる仲間たちを見て残った残党たちは急いで逃げていく。


『お前は永久の苦しみを・・・罰を・・』


また頭の中で響く声・・・。

レキは無言のまま、赤く染まった頬と自らの手を見つめた・・。

「俺は・・・・」

しばらくしてレキがオアシスから離れると、無数の盗賊の屍が散乱していた。



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