第十一章 シリウス
あの町で起こった後、俺たちは気まずいまま目的地のシリウスに着いたのは、それから一週間馬車に揺られてからの事だった。
「ここがシリウス・・・」
オアシスに囲まれた大きくはないがゆっくりと時間が流れている平和そうな町だ。
「すいません、カスガ、カスガ・ミヤと言う人物はこの町に住んではいないか?」
「カスガ?あぁあの、それならほれ」
町人が指した方角には丘の高台にある一軒の家。一直線にその丘の家に行くと、緑の蔓にグルグルに巻かれ屋敷・庭には色とりどりの数多く直物が咲いている。家をのぞこうとした時、ちょうど屋敷の門の前で言い争っている声がする。
「ちょっと!これがそんなに高いわけ無いでしょ!高く見積もっても250がちょうどいいでしょ?」
門の前にいるのは少女と商人。少女の方が大の男の商人よりかなり強気だ・・。
「そんな殺生な~」
「ダメなら買わないわ、早く帰ってちょうだい!」
「う・・わかりました、じゃ250で」
「おい」
レキの声に振り向いた少女は、ピンクのカールした髪を2つに束ね服装は黒のレースのミニドレス。まだ少女なのにその瞳には威圧感があった。
「・・・・・」
「カスガ、俺の顔を忘れるくらい歳を取ったのか?」
カスガと呼ばれた少女はその言葉に子供の顔から大人びた顔つきに変わる。
「入ったら?」
「なぁライメイ、カスガってどんな人なんだ?」
「お前そんなのも知らないのか?カスガは戦乱時代第一線で機械人形を造っていた技師」
「技師?」
「・・確か今年で・・二百・・」
「そんなに年いってない!!今年で・・・」
「入るのかい!?入らないのかい!?」
「・・・・まぁなんだ・・レキをいや、俺達の産みの親ってわけだ」
カスガの人声に不思議なくらいレキとライメイは静かにカスガの後に続いて屋敷へ入る。丘の向こうから見るとそんなに大きな家のようには見えなかったが、実際近くで見てみるとかなり大きな屋敷だ。
「フェイ!客人だよ!」
「ヨウコソオ・・出デ下シマシタ」
屋敷の奥から、藍色の肩までの髪に少しきつめの同色の瞳を持ち、メイドの服を着た20歳位の女機械人形が出てきた。丁寧にこちらへ礼をしたあと客室まで案内後、お茶まで用意してくれた。
フェイと呼ばれたメイド機械人形は、言葉には機械なまりがあるものの容姿、動作は精巧な作りだ。
「おい、シンを頼むぞ」
「ほーい」
「え?レキ?」
色々珍しい部屋を見ている間に、レキはカスガに連れられて奥の部屋に行ってしまった。部屋に残るのはシンとライメイ・・何か気まずいメイドさん。
「シン、俺ちょっと出て来るわ・・お前はココにちゃんといろよ」
いつものようにあっという間に部屋から出ていたライメイ・・・2人きりになってそっとメイドさんを見てみると、無表情で見つめられる。
「オ菓子デモ持ッテ来マショウカ?」
「だっ大丈夫です・・あの、レキとカスガさん?は・・・」
「レキ様は、今カラ15年前ニカスガ様ニ造ラレマシタ」
「ここで作られた・・・」
レキの力を見たら普通の人間じゃないことはわかる。けど見た目はどこからみても人間・・・でも作られたと聞くとそれが現実なのかと思う・・。やはりレキは・・・。
「ソウデス、ソレカラスグニ、レキ様ハ戦場ニ行ッテシマッタンデス・・カスガ様ハトテモ、レキ様ノ事ヲ心配シテイマシタカラ・・」
カスガの腕は確かで、レキの壊れた腕もすぐ元通りの動きを取り戻す。
「カスガ、シンを頼むぞ」
「何を言って・・」
動くようになった腕を最後は自分で無理やり付けてレキは立ち上がる。
「レキ!まだ腹の穴は治りきってないよ!」
声をかけた春日の方を一度振り向き何か言おうとしたようだったが結局カスガに軽く頭を下げたまま部屋を出て行ってしまった。
ってか・・・レキもライメイも何してんだよ~ってあれレキ?
庭の裏を横切って歩いていくのは確かにレキだ。視線を向けていると屋敷の入り口にいたのは政府の役人・・シンは慌てて追いかけようとしたとき、カスガが部屋に入って来た。
「どこに行くんだい?」
「どこってレキが!!」
「レキは自分で行ったんだ、お前を頼むって言ってね」
「!!そんな・・」
信じられず部屋を出ようとするが、カスガに止められる。
「お前が行った所でレキの足手まといになるだけ、じっと帰って来るのを待ちな」
「・・嫌だ!俺はあいつと一緒に行くって決めたんだ!!」
「まったく何で機械人形と言うものはこんなに不器用なんだか・・・」
シンはカスガの手を振り払って出て行ってしまう。連れ帰ってこようとしたフェイを止め、カスガはゆっくり椅子に座って呟く。
「だが・・それは我々人間も同じか」
「ったくレキのやつ、行くにしても俺に一言ぐらい言って行けよ!!」
シンがレキを見つけたころ、すでに政府の役人に連れられ飛行船に乗せらそうになっていた。
「レキ!!」
「シン!?」
「何だ?あのガキも仲間か!!捕まえろ!!」
「シン、必ず帰って来る!お前はカスガを守ってやってくれ!!頼んだぞ・・・」
「レキ!!」
飛行船は空に浮かび、沈み行く太陽の方角へと飛んでいってしまう。
「レキ、何で・・何で俺に・・何も言ってくれないんだ!!」
ブチ切れヒステリックになったシンの怒鳴り声が虚しく空に響いていた。
飛行船は何事もなく目的地に到着した、目的地は思った通りガーディアル・・そして兵士達に囲まれて、裏の道を進み行く。
しばらく歩くとレキがココを出た状態そのままだった、学生が同じ日常を楽しんでいるのを見ていると急に背を押され、どこかの部屋に入った。
「・・・戻ってきたか・・・」
暗い部屋に照明がさすと、不適な笑みをした理事長・・と傍らにはアキトの姿。
「私はいつかお前が帰って来ると知っていたさ、お前はココを離れては生きられないんだからな・・・お前は二度と自由なんて与えない、お前は私のために生きるのだからな」
そう言うと、レキの力を分析し防御壁を張った部屋にいれられる。
一面白い部屋に白いベットが一つあり、横に何かを測定するのか機械が置かれている。窓もなく、天井は高く出入りはできないまさに監獄、そして唯一ある鏡の向こうは見張り用なのだろう・・。レキは何も文句も言わずベットに腰を掛ける。
「ミツキ・・ミツキ!」
「何だよギル?」
消灯時間はとっくに過ぎて、眠りに入って行こうとしている時にギルに起こされるミツキは機嫌悪そうに言う。
「いたんだよ!!」
「何が?」
「レキが!レキがココに帰ってきてんだよ!!」
「ほんとか!?」
「あぁ!確かに見たんだよ!帰って来てるの!!」
ギルが話すには、兵士達と一緒に一般人立ち入り禁止区域へと入っていったそうだ。
「あそこは・・・理事達の住んでる所だよな・・・・」
「そんなに心配なら、行ってこい」
ひとまずシンは、カスガの屋敷に戻ってレキのことを話す。
「でも、レキが・・・」
もちろんすぐにでもレキを追いかけたい・・・けど、レキにカスガを守ってやってくれって頼まれたし・・・。
「私の事なら心配要らない、そう簡単には死なないし、殺されないさ」
その言葉に、フェイやライメイまでも複雑な顔をしたが、それは一瞬のことで・・ 。
「それより、お前変わった機種みたいだ・・・私の造ったんじゃないし・・・お前どこから来た?」
「それは・・・気が付いたら普通に暮らして・・自分が人間じゃないってことも大分後に知ったから・・」
「なるほど・・まぁお前なら大丈夫だろ、レキよりは強いようにみえるしな」
「俺がレキより強い?」
「あぁ、あいつはもとは・・・・人間だからね」
そんなの初めてだ、確かに戦争中強力な力を身につけるためサイボーグとなる人間はいたと聞く・・けれどレキは・・。
「ほれ、行きな!」
カスガが投げた旅の荷物をシンは受け取り、しばらく悩んでいたが礼を行って部屋を飛び出す。
微かに耳を澄ますと、本棚の後ろにある隠し扉の部屋から歌声が聞こえる・・ 。
「カラ、お前も行っておいで」
部屋の中央に穴が掘られ水が入っている、その中に鎖で四方を止められた椅子に座るカラ。カスガの声に瞳を開け、歌を止める。その歌もまた人の歌声とは違う、感情がないような複雑な音だった。
鎖はカラの歌とともにはずれはじめ、すぐに鎖は水の中に沈む・・そして水からでたと思うと、一瞬にしてカラの姿は消えてしまった。
「行カセテ、良カッタノデスカ?」
「籠の鳥も、最後まで大空を飛ぶ事を諦めない・・って事さ・・・」
「カスガ様・・」
「フェイ、用意だ!これからだ」
「ハイ」
「一度来た道は二度と帰れない・・・か」
青く澄んだ空だが、カスガは眉をひそめて呟いたのだった・・。
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