第十章 かつての友
暗室の中、コポコポ・・・と水の音がする。
「さぁそろそろ目覚める時間だ」
理事はそう言うと制御装置に触れる。
『身体異常無し・・体温・神経・・すべてクリア・・・身体保護液体噴出まで約5秒・4・3・2・1』
体を包んでいた培養液が無くなると、中に入っていた人物はゆっくりと目を開く。
「どうだ調子は?・・・良く目覚めてくれたな、我が息子よ・・」
液の中にいた人物は虚ろな瞳で何も言わなかった・・。
「失礼します」
「何だ?」
「シリウスの村の方で見つけたと連絡が来ました」
「解った、お前が目覚めたイイお祝いができるぞ・・・なぁアキト」
理事の笑い声が響き。
「いつか私の元へ来るんだ、レキ」
『・・・レ・・キ・・・・』
「レキ!レキ!」
「何だ?」
まだ遠くの方にしか見えないが、確かに前方に町が見える。結構大きな町だ。
「町だよ!町!」
「何だ?お前町めずらしいのか?」
「違うここんとこ小さい村と砂漠ばっかりだったからさ!」
ライメイの嫌味も今ばかりは気にならないくらい楽しみだった。この町であんなことが起こるとは思いもよらなかったが・・。
「レキ~早く来いよ!!ライメイは来なくて良いぞ!!」
「何だと!!」
町についてもシンは浮かれているが逆にレキとライメイは無言のままだった。
ライメイがおもむろにレキの腕を握る。
「こんな所でゆっくりしてていいのか?腕動かないんだろ?」
普通に見れば調子が悪いなんて思わないが、注意深く見ればレキは腕の動きが微かに遅い。
「お前には関係ない」
レキは大した事では無いと言うように、ライメイの腕をはらう。
「ココで軍にでも見つかって、倒されたらどうするんだ?」
「・・・」
「お前を倒すのは俺だからな、他のやつに倒されたらおもしろくねぇだろ」
前をいっていたシンが今日の夕飯などを買い込んで店先から手を振る。
「・・シン何買って来たんだ?」
レキは何事もなかったかのようにシンにいつも通り話しかけるのを見てライメイはムスっとしながら行ってしまった。
「飯とかだけど・・・ってライメイ?」
「ほっとけ・・それじゃ宿に行くか」
「え?宿で泊まるの?」
レキと旅に出てちゃんと宿に泊まるのなんて始めてかもしれない。
「うわぁ~フカフカ♪」
ベットにダイビングをして喜んでいるシンを見て少し微笑んだのを俺は気付かなかった。
「シンにとって、人間はどう思う?」
急に話しかけてきたレキの方へ俺は座り直す。
「人間?俺は・・共に暮らしていければいいと思うけど、人間達が俺達のすべてを認めてくれるとは思わない事は・・・レキは?」
「・・・・」
「何でこんなこと聞くんだ?」
「いや、何でもない」
その時俺は、レキは何か迷っているように思えた。レキがドールなのかどうかも聞けづにいるけど・・。レキの力はもしかしたら危険なのかもしれない、けどただ殺しあうけの道具じゃきっとない。
「それなら俺だって必要ないじゃん?俺も一緒、それなら不安じゃないだろ?」
それを聞いたレキは少し微笑んだ様に見えた。
「何だ!?」
急いでカーテンを開けると夕暮れを過ぎ、黒くなった空に赤い火が見える。
「シンここにいろ!」
「俺も行く!」
外は大勢の人々のパニックの状態で、逃げ惑い悲鳴が聞こえる。そのためすぐに跡を追ったのだが、レキを見失ってしまった。
何とか人混みを抜け裏路地にはいると、奥の方で子供の声が聞こえる。行ってみると2人の姉弟と思える子供がいた。
「どうしたんだ?」
「フリクが!!」
少女は10歳位で服が汚れて少しケガをしている。フリクと呼ばれた少年はぐったりとして、頭からは血を流し、足や手にもかすり傷の傷が数カ所ある。
「大丈夫だよ、どこかフリクを休ませられる場所ある?」
少女は混乱しているのか答えないので、自分達の宿に向かいフリクをベットに寝かし傷を手当てする。
「・・うぅ・・」
痛みで声を上げたフリクを見て、少女は青い顔する。
「君の名前は?」
「・・・テ・・ル」
「そっか、じゃテルはフリクの手を握ってて、そうすれば早く元気になるからね」
少女はなんとか頷き、フリクの手を泣きながら握る。それを見てから、シンはフリクの額に手を当ててるとしばらくして白い光が現れ、少しの間フリクを包むと光が消えると同時にフリクの荒かった呼吸は落ち着いたものになっていた。
「もう大丈夫だよ、お兄ちゃんはもう行くけど、フリクの目が覚めたら安全な所まで避難するんだよ」
「うん、お兄ちゃんありがとう」
少女の頬の涙はまだ消えて無かったが、俺はレキを探さなければいけない気がして・・。答える代わりに、少女が安心するように微笑み、頭をなでてから宿を飛び出した。外にはもう人の姿は無く、爆撃音以外静まり返っている。
「まったく弱いのに来るなってんだ」
1人出ていったライメイの足下には倒されたインドール達。次々に爆発する町やわらわらと出てくるインドール達に飽きれながら・・。
「これはヤバイか・・・早く2人所に戻った方がいいかもな」
その場を立ち去ろうとした時、ライメイの後ろで気配が・・。
「あなたがライメイか」
「誰だあんた」
現れたのは青い髪を持つ青年、サングラスを掛けているため表情までは分らないが冷たい空気が流れる。
「レキ・D・キサラに関係する者はすべて処分って命だ、あんたにはココで死んでもらう」
ライメイは楽しそうに笑った。
「ふ~ん、面白いやってみろよ」
レキが町の広場に差し掛かると、フードを被った人物と前に見覚えのある人影ともう1人・・。
「レキ久しぶりだな」
ガーディアルの理事、自ら出向いてきていた。 もう1人のフードの方にレキが視線を向けると理事は面白そうに顔をゆがめる。
「お前にプレゼントだよ、まぁお前が私と共に来てくれたらの話だがな」
「誰がお前と!!」
「ふん・・お前は私をよほど殺したいとみえるが・・な」
理事に攻撃をしたがフードの人物に受け止められる。その時、町に雨の様に爆撃が降って来たため爆風でその人物のフードが脱げるとその人物は死んだハズの・・。
「・・ア・・キト・・・何故!?」
アキトは別れた時のままの姿・・髪が伸び、肌が白くなってはいるが・・・、その顔や姿はアキトと同じ・・。
「驚いたか?お前の友人をわざわざ連れてきたのだよ、喜んでもらえたかな?」
「レキ久しぶりだな、急にお前がいなくなったから心配したんだぞ?さぁ一緒にガーディアルに帰ろう」
あの頃と同じ様な笑顔で、言葉で、差し出された手をレキは取ることができなかった・・・。
「どうした?」
「お前・・・アキトに何をしたんだ!?」
嫌な想像が頭を巡る。
「レキお前とはないだろ?俺の親父に向かってさ」
「親父・・?」
「レキ、お前俺と一緒に来てくれないのか?・・それとも・・あの時と同じようにもう一度俺を・・・殺す?」
「!!」
「だったらお前を殺して連れて帰るか・・・」
アキトの合図で潜んでいたインドール達が現れレキに向かう。しかし数が多くても、インドールとレキの力は歴然の差だ。
「レキ!」
その時、シンがレキの姿を見つけ走ってきた。
「シンこっちに来るな!」
「え?」
その隙、アキトの刃がシンへ向かい、それを防ごうとしたレキは腹に刃をうけた・・。いつもより腕の動きが鈍く止めきれなかった。
「レキ!!」
「ハハ、レキ立ちな!俺を殺したお礼はしないと」
「どうして・・」
ライメイの腕は機械の心臓とも言える“核”をもぎ取っていた。青髪の青年は地に倒れたまま動かなくなってしまった。
「こいつはやっぱり機械か・・・でもこんだけの性能・・・ったくよけいな所で時間を食った、早く見つけないとやばいか」
ライメイがその場から消えしばらくすると青髪の青年は立ち上がる。
「あれが、ライメイか・・・」
「油断した~?」
のん気な声が頭上から落ちてくる、見上げると緑のふわふわの髪を持つ少年。
「リンジェ」
「ちゃんと仕事はしてきたからね!」
怒られると思ったのか、急いで言うリンジェ。
「ならいい、こちらもデータは入手できた、今日は引き上げるぞ」
「うん、シュキ」
リンジェとシュキは炎の中に消えていった。
「レキ!レキ!」
「何だ?レキお前が誰かを側に置くなんて珍しいな、アキトの代わりか?」
「シン逃げろ!」
レキが地に伏せるなんて初めてだ・・・何だよこいつレキをやるなんて、そんなことより今はこの状態をどうするかだ!!
「レキ、ちょっと寝てて」
「シン?」
アキトの方へ向いたシンは目にも見えない位の早さで動き、残ったインドールをすべて倒す。
「ハァハァ」
「君、なかなかやるね、ただのアキトの代わりってわけではないようだな」
シンは肩で息をしながらアキトの方へ構えるが力を使いきったように重い・・。その時アキトに異変が起こり、頭を押さえ倒れてしまった。
「アァー!!」
「ちっ!まだ完全ではないっと言う事か・・・しかたない今日の所は引くことにしよう」
理事の後ろに飛行船が止まる、それから出てきた白衣の人物達はアキトを連れていく。
「レキお前が帰って来てくれることを楽しみにしてる」
2人がいなくなるとシンは荒い息をして、その場に座り込んでしまった。
「シンお前・・」
遠くから段々と巨大な音が近ずいてくる・・。
「あー疲れたってお前ら平気だったか?って何だレキやられたのか?うわ、バカじゃねーの?」
シンは何とか呼吸を正し、立ち上がる。
「大丈夫なのか?」
「・・・うん」
俺達は攻撃が終了したのを知ってから、急いでその町を出てレキの言う目的地シリウスへと向かった。
狙われているのはレキ・・・。
その間俺は気まずくレキと話せないままになっていた。
そしてレキも何も聞かなかった。
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