「世界の果て」
門の向こう側は──空だった。
空しかない。足元にも空がある。上下の区別がない。どこまでも続く、夜明け前の空。東の地平線だけが、金色に光っている。
【「世界の果て」に到達しました】
トワは空の中に立っていた。足元に見えない床がある。硬い。歩ける。
歩いた。空の中を。
百歩。二百歩。景色が変わらない。ただ東の金色が、少しずつ明るくなっていく。
五百歩。
足元に……何かが見えてきた。地面じゃない。ガラスのような透明な床の下に、BCOの世界が広がっている。銀月の草原。霧底の森。星砂の廃都。天蓋の遺跡。翡翠の密林。海。全ての大陸が──足の下に、ジオラマのように並んでいる。
世界の果てとは──世界の「上」だった。全ての世界を見渡せる場所。
空の中央に、玉座があった。ソルシア王国の紋章が刻まれた、光の玉座。
誰も座っていない。その玉座の前に、システムメッセージが浮かんでいた。
【世界の果ての到達者へ】
【あなたは、この世界を最も長く歩いた旅人です】
【ここから、世界の全てが見えます。あなたが歩いた全ての道が、ここに繋がっています】
【──最後の選択をしてください】
【1. 玉座に座り、「世界の管理者」となる】
【2. 玉座を無視し、歩き続ける】
冬夜は、笑った。
選択肢を見て、声に出して笑った。
BCOの開発者は──わかっている。旅人に「座れ」と言っても、座るわけがない。
「2」
玉座を通り過ぎた。
【──予想通りの答えです】
システムメッセージが、笑ったように見えた。
【あなたは歩き続けることにしたのですね。あくまでも、一人の旅人として】
【では、最後の贈り物を】
バギンッ! と、空が割れた。
東の地平線から──光が溢れた。夜明けだ。
足の下の世界……BCO全体が、朝の光に照らされた。銀月の草原が金色に。霧底の森の霧が虹色に。海が光に満たされて輝いていく。
そして……空の中に、巨大な影が現れた。
【世界の門番 Lv??? ── 最終レイドボス】
レベル不明。巨大な──龍。グラオザームよりも、ルナティスよりも大きい。空自体が形を纏ったような、半透明の巨大龍。
【この戦いには、全プレイヤーが参加可能です】
【参加者を募りますか?】
全プレイヤー参加型。あの時のグラオザーム戦と同じ──いや、それ以上だ。
冬夜は迷わなかった。
「募る」
BCO全体にシステムメッセージが流れた。
【「世界の果て」にて、最終レイドボスが出現しました。全プレイヤーの参加を求めます。──発見者:トワ】
◇
BCO中のプレイヤーが動いた。
始まりの町から、銀月の草原から、終夜の回廊から、翡翠の密林から──全てのエリアから、プレイヤーたちが「世界の果て」への転送ゲートに殺到した。
転送ゲートは全ての町に出現している。運営が用意した特別対応。
五分で──五千人。十分で──一万人。二十分で──三万人が集結した。
セレスが転送ゲートから飛んできた。最終試練の間はいられなかったが、今は一緒にいられる。
「トワ!! おかえり! しけん、おわった!?」
「終わった。だから、みんなを呼んだ」
「みんな?」
三万人のプレイヤーが、空の中に立っている。足の下にBCOの世界を見ながら。
「わ……いっぱい……すごい人ですね、師匠!」
ハルがトワの元に駆け寄ってきた。
「師匠! 最終試練クリアしたんですね!? 本当にすごいです!」
「まだ本当のクリアじゃない。本当の戦いは、ここからだ」
レナ、カイン、リゼ、マルク、バルトも姿を見せた。
「トワさん! 全踏破100%って聞いたよ! 本当に、おめでとう!」
ミコトが来た。もちろん、既に配信開始済みだ。
『皆さん!! ここが【世界の果て】です!! トワさんが──BCOの最終地点に到達しました!! そして、最終レイドボスが出現! 全プレイヤー参加型です!! 視聴者数──五百万!!!!』
ゼクスもトワの前に来た。
「来たぞ。──お前の旅の終着点に、立ち会わせてもらう」
アストレアが来た。ソラが来た。ヴァルハラが来た。旅人の集いの百人全員が来た。
三万人が──空の上に集結した。
「行くぞ」
トワの声が──三万人に届いた。
「最終レイドボスとの戦いだ。さあ──いい旅にしよう」
三万人の歓声が、空を震わせた。




