表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/275

「見られている」


 アルグリフの突進を横に転がって回避した。



 地面が砕ける衝撃。結晶の破片が宙を舞う。四足獣の質量がそのまま攻撃になる。直撃すれば即死だが、予備動作は大きい。【見聞録】が読み取った限りでは、突進後に二秒の硬直がある。



 その二秒で三連斬。




 6,200──6,200──6,200。




 通る。だがHPの削れ幅は小さい。レイドボスほどではないが、さすがにエリアボスのHP総量は多い。長期戦になる。



 問題は【駆け出しの霊薬】の在庫だった。持続三十秒の消耗品で、効果が切れればATKが半減する。手持ちは残り七本。



 ……計算する。



 現在のDPSで削り切るのに必要な時間。霊薬の効果時間と在庫。回避に専念する時間を差し引いて──ギリギリだ。一本も無駄にできない。



 アルグリフが翼を広げた。【見聞録】に新しい情報が追加される。




 【新規パターン検出:翼撃(範囲攻撃・風属性)】




 だがダメージ範囲の詳細が表示されない。「???」のままだ。初見の攻撃は一度食らうか回避するかして、パターンを学習させる必要がある。



 食らう選択肢はない。Lv1のHPでは、かすっただけで即死だ。



 ──勘で行く。



 翼が振り下ろされた。風の刃が扇状に広がる──範囲を目視で見切り、扇の軸線、つまりアルグリフの真正面に飛び込んだ。


 風が左右を薙ぎ、背後の結晶壁を切り裂く。だがアルグリフの真下──翼の付け根の直下だけは、死角になっていた。



 読み通り。



 【見聞録】が学習した。翼撃の範囲、ダメージ倍率、発動間隔がすべて可視化される。次からは完全に対応できる。




 三連斬をねじ込む。弱点の腹部を狙い、6,800のクリティカルが三連で刻まれる。




 こうして一つずつ、灰色だった情報を塗り替えていく。



 冬夜は知らなかった。



 この戦闘を──見ている者がいることを。



    ◇



 ミコトは自室でモニターを二枚並べていた。


 一枚はBCOのゲーム画面。もう一枚はSNSと公式フォーラムのタブが十個開いている。


 昨夜のレイド配信のアーカイブは、再生数が350万を突破していた。ミコトのチャンネル史上、ぶっちぎりの最高記録。コメント数も尋常ではない。


 その九割が「トワ」に関するものだった。



「……この人、今どこにいるんだろ」



 ミコトはBCOにログインし、フレンドリストを確認した──が、もちろんトワのフレンド登録はしていない。昨日のレイドで申請を送ったが、返答はなかった。



 公式フォーラムを巡回する。「トワ目撃情報」というスレッドが立っていた。




 ──「竜墓の広場にログインしたのを見た。煙幕で消えた」

 ──「森の方に走っていくのを目撃」

 ──「終夜の回廊に入ったっぽい。入口で足跡が途切れてた」

 ──「ソロで終夜の回廊? 推奨85のエリアをLv1で?」

 ──「このゲームの常識、もう通用しないんだよなあの人には」




 ミコトは椅子の上で膝を抱えた。



 配信者としての嗅覚が告げている。トワはコンテンツの塊だ。あの無口さ、あの立ち回り、あのログアウト前の一言──視聴者が求める「本物」がそこにある。



 追いかけたい。取材したい。できれば一緒にプレイしたい。



 だが、相手は煙幕で逃げるタイプだ。押せば引くのは目に見えている。



 ミコトは少し考えてから、トワ宛にダイレクトメッセージを一通だけ送った。



 「レイドの配信を見てくれてありがとうございました。──ではなく、見させてもらったのはこちらなので、ありがとうございました。無理にお返事しなくて大丈夫です。ミコト」



 返事は期待していなかった。ただ、四百通のメッセージの中に一通くらい、圧をかけないものがあってもいいと思った。



    ◇



 トワはアルグリフのHPを三割まで削っていた。



 霊薬の残りは二本。全攻撃パターンの学習は完了し、回避率は百パーセントを維持している。だが火力が足りない。あと二本分の霊薬──六十秒の攻撃時間で三割を削り切れるか。



 計算上は、わずかに足りない。



 ──なら、別の手を使う。



 アイテムストレージを開いた。旅の途中で拾い集めた雑多なアイテムが並んでいる。その中から一つ、ほとんどのプレイヤーが存在すら知らないアイテムを取り出した。




 アイテム名:【旅人の手記】

 種別:旅人専用消耗品。

 公式説明文:旅の思い出を、力に変える。

 効果:現在地に「しおり」を設置し、以降そのエリアでの全ステータスが微量上昇する。効果は永続。重ねがけ可能。

 入手方法:各地のフィールドに点在する「旅人の石碑」から回収(旅人のみ石碑が見える)。




 本来は低レベル帯のフィールドで使い、初心者が少しだけ楽になるためのアイテムだ。上昇量は一個あたりATK+0.5%。微々たるもの。転職すれば使えなくなるし、わざわざ石碑を探して回る物好きもいない。



 冬夜はこれを、二年間の旅の中で──四百個以上回収していた。旅人にしか見えない石碑を、全マップを歩く過程で一つ残らず拾い集めていたのだ。



 ただし効果があるのは過去に「しおり」を設置したエリアのみ。初めて来た終夜の回廊では効果は乗らない。



 だから、ここで使う。今この場で「しおり」を設置すれば、終夜の回廊にも効果が乗る。



 【旅人の手記】を開いた。しおりが設置される。微量のステータス上昇──ATK+0.5%。



 たった0.5%。だが、ここで先ほど説明した【道具通】が効いてくる。消耗品の効果を二倍にするスキル。



 ATK+0.5%が、ATK+1%に。



 さらに、【初心の心得】のCT短縮。Lv1であるトワは、【旅人の手記】の使用間隔すらゼロになる。つまり──連打できる。



 二個目。ATK+2%。三個目。ATK+3%。



 連打した。



 霊薬の効果時間が切れるまでに、手記を十二個重ねた。ATK+12%。



 ──これで足りる。



 最後の霊薬を飲んだ。三十秒。勝負をかける。



 アルグリフが最後の大技を放つ。全身を回転させる尻尾攻撃──【見聞録】は完全に読んでいる。跳躍して尾の軌道の上を越え、着地と同時に三連斬。



 腹部のコア──最大弱点を一点集中で叩く。




 9,200──9,200──9,200。




 CT消失。二撃目。三撃目。


 アルグリフが悲鳴をあげる。結晶の壁が共鳴して震えた。




 ──HP、ゼロ。




 【エリアボス「回廊の守護者・アルグリフ」討伐】

 【初討伐ボーナス:称号「回廊の先駆者」を獲得しました】




 称号。これもまた、最初の踏破者だけが得られるもの。


 トワは剣を鞘に収めて、ドロップアイテムの確認もそこそこに、回廊の奥へと歩き出した。


 ボスの先には、さらに道が続いている。



 結晶の壁の向こうに、微かに空が見えた。この回廊を抜けた先に、まだ見ぬフィールドがある。



 歩きながら、ふとメッセージボックスを開いた。未読が四百を超えている。読む気はなかったが、一通だけ目に留まった。



 ミコト、という名前。昨日の配信者か。


 文面を読んだ。短い。圧がない。


 トワは少し迷ってから、一言だけ返した。


「配信は見ていない。だが、礼は受け取った」


 送信して、メッセージボックスを閉じた。


 回廊の出口が近づいている。結晶の隙間から差し込む光が強くなる。


 一歩、また一歩。


 光の中に踏み出した瞬間──視界が開けた。



 見渡す限りの星空と、銀色に光る草原。夜なのに明るい。空に浮かぶのは、二つの銀色の月。




 【新エリア「銀月の草原」に到達しました】

 【このエリアはあなたが最初の踏破者です】




 風が吹いた。




 ──ああ。


 やめられない。


 この景色を見るたびに思う。まだ続けていいのだと。まだ歩いていいのだと。


 トワは草原に一歩を踏み出し、灰色の地図を塗り替え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ