星砂の廃都
星砂の廃都。赤い砂漠。地平線まで広がる星光の大地。
前回は入口の遺跡を確認しただけで引き返したが、今夜は地下遺跡に潜る。
セレスが肩の上でそわそわしている。
「トワ。ここ、あつい。あしがあつい」
「夜間は環境効果なしだ。我慢しろ」
「でもすなが、さらさらして、きもちいい」
さっきまで暑いと文句を言っていたのに、もう楽しんでいる。
切り替えが早いやつだな、とトワは思う。
遺跡の入口に着いた。砂に半分埋もれた石造りの門。前回見つけた旅人の石碑の横を通り、階段を下りる。
地下に入った瞬間、雰囲気が変わった。砂漠の熱気ではなく、ひんやりとした石の匂いがする。
【「星砂の地下神殿」に進入しました】
【このエリアはあなたが最初の踏破者です】
「トワ! いちばんのり!」
セレスが両手を上げて喜んだ。角がぴょこぴょこ揺れる。
地下神殿は広かった。高い天井に、壁面を覆う壁画。壁画には──旅人の姿が描かれている。杖を持ち、世界を歩く人々の絵。古い文明が旅人を讃えたのだろうか。
【見聞録】が壁画の情報を読み取った。
【古代文明「ソルシア王国」の壁画──旅人の巡礼路を描いた歴史的資料】
【ソルシア王国は「世界の果て」を目指した旅人の王国と伝えられている】
世界の果て。また、この言葉。
石碑に刻まれていたのと同じだ。「砂に埋もれし王国は、月と星の間に生まれ、太陽に焼かれて滅びた。その魂は、世界の果てで待っている」。
──ソルシア王国。旅人の王国。世界の果てを目指した文明。
壁画を読み進めると、物語が浮かび上がってきた。ソルシア王国の民は、世界中を旅して知識を集め、「世界の果て」に至る道を探した。だが、太陽──おそらくゲーム内の何らかの災害によって滅び、その遺産だけがここに残された。
壁画の最後に、一つの図が描かれていた。七つの星が円を描いている。
七つ。
──世界地図の欠片。七つで一つになるキーアイテム。これはソルシア王国の遺産なのか。
「セレス。この壁画、読めるか」
「んー。むずかしい。でも、このまるいの、セレスしってる」
「知っているのか」
「うん。セレスが、ずっとむかし、ここにきたことある。このまるいの、『みち』。せかいのはてへの、みち」
セレスは守護精霊だ。銀月の草原に古くからいる存在。このゲームの歴史に組み込まれたNPCとして、プレイヤーが知らない情報を持っている可能性がある。
「世界の果てへの道は、七つの欠片で開くのか」
「たぶん。セレス、ぜんぶはしらない。でも──七つあつめたら、なにかがおきる」
冬夜は壁画を見上げた。七つの星。そのうち二つが──自分のストレージにある。
残り五つ。各エリアのファーストクリア報酬として手に入るはずだ。
──歩く理由が、また増えた。
◇
神殿の奥を探索した。モンスターは──
【砂霊の衛兵 Lv91】
砂で構成された騎士。剣と盾を持っている。ソルシア王国の兵士の亡霊だろうか。
Lv91。終夜の回廊のLv82から徐々にレベルが上がっている。だがトワのステータスはセレスの加護でHP360、【旅路の極意】の数値もセレスの三倍速移動で日々上がっている。
三連斬。9,800──9,800──9,800。
スキル一つで倒した。
「つよい!」セレスがぱちぱち拍手する。
奥に進む。神殿の構造は入り組んでいて、分岐が多い。地図を塗りながら、片っ端から歩く。
途中、宝箱を三つ開けた。装備品やゴールドに混じって──見慣れないアイテムが出た。
【砂時計のレンズを入手しました】
アイテム名:【砂時計のレンズ】
種別:ツールアイテム。
公式説明文:砂の流れから時間を読む。
効果:不明。
効果不明。説明文も曖昧。
こういうアイテムが一番怖い。そして一番面白い。旅人スキルの説明文が全て曖昧だったように、BCOの隠し要素は「効果不明」の中に宝が眠っている。
ストレージにしまって先に進む。いずれ使い道がわかるだろう。
神殿の最深部に辿り着いた。巨大な広間。天井に穴が開いていて、地上の星空が見える。砂が滝のように流れ落ちている。
広間の中央に──王座。
そして王座の上に、もう一つのアイテムが置かれていた。
【旅人の隠し技法書・第二巻を入手しました】
アイテム名:【旅人の隠し技法書・第二巻】
種別:旅人専用消耗品(使い切り)。
公式説明文:旅人が出会った人の数だけ、力がある。
効果:使用すると、旅人スキル【道具通】に新たな能力が追加される。
追加能力:「他プレイヤーに消耗品を使用した場合、効果が1.5倍になる」
──他プレイヤーへの効果倍増。
これは自分のためのスキルではない。味方を強くするスキルだ。
たとえば【駆け出しの霊薬】をレナに使えば、ATK+150%。【旅路の糧食・改】をカインに使えば、通常の1.5倍の回復量。
ソロの旅人が、パーティの支援役になる。
冬夜は技法書を使った。公式説明文の「出会った人の数だけ」という言葉が、頭に残った。
一年前の自分なら、この技法書は何の役にも立たなかった。「他プレイヤーに使用」する相手がいなかったからだ。
でも、今はいる。




