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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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vsベヘモル


 セレスがいる生活は、想像以上に騒がしかった。


 ログインすると、セレスがどこからともなく飛んできてトワの肩に着地する。正確には着地ではなく「体当たり」に近い。小さな身体で頬にぶつかってきて、そのまましがみつく。



「トワ! おそい!」

「八時にログインすると言ったはずだが」

「おそい! セレス、ずっとまってた!」

「五分前にログアウトしたばかりだ。現実時間で八時間しか経っていない」

「はちじかん、ながい」



 セレスはトワがログアウトしている間、銀月の草原で一人で待っているらしい。鹿の姿に戻って草を食べたり、丘の上で昼寝をしたりしているそうだが、トワがいないと退屈なのだという。



 ──NPCに待たせている、という感覚は初めてだった。



 今夜は霧底の森の探索だ。ベヘモル戦の準備は整っている。【霧散らしの粉】五個、【駆け出しの霊薬】百本、【旅路の糧食・改】十個、【光魚のシチュー】三杯分。



 セレスを連れて草原を歩き、崖下りの道へ向かう。



「トワ、きょうは、どこいく?」

「霧底の森の最深部。ボスを倒しに行く」

「ボス! セレスもたたかう?」

「お前は覚醒形態になると目立つ。今回はソロで行く。お前は肩にいろ」

「えー」



 セレスが頬を膨らませた。角がぴょこぴょこ揺れる。不満の表明らしい。

 崖下りの道を降りる。セレスが霧底の森に入った瞬間、ぶるっと身体を震わせた。



「さむい。くらい。やだ」

「我慢しろ」

「トワのポケット、はいっていい?」

「ポケットはない。旅人の初期装備にポケットはついていない」

「……フードは?」



 トワのフードの中にセレスが潜り込んだ。首元から銀色の髪がちょっとだけはみ出ている。角の先端がフードを突き上げて、小さなテントみたいになってた。



「……歩きにくい」

「あったかい」



 諦めた。



    ◇




 霧の中を進む。マーサの泉を過ぎ、苔原を抜け、巨木の森を越えて、最深部へ。

 踏破率82%のラインを越えた。ここからは未踏のエリアだ。




 【霧底の森・最深部に進入しました】

 【このエリアはあなたが最初の踏破者です】




 セレスがフードの中からひょこっと顔を出した。



「トワ。なんか、おおきい」




 【見聞録】と【月光の目】が同時に反応した。セレスの感知能力が霧の向こうを捉えている。



 巨大な反応。フィールドボス。




 【霧喰いのベヘモル Lv93 ── フィールドボス】




 霧の向こうから、地響きが伝わってきた。



 姿が見え始める。──巨大な獣だった。熊と犀を合わせたような四足の姿。全長二十メートル超。全身が苔と霧で覆われていて、呼吸するたびに口から濃い霧を吐き出している。


 そしてその霧を──自分の口で吸い込んでいる。霧を食べ、霧を吐く。循環する霧がベヘモルの身体を覆い、天然の鎧のように機能していた。



【見聞録】が情報を出力する。



 HP──膨大。ルナティスに匹敵するか、それ以上。

 弱点──不明(霧に覆われて解析不能)。

 攻撃パターン──四種類確認。うち一つが「???」。

 特殊効果:【霧の鎧】── 霧が存在する限り、被ダメージ90%カット。

 被ダメージ90%カット。つまり、霧がある限りほぼ無敵。




 ──だが。


 トワはアイテムストレージから【霧散らしの粉】を取り出した。




 アイテム名:【霧散らしの粉】

 効果:半径30メートルの霧を60秒間完全に除去する。




 マーサのレシピ。料理人のおばあちゃんとの友好度が生んだ、このボスの唯一の攻略手段。


 粉を空中に撒いた。


 白い粉が霧に触れた瞬間──霧が溶けるように消えていった。半径30メートルの空間が、初めて晴れた。


 苔に覆われた巨木の森。天井から差す微かな光。霧がない空間は、意外なほど美しかった。


 そしてベヘモルの身体から、霧の鎧が剥がれ落ちた。




 【「霧の鎧」が解除されました──被ダメージカット無効(残り58秒)】




 ベヘモルが怒りの咆哮を上げた。マーサが言った通り──霧を奪われたベヘモルは、怒り狂う。




 【ベヘモル・暴走状態に移行 ── 全ステータス1.3倍】




 弱体化と暴走が同時に来る。鎧は消えたが、攻撃力と速度が上がった。


 60秒。この間に可能な限りダメージを叩き込む。60秒後に霧が戻れば、また90%カットに戻ってしまう。粉の在庫は残り四個。つまり合計五回、300秒間だけが攻撃チャンスだ。


「セレス、フードにいろ。少し揺れるぞ!」

「うん! トワ、がんばって!」




【駆け出しの霊薬】ATK+100%

【光魚のシチュー】全ステ+5%

【旅路の糧食・改】移動回復




 トワは走った。


 ベヘモルの突進が来る。Lv93の暴走状態──速い。だが【見聞録】が攻撃パターンを読んでいる。右に三歩。地面が砕ける衝撃を横目に、懐に飛び込む。



 剣。三連斬。弱点が見えた──霧の鎧が消えた今、【見聞録】が解析できる。弱点は背中の苔の下に隠れた結晶核。



 弓に切り替え。0.17秒。背中の結晶核を狙い撃つ。必中。




 11,200──クリティカル。




「すごい!」セレスがフードの中から声を上げた。



 CTゼロ。剣に戻す。0.17秒。三連斬。三連斬。三連斬。



 40秒経過。ベヘモルのHPが二割削れた。



 50秒。三割。



 58秒。粉の効果が切れかけている。



 二個目の【霧散らしの粉】を投げた。霧がまた消える。




 【「霧の鎧」が解除されました──被ダメージカット無効(残り58秒)】




 ベヘモルが再び咆哮する。だが暴走状態は継続中。重ねがけされてさらに凶暴化──するが、鎧は消えたまま。



 削り続ける。二回目の60秒。HPが五割を切った。



 三個目。四個目。粉を惜しみなく使う。



 四回目の60秒が終わる頃、ベヘモルのHPが残り一割。



 最後の粉。五個目。



 霧が消える。最後の60秒。



 ベヘモルが「???」の技を使った。




 【新規パターン検出:霧喰い(自己回復・全域吸収)】




 ベヘモルが口を大きく開き、周囲の空気ごと吸い込み始めた。──霧が消えた空間の空気を吸って、体内で霧を生成しようとしている。



 放っておけば霧の鎧が復活する。



 だが──吸い込んでいる間、口が開いている。内部の結晶核が見える。



 トワは弓を構え、ベヘモルの口の中に矢を射った。



 口腔内部の結晶核に直撃。



 18,400 ──超クリティカル。



 ベヘモルの動きが止まった。吸い込みが中断される。



 駆け寄る。口の中に【旅立ちの剣】を突き込む。三連斬。



 22,000──22,000──22,000。



 ベヘモルのHPがゼロになった。




 【フィールドボス「霧喰いのベヘモル」討伐】

 【初討伐ボーナス:称号「霧を裂く旅人」を獲得しました】

 【ドロップ:世界地図の欠片(2/7)を入手しました】




 世界地図の欠片。二つ目。


 霧が晴れた森の最深部に、光が差し込んでいた。

 霧のない霧底の森は──こんなにも美しかったのか。



「トワ、すごい! つよい!」


 セレスがフードから飛び出してきて、トワの頬にぎゅっと抱きついた。


「でも、ごめんね。セレス、なにもしてない」

「いや、今回は俺がソロで倒したかった」

「ん……分かった。トワ、嬉しい?」

「ああ、奴を倒せて十分嬉しい」

「じゃあ、良かった。次、どこ行く?」

「どこに行けるか、探してみよう」



 セレスの角がぱあっと光る。どうやら嬉しい時の合図らしい。


 賑やかな同居人を連れて、トワは更に奥へと潜っていった。

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