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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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記憶


 聖都ルクス。

 記憶封印の残り13%。聖都の住人NPCのうち、まだ名前を取り戻していない者が約四十人いる。


 四十人。一人ずつ友好度を上げて、記憶を解除する。気の遠くなる作業だが──旅人には慣れた作業だ。数千時間歩いてきた男に、地道な作業への抵抗はない。


 トワが一番得意なことは何かと聞かれたら、たぶん「同じことを繰り返すこと」と答える。歩くのも、見聞録でスキャンするのも、NPCに話しかけるのも、全部同じ動作の繰り返しだから。


 退屈だと思う人もいるだろう。だがトワには、退屈という感覚がない。宮瀬が言っていた。「鈍感力。久坂くんの三番目にすごいところ」。褒め言葉なのかどうかは微妙だが、的を射ている。


 聖都の東区画。パン屋のエリーからさらに奥に入った住宅街。

 ここには名前のないNPCが集中していた。住人たちは全員「住人A」「住人B」という表記で、個別の名前がない。記憶封印が解けていない証拠だ。


 住人Aに話しかけた。



「こんにちは。いい天気ですね」


 定型文。記憶封印中のNPCは、これしか言わない。何を聞いても「こんにちは。いい天気ですね」。百回話しかけても同じ。


 だが──友好度が上がれば変わる。エリーがそうだった。フィオナもそうだった。話しかけ続けて、アイテムを渡して、友好度が一定以上になると──記憶の断片が戻る。


 果物を渡した。新大陸の星果実。聖都では珍しいアイテムだ。


【住人Aの友好度が上昇しました──友好度:1/10】



「あら──これは──美味しそうね。ありがとう」

 定型文とは違う反応。友好度1で最初の変化が出た。

 セレスが肩の上から住人Aを観察していた。

「トワ。このひと、めがかなしい」

「封印されているからだ。名前も過去も消されている、悲しいのは当然だ」

「かなしいのは、なおせる?」

「友好度を上げれば──記憶が戻る。記憶が戻れば、悲しさも消えるかもしれない」

「じゃあ──セレスもてつだう。げっこうでてらしたら、ともだちになれる?」

「ああ、きっとなれるさ」


 セレスが住人Aに向かって月光を放った。住人Aの目が……一瞬、光った。


「あら──温かい。この光──どこかで──」


【住人Aの友好度が上昇しました──友好度:2/10】


「月光で友好度が上がったな。セレスの月光には記憶を取り戻す効果があるのか……?」

「セレスはつきのせーれー。つきのひかりは、きおくをてらす、のかも」

「かもじゃ、信用度がないんだが……」

「でも、あがった。セレスのひかりは、あたたかいひかり」

「確かに……論より証拠だ」


 トワは友好度上げに着手した。

 星果実を渡す+セレスの月光で、通常の二倍の速度で友好度を上げられる。


「セレス。全員に月光を当てるぞ」

「ぜんいん? よんじゅうにん?」

「四十人だ」

「セレス、がんばる。──おやつは?」

「エリーのパンを後で買いに行く」

「さきにかいたい」

「後だ」

「パン、セレス、パン」

「パンが二回入っているぞ」

「だって、パン」

 前にも、この会話をした気がする。




    ◇




 一日目。東区画の住人十二人に話しかけた。星果実と月光のコンボで、全員の友好度を3まで上げた。まだ名前は戻らない。名前が戻るのは友好度5以上。


 二日目。北区画。住人八人。同じ作業。

 三日目。南区画。住人十人。

 四日目。西区画。住人十人。


 四日間で四十人全員に最低友好度3を確保した。ここからが本番だ。友好度5まで上げるには、一人あたり複数回の訪問が必要になる。


 だが、この作業をしているうちに──面白いことに気づいた。

 NPCの住人たちには、それぞれ違う反応がある。友好度が上がるにつれて、個性が出てくる。


 東区画の住人Cは、友好度3で「わたし──花が好きだった気がする」と言い始めた。花好きのNPC。フィオナの知り合いかもしれない。

 北区画の住人Hは、友好度3で「鍛冶の音──懐かしい」と呟いた。ガルドの弟子だった可能性がある。

 南区画の住人Mは、友好度3で「子供たちの笑い声──聞こえる?」と言った。学校の先生だったのかもしれない。


 一人ずつ、記憶の断片が戻っていく。名前はまだないが、人格が浮かび上がってくる。封印された記憶の下に、彼らの人生が眠っている。


「トワさん」タマキが隣で一緒にNPCに話しかけていた。「この作業──地味ですけど、すごくいい作業ですね。やっぱり、わたしこの作業が好きです」


「まあ、地味ではあるけどな」


「一人ずつ、人が戻っていく感じがするんです。名前が戻る前に、その人がどんな人だったかが少しずつ見える。──薬師として、患者さんが回復していくのを見ている時と同じ気持ちです」


「薬師の視点か。──お前らしいな」


「トワさんは何を感じてますか。この作業」


「……歩いている感覚と似ている。一歩ずつ、確実に進んでいる。地図が少しずつ埋まっていく。友好度が、記憶封印の地図を埋めていく」


「旅人の視点ですね。──やっぱりトワさんです」



 フォーラムでは、記憶封印の解除作業がじわじわと話題になっていた。



 ──「トワが聖都で地道にNPCに話しかけ続けてるらしい」

 ──「レイドでもボス戦でもなく、NPCとの会話で深淵の条件を満たす。BCOらしい」

 ──「手伝えないのか?」

 ──「友好度は個人単位だから、他のプレイヤーがやっても条件達成にはならないはず」

 ──「でも、同じワールドで同じ場所にいたら、確か共有されたよな」

 ──「それに、NPCに果物を渡して友好度を上げるのは誰でもできるぞ。自分もやろう」

 ──「聖都の住人NPCに果物を渡す運動が始まったな。果物系MMO」

 ──「草」

 ──「全プレイヤーで聖都のNPCに優しくする運動か、BCOの民度が高いな」

 ──「トワの真似して聖都で挨拶回りしてたら、NPC店員の品揃えが良くなった」

 ──「友好度上げると、店のアイテムが増えるのか!? 初めて知った」

 ──「BCOの隠し要素、まだまだあるんだな」


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