魚と料理人
翌日の夜。霧底の森。
マーサのもとを訪ねた。
「おやおや、また来てくれたのかい。嬉しいねえ」
トワはアイテムストレージから【霧底の光魚】を取り出した。
「……おや! これは光魚じゃないか! こんな見事なのを、どこで釣ったんだい?」
「森の奥の泉で」
「あの泉で釣れたのかい……それは、あの泉がお前さんを気に入ったってことだよ」
マーサが光魚を受け取り、鍋に放り込んだ。手際よく調味料を加え、火加減を調整する。
数分後。
【マーサの特製・光魚のシチューを入手しました】
アイテム名:【光魚のシチュー】
種別:消耗品(料理)。
公式説明文:霧底の光魚を丸ごと煮込んだ、贅沢なシチュー。
効果:使用後30分間、全ステータス+5%。さらに【見聞録】の索敵範囲が1.5倍に拡大される。
全ステ+5%に加えて、【見聞録】の索敵範囲が拡大される。300メートルになる。
料理アイテムは通常のバフと重ねがけできる。つまり、【駆け出しの霊薬】のATKバフ、【旅人の手記】のATK積み上げ、そして【光魚のシチュー】の全ステ+5%がすべて同時に効く。
──旅の中で見つけたものが、少しずつ重なって強くなっていく。この感覚がいい。
「美味しかったかい?」
「ああ、最高だ」
「ふふ……じゃあ、もう一つ教えてあげよう」
マーサが鍋の蓋を開けた。中に、新しいレシピが表示された。
【マーサの友好度3到達──レシピ「旅路の糧食・改」を習得しました】
レシピ名:【旅路の糧食・改】
効果:通常の【旅路の糧食】と同じだが、効果時間が60秒→180秒に延長。さらに、回復量が移動速度の二倍に比例する。
素材:霧底の光魚×1、星草×3、清水×1。
【旅路の糧食】の上位版。効果時間三倍、回復量も倍。これがあれば、ゼクスの【死影覚醒】を凌ぐ耐久戦が楽になる。
「星草は、この苔原のあちこちに生えてるよ。清水は泉で汲めるさ」
素材がすべて霧底の森で揃う。つまり──ここを探索し続ければ、自動的に強くなれる。旅をすること自体が成長になる、いつものパターンだ。
トワは素材を集めに苔原を歩き回った。星草は苔の間に混じって光っており、【見聞録】がなければ見分けがつかない。清水は泉で汲む。鯰が泉の底でのんびり泳いでいるのを眺めながら、水を瓶に詰めた。
素材が揃った。マーサに渡すと、手際よく調理してくれた。
【旅路の糧食・改を3個入手しました】
「お前さん、料理はしないのかい?」
「したことがない」
「じゃあ教えてやろう。レシピを覚えれば、自分で作れるようになるよ」
【料理スキルを習得しました】
──料理スキル。
BCOに料理スキルがあること自体、知らなかった。戦闘スキルや採集スキルは有名だが、料理スキルはマイナーすぎて攻略wikiにもほとんど情報がない。
だが、旅人にとっては理にかなっている。フィールドで素材を集め、その場で料理を作り、バフを得る。町に戻らなくても自給自足ができる。
冬夜は泉のそばで焚き火を起こし、初めて自分で料理を作った。
【旅路の糧食・改】。光魚を捌き、星草を刻み、清水で煮る。
出来上がったのは──見た目は粗末なスープだった。マーサのものに比べるとだいぶ見劣りする。
【旅路の糧食・改を1個作成しました(品質:普通)】
品質が「普通」。マーサが作ると「上質」になるのだろう。料理スキルを上げれば品質が上がるはずだ。
──また新しい「上げるもの」が増えた。
冬夜は泉の縁に座って、自作のスープを飲んだ。
霧の中の隠れ泉。焚き火の温かい光。鯰が泳ぐ水面。
──いい場所だ。
こういう場所を見つけるたびに思う。まだ世界には知らない場所がある。知らない遊び方がある。釣りも、料理も、NPCとの交流も。
戦いだけがこのゲームじゃない。歩いて、見つけて、試して、味わう。それが旅だ。
ログアウトの前に、鹿に会いに行った。
【友好度が上昇しました:52/100】
半分を超えた。残り48回。




