表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/344

月が重なる夜


 火曜日の夜。ログインして銀月の草原を歩いていると、異変に気づいた。



 空の二つの月が──近い。



 通常、BCOの二つの月は離れた位置にある。だが今夜は、明らかに距離が縮まっている。ゲーム内時間で月の位置が変わるのは知っていたが、ここまで近づくのは初めて見た。


 【見聞録】で天体情報を確認した。



 【天文情報:月蝕まで残りゲーム内時間6時間】



 月蝕。


 設定資料で読んだ記憶がある。二つの月が重なる現象。ゲーム内時間で180日に一度──リアルでは一週間に一度あるかどうか。タイミングが合わなければ、何週間も見られないこともある。



 そして、銀月の草原の最深部には──月蝕の夜にだけ出現する【隠しエリア】がある。



【月蝕の祭壇】


 こういう一期一会のイベントに出くわすのも、オープンワールドの醍醐味だ。


 草原の最深部──あの丘へ向かった。踏破率100%を達成した丘。二つの月が最も大きく見える場所。


 丘に登ると、いつもと違う光景が広がっていた。


 丘の頂上に、石の祭壇が出現していた。普段は何もない場所に、月光を集めるかのような白い石台が浮かんでいる。




 【隠しエリア「月蝕の祭壇」が出現しました】

 【入場条件:ソロプレイヤーのみ。パーティ参加中は入場不可】

 【制限時間:月蝕の間のみ(リアル時間約30分)】




 ソロ専用。時間制限あり。

 トワは一人だ。問題ない。

 祭壇に手を触れた。

 世界が白い光に包まれ──転送された。




    ◇




 転送先は、月の上だった。


 ──正確には、月の上に見える場所。


 白銀の大地が広がっている。足元は硬い結晶で、歩くと澄んだ音が鳴る。空は深い群青色で、星が近い。そして、もう一つの月が──目の前に、巨大に浮かんでいた。




 【「月蝕の祭壇」に進入しました】

 【このエリアはあなたが最初の踏破者です】

 【残り時間:29分48秒】




 また一番乗りだ。

 だが、景色に見惚れている暇はない。30分しかない。



 【見聞録】を起動。正面に──巨大な反応。




 【月蝕の古龍ルナティス Lv95 ── ソロ専用レイドボス】




 結晶の大地の向こうから、白銀の龍が姿を現した。


 グラオザームが漆黒の龍だったのに対し、ルナティスは白銀。全長五十メートル超。翼を広げると月光が透けて虹色に輝く。美しい──だが、Lv95のソロ専用レイドボスだ。



 【見聞録】が情報を描き出す。



 HP──膨大。ソロ用に調整されているはずだが、それでも通常のフィールドボスの三倍はある。

 弱点──光属性。

 攻撃パターン──六種類。うち二つが「???」。初見殺しが二つある。

 そして──特殊効果。




 【ルナティス固有能力:月光回復 ── 月の光が当たっている間、HPを毎秒回復する】




 HPが毎秒回復する。月の光が当たっている限り。


 ここは月蝕の祭壇だ。二つの月が重なっている。だが──月蝕が終われば月が離れ、月光が戻り、ルナティスの回復が始まる。


 つまり、月蝕の間に倒しきらなければならない。


 残り時間29分。


 冬夜は深呼吸した。



 ──これは、旅人としてのソロの極致だ。



 全スキル、全アイテム、全経験を注ぎ込む。



 【駆け出しの霊薬】を飲んだ。ATK+100%。持続30秒。在庫は──今日は100本持ってきている。始まりの町で大量に補充してある。



 【マーサの霧底スープ】は──ここでは効果がない。霧がないからだ。代わりに、【旅路の糧食】を使った。移動中HP/MP自動回復。



 さらに、【星読みのランタン】。ここは夜間フィールド判定のはずだ──確認する。



 【環境:夜間】

 MP回復速度10倍(【道具通】込み)。魔法も撃てる。



 準備完了。


 トワは走った。


 ルナティスが咆哮した。結晶の大地が震え、白銀の光が弾ける。



 第一撃。ルナティスの首が振り下ろされる。



【見聞録】が軌道を読む。右に二歩。首が結晶の大地を砕いた。破片が飛ぶ。



 懐に飛び込む。三連斬。




 8,200──8,200──8,200。




 通る。だがHPバーの減りは……少ない。


 このペースでは、29分で削りきれるか怪しい。


 ──武器を切り替える。



 0.17秒。弓。【万象の腕輪】の強化で弓使いの「精密射撃」付随効果──必中。



 距離を取りながら三連射。弱点の額を狙う。




 4,800──4,800──4,800。クリティカル。




 0.17秒。杖。氷魔法──ルナティスの弱点は光属性だが、手持ちに光魔法はない。だが氷で動きを鈍らせることはできる。



 0.17秒。槍。突進。鈍ったルナティスの脇腹に深く突き刺す。




 9,600──クリティカル。




 0.17秒。剣に戻して三連斬。CTゼロ。二撃。三撃。



 四武器の連携攻撃。全てCTゼロ。切り替え0.17秒。



 DPSはこれまでの戦闘で最高を叩き出していた。



 だが、ルナティスも反撃してくる。


 翼を叩きつける範囲攻撃。【見聞録】が読む。回避。


 尾の薙ぎ払い。跳んでかわす。




 そして──「???」。初見殺しが来た。




 【新規パターン検出:月光砲(全域攻撃・光属性)】




 ルナティスが口を開き、白い光が充填される。全域攻撃。回避不能──



 ──本当に回避不能か?



 【見聞録】を最大感度にした。攻撃の詳細データが、不完全ながら流れ込んでくる。



 全域攻撃。だが──ルナティスの真下、影になる部分だけは光が届かない。



 月光砲。光属性。「光が届かない場所」には当たらない。



 トワはルナティスの真下に滑り込んだ。巨体の影に潜る。



 白銀の光が結晶の大地を焼いた。轟音。だが、影の内側は無傷。



「……読み通りだ」


 CTゼロ。影の中からルナティスの腹に三連斬を叩き込む。



 戦闘開始から12分。ルナティスのHPが半分を切った。



 残り時間17分。──足りる。ぎりぎりだが、足りる。



 冬夜は霊薬を飲み直し、再び走った。



 白銀の龍と、Lv1の旅人。結晶の大地の上で、月蝕の夜だけの戦いが続く。




    ◇




 残り時間2分。ルナティスのHPが残り一割を切った。



 霊薬の在庫は残り三本。ギリギリだ。



 もう一つの「???」がまだ来ていない。



 HPが一割を切った時に来る技──フォルセイドの時と同じパターンだ。



 ルナティスが翼を大きく広げた。結晶の大地が共鳴して鳴り、全身が白銀に輝く。




 【新規パターン検出:名称不明(自己強化・光属性)】




 自己強化。攻撃ではなかった。



 ルナティスの全ステータスが上昇する。そして──




 【月光回復が強制的に発動しました(月蝕中にも関わらず回復開始)】




 月蝕中なのに、回復が始まった。



 ルナティス自身が光を放つことで、「月光」の条件を自力で満たしたのだ。



 HPが回復していく。一割が──一割五分に。二割に向かって戻り始めている。



 残り時間1分30秒。



 ──急ぐ。



 最後の霊薬を三本まとめて飲んだ。効果は重複しないが、持続時間が延びる。90秒間ATK+100%。




 【旅人の手記】を連打した。【初心の心得】でCTゼロ。十二個重ねる。ATK+12%。




 全武器の連携攻撃をフルで叩き込む。



 剣。弓。槍。杖。剣。弓。槍。杖。



 回復速度とDPSの競争。削る速度が回復を上回っている──ぎりぎり。



 残り時間30秒。HPが3%。



 15秒。HPが1%。



 5秒。



 トワは剣を掲げ──全力の三連斬をルナティスの額に叩き込んだ。




 【月蝕の古龍ルナティスのHPが0になりました】

 【ソロ討伐達成】

 【初討伐ボーナス:称号「月を喰らう旅人」を獲得しました】

 【ドロップ:月蝕の結晶(旅人専用最終武器素材1/3)】




 残り時間──3秒。



 ルナティスが光の粒子に分解され、結晶の大地に消えていく。



 残り3秒。間に合った。



 月蝕が終わる。二つの月が離れ、祭壇が消え始める。



 トワは白い光に包まれて、銀月の草原に送還された。




    ◇




 草原の丘に立っていた。二つの月が離れ、通常の夜空に戻っている。祭壇は消えていた。



 手の中に、【月蝕の結晶】がある。最終武器素材の一つ。三つのうちの一つ目。



 ──間に合ったのは、運がよかったからだ。



 あと3秒遅ければ負けだった。ルナティスの自己回復を想定できていなかった。次に挑むなら、もっと効率的な攻撃ルートを組む必要がある。



 だが、それは次の月蝕の夜に考えればいい。



 冬夜は丘を下りた。鹿を探す。



 いた。銀月の鹿。月光の中で草を食んでいる。



 手を伸ばした。




 【友好度が上昇しました:50/100】




 ──半分。



 長い道のりだ。でも、今日はルナティスも倒した。急がなくてもいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物語もトワ自身も淡々としていて、読んでいるこっちもまったりとした旅をしているような感覚になりますね。 気になったこととして、 >>【天文情報:月蝕まで残りゲーム内時間6時間(リアル時間約3時間)】 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ