新しい遊び方
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再戦の翌日。日曜日。
冬夜は昼まで寝た。昨夜の疲労が残っている。フルダイブVRで38秒間の全力回避は、現実の身体にも負荷がかかる。
起きてスマホを見ると、通知が数え切れないほど溜まっていた。見る気にならず、シャワーを浴びてカップ麺を食べた。
──少し考えて、コンビニで弁当を買った。宮瀬に「カップ麺はご飯じゃない」と言われたのが、なんとなく頭に残っていた。
午後、フォーラムを確認した。
ゼクス戦の話題は当然のように溢れていたが、それとは別のスレッドが目に入った。
【告知】BCO第五弾大型アップデート「戦場の季節」──新コンテンツ「ギルド対抗戦」実装のお知らせ
運営からの公式告知。中身を読む。
ギルド対抗戦(シーズン制)
──最大50人 vs 50人のギルド単位の大規模PvP
──シーズンは三ヶ月。勝敗に応じてギルドランキングが変動
──シーズン上位ギルドには限定報酬(装備・称号・新エリアへのアクセス権)
──個人ではなくギルド単位。ソロプレイヤーは参加不可
──ソロプレイヤーは参加不可。
つまり、トワは参加できない。ギルドに所属していないからだ。
さらに読み進めると、もう一つの新コンテンツが告知されていた。
シーズンランキング(個人部門)
──ギルド対抗戦とは別に、個人の総合戦績を評価するランキング
──評価基準:PvP勝敗、レイド貢献度、エリア踏破率、称号数、NPC友好度、その他の隠し評価項目
──PvPランキングとは別枠。「BCO全体で最も活躍したプレイヤー」を決めるランキング
──上位者には「次期アップデートのテスターとしての参加権」が与えられる
冬夜は画面をスクロールした。
評価基準に「エリア踏破率」「称号数」「NPC友好度」が含まれている。これらはPvPやレイドでは稼げない。だが──旅人として歩き続けてきたトワにとっては、圧倒的な蓄積がある。
フォーラムではすでに考察が始まっていた。
──「シーズンランキング、PvPランキングと全然基準が違うな」
──「エリア踏破率って、トワが全プレイヤー中ダントツ一位じゃん」
──「NPC友好度もそうだろ。あの人、二年間NPCに話しかけ続けてるんだから」
──「称号数も半端ないぞ。サーバーファーストの称号いくつ持ってるんだ」
──「シーズンランキング一位、トワ確定では?」
──「PvPだけ弱かったけど、ゼクスにも勝ったしな……」
──「もうこのゲーム、トワのためにあるだろ」
──「いや待て、ギルド対抗戦の貢献度もランキングに入るらしいぞ。ソロのトワはそこが弱い」
──「確かに。ギルド対抗戦は50人規模だから、個人の力だけじゃどうにもならない」
──「トワ、ギルド入るか?」
──「入らないだろうなぁ」
冬夜はフォーラムを閉じた。
ギルド対抗戦。50人 vs 50人。組織戦。
興味がないと言えば嘘になる。フォルセイドをパーティで倒した時の「悪くない」感覚が、頭の隅にある。
だが、ギルドに入るということは、組織の一員になるということだ。命令系統がある。役割分担がある。自分の好きな時に好きな場所を歩く──という自由が、制限される。
レナからメッセージが来た。
レナ:「トワさん! ギルド対抗戦のニュース見た!?」
トワ:「見た」
レナ:「うち(深紅の牙)で参加するんだけど、50人ギリギリなんだよね。トワさん、うちに入らない?」
トワ:「ギルドには入らない」
レナ:「だと思った……」
レナ:「でもさ、『傭兵枠』ってのがあるんだよ。ギルド対抗戦には、ギルド外のプレイヤーを最大5人まで『傭兵』として参加させられるの。ギルドに入らなくても出れるよ」
傭兵枠。
冬夜は少し考えた。
ギルドに所属せず、対抗戦にだけ参加する。それなら自由は損なわれない。
だが──50人の中の一人として動くのは、ソロとは全く違う。個人の判断で動けば、味方の足を引っ張る可能性もある。
トワ:「考えておく」
レナ:「やった! 前向きに考えてね!」
考えておく。最近この言葉をよく使う気がする。
◇
夜。ログイン。
今夜は霧底の森ではなく、銀月の草原に向かった。鹿に会いたかった。
草原に降り立つ。相変わらず美しい夜景。二つの月が草原を照らしている。
プレイヤーの数がまた増えている。ギルド対抗戦の告知を受けて、新エリアの踏破を急ぐギルドが増えたのだろう。
鹿を探して歩いていると、意外な人物に遭遇した。
ゼクス。
銀月の草原に、黒い暗殺者がいる。場違いに見えるが──ゼクスは戦闘態勢ではなかった。腰の短剣に手をかけず、ただ草原を見回している。
トワが近づくと、ゼクスが気づいた。
「ああ、トワか」
「何をしている」
「散歩だ。──お前がなぜここを歩くのか、少しわかった気がしてな」
「……そうか」
「昨日の試合で、お前に走り回られている間に見た景色が、妙に印象に残っていた。この草原は綺麗だな」
「ああ。綺麗だ」
二人で並んで草原を歩いた。妙な光景だった。PvPランキング一位の暗殺者と、Lv1の旅人が、銀色の草原を散歩している。
「ギルド対抗戦の話は聞いたか」
「聞いた」
「俺は〈黒翼騎士団〉というギルドに所属している。対抗戦には当然出る。お前はどうする」
「まだ決めていない」
「決めかねているなら一つ言っておく。対抗戦のランキング上位ギルドには、新エリアへのアクセス権が与えられる。つまり──お前の好きな『まだ歩いていない場所』が増える」
冬夜の足が止まった。
新エリアへのアクセス権。対抗戦の上位報酬。それは──
「お前なら知っていると思ったが」
「……知らなかった。フォーラムを最後まで読んでいなかった」
「読め」
「………」
ゼクスが白い歯を見せた。
「まだ歩いていない場所があるぞ。対抗戦の先に」
ゼクスが手を振って去っていった。
トワは一人で草原に立ち、月を見上げた。
──対抗戦の報酬に、新エリアがある。
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