表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/338

「定食」


 木曜日。昼。食堂。


 宮瀬の向かいに座った。宮瀬は有言実行で定食を二つ注文しており、冬夜の前にも生姜焼き定食が置かれた。



「はい、どうぞ。食べて食べて」

「……ありがとう」



 冬夜は生姜焼きを一口食べた。カップ麺より、明らかに美味い。当然だ。



「おいしい?」

「ああ」

「よかった。久坂くん、いっつもカップ麺とカロリーメイトでしょ。見てて心配になるよ」

「見ていたのか」

「食堂で見かけるもん。いつも窓際で一人で食べてるから、目立つんだよ」



 冬夜は箸を止めた。目立つ。その言葉に、ゲーム内の自分が重なった。



「……目立つつもりはなかった」

「わかってる。だから余計に目立つんだよ。一人で静かにしてる人って、なんか気になるの」



 宮瀬がお茶を飲んだ。



「ねえ、この前聞いたゲームの話。あれからちょっと調べてみたんだ。BCOっていうやつでしょ?」



 冬夜の動きが止まった。



「……なぜ知っている」

「久坂くんが『VRのMMORPG、剣と魔法のファンタジー』って言ってたから、検索したら出てきた。今すごい話題になってるんだね。Lv1の旅人がどうとかって」



 冬夜は黙った。



「なんか、SNSですごいバズってるよ。『PvPランキング一位を3秒で倒した旅人』とか。配信の切り抜きが回ってきて──」

「やめてくれ」



 冬夜の声が、普段より少し強くなった。

 宮瀬が驚いた顔をした。



「……ごめん。嫌だった?」

「嫌じゃない。ただ──ゲームの中のことと、ここでの生活は、分けておきたい」



 冬夜はそれ以上説明しなかった。自分がトワであることを宮瀬に知られたくないわけではない。ただ、大学の食堂で、あの旅の話をするのは、なにか違う気がした。



 宮瀬はしばらく冬夜の顔を見ていた。



「……うん。わかった。聞かないようにする」

「すまない」

「謝らないでよ。大事なことなんでしょ、久坂くんにとって」



 宮瀬が笑った。今度は少し控えめな笑み。



「ゲームの話はしない。でもさ、ご飯は一緒に食べようよ。それは別にいいでしょ?」

「……別にいい」

「じゃあ、来週もね」



 冬夜は生姜焼きの残りを食べた。

 美味かった。一人で食べるカップ麺より、ずっと。

 だが、それを口に出すのはなんとなく恥ずかしかったので、黙っておいた。




    ◇




 夜。ログイン。


 霧底の森の探索を続ける。



 羅針盤が示す方角へ歩く。霧の中、【見聞録】の温度センサーと魔力感知で周囲を把握しながら進む。ゼクス戦で使った技術が、そのまま探索に活きている。



 森の奥に進むにつれ、モンスターのレベルが上がっていく。Lv88の朽木兵から、Lv90の霧蟲、Lv91の苔巨人。



 苔巨人との戦闘中、レナからメッセージが来た。




 レナ:「トワさん! ゼクスの再戦宣言、見た?」

 トワ:「まだ見ていない」

 レナ:「フォーラムに出てるよ。『次は煙幕を封じる手段を用意する。逃げるなよ』だって」

 トワ:「逃げない」

 レナ:「かっこいい……。あのさ、今度みんなで探索しない? 回廊の奥にまだ未踏のエリアがあるんだけど」

 トワ:「今は霧底の森にいる。ここが終わったら考える」

 レナ:「霧底の森!? また一人で新エリア開拓してるの!? すごいなぁ……あ、ちょっと待って。カインが何か言ってる」




 少し間が空いて、カインからダイレクトメッセージが来た。




 カイン:「ゼクスの再戦、煙幕を封じると言っている。暗殺者には【煙散らし】という煙幕系アイテムを無効化するスキルがある。次は通用しないぞ」




 冬夜は苔巨人を倒しながら考えた。



 煙幕が使えないとなると、ゼクスの先制攻撃をどう凌ぐか。温度センサーと魔力感知で0.15秒まで察知速度を上げたが、煙幕による視覚条件の均一化がなければ、ゼクスの【影潜り】はさらに厄介になる。



 トワ:「了解した。別の手段を考える」

 カイン:「あてはあるのか?」

 トワ:「ない。だが、歩いていれば見つかる」

 カイン:「……お前らしいな」




 霧底の森の最深部に近づいている。羅針盤の針が激しく揺れている。


 霧がさらに濃くなった。温度センサーだけでは追いつかない。魔力感知を最大感度にする。


 ──何かが、ある。



 巨大な魔力の反応。モンスターではない。構造物。



 霧を抜けた先に、あの門があった。「旅人の最終試練」への入口。前回見つけた時と同じ、巨大な石造りの門。



 だが今回は──門の脇に、新しい石碑が光っていた。



 前回はなかった石碑だ。近づいて触れる。




 【旅人の隠し技法書を発見しました】

 アイテム名:【旅人の隠し技法書・第一巻】

 種別:旅人専用消耗品(使い切り)。

 公式説明文:旅人が歩いた道の数だけ、技がある。

 効果:使用すると、旅人スキル【万象の構え】に新たな能力が追加される。

 追加能力:「武器切り替え」のモーション速度が、通常の三倍になる。




 武器切り替えの高速化。


 現在、トワは武器を切り替える際に約0.5秒の硬直がある。剣から槍、弓から杖──どの切り替えにも0.5秒。戦闘中は大きなロスだ。


 それが三倍速になると──約0.17秒。


 0.17秒で武器が変わる。つまり、剣で斬った直後に弓に持ち替えて撃ち、槍に替えて突進し、杖に替えて魔法を撃てる。


 ──これは、ゼクス対策にもなる。


 煙幕が使えなくても、武器切り替えの速度があれば、ゼクスの初撃をかわした直後に複数の武器種で反撃を叩き込める。暗殺者の弱点は持久戦。初撃さえ凌げば、多武器連撃で押し切れる可能性がある。


 技法書を使用した。




 【万象の構え・強化:武器切替速度3倍が追加されました】




 ──歩いていれば見つかる。そう言った通りになった。


 旅を続けることが、そのまま答えに繋がる。いつだってそうだった。


 トワは門に背を向けて、森の探索に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ