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ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


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「距離」


 土曜日。講義がない日。



 午前中は洗濯と掃除。一人暮らしの家事は最低限だが、やらないと生活が崩壊する。洗濯機を回しながら、コンビニで買ったパンを食べた。



 午後、スーパーに買い出しに行った。カップ麺とレトルトカレーとペットボトルの水。食事に興味がないわけではないが、料理をする時間をBCOに回したい。



 スーパーの帰り道。両手にレジ袋を下げて歩いていると、横断歩道で声をかけられた。



「あ、久坂くん!」


 木曜日にノートを貸した女子学生だった。私服姿で、買い物帰りらしく紙袋を抱えている。


「こんにちは。この辺に住んでるの?」

「大学の近くのアパートに」

「そうなんだ! 私も近くなの。駅の向こう側の──」



 信号が変わった。一緒に横断歩道を渡る形になった。



「ノート、ほんとに助かった。久坂くんのノート、要点だけ拾ってあってすごく読みやすかったよ」

「そうか」

「あの授業、来週レポート出るんだよね。テーマ決めた?」

「異文化コミュニケーションにおける非言語要素の比較」

「……それ、もう決めてるんだ。早いね」

「考える時間がもったいない。早く決めて早く書き終わりたい」



 女子学生が小さく笑った。



「効率的だね。私まだ全然決まってなくて……。あのさ、もし嫌じゃなければ、カフェとかでちょっとレポートの相談させてもらえない? 今度の平日とか」



 冬夜は少し考えた。

 平日の夕方はBCOにログインする時間だ。だが、レポートの相談なら三十分もあれば済むだろう。



「火曜の昼なら」

「ほんと!? ありがとう! じゃあ大学の近くの──」

「食堂でいい。金がかからない」

「あはは、そっか。じゃあ食堂で!」



 女子学生は笑顔で手を振って去っていった。

 冬夜はアパートに戻り、レジ袋を置いて、ふとスマホを見た。



 蓮からメッセージが来ていた。




 蓮:「お前、さっき駅前で女の子と歩いてなかった?」



 冬夜は返した。



 冬夜:「ノートを貸しただけだが」

 蓮:「ノート貸しただけで駅前一緒に歩くか、普通」

 蓮:「あれ結構かわいい子だったぞ。同じ学部?」

 冬夜:「知らない。名前も聞いていない」

 蓮:「お前って本当にそういうとこあるよな」

 蓮:「名前くらい聞けよ」

 冬夜:「必要がなかった」

 蓮:「……BCOでフレンド申請される時は名前表示されるから意識しないんだろうな。リアルにはネームプレートないんだぞ」



 冬夜はスマホを置いた。



 名前。聞いておいたほうがよかったのだろうか。火曜に会うなら、その時に聞けばいい。

 VRゴーグルに手を伸ばした。今日は丸一日BCOに使える。霧底の森の探索を進めたい。




    ◇




 ログイン。


 銀月の草原から、崖下りの道を降りて霧底の森へ入った。


 昨夜の続き。羅針盤の示す方角へ、霧の中を歩く。


 歩き始めて十分ほどで、レナからメッセージが来た。




 レナ:「トワさん、ゼクスとの対戦決まったんだって!? 大丈夫?」

 トワ:「大丈夫かどうかはやってみないとわからない」

 レナ:「練習した方がいいと思う! PvPは対モンスターと全然違うよ」

 トワ:「そうらしいな」

 レナ:「うちのカインがPvP得意だから、練習相手になるよ! って言ってる」

 トワ:「助かる。だが今は探索中だ。後日頼む」

 レナ:「了解! あ、そうだ。今どこにいるの?」

 トワ:「霧底の森」

 レナ:「……どこそれ???」

 トワ:「新しい場所を見つけた」

 レナ:「トワさんって『新しい場所を見つけた』って言うとき、だいたいとんでもないことしてるよね」




 返事は打たなかった。代わりに、霧の中で足を止めた。



 【見聞録】が反応している。モンスター反応ではない。オブジェクト反応。



 霧の向こうに、巨大な構造物がある。



 近づいた。霧が薄れ、姿が見えてきた。



 ──巨大な門だった。



 高さ十メートルはある石造りの門。表面には旅人のマークと、見たことのない文字が刻まれている。門の前には石畳の広場があり、広場の中央に石碑が立っていた。



 石碑に触れた。




 【旅人の試練場──「旅人の最終試練」への入口です】

 【現在の入場条件を満たしていません】

 【条件:全エリア踏破率100% / 現在87.2%】




 まだ入れない。全エリアを歩き終えていないからだ。



 だが、ここにあることがわかった。グランが言っていた「旅人だけが見つけられる道」の先に、最終試練がある。



 門を見上げた。巨大で、荘厳で、まだ開かない。



 ──いつか、全ての地図を塗り終えた時に。



 トワは門に背を向けて、霧底の森の探索に戻った。まだこの森自体の踏破率が低い。まずはここの地図を全て埋めることだ。




    ◇




 二時間ほど探索を続けた後、レナたちが終夜の回廊で合流したいとメッセージを送ってきた。


 断ろうと思ったが、霧底の森は消耗品の残りが心許ない。一度補給に戻る必要があった。


 崖を登り、銀月の草原に戻る。転送水晶で始まりの町へ。補給を済ませてから、終夜の回廊に向かった。


 回廊の入口でレナたちと合流した。四人──レナ、カイン、リゼ、マルク。




「トワさん! 久しぶり! といっても一週間ぶりだけど」



 レナが手を振る。



「ゼクスの件、フォーラム大騒ぎだよ。トワさんの一行レスがスクショされてあちこちで拡散されてる」

「知らない。フォーラムは最近見ていない」

「見たほうがいいよ! トワさんのファンクラブみたいなスレッドまで立ってるんだから」

「いらない情報だ」



 カインが笑った。



「本当にぶれない人だな」




 五人で回廊の奥を探索した。前回のボス・アルグリフの先に、さらに分岐があった。まだ灰色の道が残っている。



 歩きながら、レナが話しかけてくる。



「ねえトワさん、リアルでは何してる人なの?」

「大学生」

「わ、同年代かも! 私も大学生なの。二年」

「同じだ」

「えっ、マジ!? 何学部?」

「言う必要はないだろう」

「あ、ごめんごめん。プライバシーだよね」



 レナは全く気にしていない様子で歩き続けた。



「でもさ、トワさんって大学生なのに七千時間もBCOやってるの、すごくない? 私なんて三千時間で廃人って言われてるのに」

「寝る時間を削っている」

「体壊すよ!?」

「放っておけ」カインが横から言った。「七千時間やれる人間に、今更生活指導しても無駄だ」



 レナが膨れっ面をした。



「心配してるの! ──あ、モンスターだ!」



 回廊の亡骸兵が三体、前方に出現した。

 トワは無言で剣を抜き、三体に向かって歩いた。

 六秒後、三体とも消滅していた。



「……やっぱおかしいわ」


 レナが呟いた。


「Lv1なんだよね?」

「Lv1だ」

「Lv1なんだよなぁ……」

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