《光の大聖堂》
扉が……開いた。
中は、想像していたものとは違った。
白い空間ではない。巨大な回廊だ。高い天井にステンドグラスが嵌め込まれている
赤。青。緑。金。──色がある。聖都の無機質な白さとは全く違う、鮮やかな色彩。
「きれい……」タマキが息を呑んだ。
「ステンドグラスに、絵が描かれているな」アストレアが天井を見上げた。
ステンドグラスの絵は、旅人だった。杖を持ち、世界を歩く旅人の姿。ソルシアの壁画と同じだ。
「ルミナリアの大聖堂に、旅人の絵があるのか」
「カレンは元旅人だ」ゼクスが呟いた。「自分の出自を──ここには残していたということか」
回廊を進む。足音が石壁に反響する。六人と一匹の足音。
【光の大聖堂に入場しました】
【大聖堂踏破率:0%】
踏破率の表示。大聖堂自体が一つのフィールドだ。
「フィールド扱いなんですね。大聖堂全体が」ハルがメモを取り始めた。
回廊の先に分岐があった。左右と正面の三方向に道が分かれている。
道の入口に、石板が立っていた。
左の道
【試練の回廊(左):「力の試練」──戦闘により道を切り開け】
右の道。
【試練の回廊(右):「知の試練」──謎を解き明かして道を切り開け】
正面の道。
【聖王の回廊(正面):「信の試練」──試練の回廊を全て踏破した者のみ通行可能】
「三つの試練か。左が戦闘、右が謎解き。両方クリアしないと正面──カレンへの道が開かない」
「分かれて攻略する。ゼクスと俺で左を、アストレアとタマキで右を」
「わたしは?」ハルが手を挙げた。
「ハル、お前はどっちに行きたい」
「えっ、選んでいいんですか」
「弟子なんだろう? だったら、お前の選択を見せてくれ」
「はい……分かりました、師匠!」
ハルが少し考えて、右を指さした。
「謎解きに行きます。──わたし、最近トワさんの真似ばかりじゃなくて、自分の頭で考えるのが楽しくなってきたので」
「いい判断だ」
左:トワ、セレス、ルーナ、ゼクス、シロ。
右:アストレア、タマキ、ハル。
「合流地点で会おう。──無理はするな」
「トワさんこそ」タマキが笑った。「無理するのは、いつもトワさんの方ですからね」
「否定できないな」ゼクスが肩をすくめた。
二手に分かれた。
◇
力の試練。
左の回廊は──広い闘技場のような空間に繋がっていた。円形の石の床。観客席のような段差が周囲を取り囲んでいる。
中央に──光の文字が浮かんでいた。
【力の試練:全五戦。途中撤退不可。挑戦者以外の援護禁止──ソロバトル】
「ソロ──!?」
「援護禁止か、一人で五戦か……」ゼクスが渋い顔をした。
「つまり、俺かゼクスのどちらかが、一人で五連戦する」
「お前だろう。──俺は影が使えるかわからない。この聖堂の中は、光が強い」
ステンドグラスからの光が、闘技場を照らしている。影が薄い。ゼクスの影潜りは不安定だろう。
「なら、俺がやる」
トワが闘技場の中央に立った。セレスが肩から降りない。
「セレス。援護禁止だ、降りろ」
「やだ」
「ルール違反で失格になるぞ」
「セレスはトワのかた。かたはトワのいちぶ。だからセレスがいても、ソロ」
「……その理屈は通るのか」
システムが、反応しなかった。セレスが肩にいても、ペナルティーの警告が出ない。
「……通ったらしい」
「でしょ。セレスは、トワのいちぶ」
ゼクスが闘技場の外の観客席に座った。隣にシロが座る。ルーナはトワの影の中に。
「見せてもらうぞ。お前のソロバトルを」
【力の試練──第一戦】
光の粒が集まり、闘技場の中央に敵が現れた。
【聖光の剣士 Lv95 HP:100,000】
聖騎士の剣士。アストレアと同型だが、幻影。動きは正確で、無駄がない。
トワは【果ての道標】を剣の形で構えた。
剣士が突進してきた。聖剣の上段斬り。トワが左に半歩ずれて回避し、すれ違いざまに三連斬。
28,000──28,000──28,000。
振り返りの隙に弓に切り替え、距離を取りながら三連射。剣に戻して追撃。
三十秒。剣士のHPがゼロになった。
「流石の腕前だな」ゼクスがしげしげと顎に手をやった。
【第一戦──クリア】
【第二戦──開始】
【聖光の槍兵 Lv96 HP:120,000】
槍。リーチが長い。剣の間合いに入る前に突かれる。
トワは槍に切り替えた。同じ武器種で対抗。槍対槍。
しかし、トワの槍術は付け焼き刃ではない。七千時間の全武器種修練を経ている。槍兵の突きを見切り、柄で弾き、石突で足を払い、穂先で急所を突く。
四十秒。第二戦クリア。
【第三戦──聖光の弓兵 Lv96 HP:110,000】
遠距離戦。光の矢が飛んでくる。──弓には弓で。トワが弓に切り替え、矢の撃ち合いになった。
弓兵は「距離を維持する」パターンで近づけない。矢の撃ち合いでは、消耗戦になる。
トワは──弓のまま走った。走りながら射つ。移動射撃。相手の矢を身体を捻って回避しながら、こちらの矢を当て続ける。
距離が──縮まっていく。弓兵が後退する。だが闘技場には壁がある。追い詰めた。
至近距離で弓を杖に切り替え、殴った。弓兵は、近接に弱い。
三十五秒。第三戦クリア。
「三戦連続、一分以内。──化け物だな」
ゼクスがシロの頭を撫でながら言った。シロが尻尾を振った。
【第四戦──聖光の魔導士 Lv97 HP:140,000】
魔法攻撃。光の弾幕。広範囲。回避が難しい。
トワは煙幕を使った。初心者用アイテムの【旅人の広域煙幕】。光の弾幕の中を煙幕で視界を遮り、音と振動だけで魔導士の位置を把握。
煙幕の中から飛び出し、一撃。離脱。また煙幕。一撃。離脱。
ゲリラ戦法。旅人の基本スキルだけで──Lv97の魔導士を翻弄する。
五十秒。第四戦クリア。
「やれやれ……俺がリベンジする頃には、更に怪物になっていそうだな」
ゼクスがドン引きしている間にも、試練は進んでいく。
【第五戦──最終戦】
光の粒が──大量に集まった。他の四戦とは、桁が違う。
現れたのは──旅人だった。
【聖光の旅人 Lv??? HP:???】
旅人の装備。杖。──始まりの旅人と同じフード。
「また旅人か……いやだが、こいつは……」
トワが呟いた。
しかし、やや異様なのが……この旅人は始まりの旅人とは違い、装備が『白い』。白銀ではなく純白。光属性の旅人。
聖光の旅人が──先に動いた。
剣。三連斬、トワと同じモーション。
「コピーか!?」ゼクスの叫び。
違う。コピーではない。三連斬のタイミングが、微妙にずれている。トワの三連斬ではなく、別の誰かの三連斬だ。
弓に切り替え。──同じく弓に切り替えた。切り替え速度は0秒。トワと同じ。
槍。杖。剣。弓。──全武器種を使いこなす。全ての切り替えが0秒。
トワと同格の、旅人。
「こいつは──カレンか?」
セレスが肩の上で目を細めた。
「ちがう──カレンのきおくで、つくられたもの。カレンがたびびとだったころのうごきを、さいげんしてる」
カレンが旅人だった頃の記憶で作られた幻影。カレンの全盛期──旅人としてのカレン。
トワと同じ全武器切り替え。同じ旅人のスキル構成。──それでも、戦い方は違う。
聖光の旅人は、光を使う。剣に光を纏わせ、矢に光を込め、槍に光を走らせる。トワの影銀とは対極の──光銀。
「同格の旅人との一対一か。──最終試練の再来だな」ゼクスが身を乗り出した。
トワは、影銀形態にしなかった。夜銀にもしなかった。
白銀のまま。
「属性なしで行くのか?」ゼクスが驚いた。
「こいつは、カレンの記憶だ。──カレンと同じ旅人として、正面からやる」
旅人対旅人。属性なし。純粋な技量の勝負。
七千時間の旅人と──千年前の旅人の記憶。
聖光の旅人が突撃してきた。剣の三連斬。トワが三連斬で迎え撃つ。
六つの斬撃がぶつかり合い、火花ではなく、光と音が弾けた。
一撃目で相手の癖を読む。二撃目で間合いを測る。三撃目で──反撃の起点を見つける。
三連斬の後、聖光の旅人が弓に切り替えた。トワも弓に切り替えた。同時に射つ。矢と矢が空中で衝突し、砕けた。
槍に切り替え。突き合い。柄の叩き合い。石突の払い。──全く同じ動きをしている。鏡合わせのような戦い。
だが──少しずつ、差が出てきた。
聖光の旅人は「千年前のカレンの動き」を再現している。正確だが──それ以上は伸びない。記録された動きの範囲内でしか戦えない。
トワは、『今の旅人』。戦うたびに学び、適応し、進化する。この戦いの中ですら、相手のパターンを吸収して、上回っていく。
聖光の旅人の三連斬のタイミング──0.8秒、0.8秒、1.0秒。三撃目がわずかに遅い。そこに──
三連斬の二撃目と三撃目の間に、トワの三連斬の一撃目を差し込んだ。カウンター。
35,000。
聖光の旅人がよろめいた。──初めてのクリーンヒット。
そこからトワが攻めに転じた。相手のパターンを完全に読み切り、全ての攻撃の隙に一撃ずつ差し込んでいく。
剣で三連斬。弓で追撃。槍で突き。杖で払い。剣に戻して──最後の三連斬。
聖光の旅人のHPが──ゼロになった。
幻影が光に分解されていく。消える直前に──口だけが動いた。
声はなくとも、言葉が分かった。
強い、旅人だな。
それはカレンの──旅人だった頃の言葉。
【力の試練──全五戦クリア】
【称号「聖堂の試練を制した旅人」を獲得しました】




