表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ・クロニクル・オンライン ~全員が捨てた初期職を7000時間やり込んだら、Lv1で最強になっていた~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/361

「知らない場所」


 翌日の夜、ログイン。



 まずはPvPのことは置いて、羅針盤の指す方角へ向かう。銀月の草原の南端、あの崖だ。



 草原を歩く。夜の草原はいつ見ても美しい。プレイヤーの数はさらに増えていたが、南端の崖まで来る者はまだ少ない。



 崖の縁に立った。眼下には霧。通常のマップには「進入不可」と表示される。



 だが、【旅人の羅針盤】は真っ直ぐに崖の下を指している。



 崖の縁に沿って歩いた。東へ、西へ。通常のプレイヤーが見落とすような岩の裂け目や、草に隠れた段差を一つずつ確認していく。



 西に十分ほど歩いたところで、羅針盤の針が急に振れた。真下を指している。



 足元を見た。草の中に──石碑がある。旅人の石碑だ。



 だが、通常の石碑とは刻印が違う。旅人のマークの下に、もう一つの紋様がある。羅針盤と同じ意匠。



 石碑に触れた。




 【旅人の隠し道を発見しました】

 【「崖下りの道」が解放されました】




 崖の岩肌に、細い足場が浮かび上がった。通常は完全に透明で、旅人が石碑を起動しない限り視認できない。



 細い道だ。一人がやっと通れる幅。落ちたら即死だろう。


 ──面白い。


 トワは一歩目を踏み出した。



 足場はしっかりしている。ただし、下を見ると霧しか見えない。高さがわからないのが恐ろしい。フルダイブVRの五感再現が、足裏のわずかな振動と、上昇する風の冷たさを伝えてくる。



 慎重に降りていく。崖の途中で足場が消え、代わりにツタが垂れ下がっている場所があった。掴んで降りるしかない。



 五分かけて崖を下りきった。



 霧の中に入った瞬間、世界が変わった。




 【「霧底の森」に進入しました】

 【このエリアはあなたが最初の踏破者です】

 【警告:このエリアでは環境効果「深霧」が常時発動しています。MP毎秒-2】




 視界が極端に狭い。三メートル先が見えない。白い霧が全方位を覆い、方向感覚が失われる。


 そしてMPが毎秒減っていく。Lv1のトワの最大MPは80。このままでは40秒で枯渇する。


 だが──【星読みのランタン】の効果を思い出す。夜間フィールドでMP自動回復速度5倍。さらに【道具通】で10倍。


 霧底の森のフィールド設定を確認する。ここは常時「夜間」判定だ。太陽が届かない崖の下だから当然だ。



 MP回復10倍で毎秒+10。消費が毎秒-2。差し引き毎秒+8。



 ──問題ない。MPは減らない。



 環境効果「深霧」は、MP管理ができないプレイヤーを追い返すための門番だった。だがLv1の旅人専用装備が、その門番を無効化する。



 【見聞録】を起動した。霧の向こうに、モンスターの反応が複数。




 【霧底の朽木兵 Lv88】

 【霧底の朽木兵 Lv88】

 【霧底の朽木兵 Lv88】




 三体。しかも密集している。視界が悪い中で三体同時は厳しい。



 だが、【見聞録】があれば視界は関係ない。攻撃パターン、位置、弱点──すべてが情報レイヤーで見えている。



 【駆け出しの霊薬】を飲む。ATK+100%。



 霧の中へ踏み込んだ。



 一体目。右から横薙ぎ──屈んで回避、三連斬。二体目が背後から突き。振り向かず半歩横にずれ、返す刀で斬る。三体目のブレス──射線を読み、霧の中を滑るように移動し、側面から三連斬。



 十二秒で三体。



 霧の中で、トワだけが正確に動いていた。見えない敵を、見えない場所で、正確に斬る。



 ──ここは【見聞録】がなければ探索不可能なエリアだ。


 つまり、旅人のために作られたエリアとも言える。


 羅針盤がさらに奥を指している。森の最深部に何があるのか。


 歩く。灰色の地図を、霧の中で塗り始めた。




    ◇




 一時間ほど探索して、ログアウトした。


 霧底の森は広大だった。一日では回りきれない。モンスターの密度も高く、消耗品の管理がシビアだ。だが、それがいい。手応えのある旅だ。


 VRゴーグルを外して時計を見ると、午前零時を回っていた。明日は一限がある。


 歯を磨いてベッドに入った。スマホの通知が光っている。




 ミコトからのメッセージ。

 ミコト:「ゼクスとの対戦、受けたんですね。フォーラム見ました」

 ミコト:「あの一行の返事、めちゃくちゃかっこよかったです」

 ミコト:「一つだけ聞いてもいいですか。勝てそうですか?」




 冬夜は天井を見ながら、少し考えてから返した。




 トワ:「わからない。対人戦はやったことがない」

 ミコト:「……正直ですね」

 トワ:「嘘をつく理由がない」

 ミコト:「トワさんらしい」

 ミコト:「あの……もし練習相手が必要だったら、私でよければ」

 ミコト:「Lv83の弓使いなので、大したことないですけど……」




 弓使い。ミコトの職業を初めて知った。配信者だから非戦闘系だと思い込んでいたが、弓使いか。




 トワ:「考えておく」

 ミコト:「はい! おやすみなさい!」




 スマホを置いた。

 天井を見る。


 ──対人戦。知らない場所。知らない相手の攻撃パターン。


 地図と同じだ。灰色の領域が目の前にある。


 それだけで、少し楽しみになっている自分がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ