《記憶の欠片》
聖光の森を踏破し、聖都ルクスの外周エリアも歩き終えた。
【ルミナリア踏破率:34%】
聖都ルクスでの友好度上げは、着実に進んでいた。
パン屋、友好度3/10。定型文の合間に、自分の言葉で話すようになった。
「あなたが持ってきてくれた果物で……パンを焼いたの。美味しかった。──でも、なぜ美味しいと思うのか……わからない。美味しいって……何だろう」
武器屋。友好度2/10。
「この剣は……俺が打ったのか? 覚えていない。でも……手が覚えている。握ると……しっくりくる」
宿屋の女将。友好度4/10。──彼女が最も友好度が高い。冬夜が毎日宿に泊まり、セレスがおやつをねだり、ルーナが影の中から「おやすみなさい」と言うのを、女将が不思議そうに──でも嬉しそうに聞いていたから。
「あなたたち……不思議な人たちね。なんだか……懐かしい気持ちになる。──懐かしいって、何かしら。思い出せないのに……懐かしいなんて」
友好度が上がるたびに──NPCたちは少しずつ「自分」を取り戻していく。だがまだ、名前すら思い出せない。【記憶封印】の力は強い。
そんな中──宿屋の女将が、ある日、不思議なことを言った。
「ねえ、旅人さん。──地下に、行ったことある?」
「地下?」
「この宿の──地下室。昔から、閉まっているの。鍵がかかっていて、開けられない。でも最近……下から、音がするの。トントン……って」
冬夜はセレスと目を合わせた。
「いってみよ」
セレスが言った。
女将に案内されて、宿屋の地下への階段を降りた。古い木の扉。鍵がかかっている──が、トワの【見聞録】で鍵の構造を解析し、ゼクスが開錠した。
「鍵開けは、暗殺者の基本だ」
扉を開けると、地下室が広がっていた。埃をかぶった家具。古い本。──そして、壁に掛けられた一枚の絵。
絵には、旅人が描かれていた。杖を持ち、世界を歩いている旅人。ソルシアの壁画と、同じ構図だ。
「ルミナリアに……旅人の絵が」
絵の下に、小さな箱があった。開けると、手紙が入っていた。
古い手紙。インクが褪せている……だが読めた。
【「カレンへ。お前がこの国を光で満たすと決めた日、わたしは反対した。お前は……聞かなかったね。だからわたしは、この手紙を残すよ。いつか誰かが──お前を止めてくれることを願って。──お前の友人、ヴィア」】
ヴィア。──あの老旅人の名前だ。月光のオアシスに隠れている、隠しNPC。
「ヴィアさんが──カレンに宛てた手紙」タマキが息を呑んだ。
「カレンとヴィアは──友人、だったのか」ゼクスが呟いた。
聖女の手紙。カレンとヴィアの手紙。──カレンの周囲にはかつて、友人がいた。だがカレンは全ての友人の声を退けて……国を光で満たし、記憶を消した。
「トワ。カレンは、ともだちのこえを、きかなかった。でも……トワのこえは、きくかな」
「聞かせる。──歩いて、会いに行って、直接話す。それが、旅人のやり方だ」
手紙をアイテムストレージにしまった。これは、カレンに届けるべきものだ。




