第80話:目覚めた先が見知らぬ洞窟
……微睡みの中から意識が戻る。
妙な気怠さを感じながらも目を覚ましてみれば、そこはいつもの神綺の神社。
懐かしさというか安心感を覚えながらも……周りを見ようとしてみれば。
「おっやっと起きたか刃!」
そこには俺が倒したはずの炎雷がいて、なんか軽快に笑っていた。
一瞬で止まる思考と訳の分からない現状に飛び起きればそいつは「やはは」と笑い俺の頭を撫でてくる。
「まじなんで、死んだお前が、ここにいる?」
「なんで俳句風にしたのか知らないが、お前に殺されたからだな!」
俺は此奴を倒した感覚は覚えてる。
だからこそ知りたいのだが、なんでこいつはこの世界にいるんだ?
ここは造り替えられた俺の心情世界、神綺以外が立ち入る事の出来ない魂の世界であり彼女の許可が無ければ入ることは出来ない筈なのに……。
「四季の効果よ刃……不本意だけど彼の魂を吸収したの」
悩んでいれば社の奥から相棒である神綺が姿を現した。
相変わらずの黒いセーラー服に身を包んだ彼女は頭の痛そうな顔でこっち……というより炎雷の方に視線を送っている。
そういえばあったその効果を思い出しながらも、だとしたら四季に吸収されるはずでは? と余計に疑問を持ってしまった。
「その通りね、普通の魂なら四季の糧になる筈だけど……《《これ》》だから」
「――まぁ確かに」
獣の王の一角。
……最強の戦闘魔人にして八雷神の長男であるこの男。
そんな化け物がただの魂と同じように吸収されるわけが無かった。
「なんだよその馬鹿を見るような目は……」
「実際戦闘馬鹿でしょ? とにかく分かることは最悪な同居人が増えたって事ね」
「え、居住確定?」
「この馬鹿の魂はもう刃のもの……でも消化するまでは暫くは一緒になりそうよ」
「良い物件だよなこれ、瘴気に溢れて死霊が沢山だ! お前の気質もあって、星五の評価だな!」
これはなんだろうか?
俺の気質というのは依木体質の事だろうが……褒められているのに素直に喜べないというか……純粋に帰ってくれという気持ちが湧いて出てくる。
「…………そういえば神綺、気になってたんだけど俺ってどうなってるんだ今?」
長い間眠っている感覚はあったが、自分の状態が分からない。
なんか頑張って目を覚まそうにも出来そうにないし、外を見られる神綺にそう聞いてみれば……複雑そうな顔で。
「全身凍ってるわね」
「えぇ、なんでだよ」
「あの無茶な技の反動よ、そのせいで魂まで凍ってたもの貴方」
もう一度えぇと思わず声に出しながらも、詳しく状況を聞いてみたんだが……どうやら俺はこの【けもの唄】の世界で奥義とされる終氷を放ったせいで体に加えて魂ごと完全に凍ったらしくその間に誰かに攫われたのだそう。
「……え?」
「くはは、綺麗な二度見で笑えるな!」
「いやだって……は?」
冷静に説明されたが、神綺達の方を二度見するくらいには驚いてしまった。
だってそうだろ、凍ったまでならあの技の反動でまだ納得できたが……その後が、ちょっと理解できそうにない。
「え、大丈夫なのか俺の体?」
「最初は砕こうとしてたけど、あまりの強度に諦めたみたいよ」
「それ、大丈夫じゃないやつだろ」
「そうね、だからそろそろ起きなさい――皆の元に帰るんでしょう?」
「……そうだな。ちゃんと帰らないと」
軽い口調でそう言われ、俺はそれを思い出して噛みしめた。
約束した。またねと誓った……誰に攫われたか知らないが、下手な相手に後れを取る気は無い。
「とりあえず起きてみるわ……また後でな神綺」
「えぇ、行ってきなさい刃」
そんなやり取りを最後に浮上していく意識。
……帰らないと。
そんな思いが強く残る。何が何でも敵が何であれ、俺は皆の元に帰る。それが、約束だから……そう思い、俺が目を覚ましてみれば。
「……えっと、誰だよあんた?」
目が覚めて開口一番、そんな言葉が出てきてしまった。
目の前にいたのは銀髪碧眼の少女であり、彼女は俺と目が合った瞬間に驚いてか後ろに倒れてしまう。
「起きるなら言って、驚いた……それに、頭ぶつけた」
「いや……んな理不尽な」
ジト目で睨まれ、責めるようにそう言われた。
反論しようにも、想像してた対面とは違う同い年ぐらいの少女に毒気を抜かれて……俺はそのまま周りを見渡した。
今俺がいるのは祭儀場のような所。
周りには幾つかの柱……そこには注連縄が巻かれていて、上を見れば天井は石造り――というより洞窟か?
地下をそのままくり抜き、そこに祭儀場を作ったような有り様だ。
「それよりおはよう……じゃなかった叔父さんに教えなきゃ」
「待て……って足速いって」
目覚めて、戦うと思ったらこれ、何が起こってるか分からないが……とりあえず、あれだ。今のうちに逃げてもいいよな……これ。
でもなんか、あれだ。
あの少女、めっちゃ見覚えあるんだよな。
逃げようとした瞬間に、そんな事が無性に気になり……そのまま思考を続けていると、この部屋? いや洞窟に入ってくる人影が二つ。
「おぉやっと目覚めたのかい、おはよう十六夜刃君」
入ってきたのは無精ひげを生やしている冴えないおっさん。
眼帯に着物という割と意味分からない格好の彼はにへらと破顔し、そのまま俺へと自己紹介をしてきた。
「えっと、僕は朔月彩錦。君を攫った極悪人で辺獄衆の副頭領さ――ちなみに頭領はこの子ね?」
「ん、私は朔月黄泉津……よろしく?」
……その名前を俺は知っていた。
今聞いた二つの名前は、原作の刃を拾った組織の頭領達のもの。
思い出すのは闇堕ち街道まっしぐらだった刃を育て上げ、剣と敵対していた……俺の推し組織。全員が信念があって格好良くて……毎回出るたびに前世の俺を沸かせたある意味罪深い罪人達が頭に過り……情報過多に胸を押さえて倒れて込んだ。
「……ぐふっ」
「えぇ……何この子?」
「思ったより、愉快?」




