05
寒い……寒い…………身体が凍り付いていくようだ。痛い……苦しい…………誰か助けて……。
重たい瞼を持ち上げると、そこがどこだか把握するのにほんの少しだけ時間がかかった。状況を理解すると更に倦怠感に拍車が掛かる。
見上げた先は空高くまで崖が続いており、その谷間に挟まるように落ちていったようだった。そこは、暗く、孤独だった。
何故こんなことになってしまったんだろう。考えても何もかもが闇の中で、どうすることもできずにただ苦悩することが怖くて仕方がなかった。何故? それだけが脳内をめぐり支配していく。これからどうすればいい……。強く噛み締めた唇から血の味がした。
ここで死んでいくのもいいかもしれない。月詠の居ない世界など生きている価値なんて無い……。
……本当にそれでいいの?
傷だらけの身体に残っている僅かな力を振り絞ってもがいた。這いつくばり泥に顔を擦り付けながらも、確かに地に足を付け立ち上がる。
絶望の中どうしてそれが可能だったか。貴方にはまだやることが残っている。そう言われた気がしたからだった。
運良くこの深い闇の中で、微かに水の流れる音がしていた。どこか上へと通じているかもしれない。歩き出した彼の瞳には炎の燃えるような熱い熱気が帯びていた。
壁伝いに音のする方へ歩を進めていく。目も慣れるくらいに歩いた先で水源を見つけた。生い茂る草木が絡まり、もつれ合い、繰り返す時の流れを超えて出来た自然の万物がそこには存在していた。幾重にも重なった蔓や枝葉が一帯を包み込み、光が隙間から覗く。小さな動物の姿も確認できた。
カラカラに乾いた喉を潤すと、緊張の糸がほぐれたようにふっと力が抜けそうになった。が、なんとか踏み止まった。倒れこむのはまだ今じゃない。自分にそう言い聞かせた。しかし身体は思うように動かなくて。自由が利かない事に気付く前にはもう深い眠りの波がやって来た。そして記憶はここで途切れた。
夢を見た気がした。そこは荒廃した世界だった。砂と塵にまみれ、命あるものは存在しない。愛、希望、悲しみ、そして苦しみ、何もかもが無に還された世界は人間の卑しさを露見させ全てを壊すのに時間はそれ程用さなかった。
人間はもろく弱いが故に、争うことをやめない。だから終わらせたんだ、そう神様が言っているようであった。