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鳳凰の陸に昇る  作者: moko
1章
5/6

04

 そこには使い古した雑巾の様にボロボロになった養父が倒れこんでいた。

 足の力は抜け凭れるように膝をついた。身体の下のほうへ視線をずらすと、引き連れて行った蘇芳の巨体が足に重しの如く圧し掛かり身動ぎひとつ取れない状態であった。妖魔の大きな体が圧力を掛けているせいで苦しそうに呻く。己の持つ力一杯使って持ち上げようと試みるが、苦しみから救い出すことは困難だった。抱き上げた養父の身体は血でぬれていた。全身の様々な箇所から暖かいそれは溢れ出している。


 動機が激しくて呼吸ができない。心臓はありえない速さで壊れた時計のように脈を打った。

「月詠……、何があったの……?」

 やっと絞り出した声は掠れてザラザラしていた。背筋に流れる緊張と焦燥感に負けまいと拳を握りしめた。

 すると、小さく弱弱しく瞳が開き唇は震えるように動いた。口元に耳を寄せる。不快な汗が止まらない。


「……濫陽、逃げろ……。今すぐに、此処から……逃げるんだ……!! ……早……く……」

 それだけ言い残すと、糸が切れたように月詠は動かなくなった。


 目を開けないその身体を無我夢中に揺すり、何度も何度も愛しい人の名前を呼び続ける。それは虚しくも血が大地の深くまで滲んでいくだけだ。

 生温かい身体はまだ生きているのかもしれないという期待をくれたが、次第に冷たくなっていく姿に、悲鳴なのかも分からない声で名を呼ぶことしか出来なかった。


 雲ひとつない綺麗で汚れを知らない空に吠えた。

 目頭や鼻が熱くなり、涙が止めどなく溢れ出る。何処からこんなにも出てくるのだと思うくらい垂れ流される水分は体中の水気を絞りとっていく。


 焦点の合わない目と、力の籠らない足腰を奮い立たせ森の中へと力一杯駆け出した。何故走るのかは自分にも分らない。ただ、月詠の残した言葉が「此処から逃げろ」だったから走るのだ。この悲しみを振り払あるならばどこまでも。

 悔しさが口から自然と毀れ出てきた。


「どうして……! 如何して、月詠があんなことになって仕舞わなきゃいけなかったの……!? 何故……、僕は此処から逃げなきゃいけないの……!! ねえ、……誰か教えて…… 誰かこれは如何なっているのか、僕に説明してくれよー!! 教えてくれ……、こんなことになった訳を……」


 定まらない足元が原因となり、浮き上がった太い根に躓いた濫陽は底の見えない崖へと転げ落ちていった。


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