03
最近、濫陽には気になっている事が有る。養父、月詠の様子がおかしいのだ。具体的にどういう風におかしいとは上手く説明出来ないのだが、彼は何処か疲れているように思える。
何よりも人世を捨てた世捨て人の月詠が塒を離れることが多くなった。朝早くに出掛けては夜遅くに帰ってくるという不規則な違和感のある生活は半月ほど続いている。何処へ行っているのか聞いてもはぐらかしたりして教えてくれない。
「濫、俺は出掛けてくるけど大人しくしているのだぞ。」
今日も彼は何時もの優しい笑みを浮かべて早朝の朝日が昇る頃には使役する妖魔の一匹、蘇芳に跨り颯爽と空へと飛び立っていった。濫陽は無理やりにでも笑って送りだしてやる。話してくれないのなら話してくれるまで待つしかない。
本当は如何してこんなにも早く出掛けるのか、何処へ行っているのか、問いただしたい。でも、自分は貰われっ子だから……といういじらしい思いが邪魔をして聞けない。月詠を慕っているし、大好きだが捨てられた己を拾ってくれた敬うべき人である彼に出過ぎた発言をして嫌われてしまいたくないと思っている自分が居る。そんなことで嫌うはずがない事は知っているのだが、実際今まで恩を受けっぱなしの自分だから、「もし見捨てられてしまったら」という気持ちは拭いきれないのだ。
だから何時も「いってらっしゃい」と無理してでも笑って見送らないといけないなんて使命感が優先されるわけである。
そんな健気な少年の思いや感情を無視して、暴走した車の様に後悔という奈落の底は急速に迫っていた。
「あ、妖魔達にお昼ご飯あげなくちゃ。」
少年は自分に任された仕事を思い出し、急いで五キロ程の羊肉を倉庫から運び出すと妖魔達の為に建てられた小屋へと向かう。
まだ八歳の小さな少年にとっては五キロもの肉を運ぶのはとても困難な仕事であるが、月詠の役に立ちたいと願う彼にはちょっと大変だなと思うものでしかない。
それに妖魔と関わる事が好きだった為、楽しく任された仕事をこなしていた。
大人の腕程の太さはある太い手綱が通された大きなたらいに肉を乗せ、少年は肩に手綱を引っ掛け一歩踏み出す。一歩足を前に出し全身する度にずるずると引き摺られる音がする。結構重いな……。額を汗で濡らしながら一生懸命足を踏み出した。
その時だった。
横をすれすれで何かが勢いよく横切ったと思うと、直ぐ後ろで地が深く揺れた様な重い衝突音が広大な地に響いた。
森の木を薙ぎ倒し、地面が摩擦するそれは耳の奥へと凍み渡る様だ。衝撃的で何が起こったのか分からなかった。固まってしまった身体を自力で動かし、やっと光景を直視する。
砂煙が立ち上り、渦巻いて途切れることを知らない。濫陽は走りだして、何が起こったかも定かでないそちらへと向かって行く。
ふと嫌な予感がした。何かとても悪い感覚だ。
砂塵が散り、何があったのか認識したと同時に狂気的な声が虚空に響き渡った。
「月詠!!!!」