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『katharsis』探偵事務所  作者: 成橋 阿樹
第二章 悲劇を喜劇に
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第16話 依頼の先

「さて……そっちはどうかな?」


 亮二さんは、淳史さんたちの方を振り向いた。

「ですってよ、新さん」

 淳史さんは、亮二さんの言葉を投げるように杜嵜 新に目線を送り、返答を委ねる。

 杜嵜 新は少し困ったように苦笑すると、口を開いた。


「北川君に説得されてしまったからね……君たち北川君のところの探偵と早水君のところの探偵が動いているというんだから、私も姿を見せて話すべきだとね……」

「いい機会じゃないか。それなら、元、とはいえ、あなたの事務所で話を聞きたいね?」

 そう言うと亮二さんは、ちらりと伯羽に目線を送った。その目線に言葉が見えるようだ。

 もう分かっていると言うような圧のある目に、伯羽は決まり悪そうな顔を見せていたが、仕方がないとばかりに頷いた。

「……分かりました。では行きましょう」

 伯羽は足を踏み出し、九埜に声を掛ける。

「隼斗。彼らを事務所に」

「伯羽さん……!」

 杜嵜と険悪にも話していた九埜の表情が驚きを見せる。

 受け入れ難い様子ではあったが、それでも伯羽には従うのだろう、諦めたようにも踵を返すと歩き出した。


 この場所は、近づき難い印象が強い。

 夜ともなれば、尚更だ。

 家もアパートも数棟建ってはいるが、空き家が多い。

 住み難い環境……でも……これは疎外感か。

 杜嵜 新が代表であった時もこんな感じだったのだろうか。だが、企業相手の興信所だったのだから、それはないだろう。

 伯羽に代わってから……いや。九埜が来てから……か。


 探偵潰しの探偵……そんな異名がついたのは、杜嵜 新の事務所に所属したあたりから。

 僕の目線が伯羽と共に前を歩く杜嵜 新に動く。

 あの二人……何故、肩を並べて歩けるんだ……?

 九埜は一人先に事務所に向かっている。

 その後ろを淳史さんたちが歩き、僕たちの前を歩いているのが杜嵜 新と伯羽 伊頼だ。

 淳史さんも瞭良さんも、況してや杜嵜が二人に大して意識を向けていない。

 杜嵜 新と伯羽を尾行していたのは瞭良さんと杜嵜で、その先には淳史さんが配置していた。

 淳史さんは、既に網を張っていたって訳か。

 オーナーの助言もあった事で、杜嵜 新と伯羽は応じたんだ。

 おそらく、彼らは事務所の件があってから接触するのを避けていた。それは杜嵜 新が事務所を追われた事からというより、杜嵜 新がそうするようにしたのだろう。

 僕たちと瞭良さん、そして杜嵜 緋色とも組んで動き出した事で、伯羽は杜嵜 新とどうにか接触出来る機会を伺っていた……それが彼を尾行する事になったのだろう。

 どうりで伯羽以外、事務所の奴らが誰も来ていなかった訳だ。


 今の九埜を作ったのは……この二人という事か。

 それなら杜嵜 新以外、皆残っているのも納得だが……。

 杜嵜 新と伯羽の様子を見ていると、二人には同じ意図がありそうだ。

 


「ユウ。なにか気づいたか?」

 亮二さんは、僕が何を思ったかを察したようだ。

「……うん」

「その割には浮かない顔だな」

「……そうだね」

「なあ、ユウ。探偵なんて拘束時間は長いし、依頼によっては昼夜問わない。なにせ、調査対象の行動リズムについていくんだからな……遅れを取れば証拠なんて見つからないし、見落とす事にもなる。調査に失敗すれば、要らぬ暴言まで受ける始末だ。それでも探偵を続ける理由って見出せるか?」

「それって……九埜が言っていた事に関係ある事だよね? 九埜のその言葉に亮二さんが答えた事も」

「ああ……そうだな」



『探偵ってさ……いや。探偵に限らず、自分の能力に適応出来るもんが仕事になる……それは掲げられている職種の適応だ。俺はそれが探偵だったってだけの事。辞めるもなにも、出来るもんやって何が悪いって言うんだ? 仕事を選ぶのなんて、そんなもんだろ』


『それで務まっているつもりなら、適応なんかしてねえよ。それでもそう思えるのは、あんたの今いる場所があんたに合っているってだけだ。それは探偵事務所や仕事って以前に、あんたにとって都合のいい場所としてな』


 ……都合のいい場所、か。



「僕だって亮二さんと同じだよ……同情なんてしない。それでもそこに感情を絡めるなら、怒りしかないよ」

「そうか」

 亮二さんは、僕を横目にふっと笑みを見せる。

 正直、この先に向かうのは気が重い。

 亮二さんや淳史さんは、だいぶ前から気づいていたのだろう。瞭良さんだって、それを確かめる為にあの時、僕たちをここに呼んだのだから。

 僕は、ふうっと息をつくとゆっくりと口を開いた。


「亮二さん……探偵に向いているとは思えないって僕が言った時、それはコンプレックスだって亮二さんは言っただろ……それが可能を閉ざすってさ」

「ああ、覚えてるよ。正直、腹が立ったからな」

「え。嘘でしょ……あの時、笑ってたじゃん。まあ……揶揄ってるってのは感じたけど」

 苦笑する僕に、亮二さんはニッと笑みを見せる。

「腹が立ったのはホント。だったらなんで来たんだよ? ってな。事務所の前まで来てるくせに、それでも迷い続けてるようだから、先に開けてやったんだよ。事務所のドア、部分的に型板ガラスが嵌め込まれてるだろ、人影が見える。迷いながらも足が向かったのは、そこに答えを求めたからだろ。そこに求めた答えはそこに来てから決める……それってさ」


 ……やっぱり亮二さんだな。全部見抜かれてる。

 僕は、また苦笑を漏らす。


「自分の決断を俺に委ねたって事だろ。周りから期待される事で決断出来る……お前は自分の評価を他者に求めたんだよ、それを答えとしてね」

「……当たってるよ、それ」

「ふん……そのくせ、探偵に向いてると答えたら答えたで、否定しやがるしな」

「はは……そうでした」


 そんな話をしているうちに、事務所に着いた。

 伯羽よりも先に杜嵜 新が中へと入る。

 伯羽がどうぞと手を差し出し、杜嵜 新が先に入る事を勧めたんだ。


 やっぱり……これは……。


 早水さんが言っていた言葉の本当の意味は、ここにあったんだ。

 早水さんがそう思うのも、早水さんは委託の話をしにここに一度訪れているからだ。

 それが何故なのかの確証は得られず、関わる事もなかった事でそれっきりになったが、僕たちが九埜を追い、接点が出来ていく中で瞭良さんを動かしたという訳だ。


『似せて作った紛い物が本物を超えて馴染めるのか、探偵としてのプライドを賭けられるんだからね……』


 ここは……。

 これが探偵としてのプライド……?


 確かにここの代表探偵は伯羽なのだろうが……。



 それを容認し、任せているのは杜嵜 新だ。

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