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美少女な後輩の片思い相手が、どう聞いても俺なんですが  作者: 永菜葉一


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13/22

第13話 我が友へ。俺、好きな人ができました……

 体に悪そうな油ギトギトのカップ麺を今すぐ食べたい。

 高2の男子には、ふとした時にそんな夜がやってくる。


「はぁ……」


 ここはアパートの俺の部屋。

 実は俺は家庭の事情で一人暮らしをしている。


 だから夜中にコンビニに行くのだって自由だ。

 たとえば今すぐジャンパーを羽織ってコンビニに向かったって、誰にも怒られない。


 サッと行ってカップ麺を買って……ああ、そうだ、帰りは近くの公園を通ってショートカットしようかな。


 ウチのアパートの近くには、ちょっとした公園がある。

 そこを横切れば、だいたい15分くらいでコンビニを往復できるはずだ。


 ……いや待てよ。


 小説や漫画だとこういうところが物語の導入になったりする。

 たとえば通りかかった公園でモンスターに遭遇したり、殺人事件に巻き込まれたり、あとはそう……家出少女を拾ったりとか。


 うっかりカップ麺を買いに行ったら、そういう摩訶不思議な展開が始まってしまうかもしれない。


「……なんてね」


 ベッドの上であぐらをかいたまま、俺は首を振った。


 今のはちょっとした現実逃避だ。

 考えがまとまらないから少し思考が脇に逸れてしまった。


 カップ麺を今すぐ食べたいのは実際、本当。

 でも今の俺にはそれよりずっと優先すべきことがある。


「どうしたらあの難攻不落なゆにちゃんを口説き落とせるだろう……」


 そう、ゆにちゃんのことである。

 あの橋でフラれてから、すでに1週間が経とうとしていた。


 その間、俺は必死に彼女を口説き落とそうとしている。


 ……が、負け、負け、負けで連戦連敗!


 毎度、ゆにちゃんに翻弄されて、一向に付き合ってもらえる兆しすらない。

 そもそも俺と彼女には決定的に恋愛経験に差がある。


 半年間、戦い続けてくれたゆにちゃんに対して、俺はこの1週間がほぼすべて。圧倒的にスキルも引き出しも足りていない。


 だからその差を埋める作戦をずっと考えているのだけど……。


「……うーん、ダメだ! ぜんぜん思いつかない!」


 ベッドの上で頭を抱える。

 正直、どんなに考えても一人で出来ることはほぼ限界に達していた。


「こうなったら……」


 俺は枕元のスマホを手に取る。

 もう背に腹は代えられない。

 

「困った時は友達に相談しよう……っ」


 タップするのはクラスメートの近藤(こんどう)の連絡先。


 近藤なら夜遅い時間でも起きてるはずだ。

 予想通り、わずかなコールで聞き慣れた声が響いてきた。


「『おーす、どうした? 良い子の春木(はるき)僧正(そうじょう)が夜更かしなんて珍しくね?』」


「ごめん、近藤。俺はもう僧正(そうじょう)にはなれないんだ」

「『……え? どういうことだよ?』」


 不思議がる友人へ、俺は胸を張って告げる。


「好きな人ができました」

「『――ふあ!?』」



 ………………。

 …………。

 ……。



 翌日、朝の教室。

 ホームルーム前のざわめきのなか、近藤は俺の前の席で腕を組む。


「なるほど、そういうことか……」


 昨日の電話では近藤が軽くパニックになってしまい、ちゃんと話ができなかった。なので今日、改めて事情を説明させてもらった。


 俺がゆにちゃんにフラれたこと。

 でも今後も口説こうとすることは認めてくれてもらってること。

 その上でこの1週間、完全に手詰まりになっていること。


 すべてを聞き終え、近藤は静かに目頭を押さえた。


「まさかあの春木僧正(そうじょう)がここまで変わられるとは……恋とは偉大ですな」


「近藤、ごめん、昨日も言ったけど、俺はもう僧正には……」

「ああ、そうでしたな。これは失敬」


 一度だけ両手を合わせてお辞儀し、近藤は瞼を開く。


「で、俺にはできることは?」

「ある。ぜひ頼みたいんだ」


 友人の視線を真っ直ぐ受け止め、俺は正面から頭を下げる。


「俺に女の子の口説き方を教えて下さい!」

「……っ」


 グッと来たような表情の近藤。

 俺は前のめりになり、さらに言葉を重ねる。


「俺、ゆにちゃんと付き合いたい! でも一人じゃ良い方法が思いつかないんだ。だから近藤の知恵を貸してほしい!」

「……っ、よござんす! なんだって教えて進ぜましょう!」


 近藤も前のめりになり、俺たちは机の上で額を突き合わせる。


 ちなみに俺の友人は女子にとてもモテる。

 彼なら最善の一手を授けてくれるはずだ。


「よく聞け、春木。初心者の春木にいきなり高度な戦術は使いこなせない。だからここは基本から攻めることが重要だ。まずは相手にトキめかせること。そのためには――」



 ………………。

 …………。

 ……。



 放課後になった。

 友からの策を得た俺は、満を持して手芸部へ。


 ガラガラと扉を開けると、ゆにちゃんが長テーブルの定位置に座ってるのが見えた。


 初日は肩透かしを狙って部室にいなかったゆにちゃんだけど、あれ以降は俺が警戒しているのを見抜いているらしく、普通に早く来て座っている。


「こんにちは、春木先輩」


 俺に気づき、にぱっと笑いかけてくれる、ゆにちゃん。


 連勝中なのでご機嫌もご機嫌、有頂天な雰囲気だ。

 なんならウサギの耳がぴこぴこしてるのが見えそうなくらい。


 一方、俺は自然さを装って挨拶を返す。


「うん、こんにちは、ゆにちゃん」


 普通に言えた。

 我ながら秘策を狙っている不自然さなど微塵もない。


 そう思っていたのに、即座に「あら?」とゆにちゃんの表情が変わった。


「なんか緊張してますー?」

「――っ!」


 見抜かれてる!?


「し、してないよ!? え、緊張? 俺が? どこが!?」


 うわぁ、墓穴掘ってる!

 俺、今まさに墓穴を掘り進んでる……!


 そんな俺を見て、ゆにちゃんはクスクス笑う。


「はいはい、無理しなくていいですよ。最近の春木先輩は負け越しちゃってますからねー。何か新しい策でも立ててきたんですよね? そういう時は緊張するのは当然です。落ち着いて、まずは座って下さい」

「うぅ……」


 悔しい。

 完全に見抜かれた上に気遣いまでされてしまっている。


 でも落ち込むな。

 俺には友が授けてくれた策がある。

 それで一発逆転するんだ。


「んー? なんか一発逆転狙ってます? なんかそんな顔してますよ?」

「……っ」


 これも見抜かれてる……っ。


 でも動揺する必要はない。

 近藤の策はたとえ見抜かれていても通用するはず。


 そう、相手がゆにちゃん――俺のことを好きな女の子ならば!


「じゃあ、座るね?」

「え?」


 俺が立ち止まったのは定位置であるゆにちゃんの正面ではなく、ゆにちゃんのすぐ隣。


 パイプ椅子を引いて、俺は流れるように着席し、その際に偶然を装って――彼女の手に触れる!


「えっ」

「あ、ごめん」


 平静を装って謝罪。細くて色白な手のひらに触れ、その柔らかい感触にドキドキしそうになった。


 でもグッと堪え、俺はそこからさらに彼女の手を――ギュッと握る!


「――っ!?」


 ピクッとゆにちゃんが反応した。

 これぞ我が友・近藤の計略。


『――まずは偶然を装って手に触るんだ。その後、すぐさまギュッと握る。不意打ちからの不意打ちという二段構え! これにトキめかない女子はいねえぜ!』


 その言葉通り、ゆにちゃんの頬がほんのり赤くなっていた。


 効いてる。

 ちゃんと通用してる!

 ありがとう、近藤!


 勝機を見出し、俺は余裕の表情を作って口を開く。


「どうしたの、ゆにちゃん? もしかして……ドキドキしちゃってる?」


「ふ、ふふ……確かにこんな角度からの攻撃は予想外でした。でも妙ですね? 断言しますが、これは春木先輩の発想じゃない……」


 ゆにちゃんは頬を染めたまま、悔しまぎれの表情でキッと睨んでくる。


「春木先輩、軍師を雇いましたね!?」


「ふふ、雇うなんて即物的な言い方はやめてほしいな。彼は俺の友だ。いいかい、ゆにちゃん? アルパカは群れで生きる動物なんだよ」


 めいっぱい格好つけて言い、俺はさらにゆにちゃんの手をぎゅっとする。


「――っ!」


 途端、彼女はまたピクンッと反応した。

 

 いける!

 ここだ!


「ねえ、ゆにちゃん。俺と付き合っ――」

「甘い!」


 勝負を掛けようとした瞬間、彼女の鋭い声が響いた。

 え、と思った刹那、ゆにちゃんが俺に寄りかかってきた。


 まるで手を繋いだまま身を寄せ合う、恋人同士のように。


 彼女の頭が肩にもたれ、さらさらの髪がふわりと俺の鼻先へ。


 髪。

 ゆにちゃんの髪。


 その瞬間、心臓がドッキーンと跳ねてしまった。


「ふわっ!?」


 あまりの衝撃に俺は椅子から転げ落ちる。


 盛大な音を立てて床に崩れる、俺。

 一方、ゆにちゃんは冷や汗を流しつつも勝ち誇った顔で立ち上がった。


「ふう、今のは危なかったです……。あと一歩で状況に流されてイエスって言っちゃうところでした。でも残念」


 ファサァ……と彼女はこれ見よがしに長い髪をかき上げる。

 俺が堪らなく好きな、ゆにちゃんの髪だ。


「わたし、春木先輩の弱点なら熟知してますから。この程度の劣勢なら簡単に覆せます」

「そんな……っ」


 あとちょっとだと思ったのに。

 まさか逆転されてしまうなんて……っ。


「く、くそう……!」

「ふふっ」


 床を叩いて悔しがる俺と、勝者の笑みを浮かべるゆにちゃん。


 分からされてしまった。

 圧倒的な恋愛戦闘経験の差を。


「まだまだですね。もっともーっと頑張って下さい♪」


 ふいに彼女は屈み込んだ。

 スカートがひらりと舞い、彼女の唇が俺の耳元へ。

 え、と思った矢先、ミルクのように甘い声に囁かれた。




「わたし、一生懸命な春木先輩が大好きですよ♡」

「ふえ――っ!?」




 今日一番、心臓が高鳴ってしまった。

 火を噴きそうなほど顔が熱くなってくる。


 悔しいのに、次も頑張ろうと思ってしまった。

 これはもう完全にゆにちゃんの手のひらの上だ。


「ああもう、ちくしょう……っ」

「えへ♪」


 ぺろっと舌を出して笑う、ゆにちゃん。

 その表情がこれまた可愛くて、俺はうな垂れながらドキドキした。





次話タイトル『第14話 男子みんなの知恵を借り、壁ドンにてつかまつる』

次回更新:明日

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