第二話:誤作動
2025年、A国の新型無人戦闘機「セラフィム」の配備が進む中、国際的な緊張は高まりを見せていた。A国は無人機部隊を強化し、戦局の有利な進展を狙っていた。マイケル・レイモンド大尉は、無人機部隊「セラフィム」の指揮官としてその責任を負っていた。彼は、長年にわたる操縦技術の経験を誇りにしており、無人機の制御に関しても高い自信を持っていた。
だが、無人機を操作することには、予想外の困難が潜んでいた。マイケルはそのことをすでに理解し始めていた。無人機はもはや単なる遠隔操作の機械ではなく、完全に自律的な戦闘システムとして進化しつつあった。人間の手を介さずに、高速で複雑な戦闘行動を取ることができるため、戦場での使用は非常に効率的であった。
しかし、その利点が逆に問題を引き起こすこともあった。無人機の操作における自律性は、時として予測不可能な事態を生むことがあった。マイケルはある日、訓練飛行の際にそのことを実感することとなる。
訓練の最中、無人機部隊はシミュレーションされた敵軍との戦闘を行っていた。飛行中、セラフィムの一機が異常を示した。レーダーに映るセラフィムの位置が不安定になり、予期せぬ方向へ進行を始めた。GPSシステムが狂い、無人機は目標地点から外れて行動を始める。
「おい、何だ?」
マイケルは無線で無人機の操作端末にアクセスを試みるが、画面上には何も表示されなかった。
無人機の動きは完全に予測を外れ、敵機に接近するように見えた。もし実際の戦闘でこのような誤作動が発生した場合、大きな損害を招く可能性があった。マイケルは冷静を保ちながらも、すぐに訓練を中止し、無人機を手動で制御するように指示を出した。
「セラフィム、制御再確立。マニュアル操作モードに切り替え。」
マイケルは必死に無人機に指示を送り、ようやく機体が正常な軌道を取り戻すことに成功した。数秒間、全てが停止したかのように感じた。無人機は再び空中を滑空し、訓練は無事に終了した。
訓練後、マイケルは無人機の制御システムの異常を調査することにした。その結果、無人機に内蔵された新しいアルゴリズムにバグが発生していたことが分かる。無人機が予測不能な動作を取った原因は、AIの判断力に問題があったのだ。システムは、未テストのコードが原因で誤った解析を行い、目標の選定に誤りが生じた。
「これで分かった。」
マイケルは呟いた。
「無人機が完全に自律する時代、完全な無人戦闘はまだ遠いな。」
彼は、無人機の自律性とその限界について再度考えさせられた。戦闘において無人機がどれほど効率的であっても、その精度と判断力には依存しきれない一面が存在していた。この瞬間、マイケルは「無人」であることが必ずしも優位性を意味するわけではないと感じていた。
その後、A国の上層部は無人機の運用に関して再評価を行い、セラフィムの自律機能に更なるテストを加えることとなった。マイケルはその間も新たな訓練計画を練り、無人機に対する依存を避け、もっと人間の判断力を生かす方法を模索していった。
だが、その試練はほんの序章に過ぎなかった。A国とB国の対立はますます激化し、戦争が現実のものとなる日が近づいていた。そして、その時が来たとき、無人機が戦争の中で直面する更なる課題が明らかになっていった。