第十七話:希望の光
アリスは膝をつきながら、静かな戦場に広がる沈黙を感じ取っていた。システムが停止したという事実を認識しても、心のどこかで感じていた不安が拭いきれなかった。周囲には倒れた敵兵の姿が横たわっており、彼女の息遣いだけが静かに響く。
「ケイ…。」
その名前が、アリスの口から無意識に漏れた。ケイは一体どこにいるのか。彼が無事であるかどうかを確認する術は、今のアリスには全くなかった。システムを停止させたことで、少なくとも世界の崩壊は避けられた。しかし、ケイがその後どうなったのか、その状態については分からなかった。
アリスは、戦闘の余韻を残しながら立ち上がり、ケイの元へ急いだ。周囲に散らばる仲間たちも、彼女の姿を追うように動き出した。アリスはそのまま、ケイがいるであろう場所へと足を進める。途中で仲間たちに声をかけられ、少しの間立ち止まることがあったが、心の中でそれを無視し続けた。
「ケイ、お願い、無事でいて…。」
アリスの胸は激しく鼓動し、その声が自分に返ってこないことに胸が痛んだ。目の前には、ケイが最後に伝えたメッセージが思い出される。彼の声はかすれており、必死に何かを伝えようとしていたが、それが何だったのか、アリスは未だに理解できないでいた。
その時、不意にアリスの目の前に現れたのは、エリスだった。彼女の顔には深刻な表情が浮かんでおり、どこか疲れ切った様子が見て取れる。
「アリス、無事だったのね…。」
「エリス…」
「ケイのこと、気になっているわよね。」
エリスの言葉に、アリスは少し驚いた。エリスは、まるで彼女の心の中を読んだかのように、正確にその気持ちを言い当てた。
「うん…ケイが、あの後どうなったのか、全く分からなくて…。」
アリスの声が震え、思わずその目を閉じた。彼女は、ケイが無事であることを信じていた。しかし、その信じる気持ちが、逆に不安を増幅させていった。
「わかるわ、でもケイがやったことは、無駄じゃなかった。」
エリスは静かに言った。
「システムの停止を実行する前に、彼は自分の体力を限界まで使い切った。だけど、最後まであきらめなかった。」
その言葉が、アリスの心を少しだけ落ち着かせた。ケイがあきらめずに戦い続けたこと、そして彼が最後に選んだ行動が無駄でなかったこと。そのことを確信し、アリスは改めて強くなったように感じた。
「ケイは、最後の最後まで私たちを信じて戦ってくれたんだ。」
アリスはしっかりとそう思った。
「だから、私も、最後まで諦めない。」
エリスは微笑んだ。
「そうよ、アリス。ケイを信じることができるなら、私たちも彼を信じよう。」
その時、突然、遠くから足音が聞こえてきた。アリスはすぐに振り向き、その方向を見つめると、そこに現れたのは…ケイだった。
「ケイ!」
アリスは思わず駆け寄った。ケイは少しふらつきながらも、しっかりと立っていた。その顔は、疲れきっているものの、目には何かしらの決意が宿っているように見えた。
「ケイ、あなた…本当に無事だったの?」
アリスはそのまま、ケイの顔をじっと見つめた。彼はうなずき、弱々しい声で答えた。
「うん、なんとか…ね。でも、システムが停止する直前、少しだけ命が…」
ケイの言葉は途中で途切れ、彼は少しだけ息を呑んだ。その表情には、言葉にできない痛みが隠れているようだった。
「ケイ…無理しないで。もう、大丈夫だから。」
アリスはケイを支え、彼の体を支えるように腕を回した。その瞬間、ケイは一瞬だけ微笑み、その後に疲れ果てたように目を閉じた。
「アリス、ありがとう。君がいるから、俺は…まだ、戦えている。」
その言葉に、アリスは何も言わず、ただケイを支え続けた。彼がどれほど辛い状況にあったのか、アリスには想像ができなかったが、その表情から何かを感じ取っていた。
しばらくの間、二人は言葉なく、ただ寄り添っていた。その静寂が、二人の心を少しずつ癒していった。
「ケイ、私たち、まだ終わっていない。」
アリスは、しばらくの沈黙の後、静かに言った。
「システムを停止させたことで、少なくとも崩壊は防げた。でも、これからが本当の戦いだと思う。」
ケイは少し驚いた顔をしたが、すぐにそれを理解した様子でうなずいた。
「そうだな、これからが本当の試練だ。だけど、俺たちなら、きっと乗り越えられる。」
「そう、私たちなら。」
その言葉が、二人の心を再び一つにした。困難な状況の中で、アリスは確信した。彼女は決して一人ではなく、仲間たちと共に歩んでいる。そして、ケイと共に、これからも戦い続けることを。
「私たちの未来は、まだまだ続いているんだ。」