第十五話:絶望を超えて
管理中枢の扉は、重厚で冷たい金属の表面に無数のセンサーと警備装置が組み込まれていた。アリスはそれを見上げ、息を呑んだ。彼女の心臓は高鳴り、足元がふらつく感覚を覚えた。これまでの戦闘で疲弊しきっていたが、もう後戻りはできない。ケイが決して手を引かない限り、彼女は絶対に諦めない。
「扉は厚いけど、センサーを無効化する時間はない。急ぐわよ。」
アリスはすぐに指示を出し、仲間たちに戦闘の準備を命じた。
ケイの精神状態は、依然として厳しいままだった。ネットワークへの侵入を続けているが、その負荷は時間が経つにつれて増している。彼の意識が崩れかけていることをアリスは感じ取っていたが、彼に依存している以上、どんな危険を冒してでも進まなくてはならなかった。
「ケイ、頼むから、無理しないで…」
アリスは小さく呟く。心の中で彼のことを思いながら、操作端末の前に立った。彼女の手がわずかに震えていた。
「アリス…あと少しで…終わる…」
ケイの声が、通信越しにかすれて届く。彼の息遣いが乱れており、言葉を続けるのもやっとという状態だった。
「ケイ、今すぐにでもやめなさい!君の命を賭けてまで、このシステムを壊す理由がどこにあるの?」
アリスは必死になって叫んだ。しかし、ケイはしばらく黙った後、ゆっくりと答える。
「俺は…君に、みんなに、最初に言ったことを守るためにやっているんだ。守るべきものを守る。そのために、俺はどんな犠牲も厭わない。」
その言葉には、どこか誇りと覚悟が滲んでいた。
アリスは自分の胸が痛むのを感じた。ケイはすでに、彼自身が置かれた状況を超えて、強く決意を持っている。しかし、その代償があまりにも大きすぎる。ケイが自己犠牲を払う覚悟を持つことは分かっているが、それが彼の命を削っていくことに変わりはない。アリスはその事実を、どうしても受け入れられなかった。
「お願い、ケイ、助けてあげる。みんなで。」
彼女の声が途切れ途切れに続く。その涙混じりの言葉がケイの耳に届いたのか、しばらくの沈黙が続いた後、ケイが返事をした。
「君を…信じている。」
その一言が、アリスの心に深く響いた。彼女は振り返り、仲間たちに目を向けた。彼女たちは皆、同じように必死で戦っていた。アリスはその思いを胸に、再び前に進んだ。
ついに管理中枢の前に到達したアリスたちの前に立ち塞がったのは、統合機構の精鋭部隊だった。無数の兵士が、冷徹な目で彼らを見据えている。アリスは一歩踏み出し、手に持っていた武器をしっかりと握り直した。彼女の目には決して揺らがない信念が宿っていた。
「進ませて…!」
アリスが叫ぶと同時に、仲間たちが前に出て戦闘態勢を整えた。鋼のような決意を持った仲間たちが、すぐに戦闘に突入した。戦いは激しく、次々に兵士が倒れていく。しかし、数の差は圧倒的で、追い詰められていくのは明らかだった。
アリスは何度も何度も振り返った。ケイの声が、頭の中で繰り返される。「守るべきものを守る。」その言葉が、アリスの中で燃えるように熱くなった。彼女はその信念を胸に、冷静に戦闘を続けた。
しかし、戦況が悪化する中、ついに彼女たちは全員、背後に追い込まれることとなった。戦いの先に見えた絶望的な未来が、目の前に広がったとき、アリスの心に何かが叫んだ。
「もう駄目だ…!」
そのときだった。ケイからの声が再び届いた。
「アリス、後ろだ…!振り返れ!」
その声が、彼女の耳に届いた瞬間、アリスはすぐに反応した。後ろを振り返ったアリスの目に映ったのは、恐ろしい巨大な機械兵が迫ってくる姿だった。間一髪でそれを避けることができたが、その攻撃を避けきれなかった仲間の一人が傷を負って倒れ込んだ。
「何してるの…!?」
アリスは叫んでその仲間を支え起こそうとしたが、今度はケイからの緊急の信号が届いた。
「アリス、今、機構の中央AIが起動する。もしこれを放置すれば、すべてが崩壊する。それを阻止するために、今すぐシステムを停止させてくれ。」
ケイの言葉が次第に激しくなり、彼の精神状態が限界に近づいていることを示していた。
アリスは迷うことなく、仲間に指示を出し、最後の一手を打つ決意を固めた。
「ケイ、待ってて!今、すぐに終わらせるから!」
アリスは、ケイの声を信じ、最後の一歩を踏み出す。