特別の飽和
ダンジョンの環境に依存するモンスターは多種存在している。
その中でゴーレムとスライムというのはその動きがより顕著である。
モンスターの研究において未解明の部分がほとんどではあるが、噂されている理由として、彼らは環境進化するタイプのモンスターであるからという考え方が主流だった。
適応進化とも呼べるだろう。ある程度の知性を持つモンスターは、自らが不利な環境に身を置いた時、その解決を外部の要因によって行う。
例えばゴブリンやコボルトなどの人型、獣型、というのは武器、装飾品、衣服、など知恵を用いて生活を営む。
他のモンスターも、何か道具を利用して解決を図ったり、その環境から移動する事を選ぶケースが多い。
しかし、ゴーレムやスライムといった、知性が低く道具の使用も見込めないモンスターにとって、自らの不利を解決する方法はたった一つしかない。
それがその環境に適したものになる事だった。
綜馬の前に立ちはだかるゴーレム。ゴーレム自体は2度目だが、単独での遭遇はこれが初めて。
それに、前見た個体よりずっと大きい。6階層は両手をいっぱいに広げて少し余白ができる程度の道幅と、3メートル無いくらいの高さの道がほとんどで、例えゴーレムが出ても、自分の背丈と同じくらいだろうとたかを括っていた。
けれど、目の前にいるゴーレムはその道いっぱいに全身を潜ませ、身動き取るのもやっとのようだ。
ゴーレムを前に一人で戦う事は初めてだったが、これは幸運な事だと言えるだろう。それこそ環境によってゴーレムの危険度は千差万別。
上級探検者であっても苦戦を強いる事など多くある。そのため、身動きが取れず、動きが遅くて大振りな攻撃しか出せないゴーレムの危険度は相当低い。一撃に気をつければ対応は簡単だった。
ただ、腐ってもゴーレムはゴーレム。耐久力は侮れない。「朔」が攻め切れていないように、斬撃や生半可な打撃では意味をなさない。
高火力を一点にぶつけるか、精度の高い打撃を時間かけて行うか。普通であれば、チャンスに思えるこの出来事も断念する人は多いかもしれない。それは単純に物資の問題があるからだ。
レアスポーンとはいえ確実に良いアイテムを落とす保証などなく、そればかりか数日付きっきりの攻略になりかねない。普通に考えた場合大損する可能性が高すぎて、チャンスと思えるのは世界中探しても綜馬位だっただろう。
綜馬は鼻から持久戦を覚悟していたため、荷物はすべてここまで持ってきて、攻略する用意を始めた。
最終的には火薬を使った爆破を考えているが、火薬の消費は出来るだけ抑えておきたい。「朔」にピッケルを持たせて四肢を重点的に破壊するよう指示する。綜馬はさっきの採掘した鉱石類と、「カンジ」が回収したアイテムをひとまとめにして倉庫にしまいやすいように分別し始めた。
「朔」、「カンジ」ペアの成果は思っていたよりも良く、ドロップアイテムの上振れもあるだろうが単純に量が多かった。目当ての消臭石は計56個獲れており、それとは別に今回のダンジョンアタックで願ってもない爆破石3個、金剛石2個を獲れたのはとても大きな報酬だと言える。
爆破石は読んで字のごとく魔力を込めると爆破を起こすアイテム。世界の破滅により火薬という存在が希少になり、その代替品として爆破石は利用される。それに単純な火力補助や、瓦礫処理などにも使われるため爆破石の需要は常に高い位置を維持している。
金剛石も爆破石と同じように希少性の高い鉱石ではあるが、爆破石との違いは用途が限られているため、希少性は同じくらいでも価値という点を見れば見劣りしているかもしれない。
しかし、上級探索者や冒険家からすると喉から手が出るほど欲しい素材とも言われており、状況に応じては金剛石の方に値が付く事もある。
綜馬が倉庫で作業している間、「朔」は「カンジ」の的確な指示の下、四肢の破壊に努めていた。この時、綜馬は「朔」への認識を一つ勘違いしていた。本来の装備ではなかなかゴーレムにダメージを与えられず、武器を変えたとしてもそう簡単には破壊することは無理だと。
綜馬が倉庫にはいって5分経った頃、ちょうど爆破石の一つを見つけて興奮しているくらいのタイミングに「朔」はゴーレムの四肢を完全に破壊し終えていた。綜馬は「朔」の能力を完全に勘違いしていて、見誤っていた。
ひとまずの分別や、作業を終えて倉庫から出る。綜馬自身もゴーレム削りをしようと大きめのピッケルと、爆薬を2つ持って空間魔法から抜けた瞬間つい声を漏らす。
「えぇ、なんだこれ、」
目の前にはほとんどコアだけの状態になっているゴーレム。数十分前に見たあの厳つい雰囲気などなく、ただの球体が眩い光を放ち転がっているだけだった。そしてその傍らには「朔」と「カンジ」 。心なしかどちらとも誇らしげな表情を浮かべて佇んでいる。
綜馬は反応に困りつつ、数分前までゴーレムだったそれに触れる。触れる度、発光は強くなり、鼓動のようなものが感じ取れる。綜馬の想像していた姿とは180度変化したゴーレムを前に綜馬は頭を悩ませる。
それは生き物を前にした時の躊躇い。対等に命を奪い合う対象同士なら特に深く考える必要はなかったが、この球体は温かく確かに反応を示し続けている。無機物ではあるが生きているという事は何の違和感もなく受け入れることが出来た。
ここで綜馬はひらめく。普通の生き物であれば空間魔法に入れる事は難しい。空間の持ち主である綜馬と、中に入る対象の許可がない限り空間魔法で作られた世界には入ることが出来ない。
そのため、ほとんどの人に心を開かず、開いていたとしても全てを語ることはありえないと思っている綜馬にとって、自分の空間に誰かが入ってくるなんていう想定は無かった。
しかし今回に限っては生物ではあるが意志のない存在。正確に言えば意志はあるのだろうが、それは創造主であるダンジョンの意志。つまり、その所有権さえ奪ってしまえばこのゴーレムの主は綜馬に変わるというわけだ。
とりあえず物は試しだ。仮に失敗したとしても大きな問題につながるなんてことはないはずだ。とフラグのような考えを浮かべながらも、ゴーレムのコアを空間魔法の世界に送る。
失敗するだろうなと考えていたため、すんなり目の前から消えていくのに驚く。
空間魔法のなかに綜馬も入り、ゴーレムのコアを手に取る。こぶし大の球体は外で持った時と同じように温かみを持ちながら発光する。外との違いはその光の色が赤から青色になっていたことだけだった。
理由は単純でなんとなくだった。コアに魔力を込めて見た事で見慣れないウィンドウのようなものが現れる。そこにはゴーレムコアと、マスター:綜馬と書かれているだけで、ほかに目ぼしい情報は乗っていなかった。
綜馬はこのゴーレムについて色々考えて、出来る事なら戦力にと考えていたがもう帰路に着く時間だった。
わざわざここでやらなければいけない事でもない。綜馬は「朔」と「カンジ」を消して、ダンジョンから出た。外はまだ明るかったが、空気は涼しさを含んでいて夜の香り近づいてくる頃合いだという事を五感で読み取った。
その後、綜馬は余計な戦闘を避けるためにもいつもより強めに隠密をして家に帰った。久しぶりの冒険は想像していたどれとも違っていて、新しい驚きばかりに溢れていた。
時間にしてはたった2日の冒険が、綜馬のこの先に大きな影響を与える事をこの時綜馬は気付いていなかった。レオやララとの出会いだけでなく、黒い渦のダンジョン、「朔」「カンジ」の【召喚分身】、そして最後のゴーレム。
この世界のはじめてを綜馬がだけが持っているという感覚はとうの昔に消えてしまったのかもしれない。
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