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疾風の竜狩人は……まだタマゴ!  作者: 汎田有冴


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3/7

3.僕はバジリスクのステーキでできたサンドウィッチとコーヒーをトラックに載せて

 食用にドラゴン類を飼育しているところはある。小型のバジリスクの雌雄を含む群を大きな檻で育て、産んだ卵や肉のやわらかい幼体を出荷しているそうだ。でも小型でも子供でもドラゴンはドラゴン。逃げないよう管理と設備には十分お金をかけ、餌も彼らを満足させる量食べさせないといけないから、手間はかかるしその分値段も高くなる。それなのに、そんなに好んで食べられる食材ではない。牛や豚、鶏などもっと需要があって飼いやすい動物がいるから、だんぜんそっちを飼畜する人が多い。

 しかし、ドラゴンの肉は市場でも珍しくはない。ドラゴンは村や牧場を襲う害獣として竜狩人たちにざくざく退治されている。そうして退治された野生のドラゴンの肉が出回っているのだ。

 父さんは骸機乗りからドラゴンの肉をよく貰う。肉質は淡白で美味しくないわけではないけれど、野生の肉は筋張って少々固めなので、僕のうちでは柔らかくするために蜂蜜やハーブを入れた調味液に漬け込む。ここのバジリスクの肉も、一部は調味液に漬けて真空パックしていたので、僕はそれをもらって厨房の一画を借りた。肉を厚めに切って胡椒をまぶし、スライスした玉ねぎと一緒に鉄板で焼いて、更にステーキソースを少々垂らす。同時に食パンの両面も焼いてバターやマスタードを塗り、作った具材を挟めば、我がレイン家のドラゴンサンドウィッチのできあがりだ。



 僕は出来立ての大量のバジリスクのサンドウィッチとコーヒーをトラックに載せて、メイヤさんと護衛隊のランドシップへ出向いた。

 格納庫の出入り口からトラックごと入ると「待ってました!」とグェンジョンさんが拍手で迎えてくれて、格納庫の真ん中にセッティングしたテーブルにサンドウィッチを置いた瞬間から手をのばしてきた。

「すみません。1種類しか作れなくて……」

「うまいうまい。俺、肉大好きよ」

「いい匂いだな。一休みするか」

 地図を睨んでいたアーロンさんや父さん、骸機を整備していたウェルスさん、トトさんも寄ってきた。

 一番食欲がありそうな若者組のカートとアルフがいない。彼らの骸機もないから、ドラゴンの見張りに出ているのは彼らのようだ。

「気分悪い人いない? その傷あとで診ようか」

 メイヤさんがコーヒーを注ぎながら訊ね回っている。

「ライリーが外で見張りに立っている。彼にも持っていってくれないか」

 アーロンさんにそう言われ、メイヤさんはお盆にサンドウィッチとコーヒーを乗せて出ていった。

 もう一人の若者組にして最年少になるルカは、隅に立たせた自分の骸機をまだいじっていた。脚部の装甲を外し、サスペンションあたりに手を突っ込んでいる。半袖Tシャツからのぞく腕に大きな痣ができていた。

 僕はサンドウィッチやコーヒーを盆に乗せてルカに持っていった。

「一息つきなよ。みんな休んでいる」

 ルカはやっと周りの雰囲気に気づいて手を止め、近くの椅子にドカッと腰を下ろした。顔も汗と油まみれだ。

「どこか故障したのか?」

「そうじゃないけど……なんだか思うような動きにならないから」

「焦るなよ。まだ初心者なんだから」

「はあ? 無免許が何言ってんの」

 ルカはカチンときたようだが、おしぼりで手を拭いてサンドウィッチをかじるとすぐに表情がゆるんだ。

「リオンは竜狩り隊を回って弁当届ける骸機乗りになりなよ」

「いやだよ。儲かりそうだけど」

「言うと思った。あんな風になっても知らないから」

 ルカ機の向かいにはひしゃげたバルジ機が座っている。左腕に付いていた小盾は飛ばされて、腕と脇が中のフレームごと“く”の字に曲がり、ドラゴンの足か尾の攻撃をもろに本体にくらってしまったことが分かる。歪んだフレームはここの設備では治せない。砕かれた装甲は外され、傷ついたワイヤーや機関の合間からコクピットボックスの壁が覗いている。壁は少しへこんだだけ。パイロットはハーネスで固定されていただろうが、衝撃が大きすぎたのだろう。

「ルカだって危ないのは同じじゃないか」

「私はバルジさんみたいに甘くないもの。ドラゴンが動き出した時、アルフが骸機から出ていて襲われそうになって、バルジさんがかばったんだって。まったく……」

 僕がバジリスクに襲われたとき誰が飛んできたかを言いかけたが、飲み込んだ。「それが仕事」の一言で終わるだけだ。ルカが竜狩人に憧れた理由は僕と同じ、人を守る事をさりげなくこなしているから。現代に蘇った骸機はそんな人達の相棒にして守護者。役目を果たしても、黙して再び立つ時を待つのみ。このバルジ機のように。

「父さんが言ってたけど、ベテランのバルジさん、そしてコクピットを頑丈に作るマシューさんの骸機じゃなかったら死んでたかもって」

 うわぁ……フェロレプスよ、彼らを守り給え。

「バルジさんの穴、私たちで埋めなきゃ。アルフの穴ならよかったのに」

 さり気なく怖いことを言う。聞き流そう。

「そんなときにはウェルスさんが代わりを務めるんじゃなかったっけ。骸機も持ってるだろう」

「今ここにはないよ。マシューさんの工房になかった?」

 フェロレプスがうちにあったっけ?……

 テーブルでもウェルスさんの骸機の話をしていた。

「わしの骸機はまだかかるかい。骨董品だから仕方ないが」

「ああ。思ったより時間がかかってしまってね。でも帰ったら新品同様にして返すよ」

 ハハハハ──空笑いしている父さんがこっちに鋭い視線を投げてきた。

 ルカが不思議そうな顔で首をかしげる。

 しかし、僕は察した。視線の意味はこうだ。


 《オ マ エ ガ コ ワ シ タ ヤ ツ ‼》


 ああ、工房にあったまだ装甲をつけていない最新機関で組まれたネイキッド骸機に胸が躍ってコックピットに入ったのが運の尽き!

 二三歩歩いて戻るだけがバランサーの未調整で工房内を大暴れした挙句、背面からクレーンに倒れこみ、フックに串刺し状態にしてしまったアレが、もう少しで背骨のフレームを真っ二つにして再起不能にしてしまうところだったアレが……アレがウェルスさんのだったか。

 胸がぎゅっと締め付けられ、かじっていたサンドウィッチが喉を通らなくなった。

「……これ、やるよ」

「食べかけなんていらない。急にどうした」

「……前は、食ってたろ」

「五歳のころのことはノーカウントにして」



 バルジさんの代わりはいる。でも、骸機がない。エマさんたちの骸機はドラゴンと渡り合える力は出ないし、四脚だけが骸機のトラックは問題外だ。

 そして、カーゴにある掘り出されたばかりの骸機には、まだ蘇りの術をかけられていない。

 荷物を積むスペースから仕切られた特別室に、まだ土くれのようなフレームが一体分ごとまとめられ、壁際に並んでいる。計五体。

 たとえ動けるようになっても沈黙を貫く同志のはずなのに、変わり種の一体が催促する。

 魔法を解け。拘束の魔法を。

 真正面から受け止めると、左の機械眼がわしづかみにされたように痛む。

 そしてまた、眠る。たぶん、一万年繰り返している。




 左眼を押さえながら五体の骸機の前に立っていると、特別室の鉄の扉が重々しい金属音をたててスライドした。

「その化石がお気に入りのようだな」

 人一人分の隙間にキアンが巨体をねじ込んで入ってきた。

「電磁錠をぶっ壊しやがって。懲罰もんだ」

「鍵なんかかかってなかった。ドアを引いたら開いたんだ。てっきり誰かいるのかと思ったのに」

 これは本当のことだ。代わりになりそうな骸機のことを考えながら、何気に立ち寄っただけだ。

 キアンはキーロックのボタンをいくつか押したあと、頭を掻きながらボタンの少し上に付く防犯カメラをのぞき込んだ。

「くそ。早い寿命だな」

「骸機が壊したのかもしれない……」

「なんだって」

「キアンには分からないのか。同じ機械の眼を持っているのに」

「くそ。出ていけ。ここの骸機はウォンバル公のものだ」

「持って帰れないかもしれないよ。また、ドラゴンに襲われたら」

「持って帰るさ。アーロンたちが盾になっているうちに、俺が──」

「その盾が足りないかもしれないぞ」

 突然父さんが割り込んできた。細い体でするりと隙間を抜けてきた。

「まさか、お前が鍵を壊したんじゃなかろうな」

「私は鍵のナンバーを知っている。ちょうどお前さんに話があって来た」

「ここの骸機をよこせと言うんじゃないだろうな」

「まさにその通りだよ。トトの骸機も調子悪くてね。予備パーツを確認したところ、一体ぐらいならなんとかなりそうなんだ」

「親子そろって盗人か! ここのものはウォンバル公のものだと言っているだろう!」

 キアンは青筋をたてて怒鳴ったが、父さんは冷静に話を続けた。

「ドラゴンが来れば、置いて帰ることになるやもしれん」

「ふん。置いて帰っても、ドラゴンは骨は食わん!」

「それじゃあ、ウォンバル公は納得しないと思うが」

「出てい……」怒鳴りかけたキアンが、唐突に無表情になって直立不動の姿勢になった。口元だけがもぐもぐと動いている。

 ややあって、疲れた顔になったキアンから溜息と不機嫌な声が出た。

「ウォンバル公からのお告げだ。一体ならここで売るそうだ……」

 目の前で起こったキアンの変化と急に「領主の言葉」を披露され、僕は目を見張った。いつの間にか半開きのドアからのぞいていた作業員たちも呆気にとられている。

「お芝居じゃないよね」

 僕のポロリと出た言葉に、キアンはニヤリとした。

「またその辺を走り回ってもいいぞ。リオン・レン・レイン」その時のキアンの口調はいつものものではなく、玉座の間で聞いたものとよく似ていた。「私はいつでもこの男の目や耳を使える」

 父さんがキアンの姿を借りた領主に向けて片手をあげた。

「私が買い取ります。帰ってからの支払いになりますが」

「それは仕方がない。但し、最も復元率の低い一体だ」

 でも、それじゃ頼りないね……と、聴衆がざわめいた。

「それでいいんですか。一番パワーの低い骸機ってことですよ」

 僕がざわめきの総意をキアン=ウォンバル公に投げかけると、

「復元率が高いと価格も跳ね上がるが、誰の稼ぎを足してくれるのかね……今回の監督と息子の仕事分はもうない……と、いうことだ……」

 ウォンバル公の口調はだんだんとキアンに戻っていた。そして最後に完全にキアンになって静かにポツンと「まいどあり」。聴衆は静かになった。

 父さんが僕の肩に手を乗せた。

「この部屋の骸機なら何とかなる。急ごう。キアンはAの2,3,5の化石を全て持ってきていてくれ」

 ここにある五体の骸機のうち2、3、5の番号を振られた骸機の復元率が拮抗しているのだ。僕の骸機は〈5〉と付けられている。

 キアンが体を引きずるようにゆっくり歩き出し、扉付近の作業員を払いのけながら出ていった。倉庫の壁に並ぶ保存ケースのラベルを確認しながら、ケースをいくつか引き出す。

「手伝うよ」

 僕はキアンに駆け寄った。部品を隠すチャンスかもしれないという理由。だが、ひどく苛ついたキアンに睨まれて近づけなかった。キアンは一人で数ケースを運んで、石ころにしかみえない中身をそれぞれの骸機の前に並べた。

 父さんは復元率測定器というべきショルダーバックほどの機器を持ってきて、本体とカールコードでつながれたスキャナーを骸機に向けた。

 紫の光が骸機の上をなぞっていくと、本体に数値が出る。〈2〉-75.5 〈3〉-75.2 〈5〉──本体がガガッと鳴って画面にノイズが走った。僕の機械眼の痛覚はくすぐられた程度だが、測定器はうんともすんとも言わなくなる。父さんは代わりの機器を持ってきた。〈5〉-75.35 ……僕は肩を落とした。キアンはすぐに2と5の化石をしまい始めたが、途中、チッと舌を鳴らした。

「握りつぶしてしまった。5番の部品だ」

 キアンの拳からボロボロと骨の屑がこぼれた。

「あいつが来た後は体の制御がおかしくなるんだ」

 父さんが測定器を片付けながら苦笑した。

「じゃあ、5番の復元率が下がったな。これで決まりだろう」

「こんな不気味な骸機、城も要らんさ」キアンは3の部品をそっと握ってケースになおした。「とっとと持って出て組み立てろよ」

 僕は急いでクレーンを用意し、他に何も起こらないうちに、5番のフレームのトラックへの積み込みを開始した。雑用係はクレーンもうまく動かせるようになる。



 5番のフレームが全てランドシップの格納庫に運び込まれると、父さんはすぐにこの骸機の復元にとりかかった。

 僕は〈5〉と銘打たれたレンの骸機が、また僕の眼を傷めるように周辺機器を壊すのではないかと心配で、小道具を運ぶふりをしながら〈5〉のフレームのクリーニングに勤しむ父さんの周りをうろついたが、今のところそんな気配はなく、こびりついていた土を柔らかいドリルで落とされたフレームは順調に組み立て作業へと進んでいく。

 父さんが復元作業にかかりっきりになると、発掘チームをまとめる監督業は自然とアーロンさんが肩代わりすることになった。

 アーロンさんはカーゴシップに渡り、キアンを呼んだ。傍にいた作業員が笑いながら言った。

「もうキアンじゃねぇ。『領主様』って呼ばなきゃな。城勤めのハーフマキナは、自分を売って機械の力を貰ったっていうのは本当だったんだな」

「何がきっかけかはそれぞれだろうがね」

「あいつも領主様の分身かい?」

 顎で指されたのは、カーゴの隅で聞き耳をたてながら父さんから頼まれた道具を探す僕。

 アーロンさんは肩をすくめて「あの子に眼を与えた領主はもう死んでいるよ」

 船橋からキアンがのっそり降りてくると作業員は奥へ消えた。アーロンさんはキアンとしばらく話をしていた。

 斥候のカートたちから連絡が入ると、他の隊員たちの動きも活発になった。アーロンさんの指示を受け、警備担当の二名を残し、他は骸機とともに出ていった。

 夕刻が近づき、ドラゴンの襲来を気にする声が聞かれるようになると、アーロンさんはドクトル・エマの許可を得て、カーゴシップを少し動かすようキアンに頼んだ。

 僕がランドシップの厨房でドラゴンサンドウィッチを作りながら外を眺めていると、古いカーゴシップは重々しい軋みで鳴きながら浮上し、ゆっくりと90度回転した。それから、カーゴを見守るアーロン機と散歩を楽しむかのように乾いた草原をのんびりと進み、五百メートル先の岩山の影にどっかと腰を下ろした。

 帰り道は行きの倍以上の日数がかかりそう──僕の溜息と同時にアーロン機の装甲からプラズマの残光がシュッと漏れた。

 外に出ていた隊員たちが次々と帰ってき始めたので、出来立てのサンドウィッチを抱えて格納庫へ降りた。

 日が没して、サバンナに麗しい紺の幕がおりたころ、ウェルスのアナウンスが、最後の隊員カートとアルフの帰還を告げた。

『おーい格納庫ー。奴さんたちが熱望しているシャワーの用意はしてあるかい?』

 ルカが高圧洗浄機の太いホースを引きずりながら飛び出していく。それと同時に星明りが点りだした夜空の下から、バーニヤの光を反射するホバリングの土煙が二つ向かってきた。

 二人の骸機はランドシップの手前で止められた。骸機には木の枝や泥がこびりつき、ひどい匂いもして、とても格納庫に入れられたもんじゃない。そして、コクピットが開いて、匂いの元のパイロットが降りるか降りないうちに、ルカが高圧洗浄機の水鉄砲を二人に浴びせた。

 アルフとカートは悲鳴をあげて逃げ回ったが、ルカの操る水流は器用に二人を追った。

「まだこっち来ないで! やだもう! 服全部捨ててきてよ!」

「それ骸機洗うやつだろう! 人間に向けるんじゃねー!」

「これでも帰りに川に飛び込んできたんだけどなー! 着替えください、着替え!」

「落ち着けよ、ルカ」

 ルカに近づこうとしたら、僕まで狙い撃たれた。

「臭くなくなるまでこのノズルは渡さないからね!」

 ルカの血走った目とにらみ合っているとグェンジョンさんから普通のホースを渡された。

「ほい、人間用。あっちに石鹸とタオルあるから、よーく洗ってやって」

「き、着替えは」

「自分の部屋にあるっしょ。ルカ―、水は節約しろよ」

「イエッサー」とルカは低い声で返事をして、水流の向きを骸機へ変えた。

 僕もグェンジョンさんに言われた通り二人にボディーソープのボトルを渡し、なるだけ息をしないようにしながらホースの水を浴びせた。

 速攻で服を脱いだカートとアルフは、ボトルを奪いあいながら中が空になるまで頭から液体シャンプーをかけあった。

「二頭の様子を見てこいって言われたのは知ってるけど、糞だまりにでも隠れてたんですか」

「匂い消しだよ、匂い消し! ぐああ!」アルフが狂ったように頭の泡を全身に塗りたくりながら喚いた。「くっそう! 擬態するのは骸機だけかと思ったのに」

「あの時、状況から考えるに、お前が奴らの風上に行ったから奴らの目が覚めたんだよ」アルフより竜狩り生活が長いカートが余裕の先輩風を吹かす。「竜の嗅覚は鋭い。念には念を入れないとな。お、このシャンプー、ルカと同じ匂……ぼはぁ!」

 余計な事まで口走ったカートが、高圧の水流を受けてふっとんだ。振り返ると、ルカはもう何事もなかったように骸機を洗っている。でも、今のは間違いなくアーロンさんより正確な早撃ちだ。

 ルカの視線はカートたちが引きずってきた骸機の腕に移っている。カモフラージュ用の材料に使ったのかと思っていたが、自分の骸機でカートたちの骸機の汚れを払っていたライリーが、自分たちのものではないそれを片手でブランと持ち上げてみせた。

「ここにドラゴンの噛み傷があるねぇ」


 やっとルカに合格点をもらったカートとアルフは、腰と頭にバスタオルを巻いただけの姿で格納庫のテーブルに走って行き、皿の上のドラゴンサンドウィッチを夢中で口に押し込んだ。

 カートとアルフは、二頭のドラゴンのかたわれに付けた発信機を頼りにその足取を追っていた。状況は逐一無線で報告していたそうだが、カートが改めて追跡の様子をみんなの前で話した。今、みんながちょっと距離を置いて二人を囲んでいるのは、食べるのと話すのを同時にやるせいで、ソースが飛んでくるからだ。

 レーダー上では、ツインズ──仮の呼び名だから単純だ──は、サバンナを横切る河を越え、より乾いた草原にある小高い丘に降りていた。カートたちは骸機で河を越え、草原に出ると、骸機が隠れるほどの木や岩陰がなくなったので、骸機を降り、徒歩で丘に近づくことにした。身をかがめながら草原を渡り、丘で休むツインズを双眼鏡で捉えられるところまで来た時、ツインズは再び飛び立った。

「見つかったと思ったね」アルフ、サンドウィッチを頬張りながら。「でもこんなくっさいもん食えるもんなら食ってみろとも思ったけどよ」むしゃむしゃ、もぐもぐ。

 ツインズは二人の頭上を越え、僕らのいる方角から60度ほど東の空へ消えた。発信機は丘の上で外れてしまっていた。二人の無線で、アーロンさん達は襲来を警戒していていたが、今のところツインズの姿はこの辺りにはいない。

 二人はツインズの根城まで登ってみることにした。散らばる彼らの食事の残りかすの中に、骸機の残骸とバラバラになった人骨が含まれていた。完全に人喰いの本能に目覚めたドラゴンの巣だった。

 カートはコーヒーをごくごくと喉に流し、話を続けた。

「巣は新しくて、ずっと前からいたって感じじゃなかったですね。やっぱりベナトルがいなくなってから来たんですよ。持ってきた骸機の腕は丘の近くに落ちていたもので、結構最近やられたものみたいだから、これも彼らの犠牲者のものじゃないかと」

「記録がないということは……」アルフはまだサンドウィッチを離さない。「俺らのようにギルドに属する竜狩り隊ではなく、非正規か、単機の狩人で、会った奴全員食われたパターンかもな」

「結論として、あの二頭のダメージは少なく、まだ元気に飛び回っていて、人食いの本能が強いから、まだこっちに来る可能性が高いと思われます。以上!」

「俺はまあまあ弱っていると思う。こっちにまっすぐ来ないのも、やっぱビビっているからだ。バルジさんがしっぽを、俺が翼を刻んでやったからな。飛びにくそうにしていた」

「おいおいアルフ君。先輩の意見は尊重してくれよ」

「俺が尊重するのはアーロンさんやバルジさんで、変なもんをニコニコしながら擦り付けてくる奴は狂人としか思えん」

 にらみ合うカートとアルフの肩をアーロンさんは同時にポンとたたいた。

「二人ともご苦労。おかげで帰りの計画を遂行する決心がついた。いいな?」

 集まっていた隊員たちと父さんが頷いた。

 僕は父さんにたずねた。「何をするの?」

「まずは引っ越しかな。アーロン、みんなへの説明は頼む。俺は今は復元師だ」

「しょうがないなぁ」

 アーロンさんは頭を掻き掻き歩き出した。それをきっかけに他の隊員たちも動き出した。自分の骸機や船の運転室の方へ。半裸の二人は肩をぶつけ合いながら自室への階段を上がり、父さんは組み立て途中の骸機の所へ踊るように帰った。

 僕は、アーロンさんの広い背中を追いかけることにした。何が始まるのか分からないと、やるべきことも見えてこない。

 アーロンさんは自分の骸機に乗りこんだ。これで離れてしまったカーゴシップの方へ行くつもりなのだ。

「アーロンさん。僕も行くよ。乗せて!」

 僕が空っぽの大皿を持って足元で叫ぶと、アーロンさんは四本爪の大きな手で僕をすくいあげてくれた。

 のしのしと歩いて開けっ放しの格納庫のドアをくぐり、ホバリング走行に切り替える。速度はかなりのんびりめ。僕に気を使ってか、いやいや、肩のライトを頼りに岩やブッシュを避けるためだ。急に横スライドして、持ってきた皿を割りそうになった。だだっ広いサバンナだけど、真っ平らじゃない。

「なあ、リオン」

 かなりボリュームを抑えたマイクでアーロンさんに呼びかけられた。

「俺は、分かっていると思うが、大勢の前で話すのは苦手なんだ。緊張してぼそぼそと話しちまう。代わりにみんなに説明してくれないか」

「代わりに説明するって、僕はなんにも知らないんですけど。『引っ越し』ってなんですか」

 引っ越しというのは、カーゴに乗っている作業員の大部分をアーロン隊のランドシップに移すという意味だった。これでカーゴシップは今の鈍足より20%速くなると、ウェルスさんが計算した。四日かかる帰りが三日ほどになる。当然ランドシップは重くなるが、もともとアーロン隊の船はカーゴより新しくて馬力も出るので、大勢乗っていてもカーゴより早いし、警備の問題上カーゴからはあまり離れられないから、多少遅くなっても問題ない。ただ、さすがに小回りはきかせられないので(例えば、砲身を竜へ向けようと急ターンしたりすると、ぎゅうぎゅうで乗っている人の身が危ないということだそうだ)『アーロン隊の支援』という船の役目は捨てることになる。

 カーゴシップに着くと、作業員を集めた前に僕が立って、この引っ越し案を話した。雑用係の仕事って幅が広い。アーロンさんは僕の後ろでいつものように腕組みで立っていたが、天井をみたりうつむいたりと居心地は悪そうにしていた。

「──というわけで、ランドシップが自由に動けないということは、若干戦力が低下するということですし、ランドシップに乗る方々は、格納庫に雑魚寝という形になりますので、今以上にプライバシーはなくなることになります。それに、全員が乗れるわけではありません。カーゴシップを動かす分の人数は残ってもらわないと」

「俺はカーゴに残るぞ」と、キアン。「俺がいないとカーゴは動かない。カーゴが動かないと発掘物を持って帰れない。発掘物がないと賃金が出ない」

 ざわつく集団から手が上がる。

「質問。アーロンさん達はどうするんですか」

 僕がちらりとアーロンさんを見ると、アーロンさんはやっと口を開いた。

「基本全員骸機で船の周りにいる。ランドを運転するのは主にウェルスだ。補給や整備の必要があるときだけ交代で船に寄らせてもらう」

「ランドシップだけ早く走って帰ったらだめ?」

「カーゴシップの人間も守る範疇だ。二隻固まってくれた方が俺たちが分散しなくて済む。どっちを狙うかはドラゴン次第なんでな。カーゴが狙われている間にランドが全速で独走するのもありかもしれんが、相手は二頭だし、ランドもドラゴンを振り切れるほど速くはないからな」

 アーロンさんの言葉を聞いて、周りのおしゃべりが増していった。

「命が助かるならお給料なくてもいい気がしてきた」

「お金はいるよ。働いたんだから。早く帰れるなら、三日窮屈でも我慢する」

 各班の作業員の思いを聞いていた班長クラスたちが結論を出した。

「船に分散して乗ることに異論はなさそうだ」

 僕とアーロンさんは顔を見合わせてほっと息をついた。アーロンさんは班長の一人一人に握手していった。

「分け方は任せていいか。一刻も早く出発するために、ランドに戻って、格納庫にスペースを作る準備をしたい」

「わかった。それはキアンとこちらで話し合おう」

「あと、キアンにさっききいたんだが、三日も我慢しなくていいかもしれない」

「というと?」

「城の対ドラゴン兵器の射程内まで逃げられれば、一息つけるということだ」

「滅竜砲と聞いている」キアンが言う。「具体的なことは俺も知らんが、このスピードだと大体二日くらいで射程に入る。城に準備は願い出ておく。さあ、俺とカーゴに残る精鋭はだれだ?」


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