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疾風の竜狩人は……まだタマゴ!  作者: 汎田有冴


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1/7

1.生き続けたドラゴンと一万年後に蘇る兵器

 僕が呼び声を見たのは、発掘現場に来てもう二週間ほど経った日の真夜中だ。

 左目の機械眼がうずいて目が覚めた。微弱な波動に引かれて、父さんと寝泊まりしているテントを出た。

 満天の星空を覆う枝葉の影から岩山の白い肌が飛び込んでくる。それは両目で見える。

 そこから放たれる小さな波は左目にのみ映り、左の視覚を揺らす。右目には映らないし動かない。そういう左目のみの世界は大抵無視している。誰とも共有できない世界など意味はない。だが、幸い夜は一人。目を背けなくてもいい。

 ベースキャンプを張った林の暗闇を、波を頼りに歩いた。ついに林の外れまで来た時、追いかけてきた見張り役に眩しいライトを浴びせられ、波動は強い光に上書きされて感知できなくなった。

「監督の息子か。そこから出るな。バジリスクに食われるぞ」

 言われなくても分かっている。ここから先は身を隠すところのないサバンナだ。

 見張りにひっぱられながらテントに帰ると、父さんが起きていた。

「どうしたリオン。眠れないのか」

「目が痛くなって起きた。ここ……ここに何かありそう」

 僕は壁にかかっている地図でさっき見た岩山を指さした。父さんは目の世界を分かってくれる数少ない人だ。父さんは僕が示した箇所に赤ペンでバツ印を付け、あごを手でこすりながらしばらく凝視していた。

「そこも古い地層が露出している。今やっているところが済んだら行ってみよう」

 父さんは復元師だ。昔の地層から発掘したものを、今でも使えるように組み直す仕事をしている。

 昔の文明は今よりうんと進んでいた。進んでいたというか、僕らが退化したといったほうがいいのか。人間が操っていた科学技術、それを基にした生活様式は、一万年前を境に激変したのだと学校では習っている。技術が全て失われたわけではないけれど。

「あなたの機械眼は現代に残った数少ない技術ですよ」と、先生は優しく僕に語った。どうも昔の人間は体のほとんどが機械でできている機械人(マキナびと)だったらしい。

 その進んでいた文明の面影は、領主様の城に色濃く残っている。

 僕らの家は木やレンガでできているけれど、町の中央にそびえる城は、そんなものとは全く異質のピカピカの金属製で、継ぎ目も見当たらない円錐形の集合体だ。内装も、よく分からないひねくれかたをした巨大なオブジェが迎える入り口から進むにつれ、どんどん簡略化されていく。

 城の主、スゴン地方を300年治めているウォンバル公は滅多に民衆の前にでなかった。僕も〈領主様は機械人(マキナびと)だ〉という噂と教科書に載るエラの張った初老の男の顔しか知らなかった。領主様と一般人との接点は少ない。

 それなのに、どうしてこんなに城の内部に詳しいのかというと、父さんがこのサバンナの発掘調査をウォンバル公から命じられた時に謁見の間まで通してもらったからだ。

 謁見の間のドアは、壁よりマットな鉄板だった。左目でもよりマット感が濃くなるくらい。その黒いドアが二つに割れて謁見の間に入ると、壁は空と同化していて、つるつるの床が空に浮いているように演出されていた。僕が演出だと分かったのは、左目では天井高いだだっ広い部屋だったからだ。でも人によっては驚き、威圧されるかもしれない。父さんとアーロンさんが落ち着いた表情を変えなかったのはちょっと誇らしい。

 部屋の奥には、黄金色で背もたれに放射状の装飾の付いた玉座。そこに鎮座したベルベットで飾られたチューブと銀の塊。左目では塊の隙間からチカチカと瞬く光線が出て、僕らの首に下げている認識票に当たってはじけている。その両隣に僕より機械構成率の高いハーフ機械人の近衛兵。これは時々城の塀を行き来しているから誰もが知っている。

 父さんが一礼すると、銀の塊が頭をもたげ、初老の男の顔が出た。椅子につながれて自由を奪われた何かかと思ったが、領主ウォンバル公で合っているようだ。

 発声は口でしているようだけど、低い肉声にキシャキシャと金属がこすれるような高音が混ざってちょっと耳障りだった。

「マシュー・レイン……復元師としてよい腕を持っていると聞いた。息子のそれは、お前が施術したのか」

「いいえ。サマの当時の領主様です」父さんが直立姿勢で答えた。「赤ん坊の頃、住んでいた村がドラゴンに襲われ大怪我をいたしまして。その時、温情を賜りました」

「そのようだな」

 認識票を読めるなら、父さんに聞かなくても事情が分かるはずなんだけど。

「そして、アーロン・ダイス。最新の記録は……北の翡翠竜を討伐している。自分の部隊のみで。それはたいしたものだ」

 褒められてもアーロンさんは広い胸の前で腕を組んだまま。ずっと領主様を睨みつけているようだ。

 僕達と玉座の間の床に、スゴン地方の地図が投影された。

「説明しよう。近くに寄りなさい」

 床は僕たちの姿が鏡のように映りこむほどつるつるしている。それなのにグリップがきいていてすべったりはしない。試しに走り回ってみたかったけれど、大事な場面でそんなことをするほど馬鹿じゃない。それに、地図の方へ足を踏み出す直前に、

「走ってみてもいいんだよ。リオン・レン・レイン」

 突然ウォンバル公から名前を呼ばれて飛び上がりそうになったのだ。

「い、いえ。結構です」

 体がこわばって心臓も止まるかと思った。公は薄ら笑いを浮かべて、地図にまたレーザーを飛ばした。

「お前たちが行くのは南方のこの辺りだな。記録によると、ここは一万年前の激戦地で、今もその名残が息づいている。あまり刺激したくないのだが、移民が多いせいで昨今資源不足なのだ。そして、そなたの出した企画書の通り、今は好機らしい。我々の調査でもその時期は二か月ほどのようだが……アーロン。やはり、この忌々しい獣を倒すのは難しいかね」

 アーロンさんの眉がピクリと動いた。

「それなら、まったく別の準備が必要です。もっと大規模な船団を組む、城の武装を使う……私は臆病なので、人の町を襲わない限りこんな大きな相手に挑んだことはありません」

 ふうぅ。ウォンバル公は人間らしいため息をついた。

「人員、備品の選択はマシューに任せる。予算内であればどうしてもかまわんよ。契約書をよく読んでくれたまえ」

 地図に目を落としていた父さんが頭をあげた。

「私を選んでくださったことに感謝します。必ずやり遂げます」

「主がいない二か月で、城の蔵を満たせ。期待、しているぞ」

 近衛兵に見送られて城の門を出ると、アーロンさんがうーんと伸びをしながら、父さんに言った。

「この仕事を取れてよかったな。あのあたりはお前が前から目を付けていたところじゃないか」

「ああ。あちこちに金を払った甲斐があったよ」

「ずい分張り切っているな。リオンを連れていくことにも理由があるのか?」

「理由? ああ、あるとも」

 その時、僕は父さんたちとのやり取りが気にならないくらい胸が躍っていた。辺境が危険なのは分かっているけれど、せせこましい町や学校から離れられる口実ができたのだ。勉強は現場でもするという約束だけど、雑用係に机に向かっている暇なんて、学校の何分の一しかないはずだ。

 ぐにゅ。父さんが人差し指を僕の頬につきさした。

「こいつ最近俺の留守中に組み立て中のやつを勝手に触って動かそうとするんだ! それで一機おしゃかにしやがった! もう目が離せんのだ!」

「いでててて!」


 父さんは予算や契約書と顔を突き合わせながら、人材の確保と資材の準備に奔走した。


 それらを運ぶために用意した陸船(ランドシップ)は二隻。人と荷物を運ぶカーゴシップは城から借り受け、一隻はアーロンさんの所持する護衛隊のランドシップで、カーゴシップの三分の一くらいの大きさに、大砲が付いている。これら陸の船は、通常航行はホバリングと鰭のようなオールで空気を漕いでいく。

 その二隻を連ねて、作業員約百人とスゴン地方の南西に広がるサバンナへやってきた。

 このサバンナは巨大なドラゴン《ベナトル》のなわばりだ。しかし、今は姿がみえない。何十年かに一度の子育て中であったこの雌竜は、暑すぎたこの夏、子竜を連れて西の山脈に移動していた。ずっと以前にも〈暑さと子育てが重なった時、なわばりを離れた〉という記録を父さんが発見し、それをウォンバル公に進言したのだ。

 竜が避暑地に出かけるだけあって、サバンナは猛暑だった。領主様の気候調整が届く範囲なら2,3度下げることもできるのだが、ここは城から二日も船に乗った先だ。もっとも、届いたところでドラゴンの為にそんなエネルギーを費やす領主はいないだろう。

「他の動物の動きも鈍っている。だが、うだっている分気性は荒くなっている。出会った時はお慰みだ」

 アーロンさんの脅しで、航行中の〈出会った時の対処法〉の研修では、僕も含め寝る人は一人もいなかった。

 父さんは調査候補地の近くにある小さな林を二隻の船で囲って日を遮り、木々の間にテントを張ってベースキャンプとした。

 調査候補地をいくつか巡ったが、結果は芳しくなかった。

 僕が波動を見た岩山はベナトルの巣のある山の一端。いくら(あるじ)が留守だからって、おひざ元に手を出すことは父さんも躊躇していた。でも、そうも言っていられないのが契約っていう大人の事情だよな。



 父さんがバツ印をつけた岩山のすそ野を調査し始めると、なだらかな小石交じりの斜面から大きな骨が出てきた。1万年前の生体兵器まるごと一体分の化石だ。

 太くて長いしっぽ、

 鋭い爪のついた足、

 皮膜を広げる翼、

 長い首の先には角と牙の生えた頭骨。

 一万年よりも更に古い生物の形を模したという姿から、僕らはこの生体兵器も「竜」または「ドラゴン」と呼んでいる。

 というか、これが雌竜のご先祖。彼らは元々生体兵器として作られた存在なんだそうだ。生体兵器第一世代のドラゴンは、人間を片足で踏みつぶしてしまうくらいの巨体から、炎や光線を吐いていたと伝えられている。

 ドラゴンの足元からは小さい人型兵器の残骸が多数埋まっていた。

 それは、生体兵器ドラゴンと戦い、一緒に埋まってしまった人間の兵器だ。小さいと言ってもドラゴンと比べてのことで、身長は5メートルから10メートルくらいはある。纏っていたはずの外装や武器はほとんど残っておらず、当時のテクノロジーが結晶したやたら硬いフレーム(骨格)や関節がごろごろ積み重なったあり様は、まるで巨人の集団墓地だ。

「骸機も全身骨格に近いものが何体かありそうだな」

 父さんの見立てに、発掘隊みんなが色めき立った。

 僕らは地面から出てくる人型兵器を「骸機」と呼んでいる。復元師たちは化石よりこっちのほうを探している。市場からも機械人からも一番求められている資源だ。

 化石を削りだすときに使うドリルも運び出しに使う重機にも、どこかの戦場跡から出た骸機の欠片が使われている。過去のハイテクは便利極まりない。少し電気を通してやれば、ちょっとしたフレームの歪みは成形し直せる。動力源としても、少量の熱をフレームの切れ端に当てれば、フレーム内の僕らが見ることの出来ないくらいの小さいレベルの機関がその熱を元に連鎖的に反応を起こしてエネルギーを生成し続けるんだ。

 もちろん、生体兵器の化石も生きているドラゴンも貴重な素材ではある。爪や皮骨などの堅い部分は、それこそ骸機の装甲にうってつけなのだ。


 父さんたちは発掘の中心を岩山に移した。

 一万年前の地表に骨格埋没地点を示す小さな旗が増えれば増えるほど、ドラゴンと骸機の群が相打ちになったすさまじい戦いが露わになっていった。化石の出現とともに地層にしみ込んでいたドラゴンの咆哮や疾走する骸機の地響きも解き放たれていく。

 足元でちょっと先をのぞかせている骸機のフレームにも彼の身に起きたドラマの痕跡が残っているだろう。ドラゴンの歯形が付いているかもしれない。戦いに巻き込まれた生き物も化石になっていたりする。幸い人の手でも掘れる堅さだから、道具置き場から持ってきたシャベルが使える。夜に見た波動を出すやつも近くに埋まっているかもしれない。

「おいおい。そこだけ大穴をあけるな。池作ってんのか」

 気がつけばフレームよりうんと下、膝上まで埋まるぐらい掘っていた。地表と平行に掘って同じ年代のフレームでまとめないと、組み立てるときに苦労するとのこと。

「まずは周りを見て、手順を覚えてくれ」と父さんに言われ、運搬係へ回された。

 ドラゴンの化石も骸機のフレームも掘り出す前に出土状況を記録してから、傷つけないように丁寧に取り出す。状態によっては薬剤を吹き付けて保護してから梱包材で包み、ベースキャンプへ運ぶ。

 こびりついた岩や汚れを落とすクリーニングをするのは、町に持ち帰ってから。それから、復元師がモノの状態を見極め、使い道を決めるというのが基本工程だった。




 僕には運搬係が合っているかもしれない。化石を運ぶのに使うトラックは、運転席と荷台に歩脚だけ出てきた骸機のそれをつけたもので、街中でもよく見かける。これも一応骸機の仲間だ。運転はさっき資材を運ぶときに覚えた。本当は16歳で免許を取らないといけないんだけど、二年も待てないね。それに、雑用係はこのくらい使えないと役に立たないから、特別待遇で仮免身分。堂々と乗っていられる。ついてきた甲斐があるってもんだ。

 発掘している岩山からキャンプ地までは十数㎞。その間を作業員や資材を運ぶトラックの便が繋ぐ。その間のサバンナや林には昼間でも危険な動物がうろうろしている。例えば、バジリスクは小型のドラゴンの総称で、子犬くらいの大きさから体高3mくらいになるものまでいる。夜行性のものも昼行性のものもいて、集団で狩りをする肉食性。アーロンさん率いる護衛隊が警護に付き、現場周辺を哨戒してこうした生き物を追い払っているはず、なんだけど──

 バシュッ

 青空に赤い発煙弾が上がった。

 煙ののびる方角、はるか上空を五匹の翼竜(ワイバーン)が飛んでいた。

「上空注意―」

 後方のトラックから声がかかって、みんな不安げに空を見上げた。

 護衛隊の骸機が一機、小型のエネルギーランチャーを空に向けながら、僕たちの方へ寄ってきた。

 アーロン隊の骸機は体長6メートルくらいで、大きさとしては中型。装甲には翡翠竜の鱗や骨板が使われている。

 護衛用に使われる骸機は、全身骨格が出てきた貴重なフレームに、復元師の作ったコクピットボックスと関節を引っ張るコードや装甲をつけて人型兵器に生まれ変わらせたものだ。すべての骨格がそろったフレームでないと、ドラゴンに対峙できるくらいのパワーやスピードが出ない。

『あー、運転手以外は荷台から降りてくれー』

 骸機のスピーカーから声がした。カートというまだ若い護衛隊員だ。

「えー、歩くのかよ」

『そうだー。上からみたらお昼のランチボックスの行進だぞー』

「そんなに大きなドラゴンじゃないけど……」

 一部のトラックが止まって、みんながブツブツ言いながら降り始めた。不満たらたら。でもトラックの影に身を隠すように寄り添って歩く。

 僕は梱包材を巻いた出土物を運んでいたが、なんとなく歩いている人に寄り添うように進んだ。骸機もランチャーを構え、上を警戒しながら一緒に歩いている。

 このまま山の向こうに消えてくれないかな……と、みんなが思っていた。

 ザザッと横の枯草が動いて、バジリスクが現れた。しかも二匹。トラックの列めがけて走ってくる。少し離れたブッシュに潜んでいたのだ。

『待避!』

 歩行者はワッと叫んで走り出した。それをトラックがかばいながら動く。

 骸機がバジリスクの前に立ちふさがり、ランチャーを連射。バジリスクは横ステップでかわす。一匹はカートの方へ方向を変えた。

『これだから小さいやつは嫌なんだ!』

 カート機がランチャーを持っていない手の三本爪をバジリスクに振るう。竜は倒れそうになりながら頑丈な足でキック。今度は骸機がかわす。

 もう一匹が列に迫る。

 前方から別の骸機がジャンプしてきた。肩に白い花のマーク。ルカだ。アーロンさんの娘。

『あっちの林へ隠れて!』

 ルカの武器は大きな剣だ。両手持ちで薙ぎ払う。相手は切られた、というより吹っ飛んだ。しかし、横腹に切り傷を作りながらも起き上がる。

 僕らトラック組は作業員を囲みながら走り続けていた。こういう場合、トラックなどは作業員をかばいながら走りましょう──と、研修で習っていた。

 しかし、反対側からもう二体のバジリスクが走ってきた。ガチャガチャ走るトラックより断然あっちが早い。今、全てのトラック運転手は研修の文言が頭をよぎっているはずだ。追いつかれそうなときは乗り捨ててかまいません。竜の牙が届かない所へ逃げましょう。散り散りになって目標を分散させ相手を混乱させるのも有効です──ほかに何て習ったっけ。とにかく、トラック運転手たちはアクセルを踏みこみ、散り散りに逃げはじめた。

 作業員たちに「おいこらー!」って怒鳴られながらもスピードはゆるめない。

 自分の命が一番大切です──そいうえばこうも習った。

 僕は後から現れたバジリスクと林の間に走りこんだ。実は少し前に気づいていた。こういう時によく見える右目は有効だ。スピードは劣るけど、早くライン取りをすれば割り込める。

 僕のトラックをかわそうとしたバジリスクに、機体を横滑りさせて体当たり。二匹とも巻き込んで下敷きにした。荷物がある分重量はこっちが上だ。「命が一番」を思い出す前に走り出した作戦、大成功!

 僕にはものすごい衝撃がきた。ヘルメットを被っていても頭がくらくらする。それが当たり前。予想していたから意識は飛ばさないで済んだ。シートベルトを外して運転席の隅にうずくまる。

 一匹は動かない。もう一匹がゆっくり体を起こした。でも、無傷ではないはずだ。ここまでやったら普通は退散するだろう。普通ならば……

 よっぽどお腹が空いていたのか、やつは鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。そして、トラックの前のほうへまわり、縦長の冷たい瞳孔にしかめっ面の僕が映った。ああ、短い人生の中で満足に動かせた骸機がトラックじゃ、心残りだな……

『なにしてくれてんのー!』

 空が暗くなって、白い花の骸機が飛んできた。着地で地面を震わせると同時に大剣をふるう。

 ホームラン級に飛ばされたバジリスクは、地面に叩きつけられてグッタリ。

 本当に目標が死んだかを認識する間もなく骸機の胸のキャノピーが開いて、ルカの真っ赤な怒り顔が現れた。

「中途半端な骸機がドラゴンに敵うと思ってんの? それ以上食べられたら死んじゃうよ!」

「ははは。俺、やっぱり美味しいのかな」

「おばかー!」

 過去の戦争は終わっている。でも、今の時代も武器としての「骸機」は必要とされている。

 過去の遺物が今も動いているように、骸機と対峙したドラゴンも生き残り、強い血を伝えながら世代を重ね、大空を飛び、大地を駆け抜けているからだ。




 カーゴシップ内の医務室で擦り傷の治療をされながら、父さんに頬をつつかれまくった。指は三本にレベルアップしている。はたき落したいけれど、看護師メイヤに薄い手袋を付けた手でがっしり掴まれ、振りほどけない。

「動かないで。パッドがよれたらもったいない」

 メイヤは僕が動く原因になっている父さんを睨み、父さんは指を引っ込める代わりに大きなため息をついた。

「いったい何のために研修があると思ってんだ」

「だって、みんなが危なかったじゃないか……」

「何のためにルカたちがいると思っているんだ」

「だって……ルカだってこの間免許取ったばかりじゃん」

「そう。ちゃんと試験を受けて免許を取った。作戦行動がとれるとなったから、骸機乗りになれて、アーロンと仕事してるんだ。ただ身内だからっていうんじゃないんだぞ」

 確かにルカは年上だけど、幼馴染で一緒に育ったようなやつが先の道を走っていくのは……検査中も、頭の中でルカの操る骸機が再生され続けた。今も胸がもやもやしている。

「まあまあカントク」

 デスクでCT画像を見ていたドクトル・エマがニコニコ笑顔で振り向いた。

「丈夫な体でよかったじゃない。頭もなんともないようですよ。もちろん目の方も」

 ブロンドのロングヘアにバンダナを被り、シャツにズボンといういつもラフな服。「エマ医師」が白衣を着ているところは見たことがない。それに今は、ゴム長靴とゴムエプロンが追加されている。メイヤも似たような恰好で、二人とも医務室を離れたら何屋か分からない。

 父さんの渋顔はそれでも治らない。

「元々あるのかないのかわかんない脳みそだからな。映ってないだけなんじゃないですかね」

「大丈夫ですよ。でも、全身強打してるからしばらく様子見ないと。いいと言うまで骸機に乗るの禁止。トラックもよ」

「ええ!」「動くなと言うとろーが」

 外から骸機の重々しい足音と油の匂いが近づいてきて、マイクを通したルカの声が響いた。

『エマさーん。持ってきたよー』

「あら、ありがとー」

 大きく返事をしながらドクトル・エマは出ていった。心なしか歩みが弾んでいる。

 ようやくメイヤの束縛が解かれたので、立ち上がれるようになった。治療されたはずなのに、さっきより体が重くなって、二三歩歩いただけでよろめいてしまう。

「ほれ。言わんこっちゃない」

「近寄んなって」

 父さんをけん制しながら搭乗口の手すりに掴まって外に出た。ルカの骸機が死んだバジリスクの一匹を抱えていて、エマの指示の下、骸機が出入りできるほど大きな半透明のテントの中に降ろしていた。

「ルカちゃんの得物が刃物系でよかった。大きな弾丸でぐちょぐちょにされたらお料理が限られてくるし。あ、当たんなかったんだっけ」

『こっち見て言わなくてもいいのに』

 もう一匹を運んできたカートのぼやきもばっちり聞こえてくる。

 近くに停めてあった護衛隊より一回り小さい骸機にエマが乗り込んだ。その骸機の両手には骸機サイズの鋭いナイフが握られている。

「メイヤちゃんお仕事よ」

「はいな」

 メイヤもドクトル・エマ──もとい、今はブッチャー・エマ(肉屋)と同じ仕様のもう一機に乗り込む。

 エマ機とメイヤ機は、テントの入り口で合掌してから中へ入ると、二人は骸機のパワーとナイフを器用に使って、バジリスクの解体を始めた。

 薄い乳白色の天幕が血まみれになると予想してつい目を細めたが、二人は内臓を取り出してから、血をほとんどこぼさず肉体の真ん中に集め、蛇腹のパイプを当てて吸い取った。そこから更にいろんな部位に切り分けていく。

『エマさん。手伝わなくていい?』

「大丈夫よん。ルカちゃんは休んでて」

 分けられた肉はカーゴシップへ運ばれていった。医務室ではなく、厨房の冷蔵庫の中へ。

 骸機を降りたカートが給水器から飲み物を取って、こっちに来た。

「二刀流の最適解だな。どこから見つけてきたんですか、あんな人」

「内緒。興味を持つのはかまわんが、外科手術の(ああいう)世話にはならんようにな」

「「イエス監督(サー)」」

 僕とカートはそろって返事をした。




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