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ユノちゃんは私に自殺をすすめてくる

 最近はよくユノちゃんの声が聞こえる。彼女に会ったことはない。結構昔に死んじゃってるらしいから。




 最初にユノちゃんと話したのは、二か月前くらいのこと。夜寝る前、ベッドに寝っ転がってSNSなんかを見ていたら、急に声が聞こえた。ずいぶんかわいい声だったことを覚えている。たしか、こんな感じのことをいわれたはずだ。


「私は死んでいるのだけど。ねえ、一緒にこっちに来てくれない?」


 こっちというのはいうまでもなく死者の世界のことであり、すなわちこの提案は私に死ねと言っているのだ。正直、たぶん将来有望な女子高生にはあまり魅力的な提案には思えなかった。


 そもそも、彼女は会話の基本がなっていなかった。相手に何か提案をする前に、まずは自分について名乗るべきなのだ。得体のしれない人(彼女は果たして人なのだろうか)に、死んでくれと言われても、戸惑うだけだろう。


「あ、ごめんなさい。私はユノ。死ぬ直前は、13歳前後だったはず。それからどれくらいたったかは覚えてない。好きな食べ物はえびフィレオで、嫌いな食べ物はエンゼルフレンチ」


 話が通じたのだ。どうやら、思ったことが伝わるようだった。


 その夜は、いろんなことを話して、ユノちゃんと仲良くなった。普通だったら、頭の中から、声が聞こえてきたら、それも死のうなんて提案されたら、怖くなるものなのかもしれない。でも、私はなぜかそこまで怖くならなかった。彼女の声がかわいいからかもしれない。



 

 それから、ユノちゃんは私にちょくちょく話しかけてくるようになった。主に死の提案が多かったが、ただの世間話のこともよくあった。







 登校というのはいつだって憂鬱な行為だ。なぜかといわれると、理由なんてたくさんあるが、きっと一番はそういうものだからなのだろう。遺伝子レベルで憂鬱が染みついている気がする。ユノちゃんは死んでいるから学校へ行かなくてもいいのだろうか。ちょっとうらやましいかもしれない。



 クラスに入ると、仲のいい友達幾人かが私に気づき、話しかけてきた。話の内容は、流行りのイケメンアイドルの、不倫騒動についてだ。


「でも、べつに、本人は否定しているんでしょ?」


 そう聞くと、


「ほら、火のないところに煙は立たないっていうし」


 といわれた。うん、そうだね、と返す。


 それからみんなは、きっとほんとは性格が悪いんだよとか、実はそんな顔がよくなかったもんねとか、そんなことを口々に言い始めた。


 悪口を言っている人というのは、そんなにきれいではない。だからあまり、好きじゃない。


 でもきっと、みんなは彼のことが好きだったから、ああいう感じになっているのかもしれない。実は私は、話を合わせるためにMVを見るくらいのことはしていたが、そのアイドルのことはそもそもそこまで好きじゃなかった。別に嫌いというわけではないのだけど、私が本当に好きなのは、ああいうきらきらしたイケメンではなく、ちょっと年を取って、くたびれた、人生を達観した感じの……


 ああいや、そんな話はどうだっていい。重要なのは、私がほんとにあのアイドルのことが好きだったら、彼女たちのようになっていただろうということだ。そんな自分を思い出すことは、難しいことじゃなかった。誰だって、そうなのだ。




 だらだら話をしていたら、やがてチャイムが鳴って、朝礼が始まる。朝礼が終われば、授業が始まる。あたりまえだが、授業というのは憂鬱だ。興味のない話を50分、それを6コマ。それを毎日。


 月並みな言葉を使うと、勉強したことなんて将来つかうのかと思う。でも、だからといって勉強を放棄できるほど、私はメンタルの強い人間じゃないのだけど。


 今日も私は、ノートをとって、プリントの空欄を埋める。宿題も6割くらいはする。なんとなく、人生ってそんなもんなんじゃないかななんて、ちょっとニヒルになってみたりもする。





 昼休みに入る。友達と一緒に食堂で昼食をすませた後、用事があるからと別れて、4階の理科室へ向かう。


 扉は開いていた。入ると、授業の忘れ物はあっても、人の気配はないようだった。ちょっとだけ、ほっとする。明かりはなく、暗さの中に、黒い長机がいくつも連なり、壁のガラスケースにはガラクタのごとき実験器具がいくつもある。


 理科室へは、ちょっと疲れたときなんかに、来ることにしている。一つの要因は、人がいないから。そしてもう一つの要因は、窓にストッパーが付いていないからだ。

 

 窓の所へ行き、全開にする。風が入り込んでくる。外を見てみる。四階からの景色は、いろいろなものがちっぽけに見えて、なんだか好きだった。風に吹かれながら、ちょっとぼうっとしてみる。



「ねえ、こっちに来ない?」


 急に、ユノちゃんの声が聞こえた。せっかくたそがれてたのに。


「ごめんごめん」


 ほんとに悪いと思っているのだろうか。


「思ってる思ってる」


 信用ならんが、まあいいか。


「そうそう。で、こちらに来ない?」


 ユノちゃんは、また私に死の提案をしてくる。行ったら何かあるのだろうか。


「なにもないよ」


 ないらしかった。じゃあ誰も死にたいとは思わないのではないだろうか。


「そんなことないよ。何もないっていうのはいいことだよ」


 うーん。よくわからない。

 



 もう一度、窓の下を見る。真下はコンクリートだ。きっとここから落ちたら死ねるだろう。


 窓から身を乗り出して、足を離して、サッシだけで体の重心を支えてみる。いつもよりも風を感じて、気持ち良かった。


 もう少し、体を傾けたら、私は死ぬのだろう。人間はわりかし簡単に死ぬ。


 死んだら何もなくなるというのは、意外とそれも、悪くはないのかもしれない。


 でも、なんとなく今は気分じゃなかった。サッシから降りる。死ぬのはいつでもできる。


 もしかしたら、私は、ちょっとだけ、死にたがっているのかもしれない。


 



 

 ふと、ある考えが、思いついた。ユノちゃんは、もしかしたら私なのかもしれないということだ。それがどういうことを意味するのかわよくわからないが、ふと、思いついたのだ。


「……わからないよ」

 わからないの?

「わからない」


 どうやらユノちゃんにもわからないらしかった。でも、それだと私は……うーん。




 いろいろ考えていたら、チャイムが鳴った。とりあえず、教室に戻ることにした。

 ラブコメを書こうと悪戦苦闘しているのですが、挫折しまくっているので、息抜きにホラーを書きました。なんか主人公ちょっと厨二病っぽい気がしてきました。

 なんか夏のホラー2024なるものがあるそうなので、それにだすのですが、それの指定テーマが「うわさ」というものらしいんですね。この作品、それにいれていいものなのかと。いやでも、主人公は、友人たちの噂話につかれるわけだし、ユノちゃんという存在も、なんか噂っぽい感じ(?)がしなくもないし……。だから、許してください。

 最後に、ここまで読んでくださった方いましたら、本当に、ありがとうございました。あんまりおもしろくなかったらごめんなさいです。では、さようなら。

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