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転生したら洗濯乾燥機だった件について、色々洗ってみるテスト

 転生したら洗濯乾燥機だった。

 何を言ってるのか頭がおかしくなったのか、ありとあらゆる疑問は浮かんでくる。

 でも、人間に生まれたら自分の事を人間だと認識するように、俺の自己認識は、


『自分は洗濯乾燥機だ』


 というものだった。

 何だろう、前世でスイッチ一つで洗濯が終わる洗濯乾燥機が好きだったからかな。

 隣の家のズボラな幼馴染の洗濯物さえ、雨で洗濯できなかったら引き受けるぐらい洗濯乾燥機回すの好きだった。お気に入りのいい匂いの柔軟剤で洗ってきっちり畳んで返してあげたものだ。


 洗濯乾燥機、使いこなせば毛布だって洗えるしな。

 おしゃれ着だって洗える。


 ……だからって、洗濯乾燥機になるとは思わなかったな。


 ちなみに住所は、異世界のどこかの国のダンジョンだった。

 ダンジョンの地下一階。

 ダンジョンのトイレや更衣室や他の階に続く魔法陣がある小広場に設置されている。

 自分のいるダンジョンが地下何階まであるのかは知らない。

 だが俺の存在意義は、冒険を終えた冒険者が地下一階の洗濯乾燥機で持ち物を洗濯して綺麗になって帰る。

 そういう事の為にあるのだと思う。

 だから、俺は自分のいるダンジョンが何階まであるとかどこの国にあるとかは知らなくていいのだ。


 ちなみに俺はドラム式の洗濯乾燥機だ。

 洗剤と柔軟剤や漂白剤、洗濯槽クリーナーなどはその機会に応じて自己生成できる。

 動力はダンジョンに満ちている魔力。

 水も自己生成して、排水はダンジョンが速やかに吸収する。


 まあ、そこら辺の詳しいことはおいおい考えていければいいと思う。


 今日も、赤い髪に赤い目の女騎士らしき人物が、俺に剣やら鎧やらを放り込んで俺を利用している。

 この女騎士は『マーゴット・ジークリンデ』という名前らしく、しつこく俺が居るこのダンジョンに挑戦し続けている一人だ。

 名前は他の男の冒険者がこの女騎士に呼びかけていたから知った。


「まったく、今日も汚れてしまった。この洗濯乾燥機がなければクリーニング屋でいくらぐらいかかったやら」


 この女騎士は、剣やら鎧やらと、鎧の下に着る服や下着までも一気に俺に突っ込んで洗う。

 一言で言ってがさつでスボラだ。

 更衣室で替えの着替えに着替えて毎回俺を利用していくのだ。


 俺は洗濯乾燥機として優秀で素材がなんでもごちゃ混ぜでもいっぺんに洗える。

 すごいだろ。

 時に服が少し穴が開いていたりしても修復しながら洗える。

 異世界ならではの優れものの洗濯乾燥機だ。

 女騎士マーゴットの服のボタンがとれていたら、俺の神秘的な力で修復してやると、女騎士マーゴットは嬉しそうに笑うんだ。

 今のところ、俺の扱いはマーゴットが一番上手い。


 ちなみに普通に俺はダンジョンによくある設備のように自分を語っているが、もちろんこの異世界に洗濯乾燥機はメジャーではない。

 この女騎士はある程度うっすらと洗濯乾燥機を理解していて、『汚れた物を俺に入れてスイッチを押すと汚れた物が綺麗になって、ついでに言えばフローラルな自分好みの匂いになってでてくる』という事を知っているのだ。


 洗濯乾燥機を知っているという事は、俺と同じで地球からの転生者かと疑った時もあるが、そうではないみたいだ。

 単純に貴族出身の奴らは色々不思議な働きをする魔道具の扱いを知っているという事らしい。

 女騎士の他にも、貴族出身の男爵家の5男で魔術師の奴とかは俺でよく自分の宝石つきの杖を洗っている。

 宝石付きの物も異世界の不思議さで余裕で洗えるのだ。


 逆に貴族出身ではない、平民出身の冒険者は俺の使い方を知っているものはほとんどおらず、ありとあらゆるものを飲みこんでぐるぐると回している俺を不気味そうに横目に見ながら去っていく。


『その汚れた装備洗わせてくれよ』


 とは思うのだが、いかんせん俺はその意思を表明する手段がない。

『洗濯乾燥機』だからな。


 毎日毎日洗濯ばっかりして、飽きるかと思いきや、とても楽しい。

 毎日張り合いがある。

 だって、俺は『洗濯乾燥機』だから。


 そんな、楽しい毎日だったが、ある日、俺の正面のダンジョンの奥の向こうから叫び声が聞こえてきた。

 こちらに向かっているみたいだ。


「うわー!! 貴重な鎧をー!! だ、だれかー!!」


 いつものお馴染みの女騎士マーゴットの声がダンジョンの奥から聞こえてきて、自分はびっくりしてちょっと、


『ガコンッ』


 って音を立てた。

 機械にあるまじき動きだけど、それだけびっくりしたのだ。

 なんとマーゴットがピンクのスケスケ色したスライムに追いかけられていた。


 更にびっくりするのはマーゴットがほぼ下着姿で追いかけられていたことだ。

 ピンクのスライムは女騎士が着ていた鎧が美味しいのか、鎧を派手に食べ散らかしながら、更にマーゴットの持っている最後の衣類も狙っているのかスライムにあるまじきスピードで追いかけてきている。


 当然、更衣室やお手洗いや俺(洗濯乾燥機)がある安全地帯に逃げ込もうと思ったのだろう。

 モンスターは普通、安全地帯付近ではそこそこ戦闘意欲を失うものだからだ。


「うわー!!」


 だけれど、ピンク色のスライムはマーゴットの身に着けているものによっぽどの執着があるのか、そのまますごいスピードで追いかけてきている。

 そして、マーゴットはまだスライムが追いかけている事を十分に理解したのか、俺の前で急速に方向転換をしてスライムをかわそうとした。


 そして、スライムは、いつでも洗濯したくて待機中の口を開いている俺の体内に飛び込んでしまった。

 マジでスポンッってスライムが入った。


「えっ?!」


 マーゴットは目をまん丸に見開いて俺を見詰めている。

 色々洗濯したくて堪らなかった俺は、モンスターが洗濯槽に入ったにも関わらず蓋を閉じた。


 いつもは冒険者に蓋を閉じてもらっているのだが、あまりにも洗濯がしたかったのだ。

 止むを得ない。

 断じて、マーゴットを助けようと思ったわけではない。


『ピーピピ・ピーピピピ』


 俺は洗濯乾燥の開始のアラーム音を鳴らした。

 スライムが洗濯槽の中から出ようと体当たりを繰り返しているが、俺は洗濯乾燥の『標準』コースを開始する。

 飽くまでも俺は普通にスライムを洗濯乾燥するだけだ。


「おい、お前っ!!」


 マーゴットが俺の前で下着姿で慌てて手を振り回す前で、注水を始める。

 何か洗濯をそんなに見られると照れる。

 いつも洗濯をする奴らは俺を見ないで、別の事をやっているからな。


 ガコッガコッ!


 とスライムは何度も体当たりを続けているが、俺は洗濯をすると決めたらする。


 弱アルカリ性の粉末洗剤を投入して、丁寧に叩き洗いともみ洗いを繰り返していく。

 汚れが落ちたらすすぐのも忘れない。


 ガコッ……。


 なんだか中の洗濯物の勢いが小さくなってきて、洗濯物スライム自体の大きさも小さくなってきたするが気のせいだろう。

 途中、スライムが食べてまだ消化していないマーゴットの鎧の破片が分別できたので、糸くずフィルターにひっかけておいた。

 スライムが溶かしきれていない衣服の破片も分別しておいた。

 俺の糸くずフィルターは大容量だ。


 結果的に中の洗濯物はとても小さくなったが、気にしないで俺は洗濯物が綺麗になったと判断して乾燥に移った。


 フォー!!


 と風の音を盛大に立てながら、中にあるものに温風を吹きかける。

 まだ、俺は中にスライムが「在る」と判断していた。

 モンスターの命というか力の反応がある。


 なんかでも中の物は乾燥するとカラカラと音を立てて乾燥機が回るに任せている。


『ピーピピ・ピーピピ・ピーピピピピーピ』


 俺はようやく洗濯乾燥が終了したアラームを鳴らして止まった。

 洗いごたえがあるものを洗えた。

 その達成感で一杯だった。


『スライムを倒して、レベルが上がりました』


頭に変な音声が鳴り響く。


「お前……」


 マーゴットが下着姿のまま、恐る恐る俺の洗濯機の蓋をあける。

 俺の蓋は透明で一応中身は見えているのだと思うのだが。


「ホカホカしている……っ」


 マーゴットが洗濯槽からスライム(洗濯物)の核を取り出した。

 乾燥が終わったばかりは色々な所が高温だから気を付けてほしい。


 ……ああ、いつまでも力の反応があると思ったら、うっすらと予想できてはいたけれど、スライムの核だけは残ったのか。


 後、俺は分別した鎧の破片と服の断片を吐き出した。


「ああ、これか。じゃあ、これもスライムで汚れたし、もう一回洗濯するかな?」


 マーゴットは俺の洗濯に慣れたもので、服が洗濯ついでに修復されて出てくるのを知っている。


『ピーピピ・ピーピピピ』


 俺は洗いごたえのある洗濯物スライムを洗った達成感で少しハイになっていたんだと思う。


 思わずマーゴットの服をいつもより丁寧に時間をかけて洗ってしまった。

 しかも、綺麗に洗濯物のしわをとるコースで。

 仕方ないだろう。マーゴットの洗濯物は洗い甲斐がある汚れ具合なのだ。

 まるで、前世の隣に住んでた幼馴染の洗濯物みたいに。

 俺は特別に服を、前世からお気に入りの匂いの柔軟剤で仕上げて、しかも綺麗にきっちり畳んで吐き出してやった。


 多分、さっきレベルが上がったからお気に入りの柔軟剤を使ったり、洗濯物を畳んだりできたのだろうか。

 いや、俺は洗濯乾燥機だからそこんところよく分からないけど。


 マーゴットはいつものように俺から仕上がった洗濯物を受け取った瞬間、固まった。


「この匂い、この畳み方。まさかこの機械? 隣の幼馴染のあいつ……?」


 マーゴットは結構でかい独り言をつぶやいた。

 俺をその綺麗な赤い目でじっと見て首を傾げていたが、やがて首を振る。


「いや……まさかな。そんな事あるはずもあるまい」


 俺は、その独り言を聞いて驚いた。


 ……え、まさか。

 まさかマーゴットは前世の隣の幼馴染のズボラ女子?

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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↓代表作です。良かったら読んでくださると嬉しいです。

「大好きだった花売りのNPCを利用する事にした」

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