第72話 酒
【レイン視点】
頼りない月明かりの下、荒涼とした野を、百四十人にもなるドワーフたちが歩いていた。
みな、一様に俯き、生気がない。
自分たちは解放されたが、別の収容所に捕らえられている鍛冶職人たちは、まだどうなるか分からない。
そんな不安が、解放の喜びよりも勝っているのだろう。
レインは馬車を御しながら、背後にも気を配る。
収容所を出たドワーフに気づき、追っ手が来るかもしれない。
十人ほど、剣を使ったことがあるというドワーフに剣を渡したが、あまり期待できるような腕ではないだろう。
いざとなれば、自分が食い止めるしかない。
そんな覚悟に、腹の奥が疼く。
(……だめだな。)
何とも落ち着かない感覚に、がむしゃらに駆け出し、剣を振り回したくなる。
何も考えず、ただ全力で剣を振り抜く。
幼少の頃からの、レインの癖だった。
緊張すると落ち着きを失うレインに、父が教えた精神統一の方法。
……と言えば聞こえはいいが、実際は力任せに振り回せば、鬱憤が晴れるという程度のもの。
最近では、そんなことをしないでも心を落ち着ける訓練を、リコに教えてもらっている。
だが、まだまだ未熟なレインには、『禅の心』や『無の境地』というのはよく分からないでいた。
『自分自身と、正面から向き合え。』
そう、リコは言う。
功名心も自尊心も、見栄も虚栄も、自分が作り出したもの。
否定することはないが、それに捕らわれるな。
どうにもリコは、よく分からないことを言う。
簡単なことのように、難しいことを言う。
それでも、「自分と向き合う」というのは、意外に心地よかった。
少し前までは、それこそが一番の苦痛だったのに。
もはや騎士にはなれないと理解してしまった時、自分と向き合うというのは、これ以上ないほどの苦痛だった。
なりたい自分、目標としていたものに手が届かないという現実を直視するのは、とても勇気のいることだから。
そして、そんな勇気が、自分にはなかった。
だから………………目を逸らしてしまった。閉じてしまった。
そんなレインに、リコは光を与えた。
冷え切った心に、温もりを与えてくれたのだ。
あの頃のレインはすっかり諦め、自棄を起こしていた。
そんなレインを見捨てることなく、リコは「騎士に任命する」と言った。
突如滅びた、ティシヤ王国。
リコは、そのティシヤ王国の王子だったのだ。
もはや、ほとんど意味を成さない、騎士への任命。
薄暗い謁見の間での、三人だけの叙任式。
だけどあの儀式により、凍えて固まってしまった自らの心が、解されていくのを感じた。
誓いの言葉を紡ぐごとに、醜く凝り固まった塊が、ぽろぽろと零れ落ちていくようだった。
何より、あの儀式の時に聞こえてきた『声』。
柔らかな光とともに届いた『声』に、レインはすべてを理解した。
生ける屍のように彷徨いながら、求めてやまなかった真の主君がここに……。
リコこそが、レインがずっと求め続けていた主君だったのだ。
(リシャルド様……。)
レインは、手綱を握り締める。
だからこそ、本当なら一緒について行きたかった。
だけど……。
『任せられるのがレインしかいないんだ。』
そう言った時の、リコの真っ直ぐな瞳。
強く握られた手から、リコからの厚い信頼を感じた。
(リシャルド様の信頼を、裏切るわけにはいかない。)
リコに託された、大事な任務。
リコの代理として、絶対にやり遂げねばならない。
(……どうか、御無事で。リシャルド様。)
頼りない三日月を見上げ、レインは祈るようにリコを想うのだった。
■■■■■■
俺たちは、一つ目の建物に閉じ込められていたドワーフを解放した。
さあ、すぐに残りのドワーフも解放しよう、と思っていたが、ドワーフたちに引き留められた。
「ちょっと待ってくれ。準備がしたい。」
そう言ってドワーフたちは、一階にある鍛冶場に移動した。
「おう! それ持って来い!」
「馬っ鹿! そうじゃねえだろ!? 貸してみろ!」
「おい! こっち足りねえぞ!」
ドワーフたちは、鍛冶場に山と置いてあった鉄クズやら何やらを漁り、大騒ぎである。
「あんまり騒ぐな。気づかれるだろうが……。」
そう注意してみるが、まったく聞いていない。…………時間もないのに。
呆れるような気持ちでドワーフたちの騒ぎを眺めていたが、それを見て、俺は息を飲んだ。
ドワーフたちはガラクタを寄せ集め、次々に戦斧や戦鎚を作り上げた。
「な、んで……そんな物が……?」
茫然とする俺に、先程胸倉を掴んだ壮年のドワーフがニヤリとして答える。
「当たり前だろうが。儂らだって、ただ奴らの言いなりだったわけじゃねえ。どうやって脱出するか、どうやって家族を救い出すか。ずっと考えてたんだ。」
そのドワーフが言うには、一見ガラクタに見えるように偽装したり、作成途中の違う武器のパーツに見せかけたりして、自分たちの武器をパーツ毎にバラして隠していたらしい。
斧の刃は、剣に加工する前段階として。
ハンマーは、インゴットのように見せかけて。
少々歪な形状の戦斧や戦鎚だが、軍の連中には適当な理由をつけて誤魔化し、少しずつ準備をしていたのだ
「儂らにしてみりゃ、さすがにこんなのは玩具みたいなもんだ。だがよ、共和国軍の使ってる剣なんかよりは、なんぼかマシよ。」
そう言って、壮年のドワーフが魔法具の袋を差し出す。
「……これは?」
「持っていけ。連中に言われて作った武器だ。大量生産させられてた玩具は、何日か前に運び出しちまってる。魔法具の袋に入れてあるのは、そんな玩具よりはちっとばかり注文の煩かった分だ。」
ここの兵士たちは油断しきっているのか、生産された武器を仕舞った魔法具の袋を、鍛冶場の倉庫に置いたままにしていたらしい。
俺は魔法具の袋を受け取ると、手を入れてみた。
使用者登録のされていない、汎用の魔法具の袋だった。
(……っ!?)
袋の中には、大量の武器が入っていた。
どうやら、この袋は近日中に出荷予定だったようだ。
剣、槍がほとんどだが、ナイフやダガーもある。
しかも、量が凄まじい。
剣だけでも百本を超えている。
この魔法具の袋は市販品ではなく、軍用の特別仕様の魔法具のようだ。
「いいのか、貰ってしまって?」
「駄賃よ。儂らにしたら玩具に毛が生えたような物だが、あんたらには価値があるだろう?」
確かに、ドワーフの武器というだけで、高値で取り引きされるくらいだ。
この壮年のドワーフは「玩具に毛が生えた」と言っているが、それですら人間の作る武器よりも質がいい。
「儂らは、いくつかに分かれて作業をさせられていた。一つは、下っ端に配るための大量生産品。もう一つは、隊長格やそれよりも上の待遇の奴のための武器って具合だな。」
数日前に運び出していたのは、下っ端のための大量生産品なのだろう。
それでも人間からすれば、かなりの高品質な武器だ。
現在支給されている装備などとは、比べ物にならないくらいには。
そして、この魔法具の袋に入っているのは、それよりもさらに質が高い。
おそらく、軍でもそれなりに実力者として認知されている者に、特別に支給するための武器らしい。
長さや重さ、中には重心の位置についても注文がつけてあったそうだ。
そのまま荷馬車に載せて輸送していた大量生産品とは、扱いもまるっきり違う。
俺が魔法具の袋を腰に着けると、壮年のドワーフが戦斧を肩に担ぎ、武装したドワーフたちに声をかける。
「おう、お前ら! 準備はできたか!」
「「「おおうっ!!!」」」
そうして、勇ましい雄叫びを上げるのだった。
だから、静かにしろって……。
一つ目の建物でドワーフたちを解放した後、二つ目の建物も襲撃。
逸るドワーフたちを抑えるのに苦労したが、何とか隠密に事を進めることに成功した。
閉じ込められている間、二つの建物に分けられたドワーフたちは、連絡を取り合うことができなかった。
だが、当然のように、こちらでも隠れて武器を準備していた。
どうやら、考えることは一緒だったらしい。
あっという間に、三十九人もの武装したドワーフの集団が出来上がった。
しかし、俺が抑えられたのはここまで。
ドワーフたちが、強硬に共和国軍の宿舎への襲撃を主張したのだ。
積もり積もった恨みを、晴らさでおくべきか、というわけだ。
まあ、気持ちは分からんでもないけど……。
仕方なく計画を変更し、このまま宿舎を襲撃することにした。
つーか、少しでも鬱憤は晴らしておかないと、まともに制御できる気がしねえよ、こいつら……。
ということで、門に配置していたカンザロスを、急遽招集した。
この収容所の兵士を殲滅することにしたので、もはや門を押さえておく必要がない。
門を閉め、内側から施錠して、二つ目の建物に呼び出した。
そのカンザロスが、大振りの大剣を構え、打ち震える。
「すげえのがあるじゃねえか……何だよ、これは……! 本当に貰っちまっていいのか?」
「ああ、共和国軍にくれてやるくらいなら、あんたらに使ってもらった方がいい。好きに持って行け。」
カンザロスの感動する姿に満足したように、一人のドワーフが頷いた。
つい先日できたばかりという大剣が置かれていたのだが、カンザロスがそれを目敏く見つけたのだ。
これまでカンザロスが使っていた大剣よりも、さらに一回り大きい。
そんなの、本当に振り回せるのか?
「じゃあ、忘れ物がないようにしろよ? こんな所に忘れていったら、もう取りに戻ったりなんかできないんだからな。」
俺は遠足を引率する教師のように、はしゃぐドワーフたちに注意を促す。
そうして準備が整ったのを確認し、宿舎に向かった。
はっきり言えば、ドワーフたちは無茶苦茶だった。
作戦も何もありはしない。
「行くぞぉぉおお! 野郎どもおおおっ!!」
「「「おおうっ!!!」」」
「「「思い知れえっ!!!」」」
「酒だあっ! 酒を出せええっ!!!」
「「「ぶっ殺してやるっ!!!」」」
雄叫びを上げ、ドワーフたちが一斉に突入する。
これまでの鬱憤のすべてを晴らすように、暴れまくった。
つーか、どさくさに紛れて、酒を要求している奴がいなかったか?
「……これは、俺たちの出番はなさそうだな。」
そう、メッジスが肩を竦める。
「ホーマー。無茶して怪我をする馬鹿がいるかもしれないから、【治癒】を頼むな。」
「は、はい。」
一応、こんなことで怪我をしたら馬鹿みたいだぞ、と釘は刺しておいたのだが。
もう忘れてるんだろうな、多分。
「ぐわぁぁああっ!」
「な、何でドワーフがっ!?」
「ギャァアアーーーッ!」
突然のドワーフの襲撃に、宿舎内は大混乱だった。
あちこちから断末魔の叫びが上がり、それもすぐに聞こえなくなった。
「ドワーフが四十弱。兵士が、おそらく五十強。……若干の数の差も、奇襲で帳消しか。」
戦う準備の整っていない状態では、いくら数で勝ろうと呆気ないものだ。
俺は、宿舎の前でドワーフたちが戻ってくるのを待った。
……………………が、ちっとも戻って来ない。
「何やってんだ?」
まさか、兵士の中に手練れがいて、返り討ちにされた?
訝しみながら、俺は宿舎前にメッジスとウラコーを残して、中に入った。
「やった! あったぞ!」
「こっちもだ!」
宿舎に入ると、すぐに声が聞こえてきた。
俺は、ベリローゼやカンザロスと顔を見合わせる。
適当に一つの部屋を覗くと、俺はその場で崩れ落ちた。
「ぷはぁーーーっ! 生き返るっ!」
「一年振りの酒じゃあ! んぐっんぐっんぐっ……!」
二人のドワーフが、酒瓶を呷っていた
どうやらドワーフたちは、兵士たちが隠して持ち込んでいた酒を探し出し、酒盛りを始めたようだ。
「これは……ど、どうするんだい、リコ?」
チェラートンが肩を震わせ、笑うのを堪えるようにして聞いてくる。
「おう! あんたらも飲め飲め! こいつら、結構いい酒を隠してたぞ!」
そこに、先程の壮年のドワーフがやってくる。
当然ながら、こいつも酒瓶を持ち、小脇にも抱えていた。
「リ、リコ様……如何しますか?」
ベリローゼも、予想外の事態に戸惑う。
俺はゆらりと立ち上がると、踵を返した。
「放っておけ。…………俺はもう知らん。」
敵地のど真ん中で酒盛りを始める馬鹿になど、付き合ってられるか!
共和国軍の応援が来て、こいつらが全滅しようが知ったことではない。
俺が出口に向かうと、壮年のドワーフが慌てた。
「待て待て! あんたらがいなくなったら、儂らはどうやって家族と会えばいいんだ?」
「知るかっ! そんなに酒が好きなら、酒瓶抱えて死ね! 本望だろうが!」
俺が怒鳴りつけると、壮年のドワーフが剣幕に押されて仰け反る。
「それじゃあ、家族はどうなるんだ?」
「遺言くらいは伝えてやる! 『家族よりも、酒の方が大事だ』ってな!」
「あんた、ひどいこと言うな……。そんなこと、儂らは一言も言っとらんだろう。」
「言ってるも同然なんだよ! 家族よりも酒の方が大事だから、こんな所で酒盛りしてんだろうが!」
俺がそう言うと、壮年のドワーフが困った顔になる。
「分かった分かった、そう怒るな。すぐに招集をかけるから。」
「知らねえよ。無理しないで、酒盛りでも何でも好きにやってろ。」
そう吐き捨て、俺は宿舎の外に出た。
そうして、そのまま厩舎に向かう。
明らかに不機嫌なオーラを放つ俺を見て、外で待っていたメッジスとウラコーが、声をかけるのを止める。
後を追いかけてきたベリローゼは、そのまま俺の後をついて来た。
チェラートンは可笑しそうにメッジスとウラコーに事情を説明し、カンザロスは壮年のドワーフに厩舎へ行くように伝えているようだった。
「リコ様。」
気遣うようなベリローゼの呼びかけに、俺は大きく息を吐き出した。
「すまん。」
「いえ……あれは、怒っても仕方がないと思います。」
無事に再会を果たしてから、喜びに大騒ぎをするのは、仕方ないと俺も思う。
だが、ここは敵地なのだ。
まだ、無事に再会できるとは決まっていない。
考えたくはないが、レインの率いる家族の方だって、絶対に無事とは言い切れない状況だ。
今、まさに追っ手と戦っているかもしれない。
俺たちが急いで合流することで、救える状況かもしれない。
それを、油断して馬鹿騒ぎをするなど、とても受け入れられるものではなかった。
俺たちが厩舎に着く頃には、慌てたドワーフたちも追いついてきた。
どうやら酒盛りは切り上げたが、酒瓶は手放さなかったようだ。
移動中に飲む気らしい。
心の底から呆れるが、少しだけ時間を置いたため、俺も少し落ち着いた。
「俺たちの分を除いて、十人まで馬を用意してある。偵察の役目を果たせる奴を優先して、馬を使え。」
そうドワーフたちに指示を出し、俺は厩舎に入った。
適当に馬を選ぶと、俺、ベリローゼ、カンザロス、メッジス、ウラコー、ホーマー、チェラートンが馬に騎乗した。
ていうか、チェラートンはいつまでついてくる気だ?
ドワーフたちも、馬に乗る者を決めたようだ。
ドワーフは、基本的には馬に乗るのが得意ではないらしい。
そもそも乗り慣れた者が少ないので、すんなり偵察役が決まった。
■■■■■■
収容所の北側の柵を壊し、俺たちはロズテアーダ修王国を目指して北上した。
やや東寄りに進路を取り、ひたすら進む。
砂嵐は適当なところで止め、松明を使って明かりを確保する。
夜光石は、ランプのような入れ物がないと落としやすい。
松明なら収容所にも置いてあるので、調達も容易だ。
俺とベリローゼが、先頭を誘導する。
半数以上のドワーフが徒歩のため、移動速度は遅い。
俺は月を見上げ、大体の時間の見当をつける。
(明るくなるまでに、国境を越えるのは無理か。)
若干のトラブルはあったものの、計画自体は順調に進んでいる。
それでも、夜明けまでに国境を越えるのは難しい見通しだった。
(レインは、無事に着いてるだろうか。)
順調ならば、そろそろ合流地点の大樹に着いていてもおかしくない。
だが、もしも追っ手がいた場合、かなり厳しいことになる。
そのことを考えると、俺の気持ちは焦り、居ても立っても居られなくなった。
「リコ様、抑えてください。」
「…………分かってる。」
気配で俺の焦りが伝わったのか、ベリローゼが声をかけてくる。
俺は頭を一つ振ると、周囲を見渡した。
辺りには何もない。
少し離れた場所に松明の明かりが見えるが、あれはドワーフの偵察役だ。
広めに展開し、周囲に追っ手の影がないかを見ている。
俺は意識して深呼吸をし、焦る気持ちを抑え込んだ。
そうして、移動を開始して数時間。
東の空が白み始めた。
国境を越えるには、もう少しこのまま進む必要があるだろう。
明らかに修王国の領土に入ったら、進路を東に変更する予定だった。
さらに二時間ほど北上し、そろそろ東に向かおうと考え始めた頃。
ピイィィイイーーッ…………ピイイィィィイイーーーー……ッ!
遠くで、ピイが二回鳴いた。
周囲を警戒するが、特に異変はない。
しばらく進んでいると、後方で偵察をしていたドワーフの馬が、慌てたように戻って来た。
「おい、あれを見てくれ!」
俺は馬を止め、後方を凝視する。
かなり離れているが、砂煙が上がっているのが見えた。
「ちっ……もう追跡の部隊が出てきたか。どこからだ?」
元々の計画では、収容所の兵士と最低限しか戦わないで済ませるつもりだった。
そのため、追っ手がかかるのは想定内だ。
しかし、計画は変更され、収容所の兵士は全滅したはず。
そして、収容所の近隣には共和国軍の施設はないという話だった。
考えられるのは、収容所の兵士に生き残りがいた。
その兵士が、何らかの手段で軍に収容所襲撃を知らせた。
若しくは……。
「元々、収容所に向かっていた部隊でもいた、か……。」
どういった理由かは知らないが、あの収容所に向かっていた部隊がいた。
その部隊が、収容所に夜中のうちに着いたのか、生き残りが部隊に知らせたのか。
おそらくはそんなところだろう。
(どうやって知ったかは、今更考えても意味はないな。)
重要なのは、こちらに向かっている共和国軍の部隊がいる、ということだ。
しかし、早い。
ほぼ迷いなく俺たちを捕捉し、追いかけてきたのではないだろうか。
(地面に残った足跡や、蹄の跡を辿ったか……?)
とはいえ、そこまで早く見つけられるものだろうか。
砂浜ならばともかく、そこまであからさまな跡は付いていないはず。
しかも、夜が開ける前から追跡をしていなければ、ここまで早くは追って来れないはずだ。
そうして遠くの砂煙を見ていると、地面に点々と光る物があることに気づいた。
その光は、真っ直ぐに砂煙まで延びている。
(…………何だ?)
よくよく見てみると、その光の正体が分かった。
……………………酒瓶だった。
(こ、こいつらぁ……!)
俺は眩暈に、馬から落ちそうになる。
「リ、リコ様っ!?」
ベリローゼが、慌てて俺を支えた。
ドワーフたちは、収容所でかっぱらった酒を飲みながら歩いた。
空っぽになった酒瓶を、その辺に投げ捨てながら。
追跡の部隊は、酒瓶に気づいたのだ。
そして、今では陽光を反射して、光の道標を作っていた。
「どうするんだい、リコ?」
チェラートンが横までやって来て、どう対応するのかを聞いてくる。
(み、見捨てたい…………こんな馬鹿どものことなんか、置き去りにしてやりたい……!)
だが、家族と約束している。
鍛冶職人たちを助ける、と。
俺は盛大に溜息をつくと、ベリローゼに命じた。
「ベリローゼ。ドワーフたちを先導しろ。後ろのことは気にせず、とにかく急いで森を目指せ。」
俺はそう言うと、馬の向きを変えた。
「リコ様はどうされるのですか!?」
「決まってるだろ?」
俺は口の端を上げると、砂煙を睨みつける。
そうして、馬の腹を蹴った。
「リコ様っ!? お、お待ちください!」
「リコ!?」
駆け出した俺の背中に、ベリローゼとチェラートンの驚く声が届いた。
だが、俺は砂煙を睨みつけたまま、真っ直ぐに向かって行くのだった。




