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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第七章 ドワーフたちの救出

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第71話 収容所襲撃2




 俺は慣れない馬に苦労しながら、何とか制御する。

 乗馬の訓練を受けたことはあるが、もはや六年くらい前だ。

 王子としての英才教育の中に乗馬もあったからだが、その頃も決して得意だったわけじゃない。


「レイン、後は任せたぞ。」

「うん。任せて、リコ。」


 ドワーフの家族と話をしていたレインが、俺を見上げて頷く。

 俺はレインに、ドワーフの家族たちのことを任せた。

 これからレインは、ドワーフの家族たちを、無事に森まで避難させる役目を負っていた。


 百数十人のドワーフを、レインが一人で統率しなくてはならないのだ。

 もしかしたら、収容所の襲撃に気づいた共和国軍の追っ手があるかもしれない。

 そこについては、正直言えば未知数だ。

 あるかもしれないし、ないかもしれない。


 どちらであろうと、やることは同じだ。

 それでもドワーフの家族たちを守り抜き、無事に避難させるのがレインの任務なのだ。


 そのための準備として、俺とベリローゼは共和国軍の兵士たちの使っていた(ソード)を集めておいた。

 ドワーフの女性たちがどの程度戦えるかは分からないが、一応は武器だけは用意した。

 万が一の時は、何とか自分たちの身を、自分たちで守ってもらうしかない。

 さすがに、レイン一人では守り切れないから。

 まあ、こんなのは俺だって無理だろう。

 その困難なことを、俺はレインに任せたのだ。

 リスクを少しでも減らすために、この収容所の兵士は一人残らず始末しておく必要があった。


 厩舎には、馬が八頭いた。

 そのうちの六頭を、俺、ベリローゼ、カンザロス、メッジス、ウラコー、ホーマーが使う。

 残りの二頭を使って、レインは馬車を引かせる。

 歩行の困難な者がいれば荷台に乗せ、小さな子供なんかも乗せることになっている。

 その辺りは事前に打ち合わせをしていたが、現場での詳細はすべてレイン任せだ。

 とにかく、自らの裁量ですべてを決定し、ドワーフたちを避難させることになっていた。


 カンザロスやメッジス、ウラコーがこちらにやって来る。


「こっちはオーケーだ。通れるようにしておいたぜ。」

「そうか。じゃあ、そろそろ出発しよう。」


 町の北東の端に位置する収容所は、北側と東側が町に面していない。

 俺たちが柵を壊して侵入した周辺をさらに壊し、荷馬車が通れるようにしてもらったのだ。

 こうすることで、町中をぞろぞろと歩かないで済む。


「レイン様、ご無事で。」

「ベリーちゃんも。リコのこと、お願いね。」


 レインとベリローゼは、互いに頷き合う。

 そうして、もう一つの収容所を襲撃するために、俺たちは出発した。







 二つの町は、徒歩で一日。

 (おおよ)そ、三十キロメートルを少し超えるくらいの距離だ。

 この距離を、俺たちは三~四時間程度で移動する予定だった。


 そもそも、ドワーフの家族たちが捕らわれていた収容所を襲撃するのに、なぜ夜になってすぐに行ったのか。

 通常、夜襲をかけるなら、寝静まった時間がセオリーだろう。

 そうしなかった理由が、明確にある。

 それは、俺が一晩で二つの収容所を襲撃する計画を立てたからだ。


 戦力を分散するような余裕はない。

 ギリギリの戦力で、もっとも可能性が高い方法がこれだと考えた。

 一方を襲撃して、一日でも時間を空ければ、もう一方が襲撃に気づく可能性が出てくる。

 そうなれば、残されたドワーフたちがどうなるかなど、もはや予測不可能。

 そのため、一晩ですべての(かた)を付けるつもりだった。







 俺たちは馬に乗り、北側の壊れた柵から収容所の敷地を飛び出す。

 これなら松明を使っても、町の人には見えない。

 そうして、そのまま西に進路を取った。

 一旦砂嵐を止め、頼りない月明かりと松明だけで、ひたすら西を目指す。


 馬は、時速で五十キロメートル以上もの速さで走ることができる。

 ただし、そんな走り方ができるのは、せいぜい数分程度だ。

 人間だって、全力で走れば百メートルでもへろへろ。

 二百メートルも走れば、余裕でぶっ倒れる。


 それよりは速度を抑え、時速三十キロメートルくらいの速さでも、数十分が限界だ。

 一時間継続できれば、それだけで到着する計算だが、さすがにそれも無理。

 ということで、さらに速度を落とし、時速十キロメートル程度を目安に走らせる。

 人間で言えば、ジョギング程度の感覚だろうか。

 時々少し速く走らせたりもするが、その後で休憩も取る。

 そんなペースで、三時間を少し過ぎたくらいで、二つ目の町に到着した。







 町の近くまで行くと、松明を消す。

 町には入らず、外を大きく回って、西に突き出す形の収容所に向かった。

 そうして目的地に着くと、俺は馬を下りてしゃがみ込んだ。


「……疲れた。」


 誰だ、こんな無茶な計画立てた奴は。

 一晩で二つの収容所、それも三十キロメートルも離れた場所を襲撃するとか、あほだろう。

 見ると、全員が少々お疲れ気味だ。

 ホーマーが、しれっと自分に【治癒(ヒーリング)】をかけているのが見えた。

 ズルいぞ、俺にもかけやがれ。


 俺は夜空を見上げ、月の位置を確認した。

 一つ目の収容所を襲撃したのが、十九時頃。

 収容所を制圧し、向こうを出発したのが二十一時よりは、前だろう。

 そこから三時間ほどなので、現在は日付が変わるくらいか。


()()()()()()、全員回復薬(ポーション)を飲んでおけよ。」


 抜け駆けしたホーマーの名前をあえて挙げ、他のメンバーに回復薬を飲むように指示する。

 さすがに【治癒】ほどではないが、飲むと飲まないとでは大違いだ。

 そうして少しの休憩を取った後は、馬を放してやり、俺たちは収容所に向かった。


 鍛冶職人たちが捕らわれている収容所は、警備のレベルが段違いに高い。

 一つ目の収容所は、予め兵士たちを殲滅しておいたが、こちらでは同じ方法は無理だろう。

 できる限り隠密に事を進め、何とか全員を解放してやりたい。


 俺は収容所に向かって歩きながら、【災厄(カラミティ)】を発動して砂嵐を起こす準備をする。

 一度起こした砂嵐の影響がこの辺りにも及んでいるのか、すんなり組み上がった。

 徐々に強まる風に、カンザロスがスカーフを目の下まで引き上げる。


「また風が出て来やがったか……。」

「助かるのは助かるが、ちと鬱陶しいな。」


 メッジスとウラコーが、半目になって俺を見る。


「侵入を誤魔化すのには、いい日和だろ?」


 にっこりと笑いながら、俺もスカーフを上げた。


『今夜、砂嵐が来る。』


 そう、俺は予言していた。

 襲撃には適した日だろう、と。

 まさか【災厄】のことを教えるわけにはいかないので、気象予測として教えておいたのだ。


 明日は晴れる、雨が降る、嵐が近いなど。

 農民や漁師、猟師などには、過去の経験から天候に敏感な者がいる。

 気象学など知らなくても、ごく短時間の予測くらいは、誰でもできるだろう。

 どんよりとした空模様を見て、雨が降りそうだな、と考えたことが一度もないなんて人はいないのではないだろうか。

 そうした勘の延長として、俺は砂嵐を予言した、ということになっている。


 俺たちは、町の外れから狭い路地を通り、収容所の正面に向かった。

 襲撃時の動きを何度もシミュレーションし、正面突破がもっとも確実性が高い、と俺は判断した。

 普通に考えれば、あり得ないだろう。

 だが、建物の配置、警備の配置、砂嵐による視認性の低下、襲撃から脱出までの動き、これらを考慮した上での結論だ。


 特に砂嵐の影響が大きい。

 兵士たちの宿舎から見られないため、まともに相手にはせず、夜警の兵士だけを片付ける方針を採用した。


 ドワーフの家族を救出した時は、移動のための準備がいろいろあった。

 レイン一人に任せるため、なるべくスムーズに移動を開始できるよう、気を配った。

 そうしたことも考慮して、一つ目の収容所では兵士の皆殺しを選択したのだ。

 まあ、ニ十~三十人程度なら、全部相手にしても問題はないだろう、と。


 しかし、こちらの収容所の兵士数はおそらく倍以上。

 そのため、なるべく最小の戦闘で救出を完了させたい。

 もしバレなければ、夜警の兵士を始末するだけで襲撃を完遂できる。

 朝、交代の兵士が来た頃には、夜警の兵士の屍が転がり、ドワーフたちが消えている。…………というのが理想だ。

 とはいえ、そう上手くいくとは俺も思っていないので、カンザロスたちの手を必要としたわけだが。


 俺とホーマーは物陰に隠れ、入り口の警備の様子を窺う。

 ベリローゼ、カンザロス、メッジスとウラコーが配置に着く。


「さてと、お手並み拝見といくか。」


 俺が軽い調子で言うと、ホーマーが微妙な顔をした。

 ホーマーは相変わらずビビり気味である。

 もうちょっと腹を据えた方がいいのだが、ホーマーの性格的に難しいのだろう。

 この調子じゃ、逃亡生活がさぞかし大変だったことは、想像に難くない。


 門には、四人の兵士が警備に就いている。

 物見櫓に一人、門の内側に一人、門の外に二人だ。


 ウラコーが、投げ両刃(スローイングダガー)を投げるのが見えた。

 少しだけタイミングをズラし、メッジスも投げ両刃(スローイングダガー)を投げる。

 この二人は、投擲が得意だ。

 そのため、物見櫓の兵士と、門の内側にいる兵士を、まず片付ける。

 二人の兵士が倒れるのに合わせ、夜闇と砂煙に隠れていたベリローゼとカンザロスが突入した。

 門の外の兵士を一撃で屠り、あっという間に制圧する。


「じゃ、ちょっくら行ってくる。」


 そう言うと、俺は物陰から立ち上がった。


「気をつけてください、リコ君。」


 若干声の震えているホーマーを置いて、俺は走り出す。

 所定のポジションで腰を落として待ち構える、カンザロスに向かって走る。

 最初は軽い感じで走り、【戦意高揚(イレイション )】も発動して徐々に加速する。

 そうして、カンザロスの手前で大きく跳躍し、その手に足をかける。


「フンッ!!」


 カンザロスが押し上げる力も利用し、俺は軽々と有刺鉄線を飛び越えた。

 そのまま物見櫓の柱に取りつき、一息つく。

 するするする……と柱を下りると、門を内側から開ける。


 全員が門を通って侵入すると、傍にある待機所のような小屋に向かった。

 最悪、警備が倒されるのを目撃される可能性があったが、どうやら気づかれなかったようだ。

 もし気づかれたら、最初に侵入した俺が始末する役目だったのだが、手間が省けた。

 小屋の中を確認すると、無人だった。

 これで、門の制圧は完了。

 退路の確保のためにカンザロスを残し、俺たちは収容所の中に散っていった。







 鍛冶職人たちが捕らわれている建物は二つ。

 俺たちは、これを一つずつ攻略する計画だ。

 まず、ベリローゼ、メッジス、ウラコーで建物周辺の警備を、各々が片付ける。

 夜警の兵は二人一組だが、極端に視界が利かず、砂嵐で気配も悟られないので、不意をつけばこれは楽勝。

 倒した兵士を、見つからないように隠す方が面倒なくらいだ。


 その間に、俺はホーマーを連れて厩舎に向かった。

 厩舎では、馬たちが砂嵐に怯えているのか、落ち着かない様子だった。


「思ったよりも少ないな。……十五……六……七…………十七頭か。」


 二十頭以上はいると予想していたが、そこまではいなかった。


「ホーマー、急いでやるぞ。」


 俺はホーマーと一緒に、馬たちに鞍などを取り付け、すぐに使える準備をする役目だった。

 意外にも、ホーマーは馬の扱いが結構上手い。

 教会でも馬を飼っていて、馬の世話は好きだったらしい。

 もっとも、気性の荒い馬や、気の立った馬は苦手なようだが。


 今も馬たちは落ち着かない様子だ。

 そのため、若干怯えつつ、ホーマーは馬に近づいた。


「ピイピイ、ピイ。」


 いつの間にか入って来たピイが、厩舎の梁の上で鳴いた。

 そうして何度か鳴いていると、馬たちが大人しくなっていった。


「…………偶然か?」


 俺は何度かピイと馬たちを見る。

 だが、あまり考え込んでいても仕方ない。

 ホーマーを手伝いながら、馬たちに鞍を付けていった。


 ちなみに、俺一人では身長が足りずに鞍を取り付けることができない。

 ちくしょー……!







■■■■■■







 鞍を取り付け終わり、俺はホーマーと一緒に厩舎を出た。

 そろそろ、歩哨や建物の外で警備に就いていた兵士を片付け終わったはずだ。

 そうして俺が合流地点に向かうと、人の気配に気づいた。


(まずいっ……!?)


 俺は咄嗟に短剣(ショートソード)を引き抜き、その気配と距離を詰める。


「待った!? 待った待ったっ!!」


 だが、その人影は両手を挙げて降参のポーズを取った。

 夜闇と砂煙で、ほとんど顔が見えないため、俺は警戒を解かずに短剣を向ける。


「……久しぶりだね、リコ。僕だよ、僕。」


 そう言って手を挙げたまま、人影が近づく。

 短剣を向けたまま、人影を凝視する。

 そうして現れたのは、薄っぺらい笑みを張りつけたチェラートンだった。


「………………………………何やってんだ、お前?」


 フレイムロープ退治で会って以来、数年振りの再会だった。

 しかし、場所といい、タイミングといい、あまりにも怪し過ぎた。


「何って、手伝ってあげたんだけど?」


 そう言ってチェラートンが、後ろを指さす。

 俺は得体の知れないチェラートンを警戒したまま、指さした方を見る。

 暗くてよく見えなかったが、何かが地面に倒れているようだ。


「厩舎の方に向かう奴を、片付けてあげたよ。」

「……………………。」


 明るい声で言うチェラートンに、再び短剣を向ける。

 まったく意味が分からない。

 チェラートン(こいつ)は、何が目的だ?


「ちょっと、何で剣を向けるのさ。味方だって、ほら。」

「怪し過ぎなんだよ。何やってんだよ、まじで。」


 俺が警戒を解かないため、チェラートンが大袈裟に溜息をつく。

 あまりにもわざとらしく、軽くイラっとした。

 こっちは、こいつに構ってるような時間はないのだが。


「この間、レインと二人で収容所(ここ)を探ってただろう? 何かするんだろうなあ、ってこの辺りを見張ってたんだよ。」

「……ちっ。」


 どうやら、前に来た時に見られていたらしい。

 くそ……気づかなかった。

 俺があからさまに不機嫌になると、チェラートンがさらに笑みを深める。


「僕の方の仕事に、ちょっと関係しそうだったんでね。それで、様子を見ていたんだ。まさか、真正面から突っ込むとは思いもしなかったけど。」

「…………仕事だあ?」

「ああ。当たり前だけど、詳しいことは言えないよ。でも、僕の方は収容所(ここ)の簡単な調査だけのつもりだったんだ。」


 チェラートンは仕事で収容所を見張っていた。

 それで、収容所を探る俺たちに気づいたということか。


依頼者(クライアント)がどうするつもりなのかは知らないけど、最終的には潰すことも視野に入れてたんじゃないかな? だから、僕の仕事とぶつかることはない。それで、ちょっと手伝ってあげようと思ったわけ。」


 チェラートンの話は、一応は筋が通るか……?

 調査中に、襲撃計画に気づいた。

 本来なら、その襲撃を見ているだけでも良かったはずだ。

 だが、依頼者(クライアント)の最終的な目的とも大きく外れることはなさそうだと考え、手を貸すことにした。

 報告では、手を貸したことまで報告するのか、それとも伏せるのかは分からないが、「調査中に襲撃が起きたよ」と伝えれば済む話なのだろう。

 ただ見ていても、手を貸しても、結果は同じ。

 収容所は襲撃され、ドワーフたちは逃がされる。


「…………どうやって、収容所(ここ)に侵入したんだ?」

「別に、普通に門から入ったけど?」


 俺の質問に、チェラートンは何でもないことのように答える。


 門は制圧し、カンザロスを置いている。

 外に知らせに行くような兵士がいた場合、始末するためだ。

 当然ながら、外から中に入る者も、止める役目を負っている。


「がたいのいいのがいたみたいだけど、こう視界が利かなくちゃね。あんまり彼を責めないであげてね。」


 あっけらかんと言うチェラートンに、俺は顔をしかめる。


「リコ君、お知り合いですか……?」


 何やら話し込む俺とチェラートンに、戸惑いながらホーマーが聞いてくる。

 そうして俺の横に立つと、不思議そうな顔になった。


「あれ……? もしかして、チェラートンさん?」

「ん?」


 ホーマーが、チェラートンを見て、尋ねる。

 暗いため、顔をよく見れないのだろう。

 チェラートンも、急に名前を呼ばれて、少し戸惑った感じだ。


「私です。ホーマーです。久しぶりですねえ、お元気でしたか?」

「は……? ホーマー?」


 チェラートンが軽薄な笑顔をやめ、ホーマーを凝視する。

 しかし、ホーマーだとは分からないのか、怪訝そうな顔を俺に向けてきた。


「……そう言えば、チェラートンもリベルバースの攻略に参加してたことがあるんだっけか。」


 そんなことを、メッジスとウラコーが言っていたことを思い出す。

 メッジスたちと入れ違いのような感じだったらしいが、ホーマーは塔の攻略にずっと参加していた。

 チェラートンとも、一緒に塔を登ったことがあったのだろう。


「ホーマーって……あのホーマー? え、本当に?」


 ホーマーの変わり果てた姿に、チェラートンは信じられないような様子だった。

 まあ、小太りの姿しか知らなければ、今のガリッガリに痩せたホーマーとは結びつかないだろう。


「門にはカンザロスさんがいたはずですが、気づきませんでしたか?」

「あのがたいのいい奴、カンザロスだったのか……。」


 視界が利かず、カンザロスはチェラートンの侵入を許してしまったが、チェラートンもカンザロスとは気づかなかったようだ。


 俺は頭の痛い状況に顔をしかめるが、腹を決める。

 ここで同窓会のように「よお、最近は何してんだよ」なんて、互いの近況に花を咲かせるわけにはいかない。


「……分かった。手を貸す気があるなら、手を貸してくれ。」


 少しでも手が欲しいことに変わりはない。

 不確定要素を抱え込むことになるが、もはや排除するのも困難だ。

 厄介なことに、排除するにしても、チェラートンはそう簡単に排除できるような奴じゃなかった。


 そうして、俺はホーマーとチェラートンを連れて、合流地点に急いだ。


「レインは一緒じゃないのかい?」

「あいつには、別の仕事を任せてる。」

「ふーん。」


 そんな話をしながら、俺たち三人は闇の中を進んだ。

 そうして、無事にベリローゼ、メッジス、ウラコーと合流を果たす。


(おせ)えじゃねえか。」

「やられちまったかと思ったぜ。」


 予定よりも遅れた俺に、メッジスとウラコーが言ってくるが、すぐに唖然とした顔になった。

 が、俺は先回りをして釘を刺す。


「言いたいことがあるのは分かるが、飲み込め。後で好きなだけ話をすればいい。」


 メッジスとウラコーが複雑な表情で顔を見合わせ、頷き合う。


「何人片付けた?」

「入り口の警備、歩哨を合わせて十二人です。」


 ベリローゼたち三人は、合計で十二人の兵士を倒したらしい。

 これに門の四人を加えて、十六人。

 俺はチェラートンを見上げる。


「厩舎に向かってたのは、二人組だったよ。」


 つまり十八人を始末したことになる。

 しかし、収容所全体で考えた場合、これでもまだ五十人以上が残っているだろう。


 俺たちは入り口の錠前をベリローゼに解錠させ、建物に侵入した。

 いざとなれば壊して侵入するつもりだったが、ごついだけで構造の単純な錠前だったため、簡単に開けることができた。

 メッジスとウラコーを入り口に残し、俺たちは中に入った。

 先頭には俺が立ち、ベリローゼ、ホーマー、チェラートンと続く。

 建物の中は真っ暗だった。


 俺は質の悪い夜光石を魔法具の袋から取り出すと、僅かな明かりを得る。

 軽く手を開けば、少しばかりの明かりを確保し、暗くしたければしっかり握り込んだり抱え込めばいい。


 慎重に通路を進み、鍛冶場を発見する。

 だが、ドワーフも兵士もいないようだった。

 どうやら、警備は外を固めているだけで、中にはいないようだ。

 もしかしたら、夜間に警備の兵士を中に入れると、不用意な暴発を招くと警戒したのかもしれない。


「リコ様、奥に階段があるようです。」


 通路の先を見て、ベリローゼが抑えた声で報告する。

 夜光石の明かりが届かず、俺には見えなかったが、ベリローゼにはこれでも見えるらしい。


 慎重に階段を上がると、長い通路が延びていた。

 通路の左側に部屋のドアがいくつかあり、ドアノブの上に錠前が見える。

 右側は壁があるだけで、窓すらなかった。


(…………気配が……。これは……?)


 風の音に邪魔されるが、部屋の中の気配が俺にも感じられた。


「起きてますね。こちらに気づいているようです。」

「ああ。」


 小声で知らせるベリローゼに、相槌を打つ。

 ドワーフたちはどうやら、不寝番を置いて夜間も警戒していたようだ。

 俺はドアの前に立つと、顔を覆っていたスカーフを下ろし、軽くノックした。


「助けに来ました。今、ドアを開けます。」


 俺がそう言うと、中の気配が動揺しているのが分かった。


 ベリローゼに場所を譲り、夜光石の光で手元が見やすいようにする。

 錠前を、ベリローゼにピッキングで開けてもらう。

 すんなり錠前を開けると、ベリローゼが一歩下がる。

 そうして、俺はゆっくりとドアを開いた。


 部屋の中は、一応ランプがあるようだが、薄暗い。

 そして、がたいのいいドワーフたちがドアの周囲で待ち構えていた。


「…………どういうことだ、これは? あんたらは一体……。」


 一番手前にいた、壮年のドワーフが訝しんで尋ねる。

 当然だろう。

 そして、罠の可能性も考えているはずだ。


「別の収容所にいた、ご家族はすでに解放しています。」

「何だって……!?」

「家族は無事なのか!」


 俺が家族のことを伝えると、どよめきが起こった。

 彼らが、もっとも懸念していることが解消されたのだ。

 この反応も当然だろう。

 しかし、先頭に立っていた壮年のドワーフが俺を睨みつける。


「……何、なんだ? 一体、何が狙いなんだ……!」

「狙いなんてありません。俺はただ、恩返しをしているだけなんです。」

「恩返し……?」


 こんな話で信用してもらえるか分からないが、俺はざっと理由を伝えた。


「三年ほど前、俺はドワーフの男に命を救われました。ドドナッツォというドワーフを、ご存じありませんか?」

「ドドナッツォ……。」


 名前を伝えてみるが、彼らはドドナッツォを知らないようだ。


「貴方たちを助ける条件は一つです。いつか、ドドナッツォというドワーフに出会ったら、『貴方のおかげで助かった』と彼に感謝してください。そして『リコとレインは、今でも感謝している』と伝えて欲しいんです。」

「そんなことで……いいのか?」


 俺の言葉に、壮年のドワーフが怪訝そうな顔になった。


「そんな、こと……?」


 だが、疑問を口にした壮年のドワーフに、冷えた目を向ける。


「……命の恩を、そんなことだと?」


 俺はつかつかと歩いて行くと、壮年のドワーフの胸倉を掴み、乱暴に引っ張った。

 そうして、頭突きでも喰らわすように顔を近づけると、殺気を籠めた視線で射抜く。


「お前らの命の価値の分だけ、感謝を伝えろって言ってんだよ。お前の命は、お前の家族の命は、そんなに軽いのか? あ?」


 俺のあまりの豹変ぶりに、胸倉を掴まれたドワーフが顔を引き攣らせた。


「か、感謝する! 命を懸けて、必ず伝える! だから、家族に会わせてくれ!」


 その時、後ろにいた若いドワーフが声を上げた。


「約束する!」

「絶対に伝えるから、ここから出してくれ!」


 次々に声が上がっても俺は動かず、胸倉を掴んだドワーフを睨みつけていた。


「リコ様。」


 気遣うようにベリローゼに声をかけられ、俺は胸倉を掴んでいた手を放した。


「家族は、俺の仲間が修王国の国境にある森に避難させている。案内するから、もたもたしてないでついて来い。」


 それだけ言うと、俺は部屋を出た。

 チェラートンが、いつも通り薄っぺらい笑みを浮かべて見ているのが、妙に癇に障った。

 …………完全に八つ当たりだな、これは。





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