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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第七章 ドワーフたちの救出

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第69話 代理の意味




 北に半日ほど歩き、夕方にホルスカイト共和国とロズテアーダ修王国の国境に着く。

 乾いた土と、少しの岩が転がるだけの、荒涼とした場所だった。


「最悪だ……。」


 あまりの見通しの良さに、俺は思わず頭を抱える。

 多少の地形の起伏はあっても、丘陵地帯とも言えない程度で、ロクに身を隠せる場所がない。


「森があるって話なのよね?」


 レインも周囲を見渡しながら、呟く。


「もしかしたら、もっと東なのではないでしょうか。」

「……かもしれないな。」


 ベリローゼの意見に、俺は頷いた。


 エルミアルダは、国境を越えた先に森があると言っていた。

 鍛冶職人のドワーフが捕らわれている町と、その家族が捕らわれている町。

 この二つの町は、歩いて一日ほどの距離がある。

 もし、家族が捕らわれている町の北に森があるのならば、現在地から東に一日移動しないとその森には辿り着けない。


「これは……収容所を出た後も、少し苦労しそうだな。」


 追っ手の足止めをする手段も、何か講じる必要があるかもしれない。


 この辺りは、すでに修王国側のはずだ。

 分かりやすく線でも引いてあれば、国境を越えたと判断しやすい。

 だが、こんな何にもない場所では、共和国の兵士が国境を越えて追いかけても誤魔化せてしまう。

 そもそも、修王国側の者が見張っていてくれなければ、そうした事(・)実(・)を(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)にできる。


「思った以上に厄介だな……。」


 俺は溜息交じりに、そう呟かずにはいられなかった。







 日が落ちたため、俺たちはそこで休むことにした。

 二枚の見取り図を眺めながら、じゃがいもを齧る。

 丸ごと煮て、塩を振っただけの、いつもの野営食だ。


「うーむ……。」


 膝の上に乗せたピイの頭を撫でながら、俺は唸る。

 どれだけ眺めても、そしてどう考えようと、手が足りない。

 家族が捕らわれている収容所はともかく、鍛冶職人たちの捕らわれている収容所を襲撃するには、三人ではどうにもならない。


「いいアイディアは浮かんだ?」

「………………あると思うか?」


 レインの問いかけに、俺は投げやりに答える。

 ベリローゼが、鍋の豆スープを掬いながら苦笑していた。


「ドワーフの女性って、戦力になるのかね?」


 まず、警備の数が少ない、家族を先に救出する。

 この方針は、割とすぐに決めていた。

 手の足りない部分を、救出した家族が埋めてくれれば、鍛冶職人を救出するのも随分と楽になる。


「ドワーフ族の情報は、あまり伝わっていません。戦力として数えられるかは未知数です。」


 ベリローゼから、スープの入ったコップを受け取りながら、俺は頷く。


「それでも、いないよりは遥かにマシだ。畑仕事に使ってた鍬(くわ)でも鋤(すき)でも、戦えなくはない。戦力として組み込むしかないだろう。」

「警備の兵士が持ってる剣(ソード)もあるし。奪えば武器は手に入るわ。」


 レインの意見に、スープを口に運びながら頷く。


「あとは、それを使ってどれだけ戦えるか、だな。…………犠牲者は、出てしまうだろうが。」


 正規の訓練を受けた兵士と、まともにやり合えるとは思えない。

 三対一、四対一で戦うように徹底すれば、それでも犠牲者の数をある程度は抑えられると思う。

 だが、そこまで考え、俺は首を振った。


「やっぱり、この案はだめだ。」


 ドワーフの家族に犠牲を強いることを前提にした計画を、俺は破棄する。

 鍛冶職人たちこそ、それをもっとも恐れているために、収容所で我慢しているのだから。

 おそらくだが、家族のことがなければ、鍛冶職人たちで反乱を起こしていてもおかしくない。

 しかし、そんなことをすれば家族が無事で済むわけがない。

 だからこそ、鍛冶職人たちは我慢しているのだ。


「俺たちだけでやるんだ。」


 俺が方針を明確にすることで、レインとベリローゼも真剣な表情で頷く。


「メッジスさんたちが、手を貸してくれるといいのだけれど……。」


 レインの呟きに、俺も頷きそうになる。

 しかし、加勢してもらえることを前提に、計画を立てるわけにはいかない。


「…………アテにはするなよ。」


 それだけ言うと、俺はスープを呷るように飲み干す。

 中々の難題に、俺はこめかみを揉みながら考え続けるのだった。







■■■■■■







【収容所】


 明かりの乏しい部屋で、一人の若いドワーフが倒れ込むようにベッドに横たわる。

 一応、形はベッドではあるが、非常に粗末な造りをしていた。

 やや重めのドワーフの身体を支えるには、頼りない。

 実際、これまでに重さに耐えかねて壊れたベッドがいくつもある。

 そうして、ベッドの壊れた者は、床で寝るしかなくなるのだ。


 二十人近いドワーフが、この大部屋に押し込められ、寝起きしている。

 一階に鍛冶場、二階に寝る場所や食堂という建物が二棟あり、それぞれに分かれたドワーフたちは建物から出ることを禁じられていた。


 ただただ毎日、金槌を振るい、鉄を打つ。

 それは、ドワーフにとっては至上の喜びであるはずだった。

 …………収容所(こんなところ)に、押し込められていなければ。


「こんなこと、いつまで続ければいいんだ……。」


 思いが、零れる。

 妻と子を人質に取られているため、人間どもの言うことを聞くしかない。

 しかし、それで本当に家族は無事なのか?

 いつか、家族と再会することはできるのだろうか?


 共和国の人間に捕らわれ、すでに一年が経過していた。

 数カ月に一度、別の町に捕らえられている家族たちのうち、数人と面会することができた。

 そうして連れて来られる数人から話を聞くことができるため、今のところは家族の無事が確認できていた。


 だが、それだっていつまで無事かは分からない。

 考えたくはないが、「無事だ」と言わされているだけかもしれない。

 そんな考えが浮かんでは消え、思わず拳を握り締めてしまう。


「……つまらないことは考えるなよ、ソフロットル。さっさと寝ろ。」


 隣のベッドで横になっているロンバーダンが、目を閉じたまま声をかけてきた。

 ロンバーダンは、集落の鍛冶職人たちの中で、リーダーを務めていた壮年のドワーフだ。

 収容所(ここ)でも、ドワーフたちのまとめ役のようなことをやらされている。


「けど…………家族のことを考えると……。」


 ソフロットルの呟きを聞き、ロンバーダンが溜息をつく。

 そうして、ソフロットルに顔を向けた。


「………………今(・)は(・)、我慢だ。」


 声を落とし、ロンバーダンが重く呟く。

 ロンバーダンの真剣な目に、ソフロットルは小さく頷き、それ以上は考えないようにすることしかできなかった。







■■■■■■







 夜が明けてすぐ、俺たちは東に向かって出発した。

 眩しい日の光に目を細めながら、ひたすら太陽の方角を目指す。

 そうして三時間ほど歩くと、遠くに森らしき影を見つけた。


「情報通り、森はあるようだな。」

「はい。これで、計画の破綻は免れました。」


 ベリローゼが、ほっとしたように言う。

 何とかあの森に逃れれば、ドワーフたちを自由にしてやることは可能だろう。


「でも、ちょっと距離があるわね。」

「それは仕方ない。鍛冶職人たちと町を出たら、やや東寄りに逃走する方のが良さそうだな。」


 単純に国境を目指して北に向かうより、少し東寄りを目指すのがいいだろう。

 ただし、その分国境までの距離は伸びてしまうが。







 更に数時間歩き、森に到着した。

 かなり鬱蒼と茂った森で、追跡の目を逃れるには丁度いい。


「森の中も、少し調べるぞ。」


 俺たちには天然の方位磁石、ベリローゼがいるため、方角に迷うことはない。

 山賊退治のように、【加護】の力で誤魔化されない限りは大丈夫だろう。


「ピイ、戻って来い。」


 空を飛んでいるピイに手を振ると、すぐに下りてきた。

 森に入ってしまうと、空からは見えなくなるだろう。

 はぐれてしまわないように、一緒にいることにする。

 ピイが左肩に止まると、俺は森へ足を踏み入れた。


 ほとんど人が来ない森のようで、奥に進んでも道のようなものはなかった。

 そうしてどんどん奥に進み、川を見つけた。


「川があるのか。これはいいな。」

「水の確保が課題になってたものね。」


 レインも川を見て、表情を綻ばせる。


 川幅は二十メートルくらいあるが、あまり深くはない。

 魚も泳ぐ、澄んだ川だった。

 川は、東から西に流れている。

 おそらくだが、この川の源流は帝国と共和国を分断する山脈か?


「この川を辿って行って、山脈に逃がすのが良さそうか?」

「そうですね。ドワーフたちがどこを目指すかにもよりますが、特にアテがないのであれば、候補としては良いと思います。」


 水の確保が容易になり、懸念の一つが消えた。

 久々の朗報に、俺の心が少しだけ軽くなる。


「試しに、川を遡ってみる? 拠点に使えそうな場所が無いか、探すのもいいんじゃない。」

「そのつもりだ。洞窟……とまでは言わないが、それなりに周囲から遮られた場所が欲しいな。」


 レインの提案に頷き、俺は石ころを一つ拾う。

 平べったい石を川に投げ、水切りを試す。

 石は三回跳ねただけで沈んだ。


「……とにかく、目印になるような場所を探そう。」


 少々納得のいかない結果だが、遊んでいるような時間はない。

 俺たちは川を辿り、拠点になりそうな地形を探す。

 一時間ほど歩くと、小さな湖にぶつかった。


「綺麗な湖……。」


 レインが、陽の光や周囲の景色を反射する湖面に見惚れ、吐息のように漏らす。

 確かに、中々お目にかかれないくらいに美しい景色だった。


「これはいいな。」


 そうして、周囲を見回す。


「二人は、この付近で拠点になりそうな場所がないか、探してみてくれ。」


 俺はそう言うと、左肩に止まったピイの足を、右手でガッシと掴む。


「俺はピイ(こいつ)を洗ってるから。ゆっくりでいいぞ。」

「ピッ!? ピイピイッ! ピイピイーーッ!!」


 首をぶんぶんと振り、バタバタと翼を羽ばたかせるピイを、両手でしっかり掴む。

 ピイの必死の訴えに、レインとベリローゼが苦笑する。


「あんまり、ピイちゃんをいじめちゃだめよ、リコ。」

「ほどほどにしてあげてください、リコ様。」


 加減はしろと言うが、止めようとはしない二人に、ピイが絶望する。

 俺は片手でブーツを脱ぐと、そのままザブザブと川に入り、ピイを洗い始めた。


「こら、暴れんなっ! 飛沫が、飛ぶんだよっ!」

「ピイイィィイッ! ピイイイィィイイイイイイイイッッッ!!!」


 こうして、静かな湖畔にしばらくの間、ピイの叫びが響き渡るのだった。







 レインとベリローゼは二手に分かれて、周囲を探索した。

 あまり起伏のない土地なので、洞窟の類は見つけられなかった。


 ……が、替わりに大木を見つけた。

 樹齢千年を軽く超えているような、本当に大きな木だ。

 幹に大きな洞(うろ)があり、二人くらいなら寝そべることができるだろう。


「これは良さそうだな。」


 俺は、ぐったりしたピイを腕に抱え、洞(うろ)の中を覗き込む。

 ピイの羽は水に濡れ、いつもの丸っこい姿ではなく、やや細身だ。

 普段の姿とのギャップに、思わず笑ってしまうそうになる。


「でしょ? ここにする?」


 レインの確認に、俺は頷く。

 俺たちは、それぞれが持っていた魔法具の袋をベリローゼに渡し、洞(うろ)に隠す。


 この魔法具の袋は、食料を満帆に詰めていた分だ。

 少しだけ腰回りがすっきりして、俺は伸びをする。

 これで俺たちの魔法具の袋は、俺とベリローゼが使用者登録している、専用の物だけになった。

 ベリローゼが枯れ枝でカモフラージュし、四つの魔法具の袋を隠し終わる。


「これでよし、と。さて、戻るか。」


 俺たちは、大木のある場所から南に真っ直ぐ進み、森を出た。

 そうして、周囲の地形をよく眺める。


「この辺にも、何か目印が欲しいな。」


 余程見当違いの場所でなければ、とにかく森に入りさえすれば、川にぶつかるだろう。

 川にぶつかれば湖を起点にして、大木を見つけることができる。

 だが、できればスムーズに、魔法具の袋を隠した大木まで辿り着きたい。


「木の枝にタオルでも縛っておくか?」

「あんまり、意味は無いんじゃないかなあ。」


 レインが、遠くまで続く森の外縁部を眺める。

 確かに、この広い範囲で目印のタオルを探すくらいなら、さっさと森に入り、川を探す方が確実かもしれない。


「森を離れながら、何度か場所を確認すればいいんじゃない?」


 俺はレインの意見を採用した。

 南にしばらく歩きながら、何度か森の方を振り返る。

 森全体を眺めるようにして、俺たちが出てきた場所の位置関係を、大雑把に確認する。

 そうして二時間ほど歩くと、町が見えてきた。

 鍛冶職人たちの家族が捕らわれた町であり、メッジスたちと再会した町だ。

 俺は立ち止まり、町と森を交互に見る。

 そうして、太陽の位置を確認した。

 ざっと、位置関係を地面に描き出す。




【共和国・修王国国境付近 略図】


 修王国側

                ×       森

                ×

                ×

                 ××       大木

       C           ×××

                      ×××××××××

                          D

 ――――――――――――――国境――――――――――――――

                          〇

      A


                           B

 共和国側


 A 鍛冶職人の捕らわれた町

 B 家族の捕らわれた町

 C 昨夜野営した場所

 D 先程、森を出てきた場所

 〇 現在地




「大体…………こんな感じか。」

「そうですね。私もそんな感じだと考えていました。」


 森はかなり広く、略図では北と東は省略してある。

 つまり、俺たちが移動した森の範囲は、かなり南西に寄った端の方だけだ。


「それぞれで、よく場所を憶えておけよ。はぐれた場合やドワーフたちを連れて合流する時などに、あの大木が重要な拠点になる。」

「うん、分かってるわ。」

「はい。」


 レインとベリローゼがしっかりと返事をすると、俺も頷き返した。







■■■■■■







「元気そうだな、リコ。」

「そっちも。メッジスたちから聞いたよ。ずっと面倒みてたんだってな。」


 俺たちが町に戻り、宿屋に入ると、すぐにカンザロスが訪ねてきた。

 どうやら、メッジスたちは収容所襲撃を手伝うことにしたようだ。


 俺はカンザロスにテーブルの席を勧め、向かいに座った。

 レインとベリローゼが、俺の後ろに立つ。

 カンザロスは、やや疲れたような表情をしていた。


「正直言うと、ずっとどうするべきか考えていたんだ。このまま、あいつらの面倒を見続けるのか、ってな……。」


 大きい身体を丸め、カンザロスが思いを吐露する。

 おそらく、そんな思いを抱えたまま、誰にも言えずに堪えてきたのだろう。


「それは仕方ないさ。迷いもなく、ずっと助け続けるなんて、どこの聖人君子様だ? 迷って当たり前さ。それでも、カンザロスは見捨てなかった。」


 そうして、俺はカンザロスを真っ直ぐに見て言い切る。


「よく頑張ったと思う。立派だよ、カンザロスは。」


 カンザロスは唇を引き結び、目を閉じる。

 そうして、重く重く、息を吐いた。

 その様子に、これまでのカンザロスの苦労を垣間見た気がした。


「俺たちを手伝ってくれるってことでいいのか?」


 俺がそう尋ねると、カンザロスが頷く。


「ああ、そのつもりだ。だが、一つ確認したい。」


 そうして、真剣な表情で俺を見る。


「情報屋ギルドに伝手(つて)があるって話だが、本当か? どの程度の伝手なんだ? 今回の件について、教会を探ることが本当にできるのか?」


 矢継ぎ早に、質問を繰り出す。

 カンザロスの協力する理由は、この一点だろう。


 教会の、怪しい動きの理由を探る。

 これが分かれば、何らかの対処が可能になるかもしれない。

 それは、カンザロスがこの厄介事から、解放されることにも繋がる。


「厳密に言えば、俺が伝手を持ってるのは帝国の情報屋ギルドだ。帝国(そっち)でなら、この件の教会の狙いなんかも探れる可能性はある。ただ……。」


 そこで、俺は一旦口を噤む。

 そうして、やや眉を寄せてカンザロスを見る。


「理由が分かったとしても、それで解決の糸口が掴める保証はない。情報を入手できたとしても、それで教会に何かを働きかけるのとは、また別の話になるからな。」


 俺がそう言うと、カンザロスも頷く。


「それは、仕方ないだろう……。それでも、このわけの分からない状態からは、マシになる。」


 カンザロスは表情を引き締め、姿勢を正した。

 そして、テーブルにぶつけんとばかりに、頭を下げる。


「頼む。何が起きているのか、調べてくれ。」

「分かった分かった。だから、顔を上げてくれって。俺たちだって協力してもらうんだ。対等な取り引きだろ、これは。」


 俺の言葉に、カンザロスが頭を上げる。

 俺は、二枚の見取り図をテーブルに広げた。


「これは……?」

「収容所の見取り図だ。外から見ただけなんで、中の構造までは分からないが……。こっちが、この町にある収容所。こっちのが、鍛冶職人たちが捕らわれている方の収容所だ。」


 そして、紙とインクも取り出し、大雑把に国境周辺の地図を描き出す。


「ここ何日かで調べた、町や国境の周辺の地図だ。ドワーフたちを救出したら、この森を目指そうと思ってる。」


 そう言って、地図の森を指先で叩く。


「敵戦力はこの町が二十から三十、向こうが七十から八十ってとこか。兵士ばかりで、騎士は見かけなかった。おそらく二つの町の収容所を、一個中隊で管理しているんだと予想している。」


 カンザロスは二枚の見取り図を手に取り、地図と交互に見る。


「この町の収容所には、ドワーフの女子供が百五十ほど。あっちの町には三十から四十の鍛冶職人のドワーフを想定している。」

「二つの町に…………二百弱のドワーフか。」


 カンザロスが、眉間に皺を寄せて呟く。

 俺は背もたれに寄りかかり、口の端を上げる。


「これを、俺たちは三人だけで何とかするつもりだったんだ。カンザロスたちが手を貸してくれれば余裕だな。」

「余裕って……。嘘だろ?」


 俺が笑って言うと、カンザロスが頬を引き攣らせた。


「嘘なもんか。細部を詰める必要はあるが、もう作戦は決まったよ。」


 俺が気楽に言うと、背後から少し動揺する気配が伝わってきた。

 この町に戻るまで。なんならカンザロスに会うまで、俺はうんうん唸っていたのだ。

 さすがに、どう考えても三人だけではどうにもならないが、カンザロスたちの協力が得られるなら話は別だ。


 そうして、俺は頭の中で配置を思い浮かべる。

 見取り図が完成した時点で、必要な配置はほぼ決まっていた。

 その配置する箇所が多いため、三人だけではどうにもならなかったのだ。

 だが、カンザロスとメッジス、ウラコーが協力してくれるなら、その空いていた箇所に置いていくだけでいい。

 最大限楽観的に考えれば、これだけで必要なピースは揃ったことになる。


 俺は銅貨を数枚取り出すと、見取り図の上に置いていく。


「侵入したら、俺とベリローゼがこの建物に向かうから…………、カンザロスは、レインやメッジスたちとこっちで……。その後は、負担が大きくなってしまうかもしれないが、ここを押さえてもらって……。」


 見取り図の上の銅貨を動かし、それぞれの動きを説明する。

 そうして二つの見取り図と、周辺地図も使い、十分以上をかけて計画の全貌を伝えた。

 レインとベリローゼも、後ろからテーブルを覗き込んでいる。


「…………そう、上手くいくか?」


 一通りの計画を聞き、カンザロスが腕を組み、難しい顔になった。

 だが、俺は自信たっぷりに笑顔を作る。


「いくわけねえだろ?」


 俺は腕を組み、危険な光を目に宿す。


「こんなのは、ただの机上の空論だ。絶対にどこかで破綻する部分が出てくる。」

「じゃあ、どうするんだ?」

「別にどうもしないさ。」


 俺は、増々笑みを強めた。


「捻じ伏せるんだよ。何のために、腕利きが揃ってると思ってんだ?」


 リベルバースの塔では、罠にかかった。

 百体もの蜥蜴男(リザードマン)。こちらの戦力は五人だけ。

 それでもホーマーを守り切り、全員が生き残ってみせた。

 あの時のメンバーと違うのは、隊長(リーダー)のケベロムがいないという点だ。


 ただし、代わりにレインとベリローゼがいる。

 以前のレインでは足手まといになってしまうが、今のレインの腕はそこまで悪くない。

 俺やベリローゼと比較すると一歩二歩引くことになるが、戦力として十分に考えられる。

 まだまだ伸び代(しろ)があるレインには、この経験も得難い糧となることだろう。


「綿密な計画、限られたリスク。そんな寝言をほざく奴が、あの塔の攻略を完遂できるかよ。」

「それは、まあ……。いざとなりゃ、腕一本で何とかするつもりはあるが……。」


 そう言って、カンザロスが顔をしかめる。


「人使いが荒い奴だな……。」

「依頼者(クライアント)なんて、そんなもんだろ?」


 俺が満面の笑顔でそう言ってやると、カンザロスが苦笑した。

 そうして、席を立つ。


「話は分かった。俺の方からメッジスたちにも伝えておく。」

「ああ、頼む。決行は明日の夜だ。夕方、こちらからあの廃屋に行く。」

「分かった。準備しておく。」


 カンザロスは、そのまま部屋を出て行った。

 俺も席を立つと振り返り、レインとベリローゼを見る。

 ベリローゼが、レインを気遣うように視線を向けた。


「リコ……私は……。」


 初めて俺の計画の詳細を聞き、レインが悲し気に俯く。

 そんなレインの前に立ち、俺は声をかけた。


「計画が不満か?」

「そうじゃ、ないけど……。」


 不満をありありと見せながら、それでも言葉にすることを躊躇う。


「何か、勘違いしているようだな。」

「勘違い……?」


 俺の言葉を聞き、レインが僅かに視線を上げる。


「一緒に行動しないことを…………鍛冶職人たちの救出に連れて行かないことを、どう思った?」

「……………………。」


 俺の問いかけに、レインは答えない。

 何かを言いたいのに、言えない。

 震える唇が、レインの心情をよく表していた。


 俺の考える計画では、鍛冶職人たちの救出に、レインは参加させない方針だ。

 ただし、それには理由がある。

 非常に重要な役割が、レインにあるためだ。


 危険だから、役に立たないから、置いていく。

 そんな風に見る者も、確かにいるだろう。

 そう見えることも事実だ。

 だが……。


「俺のいない場所で、俺の代わりを任せることが、そんなに不満か?」

「リコの、代わり……?」

「そうだ。この役割を任せられるのは、レインかベリローゼしかいない。どちらかにしか任せられないのだから、選ぶしかないだろう。……俺の代理を務めることが、そんなに不満なのか?」


 俺がそう言うと、レインが首を振る。


「本当なら、俺が自分でやるべきことを、お前たちには任せることになる。それとも、俺とレインが役目を入れ替えれば満足か?」

「……ごめんなさい、リコ。」


 謝るレインに、俺は笑いかける。


「焦るな、レイン。それと、もっと自分を信じろ。俺は、レインが自分で思っている以上に、お前のことを信頼している。お前がいるから、俺も安心して自分のやるべきことに集中できるんだ。」

「うん。」


 俺が手を差し出すと、レインが躊躇いながら手を出す。

 俺は、その手を力強く握った。


「レインの負担は、俺たちなんかより余程大きい。本当なら、もっとそっちに割り振りたいんだ。だけど、どうしてもこちらは頭数(あたまかず)が必要になる。任せられるのがレインしかいないんだ。済まないが、頼んだぞ。」


 俺が握った手に力を籠めると、レインも同じように握り返す。

 そうして、迷いを捨てた目でしっかりと頷いた。


「お任せください、リシャルド様。」


 レインの目に力が戻るのを見て、俺もしっかりと頷き返すのだった。





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