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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第四章 沈む塔

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第40話 狂信者たちの試練




「おーい、ホーマー! ここだ!」

「あっ、リコ君!」


 俺は、雑踏の中できょろきょろするホーマーを見つけると、声をかけた。


「もう、どこに行ってたんですか? 急にいなくなるから、びっくりしましたよ。」


 ホーマーは額の汗を拭いながら、人を掻き分けて俺の方にやって来る。


(この反応……。)


 まさか、気づいてないのか?


 俺はホーマーに道の端に行くように手で示す。

 そうして、雑踏に背を向けて短い杖(ワンド)を魔法具の袋から取り出した。


「こいつに見覚えは?」

「ん……?」


 俺が取り出した短い杖(ワンド)を見ても、ホーマーはきょとんとした顔をしていた。

 これは、本気で分かってねーな。


「自分の魔法具の袋を確認してみろ。」

「魔法具の袋……?」


 そう呟いて、ホーマーは袋に手を入れる。

 そこで、サーッと顔から血の気が引いた。


「あれ、ないっ!? どうして!?」

「どうして、じゃねえよ。」


 俺は呆れつつ、ドンッとホーマーの腹に短い杖(ワンド)を押しつける。


「まったく……。スリだよ。悪いが金までは取り返せなかった。」


 ということにしておく。

 ホーマーは、慌てて短い杖(ワンド)を魔法具の袋に仕舞った。


「お金なんていいですよ。ありがとうございます、リコ君。」


 ホーマーはにっこりと笑顔になって、礼を伝えてくる。

 それはそれでどうなんだ?

 あのお金は信者からの寄付金であり、別に自分で稼いだって訳じゃないだろ。

 まあ、だからこそ有難味がないのかもしれないが。


 俺は少々釈然としないものを感じつつ、ホーマーに注意を促す。


「油断しすぎだ。もっとしっかり管理しろ。」

「面目ない……。」


 俺が真剣に注意すると、ホーマーが項垂れた。


「もうスられんなよ? しっかり腹に抱えておけ。大事な物を仕舞ってるなら、警戒していることを分かりやすく示すのも、マナーみたいなもんだ。」


 スリは、あからさまに警戒している者を、わざわざ狙いはしない。

 そういう態度は、却って「大事な物を持ってます」と周囲に知らせることになるので、ケース・バイ・ケースではあるけど。

 少なくとも、スリは狙いにくくなる。

 強盗は知らん。


 俺はホーマーの腰に巻かれたベルトを回し、魔法具の袋の袋部分を前にさせた。


「袋に手を置いておけ。それで狙ってくる奴はいなくなる。…………普通はな。」


 これでも狙ってくる気合の入った奴なら、ご愁傷様。

 そいつはきっと、初めから「ぶっ殺してでも奪ってやる」という覚悟の持ち主だろう。

 そういう輩には、護衛をつける、といった違う対処が必要になる。


 ホーマーは一つ頷くと、言われた通りに袋の上に手を置いた。


「ありがとうございます、リコ君。」

「ホーマーには世話になってるからな。これからは気をつけろよ?」

「はい。」


 そうして、俺たちは帰途に着いた。

 一悶着ありはしたが、それでもいつもよりも早い時間に帰れる。

 しかも、明日は休みだ。

 俺は、足取りも軽く宿に戻った。







 宿では、全身返り血で汚れている俺を見て、店主が腰を抜かした。

 お騒がせして、すんません。

 すぐに湯場に行きますんで。







 後日、塔攻略では……。


「……お前、何してんだ?」


 カンザロスが、魔法具の袋を腹に抱えるホーマーを見て、呆れた顔をしていた。


「いいから回復薬(ポーション)寄越せ。」

「あ、カンザロスさん!? また勝手に!」


 結局、またカンザロスに勝手に持って行かれるホーマーだった。







■■■■■■







 リベルバースの街。

 大通りから離れた、ボロボロの家屋がひしめく一画。

 そんなボロい家屋の一つで、一人の女の子が膝を抱えていた。


「くそ……あいつ……!」


 イライラとした様子で、女の子はやり場のない怒りに震える。

 たった二人だけの、兄妹。

 親はいなくても、二人で懸命に生きてきた。


 誰の手も借りず、兄妹二人で協力して生きてきたのだ。

 それを……!


「馬鹿にしやがって……っ!」


 数日前にあったことを思い出すと、今でも怒りで叫び出したくなる。

 施しで、大銀貨を放り投げて来たガキ。

 施しとは、憐れみに他ならない。


 憐れまれたのだ。

 憐れんだのだ。

 ウチを!

 あのガキが!


「…………絶対に、許さないっ……!」


 女の子は、爪が食い込むほどに強く、手を握り締める。


 ガタガタッ。


 その時、建付けの悪いドアを開け、男の子が家に入ってきた。


 この家は、誰も住まなくなって久しい。

 痛んだ部分は修繕されることもなく、放置されていた。

 大きな街には、必ず貧民窟がある。

 そして貧民窟には、必ず放置された家屋というのもあった。


「ただいまぁ。」


 男の子の明るい声が耳に届く。

 両手いっぱいに荷物を抱えた男の子は、苦労しながらドアを閉めた。


「お帰り、お兄ちゃん。……どうしたの、それ?」


 女の子はいっぱいの荷物を見て、不思議そうな顔をする。

 男の子はにっこりと精一杯の笑顔を作った。


「いやぁ、荷物を置いて離れたお間抜けさんがいてな。ちょろっと……。」

「うっそ!? 本当に!?」


 男の子が荷物から燻製肉を取り出すと、女の子が飛びついた。

 男の子の持っていた荷物は、すべて食べ物だった。

 置き引きでお金を稼ぎ、食べ物に替えてきたようだ。


「ほーら、お前の好きな木の実(ナッツ)の砂糖がけもあるぞ。あとで食べような。」

「すごーい、お兄ちゃん!」

「はっはっはっ、お兄ちゃんを見直したかね、妹よ。」

「見直した見直した!」


 女の子は満面の笑みで、渡された燻製肉にかぶりつく。

 肉の旨味がしっかりと凝縮された、上等な燻製肉だった。


「美味しーーーーいっ!」

「そうだろう、そうだろう! はっはっはっ!」


 女の子の笑顔に、男の子も嬉しくなる。

 そうして、自分も果物を一つ取ると、かぶりつく。

 瑞々しく、甘味のしっかりとした、新鮮な果物。

 普段も、女の子のおかげである程度は稼げているため、別に腐った物を食べている訳ではない。

 それでも、今回は奮発していつもより良い物を買ってきた。


 男の子は、女の子に嘘をつくことに、少しだけ胸に痛みを感じた。

 だが、この程度の罪悪感など、どうということはない。

 数日振りに、女の子の笑顔が見られた。

 それだけで男の子は満足だった。


 ポケットの中の大銀貨は、数枚の大銅貨と銅貨に変わっていた。







■■■■■■







 塔攻略の十二日目。

 俺たちは、ようやく五十九階層に到着した。


 五十五階層を越えてから、魔物の数が格段に増えた。

 その魔物も、鳥頭(バードヘッド)と蜥蜴男(リザードマン)の混成で現れるようになった。


 暴れん坊の鳥頭がぶんぶん鉤爪を振り回し、蜥蜴男が隙を埋めるように攻撃を繰り出す。

 このコンビネーションが意外に厄介だった。


 そして現在、俺たちは通路を魔物に塞がれ、突破できずにいた。

 隊長(ケベロム)が、正面の鳥頭の頭を叩き潰す。


「くそっ……うじゃうじゃと! これじゃ、先に進めねえぜ!」

「後ろも来たぞ!」


 メッジスとウラコーが、後ろから迫る魔物に剣(ソード)を向けながら叫ぶ。

 これまで俺たちは、遭遇(エンカウント)した魔物はすべて倒してきた。

 だが、ここまで数で押されると、それも難しい。

 魔物を避けて進むという選択も必要になってくる。


 俺は中衛として、ホーマーの横で前衛と後衛を確認する。

 数としては、後衛の方が圧倒的に少なかった。


「どうする、ケベロム。 一旦退くか? 後衛なら、まだ押し返せるぞ?」


 俺は、前衛で二本の鎚矛(メイス)を振るうケベロムに、状況を伝える。


 ここまでは、魔物の数が多かろうが、階層を隅々まで踏破する方法を選んできた。

 だが、ここは五十九階層。

 ここさえ抜ければ、残りは最上階だけなのだ。


 ならばここは一旦退き、態勢を整え、再度アタックをかけるというのも手だ。

 この五十九階層は隅々移動するのではなく、魔物を避けながら上を目指す。

 最上階の状況は分からないが、そこで目的の“何か”を奪取できれば、もう塔(こんなところ)に用はないのだ。

 あまり褒められた手段ではないが、強引に成果を奪うというのも時には必要である。


 これまではすべて、真正面からぶつかり魔物を殲滅してきた。

 それは、何度も行き来する都合上、退路を考えれば当然必要だからだ。

 だが、最上階はもはや目の前。

 一か八かの賭けの要素はあるが、そう分の悪い賭けでもない。


 何だかんだ言っても、この隊は底力がある。

 強引な方法でも、何とかなると思えるくらいには、強いチームだった。


「仕方ねえ、一度退くぞ! リコ、後衛のバックアップに入れ! メッジス、ウラコー、道を拓け!」

「オッケーッ!」

「やってやらぁ!」


 ケベロムの指示で、一気にテンションが上がる。

 方針が定まれば、あとはそれを実行すればいいだけ。

 そして、やることは一つ。目の前の魔物をひたすら倒し、前に進めばいい。

 いや、この場合は後(・)ろ(・)に(・)進(・)む(・)、か。


 俺はメッジスとウラコーの連携の邪魔にならないように、取りこぼしを潰していく。

 そして、時に前に出て、率先して道を拓いた。


 ケベロムとカンザロスは、押し寄せる鳥頭と蜥蜴男を、懸命に押し返した。







 俺たちは、五十八階層まで戻ってきた。

 上の階層にいた魔物たちは、五十八階層に下りてもまだ追いかけて来た。

 だが、すべてではない。


 魔物たちにも持ち場があるのか、すべてが下りて来る訳ではないようだ。

 明らかに数の減った魔物の追撃を倒しながら、俺たちは更に下の五十七階層まで下りた。

 そうして、ようやく追撃を跳ね返すことに成功したのだった。


「かぁーーっ! まじやべえな、あれ!」

「さすがに数が多すぎる……。この間の罠どころじゃないぞ。」


 メッジスが感想を漏らすと、カンザロスも頷く。


 五十五階層にあった、モンスターハウス以上の魔物を相手にする羽目になった。

 ただ、あの時はそこそこの広さがあったため、全周包囲された。

 今回は通路のため、あくまで目の前の魔物だけを相手にすれば済んだが。


「どうすんだ? あれを全部相手にするのは、さすがに勘弁してもらいたいんだが。」


 ウラコーの意見に、ケベロムは難しい顔をする。

 ケベロムの中では、まだ方針が定まらないようだ。


「最上階(てっぺん)の状況が分かっていない以上、できれば五十九階層も綺麗にしておきたいんだがな。」

「そりゃ分かるけどさ。本気であの数を殲滅する気か?」


 ケベロムの呟きに、俺は肩を竦める。

 どれだけ残っているか分からないが、五十九階層の魔物を殲滅するなど、本当にできるのか?


 とりあえず、俺たちは今後の方針を話し合った。

 大前提として、目標は最上階の“何か”。

 これを諦める選択肢は、メンバーの中にはないようだ。


(やっぱ無理っす。……でもいいと思うけどな。)


 あれだけの数に守られているのだ。

 味方が六人(これ)だけじゃ無理でした、というのも立派な理由になる。


「お掃除隊から、応援は出せないのか?」


 俺が尋ねると、ケベロムが首を振る。


「聞くことはできるけどな。まず乗って来ないと思うぞ。」


 いくら命知らずの傭兵とは言え、怖いものは怖い。

 塔攻略は危険すぎて嫌だ、という考えを変えることは難しいという。

 どうやら『神が望まれている』という狂(・)信(・)者(・)化(・)にも限界があるようだ。


(……普段、馬鹿のくせして。こんな時だけまともな判断してんじゃないよ。)


 と、大変失礼なことを思ってしまうが、俺もその意見には大いに賛成だ。

 俺だって、本当はこんな塔の攻略なんかしたくない。

 だが、今のところ魔王に繋がる可能性があるのは、ここの『鰐の魔物』なのだ。

 今はまだ有力な手掛かりを何も得られていないが、それなら最上階まで行って直接確かめるまで。

 もう、あと少し。すぐそこ、手が届きそうな所まで来ているのだ。


(隊のメンバーが増やせれば、まだ何とかなるかと思ったけど、難しいか……。)


 お掃除隊がどこまで役に立つか分からないが、そこそこの腕があるならローテーションを組むことができる。

 今は俺一人で交代の穴を埋めているが、前衛や後衛を二チームにできれば、チーム単位で休憩を取ることができる。

 前進しながら、中衛に置いた一チームが休むということができるようになるのだ。

 もっとメンバーがいれば、通路の途中に配置して退路の確保をさせることもできる。


 だが、無い物ねだりをしても仕方ない。

 とりあえず俺たちは、ケベロムの提案で間引き作戦を試すことにした。

 数日かけて五十九階層にアタックして、魔物をなるべく減らす。


 五十五階層からこっち、魔物の数は多かった。

 だが、一度殲滅したら、あとは他の階層とあまり変わらない数の魔物しか現れなかった。

 つまり、居なくなりはしないが、数自体は減らせるのだ。


 とにかく何度もアタックし、五十九階層の魔物の数を、他の階層と変わらない程度にまで減らす。

 最上階には、それから向かうという方針で、話はまとまった。







■■■■■■







 最初に五十九階層にアタックした日から、四日目。

 つまり、俺が塔攻略に参加してから十六日目。


 魔物の数は大分減らせたが、まだちょくちょく遭遇(エンカウント)をしていた。

 とりあえず、たった今倒した魔物たちから離れ、休憩を取る。


 ウラコーが回復薬(ポーション)を飲み干して、大きく息をついた。


「かなり減りはしたが、まだまだ遭遇するな。」

「はは……。」


 うんざりしたように呟くウラコーの言葉に、乾いた笑いが起こる。

 ホーマーの作成した地図を見ながら、ケベロムが無精髭をじょりじょりと撫でる。


 この四日間で、俺たちはすでに五十九階層の地図を完成させていた。

 すでに、下り階段から上り階段までの、最短ルートは完成している。

 間引き作戦のために、五十九階層に留まっているだけだった。


 その時、壁に背中を預けて座っていたカンザロスが、立ち上がる。

 大剣(グレートソード)の柄に手をかけ、通路の奥を睨んだ。


「どうしたんだ?」


 メッジスが声をかけるが、カンザロスは奥を睨んだままだ。

 カンザロスの代わりに、俺が答えてやる。


「また、気配がした……。」


 通路の奥、十字路になっている辺りに何かを感じた。


 どうやら、この隊で気配に敏感なのは、俺とカンザロスだけのようだ。

 ここ数日、俺とカンザロスは妙な気配を感じることがあった。


「魔物じゃないのか?」

「だったら、襲ってくるだろ。」


 ウラコーの予想を、即座に否定する。

 カンザロスは、大剣(グレートソード)にかけていた手を放す。


「消えた……。」

「ああ。」


 消えたというよりは、離れたために感じられなくなった、という方が正解かもしれない。


 俺は【災厄(カラミティ)】を発動し、災害に関わる因果の状態を確認した。

 こちらは、特に変化は無し。

 相変わらず大蛇の胴体のように、力強く、ゆっくりとうねる。


 塔内を上に向かう“力”の流れにも変化はない。

 こちらも変わらず、上に向かっている。


(五十九階層(ここ)まで来て、まだ上に向かっているってことは……。)


 “力”を吸い上げているものが、最上階にある?

 塔の外からは、この“力”は確認できない。

 つまり、塔の内部で止まっているのだ。

 五十九階層まで来て、その原因が確認できないのだから、最上階にそ(・)れ(・)があると考える方が自然だろう。


 ケベロムは、地図をホーマーに返すと、全員に聞こえるように声をかける。


「少し早いが、今日はそろそろ下りるとしよう。」

「お、マジで?」

「いいのか? まだやれるぜ。」


 ケベロムの提案に、喜びと戸惑いの声が上がる。

 ケベロムが、にやりと凶悪な笑みを浮かべる。


「何日もお預けにしちまったが、そろそろいいだろう。」

「…………てことは、もしかして?」


 メッジスの予想に、ケベロムが力強く頷く。


「明日、盗(と)るぞ。それで、こんなクソッタレな塔とはおさらばだ。」

「おおおお、ついにか!」

「ぅおおーーしっ!」


 パンッと、メッジスとウラコーがハイタッチした。

 ようやく最上階に上がるという方針を聞き、俺も少しだけ安堵する。

 だが、懸念もあった。


「大丈夫なのか? いるんだろう、この上に。」


 俺が上を指さして懸念を示すと、ケベロムが表情を引き締める。

 目撃された、空飛ぶ『鰐の魔物』。

 ぶっちゃけ、対策も何もないのだが。


「言いたいことは分かる。だが、正直どうしようもねえんだよ。」


 何せ、誰も登ったことのない塔だ。

 最上階の状況など、分かる訳がない。

 そして、おそらくいるであろう『鰐の魔物』についても、情報は無いのだ。

 その情報は、俺(・)た(・)ち(・)が(・)持(・)ち(・)帰(・)る(・)ことを期待されている。

 つまり、俺たちこそが先駆者(パイオニア)だった。


「まともに相手をすることはない。俺たちの目的は、あくまで祀られている“何か”だ。それを手に入れれば、魔物を倒す必要はない。」


 それだけが、唯一の救いだと言っていい。

 ゲームのように、ボスを倒さないとドロップしない、なんて話ではない。

 祀ってある、置いてあるというなら、それをかっぱらうだけでいいのだ。


 とは言え、もしも『鰐の魔物』が、祀っているものを護る番人だったら?

 奪われた後、素直に見送ってくれるだろうか?


(か、考えたくねえ……。)


 空飛ぶ巨大な鰐と鬼ごっことか、嫌すぎる。

 そこで、俺はケベロムに一つの提案をした。


「明日アタックするって言うなら、明日だけでも戦力を投入できないか?」

「……? どう言う事だ?」


 俺の提案に、ケベロムが眉間に皺を寄せる。


「教会騎士団(テンプルナイツ)だよ。一発勝負で奪うつもりなんだ。一緒に最上階まで来てくれれば、探索が捗るだろ?」


 まあ、実際に捗るかどうかは知らんが、人海戦術で目標を探し、奪う。

 上手くいけば、『鰐の魔物』の目を教会騎士団(そちら)に向けることもできる。

 結果、俺の生存率が上がる。


(『鰐の魔物』のことを知りたくはあるが、膝をつき合わせて話し合うって訳にはいかないだろうしな。)


 なので、囮は多い方がいい。

 俺は、そんなことを考えていた。


 もし最上階まで同行するのが無理でも、五十九階層で待機しててくれれば、引き渡すまでが俺たちの責任だ。

 引き渡した後、教会騎士団(テンプルナイツ)がやられて奪い返されたとしても、それは俺たちの責任ではない。

 契約通り引き渡したので、一旦は俺たちの仕事は完了という訳だ。


 クリア条件を「塔の外で引き渡す」ではなく、「塔内で教会関係者に引き渡す」に変えることができれば、難度はぐっと下がる。

 そう思って提案したのだが、俺の意図はバレバレだったようだ。

 ケベロムが苦笑する。


「言いたいことは分かった。だが、それは却下されている。」


 どうやら、すでに提案していたようだ。

 以前の、お掃除隊からの応援を提案した時、ホーマーを通じて特使に話してもらったらしい。

 が、特使にけんもほろろに却下されたという。


(……特使って、ムバイト主教だよな。)


 偉そうにふんぞり返っていないで、少しは協力してくれればいいのに。

 それでも、金を出して「早くしろ」とせっついて来るだけなら、まだマシか。

 金を出しているんだぞ、と余計な口を出されるよりは、遥かにいい。

 俺は諦めて、ケベロムに頷く。


 そうして俺たちは、明日への英気を養うため、早めに塔を下りるのだった。







■■■■■■







「ケベロム。ホーマー。……まだ攻略できんのか。」


 俺たちが塔を下りて外に出ると、教会騎士(テンプルナイト)の一団が待ち構えていた。

 教会騎士(テンプルナイト)たちが道を空けると、その間をムバイト主教が歩いてきた。


「と、特使様!? わざわざ、このような場所まで!?」


 ホーマーが慌てて駆け出すと、ムバイト主教の前で跪く。


(あ、やべ。)


 ムバイトとは、一度駐屯地で顔を合わせている。

 何も分からない子供の振りをして、会っているのだ。

 もしも傭兵だとバレると、少々厄介なことになるかもしれない。


 俺はやや俯き、額を掻くようにして顔を隠す。

 そうして、その場で跪くケベロムたちに合わせて、俺も跪いた。


(何で俺が、こんな奴に跪かにゃならんのや。)


 と思わなくはないが、余計なトラブルは避けたい。

 ムバイトは「フンッ」と鼻を鳴らすと、不機嫌そうに口を開く。


「お前たちがちんたらと遊んでおるから、私がこうしてわざわざ足を運ぶことになったのだ。自覚せよ。」

「も、申し訳ありません……。」


 ホーマーが、額の汗を拭きながら詫びる。


 ムバイトの言葉に、俺の額にぴきっと青筋が浮かぶが、余計な口は出さない。

 面倒を自分から増やす趣味は、俺にはない。

 俯いたまま、黙ってやり過ごす。


「聖下より、『まだか』と問い合わせがあった。聖下は『一刻も早くせよ』と仰せだ。『信仰に護られた者が、何を恐れるのか』と。」

「おお、なんと……。」

「聖下が……。」


 ムバイトの言葉に、カンザロスやメッジスが吐息のような声を漏らす。

 何やら感動しているようだが、俺はこっそりと溜息をついた。


 その時、ケベロムが顔を上げ、真っ直ぐにムバイトを見上げた。


「畏れながら、特使。あと一日お待ちください。」


 ケベロムの言葉を聞き、俺はぎょっとした。


(え? あと一日!?)


 確かに明日、最上階にアタックを仕掛けるという話ではあった。

 だが、それは失敗する可能性だってあるのだ。

 一度失敗しても、生き残れば次がある。

 一度目の失敗から学び、対策を練り、次は更に可能性を高めることができる。

 その可能性を自ら排除し、明日にすべてを賭けるなど愚の骨頂。


 しかも、ここでそれを宣言してしまうことに、メリットなど一つもない。

 成功すれば評価されるかもしれないが、失敗したら……?

 この性根の悪そうなムバイトに、つけ込む口実を与えることになる。


 ムバイトはケベロムを見下ろすと、念を押すように確認した。


「……明日、手に入れると?」

「はい。ようやく準備が整いました。」


 ケベロムの言葉に、ムバイトが満足そうに頷く。


「分かった。明日、其方らの信仰が真実のものか試される、と言うのだな。」

「はい。」

「もちろんです、特使。」

「必ずや。」


 隊のみんなが、やる気を漲らせて頷く。


(やめろ、馬鹿! 自分で首絞めんなや!)


 俺が俯いたまま愕然としていると、ムバイトが踵を返す。

 ムバイトが立ち去ると、教会騎士(テンプルナイト)の一団が付き従う。


 そうしてケベロムが立ち上がると、それに合わせカンザロスやウラコーも立ち上がる。

 俺は、とても立ち上がる気力など無く、むしろ崩れ落ちそうになっていた。


「ということだ。我らの奮戦を、総大主教聖下も期待されているぞ。神は、我らとともに!」

「「おおう!」」

「「やってやるぜ!」」


 ケベロムが発破をかけると、みんなが力強く応じる。

 俺は一人、蹲ったまま頭を抱えていた。


(…………失敗した時に備えて、レインたちに逃げ出す準備をさせよう。)


 そんなことを、俺は考えていた。





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