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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第三章 流浪の戦闘冥土

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第30話 四つ葉使用人協会




 山賊退治を終え、俺たちは町に戻ってきた。


 山から戻る道中では、入手した地図を一つひとつ精査してみた。

 どうやら大判の地図は、すべてを合わせるとネプストル帝国の全土をカバーするようだ。

 本当にこれ、国家規模の事業じゃないか?


 それは一先ず置いておき、町に着いたら最初に寄るのは官所だ。

 山賊たちの討伐を行ったことを報告し、山に死体が転がったままであることも報告する。

 また、他の傭兵二人が、山賊たちの犠牲になったことも伝えておいた。

 大まかな場所を伝えるだけだが、これで報告は終わり。


 ただし、これで帰れる訳ではない。

 いくら傭兵として登録していようと、信用など皆無みたいなものだからだ。


 前に商隊の護衛で賊を連れて来た時も、首を持ちこんでいる。

 ただし、あれは商人が証言してくれたし、賊も何人か生かしておいた。

 簡単な聴取で済んだのは、簡単に済む状況を意図的に作り出したから、と言える。


 しかし、今回はどうだろう。

 信用のおける目撃者無し。

 何より、山賊の生首を持ち込んでいるため、山賊だったことを証明できなければ俺たちの方が凶悪犯罪者である。

 そのためしっかりとした事情聴取を行い、俺たちを解放してもいいかを判断することになる。


 中々に恐ろしい社会システムだ。

 一応は一般人である傭兵が、悪人とはいえ殺人を行っている。

 そして、それを容認する形で、社会が回っているのだ。

 国や領地の保有する軍や治安機関だけでは秩序を保てず、傭兵なんてならず者さえ利用する世界。

 しかも、もしも山賊討伐が認められなかった場合、こちらがお縄につくことになりかねない。


 ……が、実はそうしたことはほぼ起こらない。

 傭兵ギルドが後ろ盾となり、しっかりとした調査が行われるからだ。

 もしもこうした討伐の依頼で、行政側が「認めません」なんて連発したら、誰も引き受けなくなるだろう。

 治安維持に傭兵が一役買っていることは間違いないので、官所としてもあまり無体なことはしてこない。

 まあ、本当に討伐した相手が間違っていたら、叱られるでは済まないのだが。


 ただ、今回の依頼で厄介な点は、山賊たちのことがはっきりしていなかったことだ。

 山賊行為が行われ、潜んでいる山も特定していた。

 だが、山賊の首領(ボス)を特定できていなかった。

 そのため「持ち込まれた首は本当に山賊のものか?」という疑惑が残る。


 俺は、官所には入手した手紙や地図を見せなかった。

 そして、首領(ボス)が【加護】持ちだった情報も伏せていた。

 すぐに教えるつもりではいる。

 だが、今教えることはできなかった。


 物事には、順番というものがある。

 できれば官所は後回しにしたかったが、そうもいかない。

 さすがに首領(ボス)の生首を持ってうろうろしたくはないので、まずは官所に届け出た。

 きっと今頃は、傭兵ギルドの方に問い合わせが行っていることだろう。


 そうして、俺たちが報告した場所に本当に山賊たちの死体があるか、アジトがあるか。

 確認のための兵士が数人、すぐに現地に向かうことになる。


 しかし、馬を使っても、確認にはおそらく数日かかるだろう。

 その間、官所に留め置かれるか、一旦釈放されるかは、まあ運だ。

 俺たちが善良に見え、話の分かる人が官所の所長をしていれば、きっと自由にしてくれる。

 しかし、如何にも俺たちが胡散臭く、何か企んでいそうだと思われれば、一通りの確認が済むまでは「泊っていけ」ということになる。







 そして、()()()()()()丸四日も留め置かれることになった。


「予想していたとは言え…………失礼な奴らだな。どこからどう見ても善良だろうに。」


 釈放された官所の前で、俺はぶつくさ文句を言う。

 そんな俺の横では、レインとベリローゼが項垂れていた。


「うう……、早く休みたいわ。」


 一週間の山籠もりから、そのまま官所での拘留。

 ちなみに拘留されている間、俺たちは一切会うことができなかった。

 おそらく、口裏合わせをさせないためだろう。


 また、地味に面倒だったのが、ベリローゼは「本当に傭兵なのか?」ということだった。

 傭兵団にも登録し、戦力として入れているだけだ、と説明しても中々納得してもらえなかった。

 前にベリローゼの言っていた、『戦闘メイド』とやらを疑っているのだろうか?

 使用人を使う許可は得ているのか、ともしつこく聞かれた。

 使用人じゃない、と何度も説明するのが本当に大変だった。


 そして、もう一つ問題が残った。

 山賊たちに奪われた荷が、見つからないのだ。

 俺はアジトで見つけた魔法具の袋を持ち帰り、官所に渡している。

 ただ、これは首領が死亡したことで、中身が取り出せなくなっている。

 しかし、魔法具の袋一つでは済まないくらいに荷が奪われているはずなのに、それが見つからない。

 どこか別の場所に隠しているのか、すでにどこかに引き取らせたのか。

 そうした謎が、残念ながら解決せずに残ってしまった。

 とは言え……。


「まあ、無事に依頼達成を認定されたし、めでたしめでたしだな。」

「何をどうすれば、そんな『めでたしめでたし』なんて考えになるのよ……。」


 レインは半目になって、俺の意見に異を唱える。


 俺たちが拘留されている間、官所と傭兵ギルドがしっかりと連携を取ってくれたようで、山賊に間違いないということで決着がついていた。

 おかげで、手間が省けて大助かりである。

 …………俺はね。


「二人は宿に行ってていいぞ。この前泊った所な。」


 そう言って、俺は大銀貨を一枚、一万シギングをレインに渡す。


「ついでに、昼に何か美味い物でも食べて来な。」

「リコは行かないの?」

「俺はまだ用事がある。」


 俺がそう言うと、ベリローゼがげんなりした顔になった。


「本気で、()()をするつもりなんですか?」

「勿論。」


 すでに方針は伝えてあるので、俺が何をするのかは今更説明するまでもない。

 官所から少し離れた場所で、俺はベリローゼに預けていた地図と手紙を受け取る。

 そうして、二人に背を向けて歩き出した。


「じゃ、後でな。ベリローゼは今夜話がある。大人しくしてろよ?」

「その言葉は、そっくりそのままお返しします。」


 俺はベリローゼの言葉を笑い飛ばし、そのまま情報屋ギルドに向かった。







 意気揚々と情報屋ギルドに向かった俺だが、実のところ場所はよく分かっていない。

 というのも、情報屋ギルドはいろいろな街に支部を持っているが、その場所が秘匿されているからだ。

 集まってくる情報によっては、情報屋ギルドの支部や本部ごと葬ってやろう、と思うようなやばいネタもある。

 仮にその情報が、上級貴族や高級官僚、皇帝一族なんかに絡む情報だった場合、決して大袈裟ではないだろう。


 そのため、一見が情報屋ギルドと接触するには、いくつかパターンがある。

 俺は大通りを歩きながら、並んだ店の看板を眺めた。


(お、あった。)


 酒樽と酒瓶、グラスに注がれた酒の看板。

 所謂、酒場の看板である。

 昼間っから酒場がやってるのはちょっと変な感じもするが、どこの町にも一つくらいはこういう店がある。

 この町はそこそこ大きいので、他にもいくつかあると思う。

 俺は、そうした昼間からやっている酒場のすべてを回るつもりだった。


 店の中に入ると、店内には数名の客。

 テーブルに突っ伏して酔いつぶれている客と、陰気な顔をしてグラスを傾ける男など。

 俺は客を一瞥するだけで、カウンターに向かった。


(スツールが高すぎなんだよ、くそ……。)


 この、お子様な身体が恨めしい。

 俺はカウンターに手を伸ばし、飛び跳ねるようにスツールに腰掛けた。


 カウンター内の離れた場所にいたマスターらしき男が、困ったような顔でこちらにやって来る。


「あのな、坊主? ここは――――。」

「酒を飲みに来た訳じゃないさ。繋ぎを頼みたい。」


 そう言って俺はカウンターにコツンと大銀貨を一枚置いた。

 これが、一番ポピュラーな一見の客が情報屋ギルドと接触する方法だ。

 マスターは驚いた顔になるが、黙って頷くと大銀貨を懐に仕舞った。

 それを見届けて、俺はスツールから下りる。


 これを、すべての酒場で行うのだ。

 少々手間がかかり、金が無駄になるが仕方ない。

 どこの酒場で繋がったのか特定させないため、わざとこういう方法を取らせるのだ、とは前に小耳に挟んだ話。

 自分には関係ないと思っていたが、こんな情報が役に立つ日が来るとは……。


 それから、他にも二軒ほどの酒場をハシゴし、適当な食堂に入った。

 一番奥の席に着き、昼食を注文する。


「一番肉肉しい食事を。」

「は、はあ……串肉の盛り合わせでいいですか?」


 十日以上も、まともな食事から遠ざかっていた。

 とにかく俺は、美味い肉が食べたかった。


 そうして届いた肉に、かぶりつく。

 かぶりつくと肉汁が溢れ、濃いめのソースとよく合った。

 とはいえ、さすがに肉だけでは飽きそうだ。

 他の客が食べているパンが美味そうに見えたので、そちらも追加で注文する。


 もっしゃもっしゃと食べていると、向かいの席に男が座った。

 俺はちらりと男を見る。

 最初の酒場の客にいた、陰気そうな男だった。

 どこで繋いだか、分からなくするんじゃなかったのか?

 人手不足かよ、おい。


 俺は黙って、食事を続ける。


 もっしゃもっしゃもっしゃ……。


 陰気そうな男は、その見た目の通り寡黙な男だった。

 騒がしい店内ではあるが、ここだけ妙に静かになった気がした。


 ……ごっくん。


「何か言ったらどうだ?」

「……………………相席いいか?」


 今更それかよ!

 ていうか、そういうことじゃねーよ!

 男の言葉に少々呆れるが、俺は食事を続けることにした。


「ずっとまともな食事から遠ざかってたんだ。少し待っててくれ。」


 俺がそう言うと、男は頷く。


「さっき解放されたばかりらしいな。(おおよ)そのことは確認したが、それに関連する話か?」


 どうやらこの男、俺たちが官所に拘留されていたことを、すでに掴んでいるらしい。

 それなら話が早い。


 俺は、新しい串肉にかぶりつきながら頷いた。







 食べ終わると、俺たちは場所を移した。

 気を使わずに話のできる場所はないかと聞いて、案内されたのは別の食堂。

 奥の席を衝立(ついたて)で遮っただけの簡易な密室だが、話だけならこれで十分だと言う。


 衝立の手前の席には、ちらほらと客が座っていた。

 俺がそちらを見ていると、陰気な男が口の端を上げる。


「気にしなくていい。」


 席に着いていた男の一人が、こちらに視線を向けてきた。

 そうして、僅かに頷く。

 どうやらこいつらも、情報屋ギルドの人間らしい。


 とりあえず衝立の横を通り、奥の席に着く。


「それで。用件は何だ?」


 席に着くと早速、陰気な男が用件を尋ねてきた。


「情報の拡散を頼みたい。あと、商業ギルドにも複数のルートで情報を流してくれ。」


 そう言って俺は、二通の手紙を魔法具の袋から取り出し、陰気な男に渡した。

 手紙に目を通すと、陰気な男の目が鋭いものに変わった。


「…………これを、どこで?」

「アジトだ。」


 それだけ聞くと、陰気な男は目を閉じて考える。

 それから、指先で軽く手紙の端を弾いた。


「こちらで預かってもいいか?」

「だめだ。この後すぐに傭兵ギルドに渡すからな。」


 本当なら、取り調べの最初に出しておくべき物だろう。

 ただ、そうすると情報屋ギルドからの信頼を得るのに、少し手間がかかる。

 そのため、ベリローゼの魔法具の袋に入れ、官所では隠しておいた。

 情報屋ギルドへの依頼が終わり次第、すぐに傭兵ギルドに届けるつもりだ。


『ごめんごめん、こんなのも拾ってたんだわ。すっかり忘れてた。』


 って感じで。

 白々しいにもほどがあるが、だからと言って傭兵ギルドとしても受け取りを拒否することはできないだろう。


 そうして、傭兵ギルドから官所に回されることになる。

 直接官所に届けてもいいが、そうすると傭兵ギルドには情報が行かない可能性が高い。

 両方に情報共有してもらうために、傭兵ギルドに届けるつもりだった。


 陰気な男は、懐から紙と小さな箱を取り出した。


「内容を控えさせてもらう。」

「それは構わない。」


 コピー機でもあればすぐに済むのだが、さすがにそんな物は無い。

 陰気な男は手紙を見ながら、素早く内容を書き取っていった。

 封蝋に押された印も、中々上手く書き写していた。


 書き取りが終わると、陰気な男は衝立の隙間から、内容を控えた紙を外の男に渡そうとした。

 それを見て、俺は声をかける。


「気が早いな。」


 俺のその言葉を聞き、陰気な男が僅かに眉間に皺を寄せた。

 俺は魔法具の袋から地図を取り出す。

 アジトにあった地図の中でも比較的大きい物だ。


 縦横ともに一メートルを超える大きさの地図。

 街や村の位置から、街道、森林、河川、山の地形までかなり詳細に描き込まれていた。


 怪訝そうな顔をして地図を広げた陰気な男は、そこで動きが止まった。

 食い入るように地図を見る。


 そんな陰気な男の様子に、俺は笑いが込み上げた。


「それもアジトにあった。大小様々なサイズの地図だ。そいつは多分、ブリーフィングで使ってた地図だろう。」


 そうして、別のサイズの地図を取り出す。

 今度は一辺が三~四十センチメートルくらいの地図。


「縮尺は違うが、こっちはその地図の一部分だけのものだ。おそらく、携帯用ってところか。」


 陰気な男は小さい地図も受け取ると、両方を見比べる。

 しばらく両方を見比べると、大きな溜息をついた。

 射抜くような真剣な目で、真っ直ぐに俺を見る。


「……これらは、売ってもらえるか?」


 俺は首を振り、地図を返すように手を出す。

 陰気な男は一瞬躊躇いながら、素直に応じた。


「正直言えば、俺としても持て余してはいる。」


 言いながら、地図を魔法具の袋に仕舞う。


「山賊が持っているにしては不釣り合いな地図だ。そもそも、これは誰の物だ? 国が作らせたのか? じゃあ、何でそれを山賊が持っている?」


 俺は椅子の背もたれに寄りかかり、肩を竦める。


「もしこれが、山賊に裏から指示していた者が作らせたとしたら、相当な財力の持ち主だ。個人がそう簡単に作れるような代物じゃない。」

「そうだな。調べてみないと何とも言えないが、かなり正確な地図に見える。…………そんなの、情報屋ギルド(うち)だって持っていない。」


 陰気な男の言葉に、俺は頷く。


「出所はともかく、国に渡すのが一番かと思っている。官所で渡しても、領主のところで止まりそうだけどな。」


 領主は領主で、「これは金になる」と判断しかねない。

 それはそれで勝手にしろ、とも言えるが、どう処理をするべきか一傭兵ごときには判断しようがなかった。


「……燃やしちまうのが一番面倒がないか?」

「そ、それは……!?」


 俺が「いっそ無かったこと」にしようかと、闇に葬る提案をした途端、陰気な男が焦った顔になる。

 それを燃やすなんて勿体ない、と顔に書いてあった。


 俺はテーブルの上の手紙を魔法具の袋に仕舞い、代わりに金貨を五枚テーブルに置いた。


「まず、山賊の情報を流してくれ。裏に指示していた者がいたという情報も含めてだ。そして、地図のことも。おそらく地図を用意したのは、この『裏で指示をしていた奴』だろう。」

「そうだな。その可能性は高いと思う。」


 俺の予想に、陰気な男が頷く。


「情報はできるだけ早く広めて欲しい。商業ギルドにも流し、できればすべての所属する商会が耳にするくらいに。」

「…………それは、危険だぞ? 裏にいた奴の動きを封じたいのは分かるが。却って呼び込むことになりかねない。」

「分かっている。ただ、引っ込まれたままじゃ、こっちも手の打ちようがない。」


 俺が一番懸念しているのは、罠を仕掛けられることだ。

 傭兵なんて稼業をやっている以上、依頼を装っておびき出されれば、食いつかない訳にはいかない。

 だが、裏にいた者が分かれば、怪しげな依頼は蹴ることもできる。


「そうそう、山賊の首領(ボス)は【加護】持ちだった。【隠蔽(ハイディング)】というらしい。知ってるか?」

「あのな……。」


 俺は聞いたことがなかったので尋ねてみたが、陰気な男が呆れたような顔になった。

 まあ、情報屋なんだから、それくらい知っているか。


 陰気な男は難しい顔をしながら首を捻る。

 そうして、少しの間だけ思案を巡らせた。


「【加護】持ちまで使って、商隊を襲わせていた……。それも、とんでもない地図まで持たせて。」


 陰気な男は考えがまとまったのか、真っ直ぐに俺を見る。


「依頼は、この情報をなるべく早くに、できるだけ広めること。具体的な情報は【加護】持ちの山賊、裏にいる存在。そして、不釣り合いな地図。」

「ああ。これで足りるか?」


 そう言って、俺は積んだ五枚の金貨を陰気な男の方に押しやる。

 だが、陰気な男は首を振った。


無料(ロハ)でいい。その代わり――――。」

「それはだめだ。釣り合いが取れない。仕事は仕事として請け負ってくれ。」


 俺は陰気な男の提案を先回りし、蹴った。

 どうせ、地図をどうのこうの言ってくる気だろう。

 そこはまったくの別件として交渉させてもらう。


 俺が早々に蹴ったことで、陰気な男がやや落胆する。

 でもそれ、絶対に演技だろ?


「…………この仕事の結果次第で、優先して情報屋ギルドと交渉してもいい。」

「ガキの使いじゃないんだ。『してもいい』なんて口約束を信じる訳ないだろう?」


 陰気な男の言い分はもっともだった。

 なら、土産くらいはくれてやるか。


 俺は袋に仕舞った地図の、小さい方を取り出す。

 そうして、テーブルの上に置いた。


「やるよ。」


 そう言われても、陰気な男は俺の意図が読めず、はっきりとした疑心の籠った視線をぶつけてきた。


「そう疑うなよ。もう一つ仕事を頼むってだけさ。」

「もう一つ?」

「ああ、これから…………俺たちを探る奴が出てくるだろう。そいつらの裏を探ってくれ。」


 俺がそう言うと、陰気な男は腕を組みながら呟く。


「……山賊の裏にいた奴を、見つけろってことか。」


 俺はその呟きに頷く。


「裏にいた奴を特定したら、そうだな…………そのサイズの地図をすべて情報屋ギルドに売ってもいい。この大きさの地図は他に十個以上ある。すべて帝国内の、違う地域が描かれた物だ。」

「小さい方だけか? さっきの大判の地図は?」

「あれはだめだ。」


 大判の地図は八枚あり、すべてを合わせると、帝国の領土すべてをカバーしている。

 これだけの物になると、本当に皇帝にでも献上した方がいいような、そういう代物だ。


「扱いに困ってはいるが、おいそれとは譲ることもできねえ。だから、小さい方くらいは駄賃として好きに使わせてもらう。……情報屋ギルドが役に立つなら、こっちも友好的になるってもんさ。」


 譲って欲しければ、()()()()()()

 そんな、俺の不遜な言い分に、陰気な男が険のある笑みを浮かべた。


「なるほど…………ただのガキじゃなさそうだな。」

「何がだ? こんなのは、ただの交渉だろ?」


 俺と陰気な男のピリついた空気に、衝立の向こうの男たちが落ち着きを失くす。

 そんな気配が伝わってきた。


 俺は鋭い視線を陰気な男に向けたまま、ニッと笑う。


「他にも用件があるんだが……、進めても?」


 俺がそう言うと、陰気な男も笑みを張り付けたまま頷いた。







■■■■■■







「ふぃー……っ、()ちぃー……。」


 俺は濡れた髪をごしごしと拭きながら、部屋に入る。

 部屋では、レインとベリローゼが待っていた。


 ここは、レインたちが取った宿だ。

 シングルとツインで二部屋取ったが、今はシングルの俺の部屋に二人とも来ていた。


 俺は情報屋との交渉を終えると傭兵ギルドに行き、【隠蔽(ハイディング)】のことを伝え、二通の手紙を渡して来た。

 俺の白々しい言い訳に、額の血管がぴくぴくしていたが、すんなりと受け付けられた。

 …………上役みたいな人が出て来て、小言は言われたが。


 そうして、道具屋で消耗品の補充も行い、ようやく宿で一休みできるようになった。


「早速ですが、お話とは何でしょう?」


 俺がベッドに腰掛けると、ベリローゼが尋ねてきた。


 そう。

 二人は、俺と話をしに来たのだ。

 官所の前で俺が「話がある」と言ったので、律儀に自分たちから来たという訳だ。

 厳密には、話はベリローゼとだけ。

 レインはその付き添いということになる。


 テーブルの席に着いた二人は、真剣な表情でこちらを見ていた。

 そんな二人に、俺はにっこりと微笑んだ。


「もういいや。」

「は?」


 俺があまりに気楽に言うので、レインが気の抜けた声を漏らす。

 ベリローゼが、訝し気な顔になる。


「…………どういうことでしょう?」


 話があると言われたから来たのに、もういいと言われれば誰でも訝し気にもなろう。

 だが、俺の用件のほとんどは、すでに片付いてしまっていた。


四つ葉使用人協会(フォーリーフ)。」

「――――ッ!?」


 俺が何気ない風に言うと、ベリローゼがはっきりと狼狽えた。

 そんなベリローゼの様子に、レインは訳が分からず俺とベリローゼを見る。


「……どうして……その名前を?」

「聞いた。」


 情報屋ギルドと接触した俺は、ついでに戦闘メイドのことも聞いてみたのだ。

 勿論、有料の情報だ。

 これにより、すでに俺の中では()()()()()()()()()

 話し合う必要が無くなってしまったのだ。


 情報屋からは、ある一つの事実を得た。


『戦闘メイドを現在も育成していた組織が、少し前に摘発された。』


 あくまで末端の支部らしいが、実際にそうした組織があり、摘発されていた。

 四つ葉(フォーリーフ)なんて、四つ葉のクローバーを連想させるほのぼのした名前を名乗っちゃいるが、こいつらは完全にテロ組織だ。

 実は相当にやばいネタらしく、詳しい情報はかなり高額になると言う。

 なので、金貨三枚程度で買える「頑張れば自力でも集められるかもね」という程度の情報を教えてもらったのだ。


 俺が組織の名前を当てたことで、ベリローゼは諦めたように肩を落とす。

 そうして、ぽつりぽつりと話し始めた。







 ベリローゼが孤児だったこと。

 四つ葉使用人協会(フォーリーフ)という組織によって、戦闘メイドとして教育、訓練されていたこと。

 これらは事実だ。


 当然ながら、教育の過程で洗脳のようなことも行っていたが、ベリローゼには効かなかった。

 ただ、子供の頃から少々マセていたというか、ベリローゼは幼いながらも「かかった振りをした方がいい」と考えたらしい。

 テロ組織の者たちを向こうに回し、たった一人で必死に戦闘メイドを演じ続けていたと言う。


 洗脳というのは、当然ながら個人差がある。

 中々かからないと判断された子供は、廃人になるか人形になるかというほどに、きつい洗脳を施されたようだ。

 子供ながら、ベリローゼの判断は賢明だったと言える。


 そうして十年以上も山奥の訓練施設に閉じ込められ、ついに『出荷』される日が来た。

 だが、馬車に乗せられ施設を出るという時、トラブルが発生した。

 施設が襲撃されたのだ。


「……襲撃?」


 レインが、ベリローゼの言葉を繰り返す。


「はい。武装した多数の騎士や兵士に、施設が襲撃されました。」


 おそらくこれが、情報屋の言っていた『摘発』だろう。

 ベリローゼのいた施設は、帝国軍によって壊滅させられた。


「それはいつのことだ?」

「お二人に会う、一カ月くらい前でしょうか。」


 情報屋から聞いた摘発も、その頃だった。


 ベリローゼは、この混乱に乗じて逃亡した。

 何者が襲撃してきたのかも分からない。

 戦闘メイドだとバレれば、処分されるかもしれない。

 そもそも、施設の関係者を生かす気があるかすら分からないのだ。

 俺は『逃げる』という判断が、間違いだとは思わなかった。


 ベリローゼの持っている魔法具の袋は、『出荷』される準備の時に専用の物として与えられたらしい。

 つまり、ベリローゼが以前どこかの屋敷に仕えていたかのように言っていたのは、嘘だったということになる。

 まあ、本当のことなんか言える訳ないしな。

 何とか俺たちに雇ってもらおうと必死だったろうし。


 俺はベッドに後ろ手をつき、すっかり肩を落としたベリローゼを見る。


「そもそも、何で俺たちに目をつけた?」


 俺がそう聞くと、レインも頷く。

 きっとレインは、普通にどこかの屋敷に潜り込めたんじゃないか、と思っているのだろう。


「普通には屋敷に仕えることができないことは、分かってる。使用人として雇ってもらうのって、かなり大変みたいだな。」

「そうなの?」


 俺は、情報屋の陰気な男から「使用人を雇う」ということの諸々を教えてもらった。


「官所に届け出て、高い税金を払って許可書を貰わないといけないんだとさ。高い金を払って許可を得るんだから、誰だって変なのは雇いたくないだろう? だから、身元のしっかりした人じゃないと、中々雇ってもらえないらしい。」


 飛び込み営業で「雇ってください」で潜り込めるようなものではないという。

 まあ、そりゃそうか。

 赤の他人を家に入れるのだから。

 使用人を雇うような家は、当然ながら裕福だ。

 なおさら、身元のはっきりしない怪しいメイドなど雇わないだろう。


 俺の話を聞き、ベリローゼは観念したように溜息をつく。


「正直言えば、子供だから言いくるめるのが簡単そうだ、と。いざとなれば、強引に押しかけてしまえば、何とかなるかと……。」

「なる訳ねーだろ。」

「はい……。」


 俺が突っ込むと、ベリローゼは増々項垂れて小さくなった。


 ただ、結果論で言えば、確かに何とかなったと言える。

 レインの同情を買い、何だかんだ一緒に行動をすることになったのだから。


 俺は、椅子に力なく座り項垂れるベリローゼの姿を、感情の籠らない目で見るのだった。





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