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魔王の権能 ~災厄を振りまく呪い子だけど、何でも使い方次第でしょ?~  作者: リウト銃士
第三章 流浪の戦闘冥土

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第28話 【加護】持ち




「二時方向! 二!」


 山道を堂々と歩き、ベリローゼが叫ぶ。

 俺はその声に反応し、森の中を駆け出した。


 ガキンッキーンッギンッガキンッ!


 ベリローゼは両手に持ったナイフで、投げ両刃(スローイングダガー)をすべて弾き返す。

 ベリローゼのすぐ後ろにいるレインは、一応剣(ソード)を手にしてはいるが、何が起きているのかさっぱり分からない状態だ。

 響き渡る甲高い音に、時折身を竦めていた。


 ベリローゼが防御に徹し、レインを護る。

 そうして、気配を見つけた敵の方向を俺に伝える。

 敵を叩くのは俺の役目だ。

 これが、もっとも適した配置(フォーメーション)だと判断した。


 俺は【加速(アクセラレーション)】を発動し、スローモーションの世界を必死に駆ける。


(見つけたっ!)


 如何にも山賊らしい、薄汚れた、みすぼらしい恰好。

 木の陰に身を隠しながら、二人の男がベリローゼに向けて投げ両刃(スローイングダガー)を投げようとしていた。


 俺はもどかしい動きに舌打ちしつつ、短剣(ショートソード)で首を斬り、肋骨の間から心臓に突き立てる。

 そこで、【加速(アクセラレーション)】が切れた。


「ぅがっ!?」

「ぎゃっ!?」


 喉を裂かれた男が、目を剥いて俺に手を伸ばす。


「うぶっごぼごぼっ……!」


 押さえた喉から血と空気が漏れ出す。

 二人の男は倒れ、ぴくぴくと痙攣する。


「な、何だ!? このガキはっ!」


 その時、少し離れた木の陰に、お仲間らしき男を見つけた。

 嫌になるくらい気配を感じられなかったが、声を上げてくれたおかげで気づくことができた。


(【加速(アクセラレーション)】ッ!)


 ドクンッと心臓が跳ね、一息に距離を詰めると、短剣(ショートソード)で喉を突いた。

 俺は【加速(アクセラレーション)】を発動したまま周囲を見回す。

 相変わらず、気配を感じることができない。


 呆れる話だが、今目の前にいる男にさえ、気配を感じないのだ。

 声が上がったから気づいた。

 だが、声がなければ、下手したら目の前にいても気づけないのではないか。

 そう思ってしまうくらいに、山賊たちの気配は希薄だった。


(…………どうなってんだ、こいつらは?)


 さすがに不自然過ぎる。

 崖下の森が異常なのは確かだが、それとは別に山賊(こいつら)も異常。

 どうやら、ま(・)と(・)も(・)な(・)山(・)賊(・)ではなかったようだ。


 ビュッ!


 俺は【加速(アクセラレーション)】を解除して、短剣(ショートソード)を引き抜き、血を払う。


「これで、七人。」


 すでに、レインとベリローゼを囮にして山賊を叩く作戦で、七人ほどを片付けた。

 レインを囮にすることに俺は反対したのだが、当の本人がやる気まんまんだ。

 ベリローゼには、そうして護った実績もある。

 二人に押し切られ、仕方なくこの案を承諾するしかなかった。


 順調に山賊たちの数を減らせてはいるが、他にもまだいるかもしれない。

 俺は、急いでレインたちの下に戻ることにした。


 俺が森の中から山道を窺うと、ベリローゼがこちらを見た。


「気配は感じられません。」


 どうやら、粗方片付いたらしい。

 俺は森から出て、レインの下に行った。


「怪我は?」

「大丈夫。ベリーちゃんが護ってくれたから。」

「ちっ!」


 満面の笑みでベリローゼを褒めるレインに、俺は思いっきり舌打ちした。

 俺はベリローゼを睨みつける。


「こっちには三人いたぞ? ちゃんと数えろ。」

「左様でございますか。それで一人、まんまと逃がしてしまったのですね。申し訳ありません、坊ちゃま。私がもっとしっかりと把握していれば、坊ちゃまがポカをやらかす――――。」

「ポカなんかしてねーわっ! つーか、その『坊ちゃま』やめろっ!」


 こいつ、二人じゃなくて三人だったって話を、一人取り逃がした言い訳と捉えやがった。

 腹立つわぁ……。


 イライラする俺と、涼しい顔のベリローゼ。

 そんな俺たちを見て、レインが苦笑する。


 バッ!


 その時、いきなりベリローゼが俺に斬りかかった。

 俺は地面を転がるようにし、寸でのところでベリローゼのナイフを躱す。


 ガギンッッッ!!!


 ベリローゼの弾いた物が、ヒュンヒュンと音を立て、回転しながら宙に舞う。


 ザクッ。


 地面に落ち、突き刺さった物は手斧。

 薪を割ったりするのに使われる物だが、人に向ければその殺傷力は言うまでもない。


「なっ!?」


 俺は振り返り、手斧が飛んで来たと思われる方向を見る。


 そこには、一人の男がいた。

 がたいの大きい、如何にも山賊の首領(ボス)っぽい男。

 だが、その男は異常だった。


 俺との距離は三十メートルほど。

 山道に姿を晒している。

 それなのに、俺は男の姿をはっきりとは認識できなかった。


「どう……なってんだ?」


 俺は顔をしかめ、呻くように呟いた。


 透けている、訳ではない。

 陽炎をまとっている……訳でもない。

 正面に、視界の真ん中に男の姿を収めながら、それでもはっきりと視認できない。

 まるで、死角からちらちらと、こちらを窺っているような感覚。

 その、存在のあやふやな男に、何とも言いようのない不気味さを感じた。


「ベリーちゃんっ!」


 レインの悲鳴のような声が聞こえ、思わずそちらを見てしまう。

 ベリローゼの左肩には、投げ両刃(スローイングダガー)が深々と突き刺さっていた。


「中々いい勘しているようだが、ダガーの方は気づかなかったか? どうやら、努力だけでそこまで研ぎ澄ませたらしいな。」


 男の声には、何となく気(・)楽(・)な(・)も(・)の(・)を感じた。

 俺は、レインとベリローゼを庇うように立ち、短剣(ショートソード)を構える。


「…………お前が、山賊の首領(ボス)か。」

「ああ。と言っても、もう首領なんて言うのも空しいだけだがな。何せ、手下がすべて片付けられちまった。」


 これまで片付けた七人で、手下が全滅?

 いや、油断を誘う罠の可能性もある。

 一人二人伏せておき、いざという時に不意打ちを狙ってくる可能性は大いにある。


「お前たち、俺の部下にならねえか?」

「あ……?」


 山賊の首領が、突然スカウトを始めた。


「お前も【加護】持ちだろう? そっちのメイドは自力で身につけたらしいが、十分戦力になる。これまで使ってきた手下どもなんかより、余程役に立ちそうだ。」


 どうやら男は、これまでの俺たちの戦いぶりを観察していたらしい。

 そうして、俺の【加速(アクセラレーション)】を知った。

 手下に加えれば、使い勝手が良さそうだと考えたようだ。


 だが、俺には一つ引っかかったことがある。

 誘いには答えず、まずはそれを確認することにした。


「今…………『お前も』、って言ったか?」


 俺を【加護】持ちと評し、『も』と言ったのだ。

 それはつまり――――。


「ああ、そうだ。見れば分かるだろう? 俺も【加護】持ちだ。」


 はっきりとは分からなかったが、声の雰囲気から男が笑っているように感じた。


「【隠蔽(ハイディング)】。こんな稼業をやるには、持って来いの【加護】だろう?」


 どうやら、この男の姿をはっきりと視認できないのは、【隠蔽(ハイディング)】という【加護】の力らしい。

 俺は目を細め、男を凝視した。


「かなり便利な【加護】だぞ? 自分だけじゃない。ちと面倒ではあるが、人や物にも付与させることができる。」


 男の声から、自信に満ちたものを感じる。

 おそらく、先程まで相手にしていた手下たちの気配が希薄だったのは、男(こいつ)の【加護】を付与させていたということのようだ。


「【加護】を、他人に分け与えるのか? そんなの聞いたことがない。」


 俺が増々警戒を露わにすると、男は肩を竦める。


「お前が聞いたことがあるかどうかは、どうでもいいさ。実際に相手して、普通じゃないってことくらいは気づいただろう?」


 悔しいが、その通りだ。

 目の前にしながら、気配を感じられない。

 それは、話をしている今この瞬間でもそうなのだ。


 俺は内心で舌打ちをした。


(手下たちとは桁が違うな、こいつ……。)


 手下たちは、気配は分からないが、視認さえすれば問題なかった。

 ところが、この男は違う。

 こうして面と向かって話をしているというのに、見(・)失(・)い(・)そ(・)う(・)なのだ。


 俺は頻繁に男を凝視するようにして、何とか見失わないようにしている状態だった。


「お前の【加護】は【加速(アクセラレーション)】だろ? 俺が【隠蔽(ハイディング)】を付与してやったら、もう無敵だろう?」

「無敵になったら、わざわざあんたの下に就く意味もないな。」


 俺は後ろの二人を気にしつつ、それを悟られないように話を続けた。


 今、後ろではベリローゼが自分で投げ両刃(スローイングダガー)を引き抜こうとしているところだ。

 レインが手伝おうとしたが、ベリローゼが固辞した。

 こうした物を引き抜くには、相当な覚悟がいるからだ。


 例え自分に刺さった物でなくても、一思いに引き抜ける者などそうはいない。

 躊躇(ためら)えば、余計に痛みを増やすだけ。

 そのためベリローゼは自分で抜くことを選択し、回復薬(ポーション)だけレインに準備してもらい、待機させていた。


 俺が時間を稼いでいることは、おそらく男(こいつ)にはバレている。

 それでも構わない。

 引き延ばせるだけ引き延ばして、ベリローゼを戦線に復帰させることが今もっとも優先すべきことだ。


 男が楽しそうに肩を震わせた。


「おいおい、手下じゃなくなった奴に、そのまま付与させておくと思ってんのか?」

「何だよ、与えておいて取り上げるのか?」

「当たり前だろうが。図々しい奴だな。」


 そう言いながら、男は笑った。


 どうやら、付け外しが自在らしい。

 本当に便利な力だな。


 つまり、ここの山賊たちは首領の【加護】の力を付与され、極端に気配を希薄にすることができた。

 それでも姿は見えるので、ある程度は追跡することができたのだろう。

 だから、この山までは特定することができた。


 しかし、追えたのはそこまでだった。

 森に入り込まれれば、追跡は困難。

 気配がないのでは、並みの傭兵ではそれ以上を探ることはできなかったという訳だ。


 男の話には、もう一つ気になる点があった。


「物に、付与できるって言ったよな。」

「ああ。できるぜ。」

「もしかして、あの森もか?」


 俺がそう聞くと、男は本当に楽しそうに笑い声をあげた。


「はっはっはっ……やはり気づいていたか。まさか、あの森の中まで侵入してくる奴がいるとは思わなかったから、報告を聞いた時は驚いたぜ。」


 崖の下に広がる森の、どこまでに付与が施されているのか分からないが、あの森の不可解な感じは【隠蔽(ハイディング)】によるものだった。

 どうやらこの【加護】は、単純に姿を隠すという以上の力があるようだ。


「そこまで気づかれていたら、生かして帰す訳にはいかないんだ。手下になるか、ここで死ぬか、好きな方を選べ。」


 それまでの軽い口調から変わり、その声に冷(・)え(・)を感じた。

 男は腰に差していた山刀(マチェット)を抜くと、こちらに向ける。


 俺が答えずにいると、男の姿がふわっと消えた。

 瞬間、ベリローゼが叫ぶ。


「十時っ!」


 その声に、俺は咄嗟に身体を屈めながら、左斜め前に踏み込み短剣(ショートソード)を突き出した。


 頭の上を何かが掠め、数本の髪が舞う。

 だが、俺の突き出した短剣(ショートソード)にも、僅かながら手応えがあった。


 ベリローゼの指示は、敵の方向を示していた。

 回避するための指示じゃない。

 攻撃のための指示だ。

 そして、俺は男が山刀(マチェット)を手にするところを見ていた。

 振り下ろしだったら残念無念な結果だが、俺は薙ぎと読んだ。

 だから、身を屈めながらの突きを、咄嗟に繰り出したのだ。


 すかさず俺は、見えない男に向かって短剣(ショートソード)を斬り返す。

 しかし、こちらは手応えを得ることはできなかった。


「くっ……!? まさか、これでも反撃が来るとはな……!」


 前方から声が聞こえた。

 だが俺には、男が一メートル先にいるのか、十メートル先にいるのか、その見当さえつかない。


 ゆっくりと後退り、ベリローゼとレインの下に戻る。

 どうやらベリローゼは治療が終わり、戦う体制が整ったようだ。

 ベリローゼが俺の前に立ち、ナイフを構える。

 腹立たしいが、男の位置を捉えることができるのは、今のところベリローゼしかいない。


 俺がどうするかを考えていると、また男の声が聞こえた。


「増々欲しくなったぜ。……なあ、本当にこっちに来ないか。」


 再度のスカウト。

 それでも俺たちは、黙って戦闘体勢を崩さなかった。


「そうか。」


 男の呟きが聞こえた途端、ベリローゼが動く。


 キィーンッ!


 どうやら、再び投げ両刃(スローイングダガー)が投げられたようだ。

 俺はベリローゼの後ろに隠れながら、見えない男がい(・)る(・)で(・)あ(・)ろ(・)う(・)方向を、射殺さんばかりに睨んでいた。


(ベリローゼ(こいつ)の後ろに隠れてるとか、屈辱でしかないんだが!?)


 俺は、この非常に腹立たしいシチュエーションを打開する方法を、必死に考える。

 ベリローゼに小声で話しかけた。


「男がどこにいるのか、見当がつくか。」


 だが、ベリローゼは答えない。

 必死に男の気配を探っているようだ。


「どこにいるか教えろ。俺が仕留め――――。」

「お静かに。今は坊ちゃまのお相手をする暇はありません。大人しくしていてください。」


 かっちーーん!


 一瞬で、俺の額に青筋が浮かぶ。

 文句を言ってやろうと息を吸い込んだ瞬間、ベリローゼが動いた。


(かかったっ!)


 ドクンッと心臓が跳ね、水色に視界が染まる。

 俺は【加速(アクセラレーション)】を発動し、動き出したベリローゼの脇をすり抜けた。


 ベリローゼが動いたのは、姿の見えない男の気配を察知してのものだ。

 姿は見えない。

 気配は分からない。

 だが、そ(・)こ(・)に(・)男(・)は(・)存(・)在(・)す(・)る(・)。


 物理的に存在しなくなった訳ではないのだ。

 男の立っている場所には、当然ながら男の質量分の重量がかかり、摩擦もあれば運動エネルギーも発生する。

 俺は突進しながら注意深く地面を観察した。


 ほんの僅か。

 ほんの僅かにだが、地面の砂が動く。

 【隠蔽(ハイディング)】で姿と気配を消そうとも、踏んだ地面の砂は男の動きに連動する。


 男は十メートルほど先で、右に動こうとしている。

 俺は左にやや大回りに動き、地を這うように姿勢を落として、男のいるであろう空(くう)を斬り上げた。


 バシュッ!


 スローモーションの動きで、その手応えを噛みしめる。

 振り抜いた短剣(ショートソード)の、切っ先十五センチメートル以上が血を帯びた。


 男の【隠蔽(ハイディング)】が揺らぐ。

 それまでまったく姿の見えなかった男が、僅かに姿を現した。


 男は、右脇腹を斬り裂かれ、完全に姿勢を崩していた。

 俺は更に追撃を浴びせる。


 山刀(マチェット)を持っていた手を、前腕の中ほどで斬り落とす。

 そうして、短剣(ショートソード)を背中から突き上げた。


「ぐっはあぁああっ!?」


 【加速(アクセラレーション)】が切れると、男がビクンと身体を仰け反らせた。

 断末魔の声を上げると、そのまま横倒しになる。

 俺は引き抜いた短剣(ショートソード)を払うと、油断なく男に向けた。


(…………伏兵は……?)


 倒れた男に警戒しつつ、周囲を見回す。

 どうやら、他に山賊はいないようだった。


「リコッ!?」


 レインの驚く声が聞こえた。

 レインからすると、一瞬のうちに勝負が決していたという状況だろう。

 先程まで自分の目の前にいた俺が、いつの間にか山賊の首領を斬り伏せていた。

 一体、何が起こった?

 レインからすれば、そんなところだ。


 もう何度も【加速(アクセラレーション)】を見ているだろうに。







 ドクンッッッ!!!


 その時、身体が強張った。

 視界に映る物すべてがモノクロになり、ブラーでもかかったように残像を残す。


(何だ、これ……?)


 金縛りにでもなったように、身体が動かなかった。

 だが、不思議なことに視点だけは動いている。

 まるでゆっくりと歩くように、地面に倒れた男に近づく。


 男の傍らに、しゃがむ。







 ビクッと身体を震わせ、視界が元に戻る。

 俺は思わず両手を見つめ、ゆっくりと握り締めた。


(何だ、今のは?)


 特に、何も変わったことはなさそうだ。

 俺は先程と同じ場所に立っている。

 男も、同じように地面に倒れている。


(白昼夢……?)


 そんなものが本当にあるとは思っていなかったが、そうとしか表現のしようがない。


 いや、白昼夢とでも呼ぶべきものは、俺はすでに体験している。

 リシャルドの誘拐からこっち、九年間もそんな感じでいたのだから。

 あの頃と同じなのか、まったく違う現象なのか。

 先程の一瞬だけでは判断がつかないが、これは留意しておくべき現象だろう。


「何ですか、今のは?」


 ベリローゼが倒れた男に警戒しながら、俺の方に歩いて来る。

 その後ろに、レインもくっついていた。


「何がだ?」

「とぼけないでください。どうして男の位置が分かったのですか? それに、一瞬で…………まるで消えて移動したかのような。」


 どうやら、【加速(アクセラレーション)】のことを言っているようだ。


「山賊の首領(そいつ)が言っていただろ? 【加速(アクセラレーション)】だよ。」


 俺がそう言っても、ベリローゼは納得していないようだ。


「山賊たちを倒している時、確かに異様に速い動きをしていたのは気づいていました。ですが、こんな……。」


 どうやら、俺の【加速(アクセラレーション)】が速(・)過(・)ぎ(・)る(・)と言いたいようだ。

 そんなん知らんがな。


「んなこたーどうでもいい。それよりも……。」


 俺はベリローゼを見上げ、睨みつけた。


「【加速(アクセラレーション)】のことを漏らしてみろ。お前もそうなるぞ?」


 そう言って俺は、すでに息絶えた男を顎で示す。

 この力は切り札だ。

 知られた以上は、相応の覚悟をしてもらう必要がある。

 本当なら、この場で口を封じたいくらいだった。


 俺が本気で言っていることが伝わったのか、ベリローゼはごくりと喉を鳴らす。

 そうして、頭を下げた。


「秘密を軽々に漏らすようでは、使用人は務まりませんので。」

「どうだか……。」


 信じる信じないで言えば、俺はまだベリローゼを信じてはいない。

 だが、だからと言って切り捨てる判断をすれば、レインは決して受け入れないだろう。

 ならば、せめてチャンスは与えることにした。

 この秘密を守っている間は、判断を保留にしてやる。


 俺は山賊の首領を見下ろし、呟く。


「ベリローゼ。男(そいつ)の首を切り落とせ。」

「はい? 何でですか?」


 俺が何を言っているのか分かららず、ベリローゼが困惑する。


「アジトを探すだけのつもりだったが、退治まですることになっちまったからな。その分の報酬はきっちりいただかないと、割に合わん。」


 そう言って、俺はにっこりとベリローゼを見上げた。


「憶えておけ。退治した証拠は基本的には死体だ。だが、山の中を死体抱えてうろうろしたくないんでな。そういう場合は首だけでいいんだ。」


 俺が笑顔で首をかき切る仕草をすると、ベリローゼは顔を引き攣らせた。

 レインも、うんざりしたような、青褪めたような、複雑な表情をしていた。





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