第16話 噛みつき子狐
俺とレインは町に戻ると、鉱山の管理事務所に顔を出した。
すでにメッジス、ウラコー組とプライテス、チェラートン組は解散したようだ。
バルアーゾは事務所の二階で所長に報告をしているらしい。
カウンターの中の事務員に言われ、俺たちは金属卵をカウンターに出した。
倒した分の魔力がこの中に溜まっているからだ。
金属卵から魔力を吸い取り、蓄える魔法具が傭兵ギルドから貸し出されており、それによって討伐数もカウントされる。
このカウント記録は傭兵ギルドの係の人じゃないとリセットできないので、ちょろまかされることはない。
全体の討伐数は、七十体を超えていた。
さすがに今後のことを考えると百体を下回ることはないと思うが、さっき出会ったドワーフのおっさん、ドドナッツォの話では、フレイムロープは群れで移動するものらしい。
下手をすると、明後日にはすっかりいなくなっている可能性も無くはない。
(……黙って待ってれば、いなくなる可能性もあったってことだよな。)
わざわざ傭兵を雇って報酬を払わなくても、しばらくしたらいなくなっていたかもしれない。
ただし、そうして移動する先が、この町でない保証などどこにもない。
鉱山と町を管理する側からすると、やはりさっさと退治してしまいたい、という考えになるのだろう。
俺たちは管理事務所を出て、宿屋に向かった。
採鉱場に向かう時にチェックアウトしているので、チェックインし直さなくてはならない。
「はー……、ようやく糧食以外のメシが食える。」
「さすがに、ちょっと飽きちゃうよね。」
糧食以外の食材を持ち込むことが、禁止されている訳ではない。
だが、俺たちはそれをしなかった。
なぜなら、他のメンバーも糧食しか食べていなかったからだ。
これは集まったメンバー次第なのだが、糧食にひと手間加えて少しでも嵩を増したり、味を調えたり。そういうことをする人もいる。
だが、残念ながら今回のメンバーはそういうタイプではなかったらしい。
そのため、俺たちもそれに合わせていた。
あまり目立つ行動をしたくなかった、というのが一番の理由である。
ただでさえ、レインは足手まといという、悪目立ちをしてしまっているのだから。
俺たちは宿屋に行く前に食堂に寄って、食事と糧食の補充をすることにした。
久々のまともな食事に、俺もレインも夢中になって食べた。
肉やパンが固くないことに、俺は心から感動していた。
「固いパンでも、そこまで不満はないんだけどさ……。さすがに糧食のパンは固すぎる。」
俺がむっしゃむっしゃとパンを食べながらぼやくと、レインも苦笑する。
固く、ぼそぼそのパン。
日持ちするようにしているのだから当然といえば当然だが、あれはパンというよりもビスケットに近い。
乾パンや堅パンよりは、僅かにマシ程度の代物だ。
ジャムやスプレッドでも付いていればいいが、そんな物はない。
ただただ、雑味のある砂のようなぼそぼその代物を、水で流し込むだけの作業。
あれはもはや、修行や苦行と言っていいだろう。
そんな、糧食生活の愚痴を零していると、隣のテーブルに一人の男が座った。
独特の胴着を身に着けているため、すぐに誰か分かった。
「よお、さっき振り。プライテスも食事?」
「こんばんは。プライテスさん。」
俺たちが声をかけると、プライテスは黙って頷いた。
初老と言ってもいい、武僧。
プライテスは必要なこと以外はあまり口を開かない、ちょっと寡黙な男だ。
席に着いたプライテスの下に、店員が注文を聞きに来る。
「酒を……濁り白酒は置いてるか? ……じゃあ、それを。あとはツマミになる肉と木の実を適当に。」
プライテスは、どうやら酒を飲みに来たようだ。
ログハウスでは飲んでいるところを見たことがないので、仕事中は飲まないことにしているのか。
もしかしたら、部屋でこっそり飲んでいたのかもしれないけど。
「酒場じゃなくて食堂に来たんだ?」
俺がそう聞くと、プライテスの眉間の皺がぴくりと動いた。
「あっちは鉱夫が多くてな。」
仕事ができず、鬱憤の溜まった鉱夫が騒いでいるため、食堂に来たようだ。
まあ、食堂にも鉱夫はいるし酒も飲んでいるが、酒場ほどは騒いでいない。
ここで食事をしながら軽く飲み、酒場に移動する流れなのかもしれない。
プライテスはジョッキで運ばれて来た酒を受け取ると、半分ほどを一息に飲んだ。
ジョッキを置き、熱の籠った吐息を吐く時のプライテスは、やや頬が緩んでいた。
いつもは、ちょっと気難しそうな顔をしているのに。
プライテスのこんな気の抜けた表情は初めて見た。
「美味そうに飲むなあ。」
俺が思わず呟くと、レインがちょっと笑った、
そんな俺たちの様子に、プライテスが片眉を上げる。
「私は、このために生きているのでな。」
木の実を齧りながら、そんなことを言いだした。
ドワーフか、お前は。
そこで、一つ気になっていたことを思い出す。
周囲を確認し、俺は声を落とした。
「…………二人にちょっと聞きたいんだけどさ。トゥーヒーグって何か知ってる?」
それは、ドドナッツォと話をしている時に、メッジスやウラコーが言っていた言葉。
多分に侮蔑の籠った言い方をしていたのだが、俺には何のことか分からなかった。
レインは軽く首を振った。
だが、プライテスは難しい顔になる。
もしかして、聞いちゃいけないことだった?
プライテスは押し黙り、肉料理にフォークを刺して、じっと動かなくなる。
おそらく、周囲の気配を探っているのだろう。
少しの間そうして黙っていたプライテスだが、静かに口を開く。
「先程のドワーフのことだな? 火の神トルヒグスとトゥーヒーグ。」
プライテスがジョッキを傾け、一口酒を流し込む。
「簡単に言ってしまえば、どちらも同じものだ。千修教から見れば火の神、だがアウズ教から見れば魔物の親玉という訳だ。」
ドワーフは火の神トルヒグスを信仰している。
この火の神は千修教の神で、別に誰が信仰していてもおかしくはない。
だが、ネプストル帝国では、一神教のアウズ教を国教に定めている。
そのため、アウズ教の信徒からすれば魔物という扱いらしい。
おそらくメッジスとウラコーはアウズ教を信仰しているのだろう。
トルヒグスとトゥーヒーグというのは、同じ存在でありながら、見方によって変わるということのようだ。
「ドワーフたちも、厳密には千修教を信仰している訳ではない…………と聞いたことはある。彼らにとって、重要なのは四柱の神のみだ、と。」
俺にはどの宗教のことも詳しいことは分からないが、千修教から見てもドワーフは同じ神を信じる仲間、という訳ではないようだ。
まあ、元の世界でも解釈の違いだけで、同じ宗教の宗派同士で戦争したりしてましたし。
いろいろややこしい事情があるのだろう。
「そっか。ありがとう、教えてくれて。」
プライテスは、フォークに刺した肉を口に運ぶと、黙って味わう。
「プライテスは、千修教徒?」
武僧といえばロズテアーダ修王国。
ロズテアーダ修王国といえば千修教、というイメージがある。
だが、プライテスは眉間の皺を深くし、やや複雑な表情になった。
「破門された身としては……信仰していると公言はしにくいな。」
どうやらプライテスは、千修教を破門されたらしい。
それについては、傭兵をやっていることから見当はついていたが。
厳しい修行に、さらに禁欲までをも求める千修教に、プライテスは少々複雑な思いがあるようだ。
俺とレインが不思議そうな顔をしていると、プライテスがジョッキを軽く上げる。
「私の信仰と千修教の教えは、この一点において決して相容れることはない。…………まあ、もう昔のように酔って暴れることはないが。」
どうやらプライテスは、酒が原因で千修教を破門されたらしい。
酔っぱらって暴れるのは、どこの宗教でもだめでしょ。
そうしてぐいっとジョッキを飲み干すと、店員にお替わり注文する。
本当に酒が好きなんだなあ。
何だか、プライテスがあんまり美味しそうに飲むから、俺まで飲みたくなってきた。
「…………俺も注文しようかな。」
「出してくれる訳ないでしょ。」
俺の呟きに、レインが突っ込んだ。
そんな俺たちの会話に、プライテスが頬を緩ませる。
「そっちも、中々複雑な事情がありそうじゃないか。子供二人の傭兵団。それも、一人は噛みつき小僧とは。」
プライテスは届いたジョッキを受け取ると、早速一口飲んだ。
俺とレインはきょとんとした顔で、お互いを見合う。
「…………すなっぴんぐ。」
「かぶ……?」
聞き慣れないその言葉に、思わず首を傾げる。
そんな俺たちの様子を見て、プライテスが苦笑した。
「知らなかったのか? それは悪かった。忘れてくれ。」
「いやいやいや、忘れる訳ないから! 何だよ、それ!? ちょっと詳しく聞かせてもらおうか!」
俺は自分の席を立つと、プライテスの席の向かいにどっかりと座った。
そうして、さあ話せ、と前のめりになって圧をかける。
ついでに木の実を一つまみ失敬して、口に放る。…………お、美味いな、これ。
レインは苦笑しながら、俺とプライテスを見ていた。
プライテスは如何にも「失敗した」といった感じの表情になるが、すぐに俺のことを真っ直ぐに見る。
「毛並みのいい、目立つ外見のガキ。ちょっかいかけて、噛みつかれた奴は数知れず。それなりに噂を聞いていただけさ。」
どうやら、舐められないようにちょっかいを跳ね除けていたのが、噂として広がっていたようだ。
まあ、ちょっかいをかけられること自体が減ったので、何らかの噂が伝わっているとは思っていたけど。
「…………小僧、ですか?」
「ああ、子狐とも聞いたな。毛並みといい、言い得て妙だと思うが?」
綺麗な金髪をした碧眼という、毛並みの良さを子狐と揶揄されたようだ。
事も無げに言うプライテスに、レインがおかしくなって吹き出す。
おい、笑ってんじゃねーよ。
ただ、どんな噂であっても、それで余計なトラブルが減ったのは確かだ。
ならば、目くじらを立てるようなことでもないだろう。
プライテスが噂を流した訳でも、広げている訳でもない。
「あぁー……いい話が聞けた。一杯おごるよ。」
「いらん。人の金じゃ気持ち良く酔えん。」
そう言ってプライテスは、俺を手で追い払う。
本当に俺のことを、子狐か何かだと思ってんじゃないだろうな……。
俺が席を立つと、レインも立ち上がった。
「それじゃ、次は明後日か。またな。」
「ああ。」
「おやすみなさい。プライテスさん。」
俺たちは、プライテスと軽く挨拶を交わし、食堂を出た。
さて、後は宿屋に戻るだけか。
すっかり暗くなった町を、俺とレインは並んで歩く。
そうして歩いていると、不意にレインが肩を震わせた。
「噛みつき子狐……。」
ぽつりと呟く声が聞こえた。
「思い出し笑いしてんじゃねえよ。」
必死だったんだよ、こっちは。
右も左も分からない傭兵の世界で、生き抜くために。
それはレインも分かっているのか、優しい目をして俺の頭を撫でた。
「頑張ったんだよね。すごく。」
集団の中に異物が紛れた時の反応は、どこでも似たようなものだ。
手懐けるか、排除するか。
レインは結局、その反応に抗いきれなかった。
騎士に相応しくないという排斥の動きに、結局は飲まれてしまったのだ。
母親のことが決定打だったにしろ。
そんな、当時の自分のことを思い出しているのかしれない。
俺は口を大きく開けると、ガチンガチンと歯を鳴らした。
「噛みつくぞ。」
俺がそう言うと、レインは苦笑しながら手を引っ込めた。
俺は「ふんすっ」と鼻息を荒くする。
「そんな御大層な話じゃねえ。やられたらやり返す。倍返しだか十倍返しだか、そんなの知ったことじゃねえ。やり過ぎ? そんな眠てえ戯言なんざ、聞いてられるかよ。」
殺るか、殺られるか。
それは俺にとって、仕事中に戦ってる時に限ったことではない。
常に、自分以外のすべての人に、そう相対していたのだ。
威張り散らすつもりはない。
無闇に人を傷つけるつもりもない。
だが、害為す者には、手加減などしている余裕はなかった。
代わりに守ってくれる人など、誰一人いなかったから……。
■■■■■■
翌日は一日休み、翌々日の夜明けとともに鉱山に出発した。
前衛にプライテスとチェラートン組。
中衛に俺とレイン。
その後ろに隊長のバルアーゾがつく。
そして、後衛がメッジスとウラコー組だ。
道中で一体だけのフレイムロープを見つけ、レインだけで狩らせてもらう。
若干のもたつきはあったが、戦い方をすっかり忘れたということはなく、一安心。
ブリキやぶんぶん丸というあだ名は、一時封印されることになった。
そうして順調に鉱山を登り、昼までかなり時間が余りながら、ログハウスに到着。
小休止を入れて採鉱場に向かった。
しかし……。
「うげ。」
俺は顔をしかめ、思わず呟く。
採鉱場の入り口が見えてきた辺りで、俺たちは一旦足を止めた。
「フレイムロープが、随分とうろついてるみたいだね。」
チェラートンが薄っぺらい笑みを浮かべ、岩の陰に隠れながら様子を窺い、呟く。
だが、ここからでは正確にどれくらいいるのか把握できない。
おそらく十体は超えているだろうけど。
「どうする? このまま行くか?」
ウラコーが後方を警戒しながら尋ねる。
正直言えば、フレイムロープが十体いようが二十体いようが倒すことに問題はない。
こちらも頭数なら七人いる。
多少の負傷はあるにしろ、結局問題はそこだけなのだ。
戦った後、回復薬を使う人が何人かいるかもね、と。
バルアーゾは一瞬だけ目を瞑り、考える。
だが、即座に方針を決める。
「初日同様、各組に分かれて周辺の大掃除だ。できれば今日中に外を綺麗にして、明日は気持ちよく中の掃除にかかろうじゃないか。」
その方針に、全員が頷く。
初日はバルアーゾは俺たちの組についたが、今日は別行動。
二人一組を三個プラス、バルアーゾ一人という形で周辺の掃除にかかる。
その手始めに、全員で入り口前の拓けた場所で、好き勝手にうねうねしているフレイムロープを片付けることにした。
「うらあっ!」
「フンッ!」
「はあっ!」
二十体を超えるフレイムロープに、七人で襲い掛かる。
俺は自分で討伐するよりも、レインの背後をカバーする立ち位置で戦った。
さすがに、この乱戦はレインには難度が高い。
「背後と左の個体は気にするな! 俺が全部叩き落とす!」
「お、お願い……っ!」
レインには目の前のフレイムロープに集中してもらい、背後と左にいるフレイムロープの攻撃は俺がすべて斬り落とすことにした。
俺はすでに【戦意高揚】を使い、力の底上げをしている。
セットのサービスで漏れなく気分まで高揚してしまい、多少難しいことでも「楽勝楽勝ぉ、やったるでえ」という気分になってしまうのがネックだ。
まあ、ビビって動きが固くなるよりはいいけど。
ザシュッ! ビシュッ!
俺は二体のフレイムロープの攻撃を、危なげなく斬り飛ばす。
ついトドメを刺しに行きたくなってしまうが、それでレインの側背がガラ空きになるのはまずい。
俺はひたすら守りに徹し、レインのサポートを続けた。
視界の隅に、プライテスの戦っている姿が入る。
プライテスは拳でフレイムロープの攻撃を弾き返し、弱点を殴り飛ばす。
プライテスに殴られた結び目は、まるで破裂したように飛び散った。
(あれ、絶対に顔面で受けたくないな……。)
パァーンと自分の頭が吹き飛ぶ想像をしてしまい、ちょっとだけげんなりした。
たとえ頭じゃなくても、ひどい結果になりそうだが。
そうしてレインが一体ずつ、三体のフレイムロープを倒す間に、他のメンバーたちによって周辺のフレイムロープはすべて駆除されていた。
一通り片付け、全員が中央付近に集まる。
俺はプライテスの所に行き、その手をじっと見た。
細かな古傷はあるが、今回の戦闘での火傷などは特に見られなかった。
「……どんな鍛え方してるんだか。」
思っていたことが、つい口に出てしまう。
そんな俺に向けて、プライテスが手のひらを見せる。
ゴツゴツした、相当に鍛え抜いてきた者の手をしていた。
「熱した小石の中に手刀を突き入れる。…………修行すれば、誰でもできる。」
「無茶言うな。」
石焼き芋の石に、手刀を突っ込むような修行をするらしい。
考えた奴、アホだろ。
俺が半目になってプライテスの手を見ていると、バルアーゾが周辺をぐるりと眺め、指示を出す。
「一日休んだだけで、元に戻っちまったらしい。やはり今日は外の掃除だな。」
「有難いね。これで今日中に確定だろ。」
メッジスが討伐数百体の達成を確信し、喜ぶ。
少し緩みかけた空気を、バルアーゾが引き締める。
「油断するなよ。死んでも届けてはやれないからな。」
その冗談に、軽く笑いが起こった。
「夕方になる前に、またここに戻って来てくれ。それまでは各自の判断で、いるだけ狩りまくれ!」
「「「おうっ!」」」
全員で気合の声を上げ、散開した。
発見次第、即駆除。
明日の採鉱場内の掃除の前に、周辺の安全を確保しなくてはならない。
俺とレインも、フレイムロープを探して移動を開始する。
「あそこに二体。一体ずつな。」
「わ、分かったわ。」
少し先の、斜面を下りた場所にフレイムロープを発見し、指示を出す。
砂利と岩がごろごろしている場所なので、レインには戦い難いだろう。
俺は適当に石を投げつけ、フレイムロープを誘う。
俺たちに気づいたフレイムロープが、意外に素早く斜面を登って来た。
俺は先に登って来た一体をさっさと倒し、残りをレインに譲る。
「慎重にな。……あと、落ちないように。」
これまでも山道で戦っているので大丈夫だとは思うが、一応言っておく。
だが、さすがに杞憂だったようで、レインも危なげなくフレイムロープを倒した。
心なしか、その表情にも余裕が見え始める。
「もう、一対一なら問題なさそうだな。次は複数と戦ってみるか?」
「うっ……。」
俺がそう提案すると、途端にレインの表情が苦いものになった。
採鉱場の周辺には、かなりの数のフレイムロープがいた。
俺とレインの組だけでも、夕方になる前には十体のフレイムロープを討伐している。
分布の仕方にもよるが、下手をすると今日一日で、これまでの討伐数を超えているのではないだろうか。
俺たちは、西の空が赤味を帯び始めた頃に、採鉱場の前に戻った。
すでにバルアーゾは戻っていて、俺たちに気づくと軽く手を挙げた。
「無事だったな。どうだ?」
「こっちは十体。そっちは。」
「十三体だ。」
バルアーゾは、一人で十三体を片付けてきたらしい。
俺は「ふむ……」と考える。
「結構いたな。…………奥に引っ込んでたのが、出てきたか?」
こうなると、採鉱場内も一から探索し直しか?
虱潰しに副坑道も潰していくと、かなり時間がかかりそうだ。
俺がそんなことを考えていると、バルアーゾも同じようなことを考えていたようだ。
「明日の採鉱場の探索は、各組でバラけて副坑道を潰すか……。」
前回は念のために、全員で固まって探索していた。
だが、それでは時間がかかり過ぎてしまう。
フレイムロープ自体はそこまで脅威を感じる魔物ではないため、二人一組でも十分対処できる。
…………奥の手を隠していなければだが。
「前回行った辺りまでは各組で副坑道を潰して、未探索の場所は合流して調べるか?」
俺がそう聞くと、バルアーゾが頷いた。
「そうだな、そんな感じにするか。…………お前たちの組には、また俺がつくとして。」
不慣れなレインのための、安全も考慮したプランに、俺も頷いた。
三組に分かれて副坑道を潰して行けば、かなり時間効率は良くなるだろう。
仮にフレイムロープの数が多い副坑道があった場合、無理に戦わず、他の組と合流。
必要な時に集中して投入し、それ以外は分散して叩く。
非常に手堅い、かつ早さも考慮した現実的なプランだ。
そんな、明日からの行動計画を話し合っていると、プライテス、チェラートン組が姿を現す。
別の方向からも、メッジスとウラコー組が姿を見せた。
全員が集合すると、バルアーゾが頷く。
「全員無事で何よりだ。これで、この辺りは駆除し尽くしたか。」
「ああ。そこそこ数はいたが、すっかり片付けたぜ。」
「こっちも見かけた奴はすべて片付けたよ。」
ウラコーとチェラートンが、にこにこと報告する。
二人とも、たんまり稼いできたのだろう。
これでボーナス確定だ、と喜びを隠せないようだ。
少し早いが、俺たちはログハウスへと戻ることにした。
今日は朝早くから山登りをしてきたので、少し疲労を感じる。
先程話し合った、明日からの行動計画を改めて全員に説明しながら、俺たちはログハウスに戻るのだった。




