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暗闇の星の女王  作者: 姫野光希
第一章 逃げ出した少女
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第五話


(「女王は俺達を見捨てたんだ!」)


(「女王のくせに何で…!」)


(「もう終わりだ。全部この大雨で流されちまった…」)


(「女王様…私達に生きる力をお与えください」)






★★★★★

世界の声に必死に堪え、ルキアはなんとか早退届けを書いて学院まで迎えに来てくれる人に連絡を取った。

両親はもう迎えに来ることはできないので両親達が殉職扱いになった時にルキアと再従兄弟の保護者になってくれた人がいる。秋斗という近所に住んでいたお兄さんである。

彼は軍にいた頃ルキアの父親の部下だったことがある。その縁もあり秋斗が軍を辞めた後もルキアや再従兄弟の面倒を見てくれていた。ルキアが最近、早退ばかりをしていても彼は仕事を中断して迎えに来てくれるのでいつも感謝している。


「先生、迎えが来たので帰ります」


連絡をしていたスマホの画面には、秋斗から聖ライトシャイン学院の駐車場に着いたという文字が表示された。いつも心配してくれる保健室の先生に手を振り、車まで付き添ってくれると言うが、他にも具合の悪い生徒はいるのだから。大丈夫だと言ってルキアは保健室を出て生徒玄関に向かう。


「はぁ…うるさい…」


下駄箱の前で靴を履き替えながら、自分にだけ聞こえる()()()()達に毒つく。本当にずっと聞こえてきて鳴り止まずに困っている。

生徒玄関から外に出る直前で、また雨が降り始めた。つい今まで曇り空だったのに、とルキアは空を見上げた。傘は持ってきていないのだ。昨日、学院の帰り道で強い風が吹いて…母親に買ってもらった水色のチェックの傘は壊れてしまった。予備の青いストライプの傘は現在、一昨日の大雨で傘を壊した再従兄弟の物になっている。


「……………」


走って学院の駐車場に行くしか無いかと考えつつも、高等部から駐車場に走ったとしてもすぐに着くわけではない。おそらく、傘をさして歩いても濡れるだろう。考えている間に雨は強くなり風も吹いてきていた。

まだ新しい女王様が見つかっていないだけで準首都にも影響が出るなんて…朝のニュースでも言っていた“傘やレインコートがゴミ集積場に大量にたまり、新しい物が飛ぶように売れる”と。


「クク…我の望む破壊者よ」


気のせいだろうか。誰かが後ろにいたような気がした。だが、ルキアが周りを見回しても誰もいない。

少しして、大学部の校舎の方から傘をさした誰かがこちらに向かってきていた。よく見れば秋斗だ。でもどうして駐車場とは反対側の方から来たのだろうか。


「また今日も早退ですか?ルキア」


「うん、ごめん…」


ルキアが申し訳無さそうに言うが、秋斗は気にしないでくださいとルキアの頭を撫でた。

秋斗の腰まである綺麗な蒼色の髪。彼の後ろで1つに束ねられた長い髪が風に煽られて舞っている。ルキアと目線を合わされた秋斗の蒼色の瞳はいつも綺麗だが、その目は“ルキアが心配だ”と語っている。


「ルキアが謝ることは無いんです。駐車場に着いてから雨が降ってきたので軍校舎の方まで来たんですよ」


さすがは秋斗と言うべきか、ルキアが疑問に思っていたことにも答えていた。軍校舎は軍の車も出入りするため駐車場から来れるのだ。

どうしてだろう、秋斗が側にいるとものすごく安心できる。あの声達も気にならない。それに、さっきまで降っていた雨はいつの間にか止んでいた。


「ここ最近、おかしな天気ですね」


秋斗は自分の傘を持つ手とは逆の手をルキアに差し出した。いつまでたっても秋斗はルキアを子供扱いする。恥ずかしいからやめてほしいと思っていた。でも、今はそれが嬉しい。ルキアはそう思って秋斗の手を取って一緒に歩きだした。

少し歩き、軍校舎に着くと秋斗の青い車が止まっていた。助手席に行き秋斗は車のロックを開ける。ルキアをエスコートしながら後部座席のドアを開けた。


「気分が悪くなったら横になって寝てください。わたしが部屋まで運ぶので気にしなくて大丈夫ですよ」


秋斗のその言葉に頷き、ルキアは秋斗の車に乗った。秋斗が後部座席のドアを閉め、車の後ろを回って運転席に乗り込む。ちなみにこの(くに)の車は左に運転席があるタイプが通常である。


「秋斗…」


ルキアは秋斗が運転席に乗る前に助手席の後ろから運転席の後ろに移動していた。そしてシートベルトに手を伸ばした秋斗の蒼い髪にルキアは触れた。

ルキアが秋斗の髪をいじるのは、小さい時からだ。今ではもう一種の精神安定剤になっている。


「これから運転するというのに…しかたないですね」


秋斗はそう言って髪を束ねていたゴムを外し、髪をルキアの方に渡した。もともと軍にいた秋斗は長髪ではなかったが、小さい頃のルキアに綺麗な髪だと言われて髪で遊ばれていた。だから、軍を自分の都合で辞めた後に伸ばしたのだ。すべてはルキアのために。


「家に帰るまででいいから、このまま…」


髪を触らせてほしい。ルキアは綺麗な蒼色の髪をくるくると指に絡ませた。そんなルキアに甘くしつつもシートベルトはちゃんとさせてから車を発進させた。

軍校舎から聖ライトシャイン学院の駐車場を通り過ぎて家に向かう。


(秋斗の髪、落ち着く…そういえば秋斗といる時もあの声が気にならない…?)


「ルキア、さっき頭を撫でて気づいたんですが少し濡れてますよね?」


秋斗の声に現実に戻される。そういえば倒れる前に雨に濡れていた。保健室のベッドで寝ていたので気にしていなかったのだが、まだ乾ききっていなかったのかと思いルキアは少しドキリとする。なぜなら秋斗は昔から人間という種族に生まれたルキアを過保護に心配しすぎる傾向にあるのだ。秋斗はルキアの父親を尊敬いている。そして彼の種族はヴァンパイアで大人のため、その危険性をきっと理解している。


「雨に濡れたの。昨日の帰りに傘壊れたし…」


「昨日の夜、予備があるから大丈夫だと言ってましたよね?」


ヤバい…秋斗を怒らせるとちょっとめんどくさい。なんて言えば秋斗を怒らせずにすむのか…母親みたいに()()()を言われなくてすむのかを考える。それに、だって秋斗には現在進行系で迷惑かけっぱなしなのだから。

そんなルキアの様子を秋斗はバックミラー越しに確認して、ルキアが考えていることを察した。


「ルキアの傘ですが、わたしでよければ後で買ってきましょうか?緋友も傘を壊したと言っていましたし、いつもケンカしててもあなた達は仲がいいですから」


“仲がいい”なんて秋斗の目は()()()()のだろうか。いつも、昔から、再従兄弟の緋友とはお互いを嫌っているしケンカばかりだ。口だけじゃなく手や足が出て家で暴れれば秋斗が仲裁に入ることも多いのに一体何を言っているのだろうか。

この後、家に着いたため秋斗に傘を買ってきてと頼んで別れた。

偶然にも、女王はナイトに守られている。それは不幸か、幸いか…それとも、運命か・・・・・

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